なわばりでの行動      鮎の話へ

ハチドリ
     (ハチドリ)
   なわばり
 Wilson(社会生物学)のなわばりの定義=「直接防衛あるいは広告を通じた排斥により,個体あるいはグループが排他的に占有する地域」。
もうすこし分かり易くいうと、「個体や集団がその占有を主張する外的空間で、そこへの侵入者に対しては防衛的反応を示すような範囲」をなわばりといいます。
 なわばりによって防衛されるものは,餌の場合(アユ,ハチドリなど。餌だけを守る動物はあまり多くない)と配偶者の場合(ライチョウ,トンボなど)がある。
このふたつを守る大きななわばりを持つもの(シジュウカラ,イヌワシ,ライオンなど)もある。食物に関連する場合には体重の大きい種ほど大きななわばりを必要とする。
 アユのなわばりは専門的には「摂餌なわばり」といわれ、先住効果が見られて、体の大きな侵入者に対しても、先になわばりを持ったアユが防衛に成功することが多い。

     1.アユのなわばりの広さ
     2.なわばりアユの動き
     3.攻撃行動の要因


1.アユのなわばりの広さ
 京都府宇川を中心とした宮路、川那部氏らの研究から、アユのなわばりは約一平方メートルであると従来いわれてきた。
 それに対し、中央水産研究所の井口恵一朗氏は、水が流れ底に藻類が生えている複数の人工池へアユの数を変えて放して、アユの行動観察をした結果、なわばりアユの数となわばりの大きさはアユの生息密度によって変わると発表(1995)した。
アユの生息密度が低いとなわばりは広くなり、生息密度が高くなるとなわばりアユの数が増えるが、そのなわばりは狭くなる、というのである。

 また同氏は、アユがナワバリを持つか群れになるかは、ナワバリを維持する上での利益と損失のバランスの上に成り立っている、すなわちナワバリを維持することがエネルギー経済的に守る価値があるかどうかによるという考えかたを示している。
ナワバリを持つことの利益は、確実に餌にありつけエネルギーが得られることで、損失は侵入者を攻撃するために使うエネルギーである。ライバルがいない場合には、なわばりを侵されることがないからなわばりを作る必要が無い。逆に、ライバルが多すぎると、ナワバリを守るための攻撃回数があまりにも多くなり、そのためにエネルギーを使いすぎて、せっかく確保した餌を十分に食べる暇がなくなって得られるエネルギーが無くなる、結果としてナワバリを作る意味が無くなる。したがって、適当な数のライバルがいる時にもっともナワバリ行動が強くなるというものです。
(川那部氏は、フィールド観察でこのへんについては、温暖期のアユはナワバリについていいかげんな態度を取ることがあると述べている。)
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いろいろな川に潜って、なわばりの広さを観察している人の報告では、なわばりの広さは、場所とアユの大きさにもよるが、50cm四方から4m四方くらいまであるそうです。
激流での尺鮎釣りをしている人は、経験的に尺鮎のなわばりは八畳間くらいだといいます。
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  アユの摂餌なわばり(中央水産研究所)
      成長速度が異なるアユ種苗のなわばり性 (滋賀県水産試験場)
      Individual Based Modelを用いたアユのなわばり形成に関する研究(奈良女子大学

2.なわばりアユの動き
アユのなわばり

 左の図は、宮路博士達がなわばりアユの動きをトレースした有名な図です。なわばりの良い藻のあるあたりを中心に動き、時々進入アユを追って少し外側へ行きUターンして戻る様子が描かれています。この図の場合、瀬についたなわばりアユが頻繁に動き回って防衛する区域は、約一平方メートルで、ときどき動き回る周囲を加えた生活圏は2〜3平方メートル以内である。


 A:なわばり行動のトレース(5分間)
 B:なわばり(実線)、行動圏(波線)

 横線の長さは1m:(宮路ほか1952)



 なわばりアユは、なわばり内を満遍なく動いているのではなく、良いコケがある所(コケを食んでピカピカに磨かれた所)を中心部に泳ぎ、コケを食んでいる。
 なわばりアユは、隣のなわばりアユ(Uターン形で通る)や単にナワバリを通過する通いのアユにはほとんど攻撃をしないといわれている。 ナワバリ付近でうろうろしているなわばりを持たないアユを攻撃し、特にコケが磨かれたなわばりの中心に近づくと激しく攻撃する。
 放浪アユは、なわばりの近くをジグザグしたZ型やイナズマ型の泳ぎをすることが多いといわれ、このようなアユは好からぬ侵入者としてなわばりアユの攻撃をうけやすい。
 村田満氏は、「野鮎はオトリが自分の前を斜めに泳いでいくのは実に神経にさわることで、頭にきて体当たりしてくる。」と云っています。
アユの生息図
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 なわばりアユは、他のなわばりアユとなわばりを持たないアユとを区別しているようなのですが、何で区別をしているか解れば釣果アップにつながるかもしれません。

3.攻撃行動の要因

(1)水温の影響

群馬県水産試験場:田中英樹、吉沢和倶(1996)は、水槽内でのなわばりアユの攻撃行動を次のように報告しています。アユの攻撃対象(なわばり侵入者)はアユの模型が用いられました。

   観察の結果
@ なわばりアユの攻撃行動を水温9〜27℃の条件下で単位時間(10分)観察しました。その結果、攻撃回数は水温が上昇するのに従い増加し、下降に伴い減少しました。
A 個々のアユで攻撃回数に差がありましたが、群馬県産人工アユ種苗は水温23〜27℃で高い攻撃性を示し、この範囲以外では攻撃の回数が低下する傾向が認められました。


B 水温11℃以下では、ほとんど攻撃行動が見られず、攻撃行動の下限水温は9℃前後と考えられました。

C 同じ水温での攻撃の回数は上昇時と下降時で差は認められませんでした。
D アユは堰などで落水刺激を受けると、その上流に遡上するために、とびはねる行動を示します。そのなかで、とびはねるアユと、そうでないアユがいます。とびはねたアユは遡上する性質が強く、採捕率が高い種苗とされています。とびはねる性格の強弱を測る指標としてとびはね検定というものがあります。とびはねるアユのグループと、とびはねなかったアユのグループについて攻撃行動をした回数と単位時間(10分)あたりの攻撃行動の回数について調べたところと、両者についての明らかな差は認めらませんでした。したがってとびはねる性格が弱くても、よく釣獲されるアユもいるようです。

(群馬水試での別の機会には、最も攻撃行動の活発なアユは10分間に300回もオトリに体当たりしたことが観察された。)

(水温と攻撃行動の結果は、中央水産試験所の内田氏らの報告とも一致するものです。)
  *アユの攻撃行動に及ぼす水温の影響(英文)

(2)視覚的要因
 中央水産試験所の井口恵一朗氏の「なわばりアユの攻撃行動を解発する視覚的要因(1991)」は、なわばりを作ったアユのいる水槽に、攻撃対象モデルをいれてなわばりアユの攻撃を観察したもので、釣り人の間で云われてきた事を裏付ける有用な情報です。要約すると次のようになります。

 攻撃対象モデルとして、アユに模してバルサ材で作った立体モデルと矩形の板が使われました。モデルを水底から5cmの位置に設置し、なわばりアユが3分間に攻撃する回数を観察した。
 大きさが12cm〜15cmのなわばりアユが使われた。
 攻撃対象としてアユを模した立体モデルは10cm,15cm,20cmの3種類を使った場合では、

 「なわばりアユは、黒くなく細長い形をした侵入者が水平の姿勢で水底に近づくと、視覚的に反応して攻撃を加える。」と結論付けています。

 また、報告のなかで、なわばりアユは、他のなわばりアユをあまり攻撃せずに通してしまう場合が多いので、なわばりアユとそうでないアユを識別していると考えられると述べている。頭部後方にある黄斑は、なわばりアユでは鮮明でありなわばりアユでないものは鮮明でない。
 この黄斑の鮮明さが攻撃行動を起こすサインになるか調べたが、黄斑が鮮明なものもそうでないものも同様に攻撃を受けた。と報告している。
  *なわばりアユの攻撃行動を解発する視覚的要因

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 new anime1 ☆ 豆知識
 ナワバリアユは「まっ黄色」か?
 上に、”頭部後方にある黄斑(金星)は、なわばりアユでは鮮明でありなわばりアユでないものは鮮明でない。”と書いてある。
 尻ビレや尾ビレまで「まっ黄色」になったアユが釣れてきたときは、”追気満々バリバリのナワバリアユが掛かった”と思っていたし、ヒレまでマッキッキになったのはナワバリ根性の強いものの特徴だと思っていた。しかし、金星さえはっきりしないのが背掛かりで入れ掛かりで釣れてくることもあったりする。
 アユのナワバリ行動・攻撃性と体色の黄色とは、どうも直接関係は無いらしい。
 アユはなぜ黄色くなるのか?
 京都薬科大学におられた松野教授の研究によると、アユの体色の黄色はゼアキサンチンというカロテノイド系の色素によるものだそうだ。この色素は石垢の藍藻に含まれていて、これをアユが食べる事で黄色い色素が体内に取り込まれて、体表に黄色味が出てくるのだそうだ。
 人がカボチャとかミカンとかを毎日沢山食べていると手や顔が黄色くなるというのと同じ理屈らしい。(戦中戦後のころに生まれた人は実感で分かっている。)
 ゼアキサンチンは藍藻に含まれているが、アユの主な食料といわれている珪藻には含まれていない。つまり珪藻ばかり食べているアユは黄色くならず、藍藻を沢山食べたアユが黄色くなるというわけだ。
 石垢の話のなかに書いてあるように、中央水産研究所の阿部信一郎氏の研究では「アユが石アカを食んでいない石では珪藻が優位だが、アユが石アカを食んで磨かれたところは、珪藻の割合が減り糸状ラン藻Homoeothrix janthina(ビロウドランソウ)が優占になる。」と報告されている。
 アユがアカをせっせと食べると、そこのアカは藍藻が多くなってくる。そこでアカを食べ続けると藍藻を多く食べることになり、結果的に黄色いゼアキサンチンを沢山体内に取り込むことになって、ヒレの縁までも黄色くなっていくという訳だ。
 同じ所のアカを食み続けるということは、そこにナワバリを持つことが多いだろうから、”ナワバリを持っているアユは黄色くなっていることが多い”といえるのかもしれない。

 ★養殖アユの黄色斑や背びれ、尾びれの色調強化を目的に、マリーゴールドの花びらを粉末にしたものを養魚用飼料に添加して用いられているそうです。マリーゴールドの花びらにはルテイン、ゼアキサンチンが多く含まれていて、卵の黄身の色を強くするためや、ハマチやカンパチの側線の着色・体色の改善にも使われているそうです。
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     『釣りへの応用

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