−− 2003.02.01 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
■はじめに
昨日1月31日、昼食時に偶々新聞(何新聞かは忘れました) −序でに言うと私は新聞を取ってません、ゴミに成るので− を見たらこんな記事が出て居ました。つまり例の銀行税、即ち外形標準課税(※1)の訴訟で東京都が第2審でも敗訴したということです。それはそれで構わないですが、そこに大阪府も同じ案件で訴訟を進めている、そして大阪府の主張は東京都の全面的コピーに過ぎないと銀行側から一蹴されて居ると書いて在りました。これに対し大阪府は「同じ内容で争っているのだから主張が東京と似て来るのは当然」と反論して居る様です。いやはや。
■石原都知事と外形標準課税
この外形標準課税と言うのは、元々在った概念ですが長らく埋もれて居たものを、東京都というよりも石原慎太郎とそのブレーンが、言わば”掘り出して来た”考え方です。現在の不況下で激減して居る法人税を何とか補完する手は無いかと、色々な可能性を思案した挙句捻り出して来たウルトラCの概念で、従ってその論理にはどうしても強引さが付き纏って居ます。外形標準課税という言葉も一般には馴染み難く、石原知事が提案した当初は都議会議員や都庁職員それに都民も最初は戸惑って居ました。私が思うに、これは石原慎太郎が”都知事”に成ったから出来たことで、国政で遣ろうとしたら自民党や国会の反対に遭って潰れて居たでしょう。
私は税法についてはからっきし素人で石原知事の主張が何処迄今日の経済状況の中で妥当性が有るのか判断付き兼ねるのですが、不良債権処理で大量の公的資金(※2)を注ぎ込んで居るからとは言え、銀行だけを対象にするのは税の公平性という建て前からは当然議論されてしかるべきだと思って居ます。都議会や都庁は銀行から法人税を徴収出来れば財源増に成るので、言わば結果オーライで賛成に回って居ますが、外形標準課税について本質的に理解出来ている人は少ないのでは、と思います。都民は、と言うと失礼乍らその内容について理解して居る人は殆ど居ないと思います、しかし公的資金とか貸し渋りとかの要素で「銀行からなら徴収してもええじゃないか」という気持ちで支持して居るのでしょう。但し外形標準課税が一旦銀行に対して認められると、何年か先にそれが全業種に拡張される可能性が有りますね、これは政治の常套手段ですが。今の訴訟の争点でも銀行側の主張は「何で銀行だけやねん?」ということですから、銀行だけで無く全業種に拡張した方が法理論的にはずっとスッキリするからです。そうなった時に都民或いは国民、即ち「一般大衆」は自分で自分の首を絞めることにも成り兼ねないので、その時に成って被害者意識の塊で他人に責任を転嫁しない様に今から心懸けて置きましょう!(尚、被害者意識批判と自己責任型社会についての私の論考が在りますので、興味有る方はココから参照して下さい。)
東京都が石原都知事の個性の助けで独自に外形標準課税という概念を導入して、「国に甘えない地方行政」という姿勢を打ち出したこと自体は、評価して良いと思います。今迄は何故か単純に「地方よりも国の方がエライ」という図式で、知事も国会議員に対しては妙にヘコヘコするのが通例で、特色有る地方行政など望むべくも無い有り様でしたが、外形標準課税という具体案を提示して独自色を出した点は今迄どの知事も出来なかったことです。石原都政で評価出来る所は、この「政治の現場で具体案を提示して居る」点に在ると思いますね、竹中平蔵氏など空回りして居る感じで、具体案が出て来ませんからね、国政の現場で。
ですから、独自の概念を導入して財源を確保しようという東京都の姿勢は解ります、それで徹底的に議論(訴訟という形ですが)すれば良いと思って居ます。しかし、大阪は問題ですね、大阪は。だから銀行側の弁護団に「大阪の主張は全部東京のコピー」などとバカにされる訳です。これを大阪弁に翻訳すると「大阪はアホばっかしや」と言われて居るんですよ、太田のおばちゃん!!
■大阪は可笑しいぞ − 条例の悪乗りは東京コンプレックスだ
しかし、大阪は行けません。上にも述べた通り、東京都の外形標準課税は非常に石原色の強い法案で、未だ全国的に広く認知された考え方ではありませんし、審議の余地は充分有ります。なのに、「東京が遣るなら大阪も」という発想しか無く、「財源が確保出来るならええやんか」てな感覚で、情け無く成りますね。東京に対して私が一定程度の理解を示すのは、都が独自に知恵と汗を搾って捻り出したからです、それに対して大阪は知恵も無く汗を掻くこともせず、便乗しただけだからです、こういうのを「悪乗り」とか「他人の褌で相撲を取る」と言うのです。
或いは「東京がしたなら大阪もせな、置いてけ堀を食うで」という、心理的な焦りが見えますね、これはもう東京に対する潜在的なコンプレックス以外の何物でも無いと私は分析して居ます。
このコンプレックスに因る焦りで立ち上げて失敗したのが、あのナスダック・ジャパンですね。証券市場の大阪離れの焦りから大して考えもせず、山師的な側面の有る孫氏と組んで術中に嵌まったという格好ですね。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)はどうですかね、成功して居るんでしょうか?、こういうのは初年度はマスコミでガンガン広告打てば、皆1度は行ってみようという気に成りますから、一定程度の客足は確保出来ますが、難しいのは最初来たお客さんが2順目からも来て呉れるかどうかですね。東京ディズニーかハウステンボスか、何処を手本にしたか知りませんが、人真似であることは確かですね、独自の発想が何も無いですからね。関空(関西国際空港)もそうですね、ベラボーな空港使用料の為に外国の航空会社がどんどん関西から撤退して居ます、これも東京(成田=千葉県)の使用料を基に決めていると思いますね多分、東京が高いならそれと肩を並べる関西も高くて当然だという発想でしょう、全然世界を見て無いですね。
はっきり言って、今の関西は東京と肩を並べて居ません、相当引き離されて居ます!
その事を示すエピソードをご紹介しましょう。余り大っぴらには言えないのですが、2〜3年前(忘れました)NTTが現在の東日本と西日本に分かれた時に、当時大阪で開発中だった回線サービス網のコンピュータ・システムのシステム設計者(※3)が皆東日本に取られて仕舞い、分割後にはNTT西日本にはシステム設計者が居なく成り、替わりにそれ迄電報局に居た人(システム設計の経験無し)が回されて来て仕事が全然捗らなく成って困ったということを、私の知り合いが経験して居ます。それ以降、重要な設計部分や打ち合わせは東京(幕張)に行かなければ出来なく成りました。つまり、東京はアタマ、大阪は手足という構図ですね。
又、元々関西系だった大手銀行や生保が、軒並み本社機構を東京に移管して仕舞ったので、その分野のコンピュータ開発の仕事が関西で大幅に減少し、関西のシステム技術者は相当数東京に”出稼ぎ”に行っている状態です。言わば「国内難民」ですね。
これはほんの1、2の例に過ぎませんが、今の大阪(或いは関西)は東京に相当引き離されて居る、ということをもっと認識しないと行けません。それはやはり人材ですね、はっきり言って関西は人材不足です。特に酷い関西の景気低迷を国の所為にばかりして居ますが、勿論国の為すべき事は有りますが、自らの方策が何も出て来ないのは関西人の努力不足です。この事を確り認識しないと行けませんよ、間違った認識からは間違った結果しか生まれません(←関西の人材不足については、同じ「個人的見解」のコーナーの「阪神ファン・選手・球団に告ぐ」の中で既に指摘して居ます)。
今の大阪は東京に対してコンプレックスを持っているのに認識して居ない、或いはコンプレックスを持っているから認めたく無い、という心理的呪縛に陥って身動き取れない状態ではないでしょうか?
■私の提案 − 関空の空港使用料を大幅値下げしたら
こういう呪縛から脱出するには、狭い日本の中だけに心囚われずもっと海外に目を向けて新しい市場を開拓することですね。自分の体を使って汗を流し、自分の足で情報を掻き集め、自分の頭で知恵を絞り出して、他人の遣らない事、他人が見落として居た事に、苦労を厭わず −新規開拓には必ず苦労が付き纏う− 挑戦して行かないと道は開かれません。今の不況はそういう段階に来ていると私は思います。
手始めに関空の空港使用料をグッと、今の半額以下(それでも未だ国際水準から見れば高い)にしてみては。今でも赤字なのに半額以下にしたら潰れて仕舞う、と誰しも思うでしょう。そこで「発想の転換」が必要に成るのです。今赤字なのは、私から見れば空港使用料が高いからですね、そして経営が悪いからです。ですから先ず第1に経営陣を全部入れ替えてもっと民間の手法を取り入れる。第2に「空港使用料を下げる」ということをはっきりと目標化する、そしてそれに対して有らゆる知恵を絞り出せば案は出て来る筈です、第3にもっとサービス向上する為のアイデアを社員全員でブレーンストーミング(※4)的に色々出す、空港と言うと何処かお高く止まっている様な所が有るので、そうですね、コンビニやスーパーの経営で成功して居る会社の社長さんなどに顧問に成って貰って、もっと気の利いたサービス向上にそれこそ社員一丸で取り組んで欲しいですね。そして関空の国際・国内便の発着本数を増やして大阪にもっとお客さんを呼ぶ、或いは大阪から色々な国に出掛け易くする。そう遣って大阪を国内外にアピールする、アピールする時にUSJじゃ、どうしょうも無いでしょ、大規模映画スタジオなどは所詮アメリカの猿真似で、大阪の文化では無いですよ、琵琶湖のブラックバスに等しい代物ですよ。
そう遣って独自のアイデアとサービス向上に依って顧客増大を図り、営業利益を上げて行くのが、民間的経営の真髄であり、赤字だから値上げすると言うのは”官”的発想の悪癖です。仕掛かり中の滑走路についても、こういった空港経営の問題とセットで考える必要が有りますよ。
■結び − 「大阪はつらいよ条例」は如何?
ところで、やはり同じ新聞に載ってたのですが、新潟県の或る村(実は中里村)で「雪国はつらつ条例」というものを施行したことが中学公民の教科書に載ったのですが、これが「雪国はつらいよ条例」と誤記されて居たという話です、笑っちゃいますね(←寅さん映画『男はつらいよ』の見過ぎか!)。新聞はこの教科書検定の過程でのミスについて、まあ、例に依って新聞的な論評を載せて居ましたが、私はそれには全く興味有りません。それよりも、漢字で「溌溂/溌剌」として居れば起こり得なかった誤りが、平仮名の為に「雪国だから雪が多くてつらい(辛い)のだろう」という潜在的先入観を呼び覚まし、平仮名の「はつらつ」が「は”つらい”よ」に成って仕舞った所に、やはり「雪国は”つらい”よ」という気持ちにさせられて仕舞いますね(尚、雪国に対する私の意見(ココから参照)も掲載して居ますよ)。
それにしても最近の日本語の文章は「ひらがな(平仮名)」が多く、却って読み辛いのは確かです。当用漢字(※5)だか常用漢字(※5−1〜※5−3)だか知りませんが、日本語の文章は漢字と平仮名が適当な割合で混在することで、ぱっと見て文章に減り張りとリズムが生じ、それに依って1字1字追わなくても文章の意味を汲み取ることが出来る、ということに気付いて貰いたいですね。平仮名が多いと1字1字追わなくては為らず疲れるばかりか、今回の例の様に語句や文節の区切りを読み違える可能性が高いのです。この間違いは所謂「ぎなた読み」(※6)と言われるものです。「ぎなた読み」の元に成った文章を下に載せて置きますので、皆さんで読んでみて下さい。
弁慶がなぎなたを持って...云々。
さて、「雪国はつらつ条例」がどんな条例か知りませんが、この様に独自のアイデアで地方自治体が特色を出して行こうという姿勢は大事です。それが「自治」ということの本来の言葉の意味だと思います。大阪もここ迄落ちたら、もう「ええカッコし」は止めて、ホンネ(本音)を曝け出して大阪の将来を、自分の頭で考える時ですよ。もう条例の悪乗りは止め、他人の褌は脱ぎ捨てて、これからは「笑いの都」をアピールすべく、「大阪はつらいよ条例」でも捻り出したらどうですか!!!
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【脚注】
※1:外形標準課税(がいけいひょうじゅんかぜい)とは、資本金額や給与総額、売上高など事業規模から計算した「業務粗利益」に応じて課税する方式。所得(利益)に応じて課税する方式より、景気の影響を受け難く自治体の税収が安定する。都の税は、資金量5兆円以上の都内に本支店が在る大手銀行などを対象に、2000年度から5年間、税率3%で課税して居る。(以上毎日新聞のサイトより)
補足すると、「業務粗利益」に対して課税する為、法人税の様に事業年度の所得(所謂黒字)が無くても課税出来るのがミソ。
※2:公的資金(こうてきしきん、public fund)とは、金融システムの安定化と預金者の保護の為に、政府が預金保険機構内に用意する金融早期健全化勘定の資金。破綻金融機関の損失補填や資本注入の原資に使われる。1999年には大手銀行15行に約7兆5,000億円を投入。全体で約25兆円が計上された。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
補足すると、資金源は我々の税金です。「公的資金」「損失補填」という言葉は1991年以降の流行語に成りました。
※3:システム設計(systems design)とは、情報システムの目的・機能・性能を設定し実現する為の具体的方法を設計すること。ハードウェア・ソフトウェア・時間・要員などの資源の配分・構築・運用の方針を決定する工程。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※3−1:情報システム(information system)とは、コンピュータを使って計算・分類・照合や統合的制御・管理などの、情報処理を行う仕組みのこと。
※4:ブレーンストーミング(brainstorming)とは、創造性を開発する為の集団的思考の技法。会議のメンバーが、自由に意見や考えを出し合って、優れた発想を引き出す方法。
※5:当用漢字(とうようかんじ)とは、現代国語を書き表す為に、日常使用する漢字の範囲を定めたもので、国語審議会が決定・答申し、政府が訓令・告示を以て公布した1850字の漢字。1946年(昭和21)11月発表。その後、48年2月に当用漢字音訓表・当用漢字別表(所謂、教育漢字)が、49年4月には当用漢字字体表が発表された。現在は常用漢字(1981年10月告示)がこれに代わる。→常用漢字。
※5−1:常用漢字(じょうようかんじ)とは、
[1].多数で複雑な漢字の不便を避ける為、1923年(大正12)5月、臨時国語調査会が指定した日常使用の漢字1962字と同略字154字。1931年(昭和6)5月に1858字に改定。
[2].当用漢字に代わるものとして、1981年3月に国語審議会が答申し、同年10月に告示された漢字。一般の社会生活に於いて使用する漢字の目安として1945字の字種と音訓を選定。→当用漢字。
※5−2:教育漢字(きょういくかんじ)とは、義務教育期間に読み書き共に出来る様に指導することが必要で有るとされる漢字。
[1].「当用漢字別表」として選定された881字の漢字の通称。
[2].学習漢字に同じ。
※5−3:学習漢字(がくしゅうかんじ)とは、義務教育期間に読み書きを学習すべき漢字。小学校学習指導要領に学年別漢字配当表を掲載する。
※6:「ぎなた読み」とは、(「弁慶が、なぎなたを持って」と読むべきところを「弁慶がな、ぎなたを持って」と読む様に)句読点を間違えた読み。
(以上、出典は主に広辞苑です)
●関連リンク
関西人の東京コンプレックス▼
超甘コンプレックス論(Super sweet theory of COMPLEX)
関西の人材不足への苦言▼
阪神ファン・選手・球団に告ぐ(To HANSHIN Tigers and its fan)
日本人の被害者意識批判と自己責任型社会の提案▼
日本人の自己責任意識を問う
(Self-responsibility consideration of Japanese)
雪国に関する意見と東京への苦言▼
東京が雪で大変?、じゃ札幌はどないするねん!
(Snow in Tokyo and Sapporo)
日本の「文化の空洞化」「文化のブラックバス現象」論▼
冷泉家時雨亭文庫(Reizei Shigure-tei library)