小型バス プロローグ
小型バスの定義
これは道路交通法上の中型自動車に当り、1970年までは普通自動車免許で運転できたサイズでした。(現在では、大型免許が必要) ナンバープレートは中板サイズになります。
高速道路の料金区分では、中型車の区分にマイクロバスがあり、乗車定員11〜29人、車両総重量8t未満とされています。
また、道路運送法などでレンタカーにおけるマイクロバスの許可基準が全長7m未満、乗車定員29人以下と規定されていたため、全長は7m未満に抑えられているのが普通です。
マイクロバスという呼称は、1960年代には12〜17人乗りの小型バスの商品名として使われていましたが、1970年代以降は、トラックベースの小型バス全般を表す普通名詞として使われるようになりました。(本稿では、商品名は「マイクロバス」、普通名詞は“マイクロバス”と記載します)
1980年代に入り、路線バスに使用するため立ち席定員を確保した小型バスが登場します。乗車定員は30人を越えますが、車両サイズが小型バスの枠に収まっている場合は、メーカーでも小型バスと呼称しています。大板サイズのナンバープレートを付けた小型バスということになります。
表7 小型バスのサイズによる分類
乗車定員 | 11〜15人 | 20〜22人 | 25〜26人 | 29人 |
---|---|---|---|---|
全長 | 4〜5m | 5〜6m | 6.3m | 6.9m |
ベース車 | 1tトラック | 2tトラック | 3tトラック | 4tトラック |
7-1 いすゞ自動車 | エルフマイクロバス →ジャーニーS | ライトバス →ジャーニーM | ジャーニーL | ジャーニーQ |
7-2 ダイハツ工業 | ベスタ・マイクロバス V100マイクロバス | ライトバス SV型ライトバス | DV型ライトバス | - |
7-3 トヨタ自動車 | ハイエース・コミューター | ダイナ・マイクロバス トヨペット・マイクロバス ライトバス コースター | コースター | - |
7-4 日産自動車 | クリッパー・マイクロバス キャブオール・マイクロバス キャブスター・マイクロバス | プリンス・ライトコーチ ジュニア エコー シビリアン | シビリアン | - |
7-5 日野自動車 | コンマース | - | - | レインボー |
7-6 マツダ(東洋工業) | マイクロバス クラフト・ライトバス パークウェイ18 | - | マツダ・ライトバス パークウェイ26 | - |
7-7 三菱自工 | - | ふそうライトバス ライトローザ | ローザ | ふそうBK |
備考 | 乗車定員、全長、ベース車は、概数による分類です。 |
小型バスの発達過程
「ライトバス」という名称のルーツとなったのは、1951年にいすゞがTX30型トラックシャーシにボンネット型の15人乗りバスボディを架装した車両だったようです。(画像は1951年のいすゞ自動車パンフレット)
箱型では、翌1952年にトヨタのSB型小型トラックシャーシに箱型ボディを架装した「トヨペット・ライトバス」が作られています。初期の小型バスは、1t〜1.5t程度のトラックをベースに、ルートバンと変わらないボディの12人乗り程度でした。側扉もスライド式で、あまりバスという外観ではありません。セミキャブオーバー型も存在しました。
これを受けて、1960年代中盤にかけて、2t〜3tトラックをベースにした、20人乗り以上の「ライトバス」と呼ばれる小型バスが各メーカーから登場します。車体も大きめの箱型になり、バスらしい外観を持つものが多くなっています。この時期、小型トラックは積載量を増やすため、ボンネット型からキャブオーバー型に移行しており、小型バスもそれをベース車としているため、ほとんどが箱型のキャブオーバー型です。
1970年代には、2t〜3tトラックをベースにした21〜29人乗りの“マイクロバス”の主力車種が確立されます。いすゞ「ジャーニー」、トヨタ「コースター」、日産「シビリアン」、三菱「ローザ」の4車種が一定のシェアを確保し、その後30年以上に渡って販売を続ける基礎を築きます。
1980年代半ばには、貸切バス・レンタカーの質的な向上に伴い、中型バスと共通コンポーネントの小型バスが登場します。これには大型車メーカーであるいすゞ、日野、三菱が対応します。(→5-13 7mサイズ小型観光バス)
1990年代から2000年代にかけては、路線バスのバリアフリー化推進とコミュニティバスの普及に伴い、大型車メーカーや輸入車による低床の小型バスが登場します。
その結果、2000年代までに、自家用、レンタカー用途のいわゆる“マイクロバス”、貸切バス用途のハイデッカータイプ、路線バス用途の低床タイプと、使用目的により小型バスは分化しました。
小型バスの用途
送迎用などの用途は自家用登録になりますが、バス事業者、タクシー事業者などがそれらの企業から受託する場合は、営業用登録になります。車両の仕様自体に違いはありません。
また幼児専用車(幼稚園バス)には特定の仕様が必要なため、ほとんどの“マイクロバス”が幼稚園バス専用の仕様を用意しています。
1980年代に入ると、旅行形態の変化から営業用の貸切バス事業者でも小型バスを導入する事例が増え、ハイグレード化に拍車をかけました。
並行して、やはり1980年代には路線バスの輸送量低下に伴うダウンサイジングが進みます。都市圏では団地などに乗り入れるデマンドバスなど、地方では過疎地域での自治体運営バスなどに、小型バスが使用されるケースが多くなります。路線バスは通常営業用登録ですが、自治体運行の特例により自家用登録の場合もあります。
特装車への展開
フレーム付シャーシは、二次架装による特殊なボディスタイルにも対応可能で、オープンデッキ付の宣伝広報車、ドアや窓の配置を大きく変えた移動販売車、移動図書館車、特別な機械を搭載したテレビ中継車、検診車などへの改造例があります。
これらへの改造が容易なように、後面に大型扉を設け、車内には座席を設置せずにキャブ部分の3名分のみの乗車定員とした「特装用胴殻車」が用意されている場合もあります。
特装車への改造例は、カタログにイラストとして掲載されている場合があります。その一例をご覧に入れます。
小型バスの製造メーカー
車両サイズの点でも住み分けが見られます。乗用車メーカーのトヨタ、日産、マツダでは、“マイクロバス”の標準的サイズである2t〜3t車ベースの26人乗り程度のサイズを中心に製造しています。一方、大型バスからのアプローチで製造が始まった4t車ベースの29人乗りは、大型車メーカーのいすゞ、日野、三菱での製造です。三菱もこのサイズのBKは「ふそう」ブランドになっています。
特に提携関係にあるトヨタと日野、ダイハツでの住み分けとしては、トヨタが2〜3t車ベース、日野が4t車ベース、そしてダイハツは1970年代に入ると小型バスの生産から撤退しています。
小型バスの商品名
独自の商品名を付けたのは三菱「ローザ」(1960年)が最初で、続いて日産「エコー」(1962年)、トヨタ「コースター」(1969年)、日野「レインボー」(1969年)などが後に続きます。バスメーカーのいすゞと日野は、中型バスにも同じ商品名を付けています。
この時期、大型バスには商品名はありませんでしたが、小型バスの場合は、自家用使用が多いため、訴求先が個人であったり、車両知識の乏しい企業、団体であることから、魅力的な商品名を付けて、他社との差別化や認知度の向上を図る必要があったのだと思われます。
本稿での小型バスの掲載基準
ここでは、主に2〜4tトラックをベースに、17〜29人の乗車定員を持つ“マイクロバス”を主体に取り上げることにします。11〜16人程度のルートバンタイプ、ワゴン車タイプの車両については、1960年前後の黎明期の車両のみを、小型バスの礎になったという意味で取り上げるにとどめます。また、ハイデッカータイプなどに進化した貸切タイプについては、5-13 7mサイズ小型観光バスのところで取り上げます。1990年代後半以降の低床型路線バスについては、時期的に当サイトの範疇外ということで割愛します。
また、大型バスと同様に、型式等の一覧表も掲載しますが、“マイクロバス”の場合、ガソリンエンジンとディーゼルエンジン、後輪シングルタイヤとダブルタイヤ、グレードによる差異、幼児バス仕様、その他細かいバリエーションが豊富で、これが型式にも反映されます。そのため、すべての型式を掲載することはできません。従って、主要な型式名であったり、型式の末尾の記号を省略している場合があることをご理解ください。
合わせて、掲載写真の車両型式についても、これらの細かいバリエーションを判別できない場合がほとんどですので、型式ではなく商品名で記載することが多くなっています。
参考文献など
恐らく、バス趣味からのアプローチ、商用車(トラックなど)からのアプローチ、乗用車からのアプローチがあると思われますが、いずれの場合も、マイクロバスにたどり着くのは最後の方です。従って、文献でもWebサイトでも“ついで”のような扱いに終わる場合が多いのだと思います。
そんな中で、私が“マイクロバス”の研究のために特に参考になった資料というのは、下記のような文献です。いずれも“マイクロバス”だけを扱った書籍ではありませんし、年鑑本を1冊ずつめくっていって変遷を知るという使い方がほとんどでした。
主な参考文献
- 車史研(1987)「1960年代のバス」
- 自動車工業振興会等(1960〜1983)「自動車ガイドブックvol.7〜30」(未参照巻あり)
- 九段書房(1985〜1993)「日本のバス1986、1988、1990」「日本のバス年鑑 91〜92、93〜94」
- ぽると出版(1993〜)「年鑑バスラマ 1994〜」
- 小関和夫(2007)「日本のトラック・バス」