冬の小金井公園

車検、保険付きの自動車をしばらく預かることになった。ガソリンだけは自腹でも好きなように乗っていいという。

大学生の二人の子どもはそれぞれ友だちと旅行に行っている。そこで二人でドライブに出かけることにした。

クルマのある暮らしはおそらく14年ぶりクルマがあるといっても、私は眠気を誘う薬を服用しているので運転できない。

運転手も久しぶりのことで緊張しているので家の近くを回った。行きたいけれど、バスを乗り継がなければ行けない不便な場所を回った。クルマを持っていた頃によく行った場所、ということでもある。


まずは小金井公園。梅林を見るつもりが駐車場が満車であきらめた。ここで1996年から1999年まで住んでいたアパートを通り過ぎた。公園のすぐ近く。

小金井公園はあきらめて次に深大寺そばの店に向かった。25年ほど前、大学院へクルマで通学していて、講義のあと夜の仕事の前にここでよく冷やしたぬきそばを食べた。

その次は保谷。ここには三年間住んだ。

その後、もう一度引っ越してから今住んでいる家を買った

そういうつもりではなかったのに、「今日は家族の歴史をたどったね」と二人で話した。

約30年のあいだに6回、転居している。6回といっても半径10Kmを越えない区域。転勤のない仕事をしてきたから、住む場所は自分で選ぶことができた。これは幸運だった。


結婚した当初は、妻の両親が海外赴任していたので妻の実家に住んでいた。これも半径10Km圏内の中。初めて部屋を探したのは結婚してから5年後。それが小金井公園すぐそばのアパート。

妻と娘はほとんど毎日、小金井公園を散歩していた。娘はここで歩くことを覚えた。

このアパートはメゾネットで住み心地はよかった。ところが、隣室に大学生が住むようになってから夜の騒音に悩まされ、引っ越すことにした。

保谷で住んでいたのは分譲マンション。オーナーが転勤のあいだ賃貸していた部屋。息子はここで生まれた。2LDKで狭い部屋だったけど、幼児二人と暮らすにはちょうどよかった。

1階で南側に小さな芝生の庭がついていた。息子はここで歩くことを覚えた。

窓から外へ出るとき、娘はいつも「行ってきま〜す」、帰ってくるときには「ただいま」と言っていたことを懐かしく思い出した。

子どもがままごとをしたり、水遊びをした庭がどういうわけか枯れ草で荒れ放題になっていた。車があるから誰か住んでいるはずなのに。


今回、むかしクルマでよく通った地域をぐるっと一回りした。景色が変わっているところもあった。バスがギリギリすれ違えるくらい狭かった道路が拡幅され鉄道の踏切がなくなり、深いトンネルになっている場所があって驚いた。

ロードサイドの大型店舗もずいぶん変わっていた。昔を懐かしみながら、変わり果てた街を見るという不思議な時間だった。

クルマの有る無しで暮らしはまったく違う。クルマを持っているときは、週末に郊外の大型スーパーへ行き、一週間分の食糧をまとめて買っていた。

今は生協でほとんど済んでいる。足りないものがあるときは、10分ほど歩いて近所のスーパーへ行く。まとめ買いはしなくなった。

クルマで困るのは何といっても渋滞。今回も渋滞のせいで小金井公園へは入れなかった。

いまは慣れてしまってクルマのない生活で十分事足りている。

デロリアンではないのにタイムトラベルをしたような一日だった。


クルマのいいところは遠くて不便なところまで簡単に行けること。

いま、昔家族でよく行っていた御殿場にある保養所に行くことを相談している。


さくいん:小金井公園