Home――遠ざかりながら近づくところ


Homeという言葉から連想される音楽を集めてみた。もともとは米国出張の機内で聴くために集めたアンソロジー。歌詞だけではなく、曲調もそろうように、80年代のAOR(Adult Oriented Rock)を中心に選んだ。どの曲にも個人的な思い出がある。

個人的な思い出だけではない。ポピュラー・ミュージックの歌詞は、十代のころから、私にさまざまなことを考えるきっかけをくれた。その意味に限って言えば、「思索の源泉」といってもいいかもしれない。

Homeというのは、ただ家という意味ではない。自分が大切にしているところ。大切に思っているにもかかわらず、遠ざかるところ。遠ざかっているつもりでも、いつの間にか近づいているところ。

Homeは場所だけを意味するのではない。人、モノ、ある場所の空気、概念。遠ざかりながら、近づくところは、すべてHome。


  1. A long time ago and far away, Earl Klugh, Finger Paintings
  2. It might be you, Stephen Bishop, On and On - The Best of Stephen Bishop
  3. It wouldn’t have made any difference (if you loved me), Todd Rundgren, Something / Anything
  4. It’s in your eyes, Phil Collins, Dancing into the light
  5. Heart of mine, Bobby Caldwell, The Best of Bobby Caldwell
  6. I’ll be over you, TOTO, TOTO: Past to present 1977 - 1990
  7. The end of innocence, Don Henley, The End of Innocence
  8. You’re the inspiration, Chicago, The Heart of ...
  9. I guess that’s what they call the blues, Elton John, Too Low For Zero
  10. Faithfully, Journey, Frontiers
  11. Time after time, Cyndi Lauper, She's So Unusual
  12. More than words, Extreme, The Best of Extreme (An Accidental Collication of Atoms)
  13. Through the fire, Chaka Kahn, Epiphany: The Best of Chaka Khan
  14. Right here waiting, Richard Marx, Greatest Hits
  15. And so it goes, Billy Joel, Storm Front
  16. Going home, Kenny G, Montage

1. A long time ago and far away, Earl Klugh, Finger Painting

演奏は、Earl Klugh、作曲は、James Taylor。“Far away”というと、Carole Kingの“So far away”のギターもJames Taylor。

アール・クルーを気に入っているのは、聞き流しているときに耳に邪魔にならず、耳をすまして聴いてみると編曲や演奏のすみずみまでよくできているから。

ラジオ番組のなかで、ニュースや天気予報の背景に使われている理由は、「いい曲だけれど邪魔にならない」ところにあるのではないか。こういう音楽は、考えごとをする時にちょうどいい。


2. It might be you, Stephen Bishop, On and On - the Best of Stephen Bishop

この曲は、ベスト盤のほかに通信販売で衝動買いしてしまった“MEGA HITS 80's”というヒット曲集で持っている。解説のなかで小林克也が、スティーブン・ビショップの曲を「絵ごころがある」と評していた。この曲でも前奏の軽快なリズムから“I’ve been passing time watching trains go by”という歌詞を聴くと、たちどころに情景が浮かんでくる。

個人的には、クアラ・ルンプールの砂浜でホテルのバンドが演奏していたことが忘れられない。


3. It wouldn’t have made any difference (if you loved me), Todd Rundgren, Something / Anything

トッド・ラングレンは、スティーブン・ビショップ同様に、美しいメロディのなかに哀しみをたたえている。そのうえ、歌詞で使われている言葉はやさしくて、発音もわかりやすい。仮定法過去完了形というと難しいけど、この曲を聴くと何のことはない、これまで何度も感じた気持であることがよくわかる。


4. It’s in your eyes, Phil Collins, Dancing Into the light

フィル・コリンズの初期の歌詞には、“I don’t care no more”や“It doesn’t matter much to me”など否定的な表現が圧倒的に多い。転換点は“Against all odds(1983)”にある“Take a look at me now”だろうか。それ以降、相手に正面から向きあう言葉遣いが多くなる。

最近聴いたアニメ映画“Tarzan”の主題歌“You'll be in my heart”もそう。ストレートな表現を初期と比べながら聴くと、Youという一語に一段と深みが感じられる。


5. Heart of mine, Bobby Caldwell

この曲はオリジナルより一時期通いつめていたライブ・ハウスでの演奏が耳に残る。同時代ではなく、後から知って80年代を思い出す曲。

こういう曲を聴くとき、初めて聴いた90年代と、この曲がおそらく頻繁にかかっていたはずの80年代のことを二重に思い出す


6. I’ll be over you, TOTO, TOTO: Past to Present - 1977 - 1990

Over という語は多義的。この歌詞のなかでも、忘れることと乗り越えることが同時にこめられている。Stevie Wonder, “Overjoyed”(“In Square Circle,” Motown, 1985)でも、over が繰り返し、さまざまな意味で使われていて感心した。この曲のギターは、Earl Klugh

TOTOをはじめて聴いたのは、1979年、カール・セーガンが案内役をつとめたテレビ番組『コスモス』。内容はまるでわからないのに毎回夜遅くまで見ていた。番組の合間に流れたソニーの広告で、アルバム“HYDRA”収録の“99”が流れていた。この番組では、ロケット打ち上げを背景に一、十、百、千、万……京、垓……無量大数とナレーションが続くIBMの広告もよく覚えている。

平家蟹のエピソード、地球カレンダー、オートバイの速度を光速に見立てたシミュレーション。番組内にも、印象に残る場面が少なくない。確か11歳の頃。


7. The end of innocence, Don Henley, The End of Innocence

この曲は以前、通勤の途中によく聴いていた。地下鉄の駅の暗い階段を登りながら、ここでイノセンスを捨てなければ、と自分に言い聞かせていた。

きれいごとだけで生きていくことはできない。そうかといって、大人になるということは、イノセンスを捨てさることとも思われない。イノセンスを捨てずに、それでいて大人である人。そういう人もいないわけではない。地下鉄を降りて向かう先にも、確かにいた。


8. You’re the inspiration, Chicago, Chicago: The Heart of ...

You とは Home のこと。

Home こそ、inspiration であり、思索の源泉であり、創造の契機でもある。

Home とは You のこと。


9. I guess that’s what they call the blues, Elton John, Too Low For Zero

“I simply love you, more than I life itself”。「人生そのものより、とにかく君が好きだ」とはかなりきわどい台詞。日本語で考えると「私をあげる」と理解してしまいそうになる。

英語で聴くとそうは聞えない。あくまで「私が人生を大切にするように、目の前の君を大切にする」という意味なのだろう。相手はあくまでも他者、よく聴けば、自分の人生すら自分とは別の存在。


10. Faithfully, Journey, Frontiers

“Faith”は、英単語のなかでとくに好きな言葉。“The energy, the faith, the devotion”。これはケネディ大統領の就任演説の一節。キング牧師もよく知られた演説、“I Have A Dream”のなかで繰り返し使っている。

この言葉は英語ポップスではよく使われている。Billy Joelにも“Keeping the faith”という曲がある(“An Innocent Man,” 1983)。Phil Colinsは“Find The Way To My Heart”(“...But Seriously,” 1989)のなかで“You have the answer believe me If you have the faith”と歌っている。Todd Rundgrenには、アルバム名がそのまま“Faithfull”という作品がある(1976)

この曲にも、私だけの連想がある。奈良、明日香村を自転車でまわったとき、夕立にあった。雨宿りをする間、ヘッドホン・ステレオで流れていたのが、アルバム“Frontiers”。中学三年生、夏休みの記憶の断片。

その晩、泊まった先で、アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』を見たことも覚えている。


11. Time after time, Cyndi Lauper, She's So Unsual

時計の二本の針をイメージしながら、いつのまにか恋愛の話になっている。この曲は歌詞と曲、それから編曲がよくまとまっている。いくつもあるカバー曲が、どれも原曲の編曲をほとんど変えていないのもそのせいだろう。

図書館に通うようになってから見つけた、Tuck & Puttiのカバー(“Dream”, Windham Hill, 1991)も気に入っている。

中学三年、TVK、Billboard Top 40、中村真理、ハイスクールはダンステリア。


12. More than words, Extreme, The Best of Extreme

不言実行。思っているなら態度で示せ。何とでも言える。ここでは言葉と行為は対立させられているけど、言葉を発すること、I love you と言うことが行為になることもある。実際この歌では、言葉以上の愛の証を!と言葉で表現している。

この曲を初めて聴いたのは、テレビで放映されていたフレディー・マーキュリーの追悼コンサートだった。


13. Through the fire, Chaka Kahn, Epiphany: The Best of Chaka Khan

たとえ火の中、水の中。そういう想いが込められている曲。“You're the inspiration”とこの曲はDavid Fosterによる製作、編曲。この曲の思い出は、ラジオ。文化放送、平日夕方四時からの番組、『小倉智昭の夕焼けアタックル』。オープニングで使われていた。

「あなたといられるならば、どんなこともいとわない」。とすれば、究極の愛は、相手のHomeになることではないか。次の曲に続く。


14. Right here waiting, Richard Marx, Greatest Hits

この歌では、相手がHomeではなく、自分がHome になっている。Homeをなくすこと、Homeを出ることはつらい。けれどもそれよりもっと辛く、きびしいことは、自分が誰かにとってのHomeになること。いつ戻ってくるかわからなくても、待ち続けること。

この曲の思い出は、L.A.からサンディエゴまで海岸沿いに続く州道1号線、通称Pacific Coast Highway。地元のFM局、KOSTを聴きながら、夕方のHuntington Beach をひとり車を走らせた。


15. And so it goes, Billy Joel, Storm Front

人は誰も、自分の心の中に“a sanctuary safe and strong”をもっている。それは心のHome と言ってもいいかもしれない。それを誰かと共有できるか。無理やりに呼び込むのでもなく、相手のHome に押しかけるのでもなく、ここがあなたのHome 、いつでも来てくださいと扉を開けておくこと。心を開くということは、そんなことではないだろうか。


16. Going home, Kenny G, Montage

シンガポールへ出張したときに機内で知った曲。ベスト・アルバム“Montage”(BMG, 1991)がまるごと一つの機内番組になっていた。これから先二度と外国へ行くことはないかもしれないと思ってから数年が経ったころ、新しい職業で出張することになった。

今では仕事で遠くへ出かけるときに、必ず聴く。まだそんな仕事をしているのか、まだそんな仕事をしていられるのか、そんな思いを持ちながら。