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残留農薬分析に関する話題(2003年5〜8月分)

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いずれも読みきりの小論です。

日本農薬学会「残留農薬分析 知っておきたい問答あれこれ」(2003/8/24)
「食品衛生検査指針<残留農薬編>」発刊(2003/8/17)
試験室三原則:@ソルベントレスAボンベレスBヒトデレス(2003/6/29)
残留農薬の多成分一斉分析で回収率が低い農薬(2003/6/8)
農薬を分析する人にお勧めするバイブル的な本(2003/5/18)

日本農薬学会「残留農薬分析 知っておきたい問答あれこれ」(2003/8/24)

 本の紹介が続くが、今回は高くない本。日本分析化学会の液体クロマトグラフィー研究懇談会が 「液クロ虎の巻 誰にも聞けなかった HPLC Q&A」(2001年刊)を発行したとき、「こんな虎の巻が残留農薬分析でも出版されればいいのに」と仲間うちで話した。そういう本がついに出た。

 書名は日本農薬学会「残留農薬分析 知っておきたい問答あれこれ」平成15年7月11日発行。しかし、この書名でbk1やamazonを探しても見つからない。日本農薬学会の残留農薬分析セミナーの案内のページに全目次が掲載されている。セミナーの教材として製作されたものらしい。(本のタイトルはこのページにも書かれていない。この書名を検索に掛かるサイトで紹介するのは、私が初めてである。)

 目次を読めばわかるとおり、農薬分析の基本操作、すなわち試料の採取・輸送・保存・前処理・抽出・精製・定性・定量の各ステップごとに、ごく基本的な事項がQ&A形式で丁寧に漏れなく解説されている。初歩的なことだけでなく、標準品の保管方法や、不検出基準の農薬の検出限界などまで、どんな資料を参照すればよいか手際よくまとめられているから、ベテランにとっても役に立つと思う。農薬残留分析研究会を26回にわたって開催してきた日本農薬学会の蓄積を感じる。

 入手するまではハンディな本を想像していたが、A4判で77ページ。カラーのイラストや写真が多く、カタログのような厚い上質の紙が使われており、けっこう重い。そして、文字が非常に大きい。初心者にも熟年にも読みやすくという配慮が感じられる。それに、この紙質なら濡れた手でページをめくっても簡単には破れないから、常に実験室に置いて多人数で愛用できるだろう。

 ところで、我が国における農薬分析には大まかに分けて登録保留基準の系統と食品衛生法の系統がある。登録保留基準の分析は農薬の開発段階で使われ、食品衛生法の分析は流通や販売過程の食品に使われる。農薬分析の担当者も、たいていこの2系統のどちらかに属していて、軸足を置く学会も日本農薬学会と日本食品衛生学会に分かれている。そして、両者の間には言葉使いや発想法・重視するポイント等にかなり違いがある。この「問答あれこれ」の執筆者は11名で、両方の系統の専門家が含まれているが、発行元は農薬学会だから、多数派は登録保留基準に重点を置く専門家たちである。50の問答のそれぞれを誰が担当したかは記されていないが、どちらの系統の人が書いたかは、読めばほぼ見当がつく。

 農薬分析から離れた私が希望しても仕方がないけれど、食品衛生法系の人が主導して同様の本を出版するのも面白いのではないかと思う。食品の製造や流通段階での農薬分析に力を入れる事業者は急速に増えつつあり、そのような試験室は規模が小さく初心者が多い。食品衛生法系の人が編集すれば、試料の採取法に関する項目は減らし、加工食品中の残留農薬の扱いやポジティブリスト制、多成分分析等について、もっとこってり書きそうな気がする。

 そして、この冊子の入手方法だが、冒頭に挙げたページに書かれているとおり。価格は1冊1,000円(内容的にも製本の質的にもこれは安い)、日本農薬学会宛てにFAXで申し込む。電子メールアドレスも書いてあるが、このアドレスは申し込み用ではない。(私は勘違いして失敗した。)


「食品衛生検査指針<残留農薬編>」発刊(2003/8/17)

 一昨日、「食品衛生検査指針<残留農薬編>」が分担執筆者分として送られてきた。これは、私のページを読みに来るような方の職場では、おそらく近いうちに購入される本だと思う。既に農薬を分析する人にお勧めするバイブル的な本の中でも少し書いたけれど、実物を手にした今、この本が日本の食品中残留農薬分析においてどんなに特別な位置付けにあるか、もう少し詳しく紹介しておこうと思う。

 外形的なことから述べると、厚生労働省監修、社団法人日本食品衛生協会発行、2003年7月25日初版、B5判、889ページ。装丁は今回から合成皮革製になった。開いて机の上に置いても重しを載せる必要はなく、すべてのページが開いたままにできる。参照しながら試験操作をするのに好都合になった。各農薬について、食品中の残留値を規制するための公定試験法は日本で一つだけ定められており、その公式な解説書はこの本しかない。

 ところで定価は25,000円(消費税込み)。「食品衛生検査指針」はこれまで3分冊で、やはり高価格だったが( (社)日本食品衛生協会のホームページ参照)、今回から5分冊になり、しかも一冊あたりの価格が上がったことになる。小さな試験室にとっては、購入するのはかなり負担ではないだろうか。この文章のタイトルを「『食品衛生検査指針<残留農薬編>』はなぜこんなに高いのか」にしようかと思ったくらいだ。

 しかし、私はほんの微小な部分の執筆に携わっただけなのだが、この価格に納得できる。この本の編集には、途方もない手間が掛けられている。というのは、それぞれの分析法の解説は、基本的に試験法を検討した本人が執筆しているからだ。(ただし、何らかの事情でこれができずに別の人が担当した項目もある。)

 これがどういうことか、農薬分析法に関する分厚い本はいろいろ出ているけれど、自分が編集者だったらと考えてみれば、類書との違いがわかる。現在、食品への残留基準値が設定されているのは229農薬で、告示の個別試験法は121とおりある。(同時に分析できる農薬があるから、試験法の数は農薬数より少ない。)適当に数名の専門家を集めてすべての告示試験法の解説を書くことも不可能ではないだろう。執筆者は少ないほど、経費を抑えて編集できる。でもそのようにすると、執筆者本人がやったこともないのに書かれる解説が少なからずできるはずだ。

 「食品衛生検査指針<残留農薬編>」の執筆者は、国と地方の衛生研究所や財団法人日本食品分析センター所属の28名。私のサイトでは公開された情報しか載せない方針なので具体的なことは書けないが、最初の原稿を提出してから指針委員会が綿密に査読して何度も往復する過程は、膨大な人手や通信費を要したに違いないと感じるものだった。そのようなコストを掛けてまでして試験法を検討した本人が担当したことによって、実用的な価値が格段に高まっている。なぜこの操作が採用されたのかが説明されたり、こまかいノウハウが述べられたり、ミニカラムやイオン交換樹脂の商品名が書かれていたり、特に目立つ特徴としては、ほとんどの項目にクロマトグラムが付いている

 そして、どの試験法を誰が担当したか、冒頭の表にすべてリストアップされている。執筆者リストには、執筆当時の所属とともに現在の所属も書かれている。もちろんずっと食品中の残留物質が担当という執筆者が多いが、微生物や大気や水道水の担当と思われる人もかなりいる。(私も食品から離れた一人だ。)どうしても解明する必要のある疑問点が出てきたら、これらの担当者は追いかけられて質問されるだろう。

 分析化学者個人の専門性に信頼性を大きく依拠するやり方には、日本独特のものを感じる。米国流の何でも標準化する方式とは根本的な違いがある。今後、ポジティブリスト制の導入もあり、今の方式が継続されるのかどうか私にはわからないが、現時点では、「食品衛生検査指針<残留農薬編>」出版は、我が国の農薬分析法体系作りの一つの節目と言えるだろう。農薬分析に携わってきた一人として、この本が編まれた背景や関係者の尽力に感慨を持つ。

(参考:発行年メモ)
 1991年 「食品衛生検査指針−理化学編−」
 1993年 「食品衛生検査指針−追補I−」
 1996年 「食品衛生検査指針−追補II−」


試験室三原則:@ソルベントレスAボンベレスBヒトデレス(2003/6/29)

 某地方衛生研究所のベテラン職員Uさんから、たいへん有用な三原則をうかがった。Uさんは、私が個人ページを公開した経緯でも紹介したとおり、日頃から熱心に情報収集して研鑚を積まれている方で、特に農薬分析への超臨界流体抽出法(SFE)の導入では先駆的な業績を上げておられる。以下、Uさんによる解説。

残留農薬分析の危機感(その1)
 厚生省(当時)が本格的に残留基準値を設定しはじめた1995年頃、私は膨大な公定法を前にして、その手間とコストに危機感を持ちました。それの打開策として考えついた原則が@ソルベントレスAボンベレスBヒトデレスです。

 @はできるだけ有機溶剤の使用量を減らすことです。昔は浴びるほど使用していた、有機合成等の研究者の中には手指がふるえたりする方々がおられました(単なるアル中だったのかもわかりません・・・(笑))。それと環境負荷が大きく、環境基準値が設定された溶剤も有ります。有機溶剤使用量を減らすためにはSFEの導入が不可欠と考えました。
 Aのボンベレスは宮城沖地震直後の某研究所の視察に行きましたら、ボンベが走り回って2次災害を拡大したことと、配管がずたずたになって有毒引火ガスが出放題だったこと等試験研究機関の危機管理上最もリスクが大きく、また交換時の手間や配管漏れの事も考慮すれば、できるだけ発生装置に転換すべきと考えました。
 Bは人手をなるべくかけないように分析システムを見直し、合理化・自動化するため、まずGPC導入を検討しました。

 翌年この「スリ−レス」をひっさげて各担当部局行脚の末、SFE−PREP−GC/MSシステムとGPCシステムとセミミクロ液クロ(HP1090型で、将来HP5989に結合してLC/MSとして使用予定)と数台のガス発生装置等が導入されました。@とBはこれらの導入により飛躍的に能率が向上し、分析は夜間自動運転が日常になりました(GPCはその後SFEに大部分取って代わりました)。しかしAについて燃料系はすぐに変換できましたが、キャリヤ−ガスの導入には成功しませんでした。まずガスクロマトグラフにおいて水素キャリヤ−は諸外国では一般的に使用されているものの、危険性管理云々の議論があり周囲の状況から見送らざるを得ませんでした。GC/MSについては当時最もピュア−な窒素発生装置等をいろいろと検討しましたが、分離膜由来のバックグラウンド除去ができずにあきらめました。
 と言うことで一応満足できる成果があがったわけですが、翌年の人事異動で、1名減という落ちがついたことを最後に報告しておきます。

 「SFE-GC/MSとGPCとセミミクロ液クロとガス発生装置数台」の同時導入を実現された行動力と説得力に敬服する。説明するまでもないかもしれないが、GPCはGel Permeation Chromatography(ゲル浸透クロマトグラフィー)の略で、試料溶液の精製方法の一つ。

 Uさんのお話には続きがあるらしい。「残留農薬分析の危機感(その2)」は、2003年より数年間に設定される膨大な基準値への対応版だそうだ。 食品衛生規制の見直しの一環である残留農薬等のポジティブリスト制の導入は、分析担当者なら例外なく頭を痛めているはず。(正直なところ、私はポジティブリストが始まる前に農薬分析から離れられて、ややほっとしているほど。)Uさんがどんな対応策のアイディアを持っているのか、お聞きするのが楽しみだ。


残留農薬の多成分一斉分析で回収率が低い農薬(2003/6/8)

 3週間ほど前から私のページが検索に掛かるようになったのだが、この間に3名の方からメールをいただいた。その方たちの身の上が不思議に共通している。

  1. 勤務先は、食品会社か、食品以外のものを主に手がけてきた分析会社である。(つまり、「食品の分析」を専門的に行う会社でない。)
  2. この数ヶ月から数年以内に、農薬分析の担当者になった。
  3. まわりに相談できる人がおらず、手探り状態。

 そして、お悩みの内容は、表題に書いたとおり、「農産物中の残留農薬の多成分一斉分析で回収率が低い農薬があります。どうしたらいいのでしょう?」というもの。この質問はかなり普遍的なようだ。私なりの対処法を書いておく。

 まず、農薬分析の経験者がまわりに全然いない方に。

 農薬分析を始めたばかりの新人は、回収率が60%とか130%とかの結果が出て必ず悩む。そのとき、ベテランがいる試験室なら、

「農薬の回収率なんてそんなもんだよ」

と言ってもらえて、ずいぶん気が楽になる。厚生労働省のGLP基準で70〜120%とされているが、現実にはこの範囲に入らない場合が珍しくない(特に一斉分析で)。そういうものだという認識がまず必要。

 「そういうものだ」とわかった上で、それにしても他の農薬に比べて回収率が低すぎる農薬がある場合はどうするか。

 まず、試してみた農作物すべてで回収率が低い、トマトや精白米のような簡単と言われるものでも低い場合は、精製用カラムで分取していない画分に溶出している可能性と減圧濃縮時に揮発している可能性が考えられる。

 精製用カラムでの溶出位置は、ミニカラムならロット差、手詰めカラムなら充填剤の活性化の仕方、油脂分の多い試料ではその影響等によって変動する。これを確認するには、手順書の指定する方法で溶出した後に、もっと高い極性の溶媒で溶出させてみればよい。(低極性溶媒で洗浄するステップがある場合は、こちらに溶出している可能性もある。)

 また、減圧濃縮時に揮発しやすいのはジクロルボス(DDVP)やEPTCやジフェニルで、これらはエバポレーターで溶媒を飛ばす時に、乾固後長く回しすぎると回収率が低下する。乾固直前にエバポレーターを止めて、窒素気流を吹き付けて乾固させれば揮発しない。乾固防止剤として少量のトルエンなどを加えるやり方もある。

 ここまでは超初歩的な内容。もう少し高度なのは、作物によって回収率が違う場合

 一般的に回収率に問題が起こりがちな作物としては、にんにく・たまねぎ等のアリウム属野菜(特にFPD-GCで妨害成分が多い)、小松菜やブロッコリー等のあぶらな科野菜(NPDまたはFTDで妨害成分が多い)、にんじんのように色素の多い作物(GCの注入口が汚染される)、かんきつ類(蛍光HPLCで妨害成分が多い)・・・等が挙げられる。これら全部について対処法を述べるのは大変だからキーワードだけ並べておくと、アリウム属の妨害ピークを減らす方法として電子レンジ法凍結法、色素を除去する方法として活性炭ミニカラム等がある。また、地道に色々なミニカラムを試してみるのもまともな解決策。

 さらに高度になると、作物と農薬の組み合わせによって回収率が違うという悩みがある。これは、その農薬と作物の成分の相性が悪いということだから、まず、作物成分によって抽出時に分解している可能性が考えられる。これに対処する最も一般的な方法は、試料のホモジナイズ前にリン酸等を添加することだから、一度は試してみる価値がある。(ただし、これをすることによって、それまで回収率が良かった別の農薬の回収率が落ちるかもしれない。)

 リン酸を添加してもダメだった場合、どうするか。正攻法は、分析したい作物と農薬の組み合わせで文献検索することだ。でも、検索しても見つからなかった場合、あるいは、そこまで手間をかけていられない場合、どうしたらいいのか。

 まず、どうしても回収率が良好にならない農薬と作物の組み合わせはいくらでもあることを念頭に置く必要がある。公定法にさえそういう組み合わせはある。自分が苦労しているのがそんな組み合わせでないかどうか、基本的な解説書はチェックすべき。

 でも、解説書でそういう記述が見つかるのはかなりラッキーで、たいていの場合、自分で結論を出す必要がある。「この組み合わせは分析できません」と言うためには、論拠(&勇気)がいる。どこを探せば論拠が見つかるか。

 農薬には「どんな作物でもだいたい一斉分析OK」なのと「作物によって結果が違う」のがある。問題の農薬がどちらの傾向か知るためには、次の2つの文献でのチェックがおすすめ。まず、 米国FDAの残留農薬分析マニュアル(PAM)の付表(pdfファイル)。PAMについては別途解説しているとおりだが、この表の意味がわからない場合は日本語版を購入されたし。

それから、
 根本了ら:「GC/MS(SIM)による農作物中110農薬の一斉分析法」食品衛生学雑誌,41,233 (2000)
この研究は国内9機関が共同で行ったもので、表題どおり110種の農薬について、玄米、ばれいしょ、キャベツ、ほうれんそう、オレンジ及びりんごでの検討結果が収載されている。

 これらでチェックしてみて、苦労している農薬が「作物によって低回収率になる農薬」と判明すれば、あまり深入りせず諦める論拠にできる。一方、そうでない場合は、もう少し試行数を増やすなどして自分で論拠を作る必要がある。

 ところで、「作物成分が原因」というと「抽出時の分解」と思い込む人が多いが、これは疑う余地がある。実は最終試験液中にちゃんと来ているのにGCで検出されない、という場合がある。これは無添加の試験液に農薬を加えてGCに注入してみればすぐわかる。作物成分が原因の感度変動については、ガスクロマトグラフィーにおけるマトリックス効果で書いている。こういう場合は、影響が出ないところまで精製工程を増やすのが正攻法だ。

 農薬分析に関して、匿名でちょっと質問したい方は、西田立樹さんの 農薬掲示板の中に、分析法に関するスレッドがある。(西田さん御自身の専門は分析ではないが、他の参加者に分析をやっている方がおられるようだ。)

 実名・所属を明らかにしてこってり質問する覚悟のある方には、非公開の掲示板をご紹介している。私までメールを。


農薬を分析する人にお勧めするバイブル的な本(2003/5/18)

 農薬分析にも、農薬会社が開発のために行う分析、農産物生産者サイドが品質管理のために行う分析、食品製造会社が原料チェックのために行う分析、消費者サイドとして行政や民間の検査機関が行う分析など色々ある。一般の人がまずイメージするのは、流通する農産物中の農薬が基準値以下か検査する分析だろう。私が携わってきたのも、そういう農薬分析だ。このような分析担当者が常に座右に置けるバイブル的な本として、私は米国食品医薬品局編、PAM日本語版編集委員会訳「FDA残留農薬分析マニュアル」中央法規(2000)をお勧めする。

 この本の原著は、通称「PAM(パム)」と呼ばれるもの。FDAが検討し続けている残留農薬分析法の集大成、Pesticide Analytical Manualだ。

 お勧めの理由は、この先何十年経っても変らないと思われる原理・原則的なことが丁寧に解説されているから。このページの下の方に書いた記事も、この本からの引用が多い。一見ばかばかしいように見えるほど当たり前のことが、元文献を示してきっちり書かれている。農薬分析法の本は数あるが、こういうことが書かれている本を私は他に知らない。また、分析法を選択したり組み合わせる際のシステマティックな考え方が貫かれている。

 この本の価格は30,000円(税別)。勤務先で買ってもらえる、あるいは既に置いてある、という場合はよいが、個人で買うには高すぎるかもしれない。実は、PAMは無料で読めるのである。FDAのホームページで、PAMのページにアクセスすれば、いつでも最新のファイルを入手できる。それでも私は、お金を出してでも日本語で通読し、その後いつでも参照できるようにしておくことをお勧めする。一度読み通せば全体の枠組みが頭に入るし、枠組み自体は長期間古びることはない。冊子体の方がウェブよりも手軽に引ける。必要なところだけ最新版をチェックすればよい。

 もうひとつバイブル的な本として、ある年代以上なら知らない人がいないくらいなのが、後藤真康・加藤誠哉「増補残留農薬分析法」ソフトサイエンス社(1987)と、その初版「残留農薬分析法」だろう。農薬を分析する人の実感がにじみ出ている表現が多く、腹の底から納得できるという感じ。ソフトカバーの親しみやすい小型本で、愛用している人が多かったが、その後改訂版が出なかった。

 農薬試験室がどうしても常備しなければならない本としては、厚生省生活衛生局監修・日本食品衛生協会発行「食品衛生検査指針−理化学編−」「食品衛生検査指針−追補I−」「食品衛生検査指針−追補II−」がある。この3冊セットには、我が国の食品中残留農薬の公定試験法とその解説(ミニカラムやキャピラリーカラムの商品名、分析操作のこまかいノウハウなど)がすべて書かれているので、個人が買う必要もなく、ほとんどの農薬試験室には既に置いてあるだろう。

 もし、自分の勤務先には置いてない・・・と焦った方がおられたら、購入はしばらく待ったほうがよい。この3冊は最新情報を併せて再編集されており、「食品衛生検査指針<残留農薬編>」としてまもなく発刊されることになっている。それを買うのが得策だ。出版情報は (社)日本食品衛生協会のホームページに掲載される。

 この他にも、農薬の構造式・一般名・化学名・商品名等を網羅した辞書的な書籍も必要だ。おそらく、そのような本も農薬試験室には備えられているだろう。「SHIBUYA INDEX」、「最新農薬データブック 第3版」等が定評がある。


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管理者:津村ゆかり yukari.tsumura@nifty.com