バスに商品名がなかった時代
型式以外にバスを分類する方法はなかなかありません。しかし、1980年代以降、バスには商品名がつき始め、1990年代から少しずつ認知が高まり、2000年代にはほぼすべてのバスが商品名で呼ばれるようになりました。
その結果、21世紀以降のバスについては、型式などにこだわらずに、商品名で呼べるようになったのです。
ただし、残念ながら、当サイトで解説している1970〜80年代のバスについては、商品名がなかったり、認知されていなかったりで、型式以外での分類が難しいのも事実なのです。
1960年代〜70年代、バスの商品名がなくなった
日野RB
発行:日野自動車(1961年)
三菱MS
発行:三菱自動車(1982年)
日産デU33
発行:日産デ(1989年)
バスの商品名については、別項「バスの商品名」にまとめましたので、そちらをご覧いただくとして、ここでは、バスの商品名がなくなった時代について、まず触れておきます。
この時期のメーカーのカタログを見ると、メインタイトルは型式名になっています。つまり、メーカーも型式名でバスを呼んでいたわけです。そのため、バスユーザー(バス事業者)も同じように、型式名で呼ぶことになります。
「いすゞBU」「日野RB」「三菱MR」というようにバスを呼ぶ習慣がこの時期に定着したのだと思われます。
その習慣はそう簡単にはなくなりません。1980年代に入りいすゞ「キュービック」や三菱「エアロスター」などの商品名がついたバスは存在しますが、ほとんどの場合、愛称ではなく型式で呼ばれ続けます。特に日産ディーゼルでは、大型バスUAについて商品名をつけていませんので、2000年代に入っても型式で呼ばれるしかない状態でした。
商品名が定着しなかった理由
バスの商品名が定着せず、型式で呼ばれる理由の一つが、上で述べたように、20年以上の長きに渡ってバスメーカー自らが、バスの呼び方を型式のみに絞ってきたという点です。
そして、もう一つ考えられるのが、バスの場合、「外観=名前」という図式になっていないという点です。これは、前々ページで述べたように、同じシャーシ型式であってもボディメーカーが違えば、見た目は全然違うからです。
1980年代以降、徐々に商品名が浸透してきた
バスの商品名を最初に浸透させたのは、1982年に登場した三菱エアロバスです。しかし、その影響を受けて商品名をつけた他のバスのほとんどが、商品名の浸透には成功していません。
私の主観も入りますが、1980年代に商品名の浸透に成功したのは、「エアロバス」ファミリーを除くと、他は皆無といっていいでしょう。日野「ブルーリボン」はむしろ「グランデッカ」「グランシアター」という車格を表す名称の方で呼ばれた傾向があります。いすゞ「スーパークルーザー」はその商品自体の普及度合いが低く、商品名の浸透には疑問符がつきます。
1990年代に入り、日野「セレガ」、いすゞ「ガーラ」。2000年代に入り、いすゞ「エルガ」、日野「ポンチョ」、などといった具合に、ようやくバスを商品名で呼ぶことが定着します。「エアロバス」から約20年を経てのことでした。
これは、メーカー側のイメージ戦略成熟やライバルに追随しない個性的スタイルの発揮など色々要因はあると思いますが、バスボディ製造の集約化が進み、商品名=見た目という時代が戻ってきたことが大きいのではないかと思います。
商品名を定着させたもう一つの理由
バスの商品名を定着させたもう一つの理由について書いてみます。
それは、バス趣味の普及による若いバス愛好家の存在です。
例えば、今Webで検索すると、いすゞ「キュービック」、日野「ブルーリボン」、いすゞ「ジャーニー」、日野「レインボー」などの語句がたくさん見つけられます。さらに「ブルリ」「スパクル」などと勝手に短縮形にして呼んでいる人も多いようです。恐らく、若いバス愛好家の方にとって、「バスの商品名」で述べた「いすゞキュービックや日野ブルーリボンの名前は普及しなかった」という事実は納得しがたいことではないかと思います。事実、現在自分たちが普通に使っているのですから。
しかし、実際のところ、いすゞ「キュービック」をその名前で呼んでいたバス関係者はほとんどいませんでした。みんな「いすゞLV」と呼んでいました。上に挙げたメーカーカタログ自らが「いすゞLV」を強調しています。同様に「日野ブルーリボン」などという名前で呼ぶ人はもっと少なかったはずです。
それが、生産終了して廃車が進みつつある今、晴れて商品名で呼んでもらえるようになった理由は何でしょう。それは恐らく、「エルガ」「ブルーリボンシティ」などの登場により、バスの商品名が定着し始めたことで、この時代に慣れている若い人が、昔のバスを分類する上で同じ手法を求めたためでしょう。
その時代に使われていたか否かはともかくとして、「キュービック」「ブルーリボン」「ジャーニー」「レインボー」などの名前があるのなら、それで呼ぶのが正攻法だと考えるのは当然です。
古いバスの商品名の定着には、若いバス愛好家の力が大きいのです。