いのり―聖なる場所(SACRED PLACES)、Philemon Sturges文、Giles Laroche絵、さくまゆみこ訳、光村教育図書、2004


いのり―聖なる場所

いわゆる世界宗教の聖地を集めた図鑑絵本。人々がどんな気持ちで、どんな時に、どんな人々と聖地に集まり、どんなことをするのか、説明されている。

どれほど有名な宗教施設に行ってみても、そこで祈る人たちに感動はしても、自分が敬虔な気持ちになるわけでは必ずしもない。多くの場合、聖地は何かが起こった場所。聖人が生まれたり、神と語り合ったり、亡くなったり。その物語を共有し、その場所への思い入れをもたなければ、ただの文化施設に過ぎない。


同じ宗教の施設でも、真新しい建物は何となく重みが足りないように感じる。その宗教に思いを寄せているわけでもないのに、古くからある建物には、古いというだけで聖なる場所のように感じられることもある。壁や床にしみこんだ過去のためいきが聞こえてくる。

挿画は、ペーパークラフトによる。ステンドグラスに映る細かな光の彩りや、聖地へ集うたくさんの人々もひとりひとりこさえてある。カーバ神殿に集まる人びとを見ると、宗教の求心力に驚く。緻密な紙細工を見ていると、それに加えて作品にかける一人の人間の集中力に驚く。

これくらい繊細な気持ちで言葉を綴っているか、自問せずにいられない。


筆者二人のねらいは、世界中にさまざまな聖地があることを知らせるだけではない。一面の星空の下も聖地であること、つまり、地球上のあらゆる場所が誰かにとって聖地であるかもしれないことを暗示している。

ただし、思いだけでは聖地にならない。小さな紙細工を一片ずつ、丹念に貼り付けていくように、思いをこめて形あるものを作り出さなければ。

きっと人々は、そうして聖地に聖堂 -祈りの場所- を築いてきたのだろう。


さくいん:さくまゆみこ