2/28/2016/SUN
うたのおにいさん、田中星児、ビクター、1973
レコードの音をデジタル化できるプレーヤーを買おうと思った一番の理由は、このアルバム。
オフコースやさだまさしの曲は、アレンジは多少違うものの、同じ曲はCDで聴くことができる。斉藤とも子のアルバムもCD化されている。
このレコードは、実家のレコード棚に放置されていた。このアルバムをデジタル録音したとき、押入れのミカン箱も少し整理した。そのとき、このアルバムに収録された歌の歌詞を書き写したノートを見つけた。角張った小さな文字がきれいに並んでいる。
田中星児の歌でCDになっている楽曲は多くない。ヒット曲の「ビューティフル・サンデー」「北風小僧の寒太郎」、それから「切手のない贈り物」くらい。
このアルバムには、有名な童謡ではなく、田中星児作曲作品や、歌詞や編曲が、当時主流のフォークとニューミュージックのあいだのような「大人びた」作品も入っている。初代「うたのおにいさん」の世界は童謡以外/以上に広がっていた。
このアルバムのなかの一曲が、ニューミュージック前夜の70年代ポップソングを集めたコンピレーション、『喫茶ロック』シリーズに入っていてもおかしくないし、例えば、やまがたすみこやチューインガムが歌っていても、まったくおかしくない。
私自身、このアルバムは童謡として聴いてはいなかったし、このノートを書いた人もそうだっただろう。歌詞を書き写した曲の選択からも、その選曲眼が伺われる。
書き写してある歌は6曲。
十代の頃、好きな歌の歌詞を授業中に教科書の隅に書いたり、日記帳に書いたりしていた。
このノートも、書いた人がお気に入りの曲を選んで、歌詞を書き写したのだろう。書いたのは1979年から1980年頃。1981年2月より前であることは間違いない。
歌詞が書かれた6曲は、私も好きな歌。とくに「しらないところへ」と「つきよのうみで」、それに「かぜをみちゃったぼく」(原曲はすべてひらがな表記)。
「いきたいな/そんなとおくへ/だれにもだまってさ」と歌う「しらないところへ」は、ちょっと怖い。でも、これもまた、子どもが自然に抱く素朴な気持ちでもあるのだろう。
- しらないところへ(こわせたまみ/田中星児)
- ねことのみ(吉岡オサム/小林亜星)
- 月夜の海で(ふくしまやす/田中星児)
- 風のバラード(小坂忠/小坂忠)
- 風を見ちゃった僕(井出隆夫/福田和禾子)
- 雨の中の子犬(ふくしまやす/田中星児)
このノートを書いた人が、いま、どこにいるのかは知らない。なにか嫌なことがあって「しらないところへ」行ってしまったのかもしれない。
もう「この世界」にはいないという人もいるけれど、私は信じない。死に顔も遺体も、見ていないから。ただ、白い木箱だけは見た覚えがある。
「長い間、留守にしちゃってゴメン」。そう言って帰って来る夢をときどき見る。
朝、目覚めたとき、すこしうれしく、すこし悲しい気持ちになる。
家族は、私が、こんなノートをいくつか持っていることを知らない。自分の家族に自分の家族のことを話せないとは奇妙なことではある。「いつか話せる日が来る」(中島みゆき「時代」)。いまは「待つとき」。
もし、「話せる日」が来ず、「語り継ぐ」ことができないとしたら、生き残った意味はあるのだろうか。
誕生日には、ふつう、誕生日の人に何かを贈る。ときどき、私は、誕生日の人からプレゼントをもらう。
10年前には、カセットテープしかもっていなかった、さだまさし『帰去来』とグレープ『コミュニケーション』のCDをもらった。
今年は、とてもなつかしい歌を聴かせてくれた。
このノートを書いた人は、今年55歳になる。
誕生日、おめでとう。
- 1-A 作詞/作曲
- 1. ヤンチャリカ:阿久悠/小林亜星
- 2. ぞいなかなだこのことお:井出隆夫/福田和禾子
- 3. パパのせびろ:浅田真知/福田和禾子
- 4. そのしょうこ:井上ひさし/宇野誠一郎
- 5. しらないところへ:こわせたまみ/田中星児
- 6. おばけなんてないさ:槇みのり/峰陽
- 7. おなかのへるうた:阪田寛夫/大中恩
- 8. しろいこねこダンプティ:野中彰/田中利光
- 9. やったな:吉岡治/井上かつを
- 10. あめのゆうえんち:谷内六郎/中村八大
- 1-B
- 1. おおきなけやき:神沢利子/小坂忠
- 2. はしれちょうとっきゅう:山中恒/湯浅謙二
- 3. レインマン:井出隆夫/福田和禾子
- 4. クラリネットをこわしちゃった:石井好子/フランス民謡
- 5. おなかのとけい:筒井敬介/桜井順
- 6. ぼくはキャプテン:こわせたまみ/高井達雄
- 7. しんゆうになろう:井出隆夫/渋谷毅
- 8. ぼくのおなかが:長崎武昭/宇野誠一郎
- 9. つきよのうみで:ふくしまやす/田中星児
- 10. かぜをみちゃったボク:井出隆夫/福田和禾子
- 2-A
- 1. 風のバラード:小坂忠/小坂忠
- 2. とんでったバナナ:片岡輝/桜井順
- 3. あさいちばんはやいのは:阪田寛夫/越部信義
- 4. きたかぜこぞうのかんたろう:井出隆夫/福田和禾子
- 5. バスのうた:さとうよしみ/大中恩
- 6. ちょんまげマーチ:井出隆夫/渋谷毅
- 7. はぶらしくわえて:阪田寛夫/湯山昭
- 8. いなかのうちで:ふくしまやす/田中星児
- 9. ツッピンとびうお:中村千栄子/桜井順
- 10. おもちゃのチャチャチャ:野坂昭如/吉岡治/越部信義
- 2-B
- 1. 5ひきのこぶたのチャールストン:漣健二/F. モーガン/N. マルキン
- 2. 太郎のぼうけん:片岡輝/小坂忠
- 3. だれもしらない:谷川俊太郎/中田喜直
- 4. むかしはえっさっさ:おうちやすゆき/冨田勲
- 5. ドン ドン ドン:
- 6. かもつれっしゃのうた:香山美子/湯山昭
- 7. ねことのみ:ふくしまやす/田中星児
- 8. ぼくはにんじゃ:吉岡オサム/小林亜星
- 9. ゆうひとぼくと:ふくしまやす/星勝
- 10. 雨の中の小犬:ふくしまやす/田中星児
「このノートを書いた人」について、これまでに書いた文章。2月最初の金曜日か、2月28日に書いている。
書けないと思っていたことを、少しずつ、書き重ねてきた。
急がずに、慌てずに、厚い氷の扉を溶かすように、時間をかけて書いていきたい。
- 2003年:2/7/2003/FRI
- 2004年:2/6/2004/FRI
- 2005年:2/28/2005/MON
- 2006年:2/3/2006/FRI
- 2007年:2/2/2007/FRI
- 2008年:2/2/2008/SAT
- 2009年:2/7/2009/SAT
- 2010年:2/27/2010/SAT
- 2011年:2/5/2011/SAT
- 2012年:2/4/2012/SAT
- 2013年:2/2/2013/SAT
- 2014年:2/2/2014/SUN
- 2015年:「思春期を考える」ことについて、中井久夫、ちくま学芸文庫、2011 2.28.15
- 2016年:2/5/2016/FRI
さくいん:田中星児