創作力のエッセンスが凝縮されていて読み応えがある。妻も子も口を揃えて手塚の創作へのエネルギーが強大だったと述懐している。
とりわけ寺沢武一の手塚への恩義は厚い。寺沢が手塚スタジオの試験に落ちた後で手塚の目に止まり採用された挿話は『コブラ』の単行本、第1巻に手塚が寄せた祝辞で知っていた。いつまでも師と仰いでいることにあらためて感じ入った。
私のなかで手塚治虫のイメージは藤子不二雄A『まんが道』に負うところが多い。ついでに書くとこの名作を思い切りパロディにした唐沢なをき『電脳なをさん』にたびたび使われる「まっく道」の登場人物「手塚オナ虫」にもイメージを上書きされている。
手塚治虫の「伝説」は枚挙にいとまがない。一番驚いのは、真偽のほどはともかく、走るタクシーの座席で真円を描いた、という伝説。西田幾多郎『善の研究』にある「ジョットの円」の挿話以上に西田の言う「宗教道徳美術の美術の極意」に近い。
手塚作品は膨大な数にのぼる。マニアではない私が読んできた作品は限られている。
テレビアニメでは『ジェッター・マルス』『ぼくの孫悟空』『マリン・エクスプレス』。
巣篭もりの週末には「手塚治虫三昧」もいいかもしれない。
そう思い、先週の週末は実家で文庫版『ブラック・ジャック』を読んだ。手塚作品の一番好きで、繰り返し読む作品。
『ブラック・ジャック』はヒューマニズムに溢れているとしばしば評される。その評価は一面では正しい。しかし、それは明るいだけの人間讃歌ではない。
『ブラック・ジャック』は人間の持つ善悪両面を、とりわけ善の裏に隠れている悪を容赦なく描く。その典型が「虚像」。
文庫版の番外ともいえる第17巻は、とりわけ陰のある作品が多い。
ブラック・ジャック自身も、人の命を助けながら、復讐として殺人まで犯している。
以下、好きな話の一覧。順不同。
ちょうど金曜日の日経新聞朝刊の文化欄に、トキワ荘マンガミュージアムの世話役の人がミュージアム開館までのなりゆきを書いていた。準備はできているけれど、コロナウィルスの影響で開館は延期されるらしい。
さくいん:手塚治虫、『ブラック・ジャック』