絵描き Peintre、いせひでこ(伊勢英子)、理論社、2004


絵描き

クリスマスプレゼントにいただいた絵本。いせひでこの名前は、はじめて知った。

創作する、創造する、createする、とは、どういうことだろう。絵描きでも物書きでも、創作者は創作の秘密をあまり語りたがらない。創作の秘密に迫れないならば、創作の過程について考えてみるのはどうか。

創作のはじまりは、自分が感動した作品の模倣だったり、そこから広がる新しい想像だったり。あるいは、過去の忘れがたい記憶だったり、旅や出会いのような未知の体験だったり。

創作はくるしみをともなう。それは締め切りとか、他人の評価とか、ではない。自分の思いを表現しきれないくるしみ。何もしないでいても、もやもやした気持ちは晴れない。そうかといって、たくさんかいたからといってすっきりするものでもない。

創作には、よろこびがある。それは何といっても自己表現のよろこび。自分の内側にある何かを自分の外側へ押し出し、形あるものへ注ぎ込んだ達成感。それから自分の作品を理解する、「おなじにおいのする人」との出会い。そして新たな創作への意欲。

「絵描き」は、創作の秘密について何も語らない。でも、描くこと、作ること、生み出すことのはじまり、くるしみ、よろこびのすべてが、この絵本に込められている。

作者が、過去に出会った、宮沢賢治やゴッホを通り過ぎて作品を生み出したように、私も、本書を眺めて、過去に出会った作品を思い出す。先週、三鷹ジブリ美術館で見た宮崎駿の絵コンテ、以前絵本で見たガブリエル・バンサンの水彩画、そして、ずっと昔、ちひろ美術館で見た、いわさきちひろの幼児の素描

優れた創作者ほど、創作の秘密を語らない。彼らは語らないのではない、語れない。彼らがそれを語ろうとするとき、必ず新たな表現になってしまうから。言葉をかえれば、秘密の説明ほどつまらないものはない。実際、秘密は説明しきれない。

新しい創作、新しい表現だけが古い創作、古い表現を理解する


さくいん: いせひでこ