最後の手紙

烏兎の庭 - jardin dans le coeur

第五部

公園のベンチ

7/26/2015/SUN

筒美京平 Hitstory Ultimate Collection 1967~1997 2013 Edition、ソニー、2013


筒美京平 Hitstory Ultimate Collection 1967~1997

9枚組BOX。前に6枚組『THE HIT MAKER -筒美京平の世界-』も借りている。

筒美京平は自分自身について、表現者というよりは職人とみている。

売れる曲を書く。曲だけではなく、サウンド全体を編曲者やプロデューサーと話し合いながら「歌い手の世界」を作り上げた。

   もしかすると僕には、メロディーを作る能力より、曲を売る側の意図を理解する力の方があるのかもしれないね。

松本隆も、自分は職人と呼ばれたいと話している。この考え方は「歌いたいから歌う」「歌いたいことを歌う」と考えるシンガーソングライターとはまったく違う。言うまでもなく、どちらがいいということではない。

ただ、筒美京平は、より大局的というか、音楽産業全体を見渡しながら仕事をしているようにみえる。

   結局、「筒美京平」というのは時代のひとつの現象なんだと思うんです。つまり、フリーの作曲家とはいえ、例えて言えばレコード業界というひとつの大きな会社組織に就職してそこで活動したというような。そこは、さっきも話したようにメジャーの音楽シーンというものが厳然と存在していたということなんです。そして、時代が高度成長期に向かっていく時に、世の中が量産態勢になっていって僕らもヒット曲を量産するという、そういうものが求められていたんだと思う。だから、僕が曲を書き続けてきたのは時代の流れや要請があって、その中でやって来たし、たった今も続けているんです。

筒美京平は、欧米で売れているリズムやアレンジ、要するに流行しているサウンドを輸入して「横のものを縦にしているだけ」と揶揄されていたこともある。

付属しているロング・インタビューを読んでいると、彼は、むしろ意識にそうしてしていたように感じられる。海外で売れはじめているサウンドを、いち早く日本で売れている作詞家と編曲者と歌手を揃え、市場に提供する。「ひとつの現象」という彼の自己評価を私はそう受け止めた。


さすが9枚組だけのBOX、なかなか聴くことのない曲も入っている。石井明美/JOY、後藤久美子/teardrop、井上陽水/カナディアン アコーディオン、鈴木蘭々/泣かないぞぇ(広瀬香美に声がそっくり)など。

試みに、このBOXから好きな曲を並べてみる。


誰かが言っていた。人は年を14歳までに聴いた音楽から離れられない、大人になってから新しいジャンルの音楽を好きになることはない、と。

この法則は、私には当てはまらない。『庭』を はじめて、図書館に通うようになり、ジャズやこのBOXに入っている、いわゆる歌謡曲や昭和アイドルの歌も聴くようになっている。クラシックもジャズも、これまでに聴いたことがなかった作曲家やアーティストの作品も聴いている。

それは、十代のあいだに、歌謡曲という一つのジャンルでくくられていても、そこに、さまざまな音楽の要素を聴いていたからではないか。

音楽を聴くことは好きでも専門的な知識は持っていないので、どのメロディーがどう、どのコード進行がこう、といったことは言えないけれども、最近は、音楽を聴いていて、古い新しいということを気にしなくなった。


さくいん:筒美京平