『君の膵臓がたべたい』。実写映画を観て、アニメ版を観て、原作を読んだ。サントラ盤も聴いた。そして、とうとう「DVD 豪華版」を買ってしまった。
映画のDVDを買ったのは『海街diary』以来。
「豪華版」の特典は、メイキング映像と出演者のコメントなどが収録された特典ディスクと『共病文庫』を模した写真入りのブックレット。
本編は大型連休中から何度も観ている。この作品を観るたび、胸がしめつけられる思いがする。十代の女の子が突然、命を落とす、という内容は私には刺激が強すぎる。
この作品は「創られたもの」という気がしなくなっている。ドキュメンタリーか、どこかで本当にあった話のように思えてしまう。山内桜良を演じた浜辺美波も、ほんとうに亡くなっているような気さえする。
これはよくない。ふだんはしないようにしている、メイキングの映像や出演者のコメントをあえて見聞きすることで、この作品に対してもっと客観的になれるかもしれない。そう思ってDVDを購入した。
特典ディスクを見る前に、付録のブックレットを開いた。『共病文庫』が再現されている。内容は原作に基づいていて、映画の台詞とは多少違う。写真も入っているので、映画の小道具そのままではない。それでも、画面のなかに見てていた『共病文庫』の雰囲気はそのまま。実物を手にしているような感覚を覚える。
最後のページが白紙になっている。胸が痛む。私が受け取った「最期の手紙」と同じ。左のページに最後の言葉が書いてあり、これから書かれるはずだった右のページは白紙。辛い。
特典ディスクは期待通り、作品は「創られたもの」と理解するに十分な内容だった。
桜良の天真爛漫さが、あざとくなりすぎずに、死への恐怖の裏返しとわかるように演じることが難しかったという浜辺美波の言葉には納得した。
北村匠海は春樹の性格が地の自分に近いと語っている。芸能人でも内気な人がいるのか。少し不思議に思った。
要所要所で、自然な演技ができるように台本を事前に渡さなかったり読まないように指示したり、ワンカットを長めに撮影したり、監督の工夫も興味深い話だった。
映画を観ると毎回、エンドロールでたくさんの人が関わっていることに感心する。撮影現場だけでもおびただしい人が群れている。この大所帯を仕切るだけでも、映画監督とはとても難しい仕事なのだろうと思う。
本編ではカットされたシーンが一場面、披露されている。これが非常によかった。「あったかもしれない」場面。この先、何度も繰り返して見るだろう。
メイキング映像を見ると、作品は「創られたもの」とよくわかる。その反面、本編を見るときの没入感は減ってしまう。残念だけれど、これは仕方がない。「この画面の上にマイクがあるのか」「実は周囲はスタッフが取り囲んでいるんだな」などと考えてしまうと「創られたもの」という意識の方が勝ってしまう。
メイキング映像よりもっと困るのが舞台挨拶。作中では仲が悪かった二人が、壇上で談笑している姿を見ると戸惑ってしまう。
私は映画に「作品世界への没入感」を求めている。そういうことがわかってきた。だから、メイキング映像や演者のコメントが好きではない。本編の世界にどっぷりと浸かっていたい。その思いが、ときどき、この作品へのように過敏反応になることもある。
『共病文庫』のブックレットはとてもよくできている。もうこれは作品の一部、といってもいいのではないか。
これを手元に置いて観ていると、臨場感が増して、これを書いた桜良の気持ちと読んでいる春樹の気持ちがよく伝わってくる。
寿命が半減した。
これは共病文庫に書かれている言葉で、本編では台詞になっていない。これは桜良が隠したかったことであり、6月に満開の桜を見たかった理由でもある。4月の時点であと1年持つかどうか、と言われていたのだから、半減したのなら年の瀬までも生きられないということ。来年の桜は、見ることができない。だから自分の名前の由来でもあり、春樹と近づいた季節でもある春に咲く満開の桜を、桜良は見たかった。
桜良の辛い想いが、共病文庫を読みながら観るとよくわかる。
原作と『共病文庫』には、桜良がこの事実を隠して嘘をついたこともはっきり書いてある。
桜良は「退院しました」と春樹に伝えているけど、本当は「最後の外出許可」。ここでも桜良は嘘をついている。見返すたびに桜良の嘘が痛々しく感じられる。
ところで、本編ディスクを見直して気づいたことがある。
朝、登校中、桜良が春樹に手を振る。ここで春樹も思わずカバンを持っている手を動かしている。こういう小さな演技や演出は、これから見るたびに発見できるだろう。
隅々まで目配りが行き届いた作品だから、そういう楽しみがある。
今月はすっかり『キミスイ』月間になった。前にもこういうことがあった。ある時期、取り憑かれたように『太陽を盗んだ男』ばかり観ていた。いつまでも、作品世界に没入していたかった。やがて、ある時、憑きものが落ちるように、一つの作品として客観的に観ることができるようになった。
『海街diary』も、一時期、繰り返して観ていた。
この作品も、飽きるほど観ているうちに私のなかに溶け込み、いつかは一つの作品として観られるようになるに違いない。
その日までは、きっと2週間ごと、実家に帰るたびに観ることになるだろう。
手元に置いておくと、在宅勤務の合間に毎日観てしまいそうなので、DVDは横浜の実家に置いてきた。DVDを買ったことは家族には話していない。家族への秘密が一つ増えた。
『太陽を盗んだ男』のとりこになったのは70年代の匂いがしたから。『海街diary』を繰り返し観たのは、姉妹の話だったから。『君の膵臓をたべたい』に取り憑かれたのは、悲嘆が丁寧に描かれていたから。
この作品を何度でも見返してしまうのは、そこに「生きていた時間」があるから。桜良の生きていた時のなかに、あの人が「生きていた時」を探している。
こんなとこにいるはずもないのに
結局、いつも同じところでつまづいている。
DVDのチャプターは以下の通り。
名場面はいくつもあるので、選ぶのは難しいけれど、あえて選ぶとすれば、私の一番好きなチャプターは、真夜中の病院の場面がある「生きるということ」。
- 1 よみがえる記憶
- 2 彼女の秘密
- 3 【仲良し】くん
- 4 死ぬまでにしたいこと
- 5 真実か挑戦か
- 6 君の中で生きたい
- 7 偶然じゃない出会い
- 8 約束
- 9 生きるということ
- 10 届けたかった想い
- 11 彼女が遺した日々
- 12 あの日の宝探し
- 13 「君の膵臓をたべたい」
- 14 エンドロール
さくいん:『君の膵臓をたべたい』、『海街diary』、『太陽を盗んだ男』、悲嘆