入門その頃のバス

(結論)型式にこだわらない方がいい

ここまで、バス型式の調べ方がいかに難しいかという話、でもバスを分類する方法は型式しかないという話をしてきました。2000年代以降にほとんどのバスに商品名がついた現在はともかくとして、バスに商品名のなかったその頃には、型式でしかバスの本質を語ることは出来なかったのです。
しかし、その型式の存在がバス趣味から人を遠ざけ、また独りよがりの趣味世界を確立させてしまったのではないかと思います。そういう意味では、バスの型式は必要悪であったと思います。

①1985年式
P-LV219Q

②1986年式
P-LV219Q

③1987年式
P-LV219S

上の写真は、1985〜87年の間、毎年導入された岩手県交通の高速バス用の新車です。当時毎年増便を重ねていた高速バス「ヨーデル号」(盛岡−弘前間)用に新造されたもので、いすゞの純正車体を架装しています。
この3両、1986年にボディのマイナーチェンジが行われたため、扉上の明かり窓の四隅のRの有無などに違いがありますが、ユーザーの仕様はほとんど同じです。
しかし、結論から言うと、型式は①から順にP-LV219Q,P-LV219Q,P-LV219Sとなっており、③の1987年式だけ長尺です。見た目はほとんど同じにもかかわらず、車体長に70cmの違いがあるのです。
私がそれを知っている理由は、当時新車が入るたびに銘板を覗き込んで型式を調査していたからです。そうでない人が③の1987年式のことをP-LV219Qであると言ったり書いたりしているのを見ると、鬼の首を取ったように「あれはP-LV219Sなんですよ!」と大騒ぎしたくなります。
(その後、「BJハンドブックス」「バスラマ」で岩手県交通が特集された際、車両一覧の中でこの違いは読み取ることが出来るようになっています)

①1971年式
BU10D

②1973年式
BU10

③1974年式
BU10K

同様に、上の写真3枚は、外観がほぼ同じ北村製作所製ボディを持つ松本電鉄の路線バスです。これは、同じ長さのいすゞBU10のバリエーションであるということは、ある程度バス型式をかじっている人には分かります。
しかし、エンジンが異なるため、①の1971年式は直噴エンジンのBU10D、②の1973年式は通常出力のBU10、③の1974年式は高出力のBU10Kです。これは、型式を個別に調査するか、実物の走行エンジン音を聞くかなどの経験をしなければ分かりません。
③の高出力車両は、山岳観光路線に使用されていたので、高出力車であることは比較的知られていましたが、晩年は一般の市内路線に転用されたものもあり、その時期の用途だけでは判断がつきません。さらに同じ年式に通常出力の車両も存在した事実もあります。①の直噴エンジンについては、なぜこの年式だけなのか、その理由すら判然としません。

このように、バスの型式というのは、実地調査をした者しか正確に把握できないという大きな欠点があります。これがバス趣味の独りよがりの一因であるように思います。
趣味を大人しく続けようとした場合、銘板を覗き込むというような目立った行動を慎むに越したことはありません。その場合、型式は様々な要因から推定することになります。一番上の岩手県交通の例だと、これまで短尺で購入していれば、1987年度も同じ仕様で購入するのが自然ですので、普通はそう推定します。松本電鉄の例だと、山岳路線の高出力車はともかくとして、理由の分からない単年度だけの直噴エンジンなどは、推定できるはずもありません。

困難であればあるほど、趣味の奥行きが深まるという側面はありますが、銘板を覗き込むなどの突出した行為をした者だけが正確な情報を得られるという世界は、常識的な趣味世界としては疑問符がつきます。
ここでは、バスに名前のなかったその頃の実例を挙げるにとどめましたが、名前のついた現在であれば、なおさら型式にこだわる必要はありません。排ガス規制記号がPDG-であろうとDKG-であろうと、その区別にほとんど意味はないような気がします。

結論
  1. 型式は、コアな愛好家のみが知ることのできる自己満足のアイテムである。
  2. 健全な趣味活動の範囲では、外観からわかる名前で呼ぶことで充分。
  3. こだわりは飽くまでも個人の自由。ただし、他人に強要するものではない。
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80s岩手県のバス“その頃”