神棚の祭り方
なぜ神棚をおまつりするのですか
昔の家を思い浮かべてみましよう。神様がまつられた所は、台所(かまど)・井戸・玄関・便所や、最も代表的な大黒柱などです。共通点と言えば、家の要と生活に欠かせない所。私達の祖先はその大切な働きに魂を感じ神々を意識してきました。特に、大黒柱は家をカ強く支える柱であり、中心です。この姿が家の魂、ひいては家族の絆の魂として大切にされたのです。柱を中心に家族揃って様々な祭りが営まれました。
神棚をまつることもこれと同様です。それぞれの家には家の「魂」があり、様々な職業にも魂といえる信念や誇りがあるはずです。神棚には国や土地の神々をまつると共に、個々の家の魂をもまつっているのです。そして日々の感謝や祈りを捧げることによって、そこに集う人々の和や秩序が生まれてきます。家族の絆が薄れたと言われる現代社会、祖先の伝えた生きる知恵を思い起こしたいものです。
神棚はどこに設けたらいいですか
神棚は明るくて清浄な高い場所(人々の目線よりも高い場所)に、南向きあるいは東向きに設けます。 また、家族や会社の人が、お供えしたり拝礼したりするのに都合のよい場所であることも大切な条件になります。ただし、人が出入りをする場所の上、たとえばドアの上であるとか障子や襖(ふすま)の鴨居(かもい)の上に、神棚を設けることは避けるようにします。
家庭に神棚を設ける場合、場所としては座敷が一般的ですが、最近では座敷のない家庭も多くなったので、その場合は居間でもよいでしょう。会社の事務所の場合は、その長たる人の席の近くや中心となる場所が適当です。
神棚にはどういったお神札をおまつりするのですか
基本として天照皇大神宮(大神宮様)、氏神様のお神札をおまつりします。
神棚の中央には、神殿の形を模した宮形を置き、その中にお神札を納めます。
神座の順位については、神棚の中央を最上位とし、次に向かって右側、その次が左側となります。したがって、宮形が大きい場合には中央に神宮大麻を、向かって右側に氏神さま、左側にその他の崇敬する神社のお神札をお祀りします。宮形が小さい場合は、神宮大麻を一番手前にお祀りし、その後ろに氏神さま、次に崇敬する神社のお神札を重ねてお祀りします。お神札の数が増えて、宮形に納められない場合には、棚の上に丁寧に並べても差しつかえありません。
氏神様は本来、氏族の護り神でしたが、何時しか地域(村)の神としてまつられるようになりました。血族でなくても住人が同じ神をまつることで地域共同体の意識を持つ為だったのでしょう。また、その土地から生まれてくる全ての命を司る神として「産土神」(うぶすなのかみ)とも呼ばれています。同様に天照大御神様は伊勢の神宮にまつられる、日本の神々の中で最も尊い神様です。この神様をおまつりすることこそ日本全体が共同体であることを意識することなのです。これが日本の総氏神と呼ばれる由縁です。
そして、この御神札を神棚におまつりすることは、私達がいつも神様の御守護を頂いていることに感謝し、国や郷土を愛し大切にすることなのです。安らかで、美しい国・郷土づくりを一人一人の喜びとする世の中にしたいものです。
神饌(しんせん)の供え方について教えてください
神棚には、毎朝必ず「神饌(お供え物)」である米(洗米もしくは炊いたご飯)と塩と水をお供えします。 米と塩は、土器(かわらけ)または白い小皿に山形にして盛り、水は水器などに、その日の初水を入れます。そして、これらを三方(さんぼう)または折敷(おしき)の上にのせます。のせるときの位置は、米を中心にして向かって右側が塩、左側が水です。このとき、水器などの蓋(ふた)は取ってお供えします。それから、三方や折敷の向きは、縁(へり)に継目(つ三方ぎめ)のある方を手前に向けて下さい。
通常お供えする神饌は、米と塩と水ですが、毎月1日や15日あるいは宮形の中に納められているお神札の神社の例祭日、家庭内のお祝い事(誕生日、年祝いなど)のあるときには、酒や魚(尾頭付き)、野菜や果物などをお供えし、丁重にお祭りをします。この他、四季の初物(その季節に初めて穫れた物)や到来物などを得た折にも神棚にお供えします。
一度神棚にお供えした物には、神さまの御霊(みたま)がこもりますから、お下げしたあとは一家揃っていただきます。
家庭で神棚をお祀りするときどんな祭器具が必要ですか
「榊立て」(さかきたて)は榊を立てて神さまにおあげするもので、神棚の左右に置くために一対用意します。「瓶子」(へいし)は蓋つきの器で、これには酒をいれます。これも一対用意します。「土器」(かわらけ)は米や塩などを盛るための器で、大小さまざまの種類があります。「水器」(すいき)は水を入れるための器です。これらの他に、常に神前を明るくするために「神燈」(しんとう)も一対用意するといいでしょう。神燈は、神社に灯籠があるのと同じ意味合いで、神棚にも灯すわけです。種類や大きさはさまざまですが、最近では電灯式のものが多く見られます。
以上の祭器具は、どれも神具店などで求めることができます。求める際には、神棚に合った大きさのものを選ぶように注意して下さい。
家庭における拝作法(しん神ぱいさほう)を教えてください
毎朝、食前に一家の主人または代表者が神饌(お供え物)として米(洗米もしくは炊いたご飯)と塩、水をお供えします。次に榊立ての水を替え、神灯を灯しておまいりします。榊などは毎日できない場合は1日と15日に新しく替えるようにしても良いでしょう。
お祭りでは、まず神饌をお供えしてから、日頃の神恩を感謝し、これからの家族の安泰と幸福を祈ります。また、家庭内のお祝い事(誕生日、年祝いなど)のあるときには、その旨を神さまに奉告します。もちろん、毎日の神拝は、一家の主人または代表者だけではなく、家族の一人一人が欠かさないように心掛けて下さい。
神拝(しんぱい)の作法は神社参拝の作法と同様に二拝二拍手一拝です。このときに、「神棚拝詞」を心をこめて奏上するとさらに丁重です。この場合は、奏上前に二拝し、奏上後に二拝二拍手一拝をします。
参考として「神棚拝詞」を掲げます。
「比の神床(かむどこ)に座(ましま)す掛けまくも畏(かしこ)き天照大御神(あまてらすおおみかみ)・産土大神等(うぶすなのおおかみたち)の大前(おおまえ)を拝(おろが)み奉(まつ)りて恐(かしこ)み恐みも白(もう)さく 大神等(おおかみたち)の広き厚き御恵(みめぐみ)を辱(かたじけな)み奉り 高き尊き神教(みおしえ)の随(まにま)に直(なお)き正しき真心以(もち)て誠の道に違(たが)うことなく 負(お)い持つ業(わざ)に励(はげま)しめ給(たま)い 家内(いえかど)高く身健(みすこ)やかに世のため人のために尽くさしめ給(たま)えと恐み恐みも白す」
毎年お神札(おふだ)を新しくする理由は何ですか
新しい年を迎えるにあたり、一年間お祀りしたお神札を、粗末にならないように神社に納め、浄晦日祓い火によって焼納(お焚(た)き上げ)していただきます。そして、新たに伊勢神宮のお神札(神宮大麻(じんぐうたいま))、氏神さまや崇敬する神社のお神札を受けます。それらのお神札は、掃除を済ませ清浄になった状態の宮形に納めます。そして、大晦日に晦日祓いにて神棚、家内を祓い新年をお迎えいたします。(晦日祓いは、祓いの後、門口にさします。)
お神札を毎年新しくする理由は、神さまが清浄を第一とすることと、さらに御霊威を新たにされた神さまの、その生命力にあふれた御霊(みたま)の力をいただき、一層のご加護を願うためです。そして、このように毎年お神礼を新しくすることで、祖先より受け継いできた神さまへの感謝の心を、子孫にも伝えることにもなるでしょう。一家が揃って神さまを尊び敬うことは、神さまのご加護を受けることにもつながり、これはすなわち円満で幸福な家庭を築くことにもなるのです。
いろいろなお神札を一緒にお祀りすると神さま同士が喧嘩しませんか
神さま同士が喧嘩することはありませんから、複数のお神札を一緒にお祀りしてもかまいません。ただし、お神札の正しい祀り方を心得ておいてください。
まず伊勢神宮のお神札を中央に、氏神さまのお神札を向かって右側に、崇敬する神社のお神札を向かって左側にお祀りします。お神札を重ねてお祀りする場合は、一番手前に伊勢神宮のお神札を、その後ろに氏神さまのお神札を、次に崇敬する神社のお神札をお祀りします。
また、「○○祈願祈薦神璽」等と書かれ、願い主の名前が添えてあるお神札(祈祷札)は宮型には納めず、外側の見える位置に立ててお祀りしてください。これは特に祈願があって祈濤を受けたおしるしですから、宮型に納めたお神札と同様に、大切にお祀りしてください。
古いお神札とお守りはどうしたらいいのでしょう
1年間、一家の人々をお守りいただいた古いお神札やお守りは、粗末にならないように神社へ納めてください。神社によっては「古札納所」を設けている所もあります。
お守りやお神札は、それを受けた神社に納めるのが一番望ましいことです。
また、祈祷を受けた際にいただいたお神札は、心願の成就するまでお祀りしてもかまいません。成就のあと、その神社へお礼のお参りをして、お神札を納めるといいでしょう。
神社に納められた古いお神札やお守りは、浄火によってお焚き上げします。地方によっては、一月十五日の小正月に行われる「左義長」(さぎちょう)や「どんど焼」の神事で、松飾りや注連縄(しめなわ)と共に焼納する神社もあります。
神棚がない場合、お神札はどのようにお祀りするのですか
近年の住宅様式及び住宅事情によっては、神棚を設けてお神札をお祀りできない場合もあります。そのような場合は、なるべく南向きか東向きの壁や柱などの高い所に、半紙または奉書紙をあてて、その上にお神札を貼ってお祀りして下さい。その際、お神札を画びょうなどで直に刺すことをせず、傷つけないように糊などで貼るようにしてください。また、茶箪笥の上をきれいに片づけ、そこへお神札をお祀りし、その前に米と塩と水を供えるのもよいでしょう。いずれにしても、お神札を大切にする心があれば、決して無礼にはなりません。最近では、共同住宅向けの場所をとらない簡易宮型もあります。
台所におまつりしてある神様は何の神様
台所の神様は荒神様あるいは三方荒神と呼ばれます。荒神様は火の神または竈の神としてよく台所の小さな神棚におまつりされています。
台所は家族の生命カとなる食事を作る大切な所であり、煮炊きになくてはならない火を扱う所です。火は人間生活の有り難い作用というだけでなく、浄化にもまた災厄にも繋がる扱いの難しい神の恵みです。昔の人はその荒神様の性格から家の生活の神として称え、また恐れました。そして台所を神様の空間と考えたのでしょう。入り口に掛かっている暖簾(のれん)や簾(すだれ)は神様の世界を示す注連縄(しめなわ)が変化したものと考えられています。
ガス栓をひねればすぐに火が付く現代生活でも、「火」の用心や毎日の元気の基「食事」への注意は欠かせません。ここにも素晴らしい昔の知恵を感じます。
神棚をどのように活かしたらよいのでしょうか
神棚はある意味で家の魂であり、日々の感謝や祈りを捧げることで家族の和や秩序が生まれてくるといわれています。それは神棚を中心とした「まつり」によってもたらされるのです。年に何度かの年中行事というまつりを繰り返すことによリ、家族の役目や、役割が自然と整い、その折々のお節料理は、家独特の風味となります。そして、まつりを心から行うことは神様・祖先の有り難み、父・母の大切さを無言のうちに子供たちに知らせ、伝えることになるでしょう。
政治のことを「まつりごと」といいますが、本来「まつり」と「政治」の両方からなる、いわゆる祭政一致だったのです。そして神様を中心としたこの制度は国のみならず村や家と言った日本のあらゆる社会の中にあって、心や秩序を築き上げる大切な役割があったのです。