鮎 の 話
アユ:学名 Plecoglossus altivelis サケ目、キュウリウオ科、アユ亜科、アユ属
(サケ目、アユ科、アユ属と分類するものもあります。)
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右側の図は、下アゴの舌唇である。
アユの属名 Plecoglossus は、“ひだになった舌”という意味である。
種名 altivelis は“高い帆”の意味で大きな背鰭を抽象する。
左下の図は、歯の拡大図で、ヤスリかクシのような形状をしている。 アユの食み跡には、細かい筋が見えるが、
それは上アゴと下アゴにある約13個の歯列によって付けられる。 |
アユの口と歯 (宮路ほか、1960) |
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呼び名と“当て字”
呼び名の由来
(1)古語「あゆる」(落ちる―川を降りる―秋下る)からついた。(『日本釈名』貝原篤信(1699))
(2)アは小、ユは白。その形小にして、色白きをいいしなるべし(『東雅』新井白石(1719))
(3)愛すべき魚(可愛之魚)の意から。(『鋸屑譚』谷川士清(1776)、和訓栞)
(4)アは賛嘆の語、ユはウヲ、イオの短促音。佳い魚、美しい魚を意味する。(『鮎考』飯島茂(1936))
標準和名はアユ、地方名はアイ、アイノヨ、アイナゴ、シロイオ、ハシライオなどがある。
獲ってはいけない遡上前の海のシラスアユ・稚鮎の隠語としてキヒラ、キンタロウイワシがある。
鮎、年魚、香魚、阿由、安由、細鱗魚、銀口魚、王魚、黄頬魚、国栖魚、渓鰮、阿諛などの字があてられている。
(中国で鮎はナマズをさし、アユは香魚シャンユイという。日本でナマズは鯰をあてる。)
「古事記」和銅五年(712)では年魚
「日本書紀」養老四年(720)では年魚、阿喩、細鱗魚
「万葉集」(740〜?)では阿由、和可由、阿由故
アユに鮎の文字が初めて表記されたのは、橘広相の「侍中群要」延喜十一年(911)で、鮎の文字に統一して使用しはじめたのは『和名類聚抄』(931)以降といわれる。
魚偏に占でアユと読むようになった謂れは、次のものが有名です。
神功皇后が神託を得て、まず熊襲を征討した後、新羅を征討しようと肥前国松浦之県まで来たときのことである。(西暦200年頃?)
「日本書紀 巻第九 気長足姫尊 神功皇后」
夏四月の壬寅の朔にして甲辰(三日)に、北 火 前 国松浦県に到りまして、玉島里の小河の側に進食したまふ。是に皇后、針を勾て鉤に為り、粒を取りて餌にして、裳の縷を抽き取りて緡にし、河中の石上に登りて、鉤を投げ祈ひて曰はく、
「朕、西、財国を求めむと欲ふ。若し事を成すこと有らば、河の魚鉤を飲へ」とのたまふ。因りて竿を挙げて、及ち細鱗魚を獲たまひつ。時に皇后の曰はく、「希見き物なり」とのたまふ。故、時人、其処を号けて梅豆羅国と曰ふ。
今し松浦と謂ふは訛れるなり。是を以ちて、其の国の女人、四月の上旬に当る毎に、鉤を以ちて河中に投げ、年魚を捕ること、今に絶えず。唯し男夫のみは、釣ると雖も、魚を獲ること能はず。
ここではアユを細鱗魚、年魚と書いている。またこの故事が西暦200年というのは、日本書紀の暦年が正しいとした場合のことで、昔々はるか昔にあった伝承と思えば良いだろう。魚偏に占うでアユと読むようにしたのは、記紀より二百年余後の人がこの故事と結びつけてのことであろう。
この故事にちなんで、松浦では旧暦四月上旬に、女が鮎釣りをする風習がながく行われたようで、
万葉集に 「松浦川の瀬光り阿由釣ると立たせる妹が裳の裾濡れぬ」 とも詠われている。
年魚は、『和名類聚抄』に「春生じ、夏長じ、秋衰え、冬死す、故に年魚と名付く」と記されている。
香魚は、体表をおおっている粘膜に良い香りがあるため。
香りは餌とする藻類の成分によるといわれていたが(このほうがロマンがあるなー)、
じつは体内の不飽和脂肪酸が酵素で分解された後にできる化合物がアユの香りの元だそうです。
キュウリウオ科 Osmeridae
アユ亜科 Plecoglossinae
アユ属 Plecoglossus
アユ 鮎/香魚
Plecoglossus altivelis altivelis (Temminck&Schlegel,1846);
東アジア。遡河回遊。湖沼。
日本列島、朝鮮半島、台湾、中国。
[中国語:香魚(海胎魚、油香魚、秋生子、留香魚)]
リュウキュウアユ Ryukyu ayu-fish
Plecoglossus altivelis ryukyuensis Nishida,1988;
奄美大島。
生物の分類については、「地学教室」というHomePageの
〔サブテーマ(解説) 生物の分類〕で分かり易く説明されています。
<参考書>
「アユの話」1960 宮地伝三郎 (岩波新書)
「アユの生態」1978小山長雄 (中公新書)
「アユの博物誌」1982 川那部浩哉 (平凡社)
「鮎」1986 松井 魁 (法政大学出版会)
「香魚百態」1987 宮地伝三郎・開高健・山本素石 編 (筑摩書房)
「現代の魚類学」1988 上野輝彌・沖山宗雄 偏 (朝倉書店)
「アユと日本人」1992 秋道智彌 (丸善)
「ここまでわかったアユの本」2006 高橋勇夫 + 東健作 (築地書館)