最後の手紙

烏兎の庭 - jardin dans le coeur

第五部

公園の花壇

10/11/2015/SUN

よみがえるケイブンシャの大百科、黒沢哲哉、いそっぷ社、2014


よみがえるケイブンシャの大百科

『昭和少年SF大図鑑』を眺めながら、子ども時代に読んでいた本を思い出してみた。思い出しのは、ケイブンシャの大百科シリーズ、学研のジュニアチャンピオンコースシリーズとひみつシリーズ、そして小学館の入門百科シリーズ。

物語の本よりも図鑑を読むのが好きだった自動車鉄道飛行機⋯。戦艦や航空母艦、戦闘機の図鑑も好きだった。

ケイブンシャの大百科シリーズをまとめた本が昨年出版されていた。読んでみると、私はこのシリーズの初期の読書だったことに気づいた。このシリーズが80年代後半まで続いていたとは知らなかった。小学六年生だった1980年には、私は、大百科シリーズはもう卒業していた。

シリーズの嚆矢となった箱入り『原色怪獣怪人』(1971)は第1巻と第2巻を今も持っている。他にも、持っていたことを覚えているものは、697まで付された番号の中でも50番以下のもの。『9 世界の名車 自動車大百科』(1976)、『15 日本の鉄道 特急・急行大百科』(1977)(ブルートレイン「富士」同乗記は忘れていない)、『32 さらば宇宙戦艦ヤマト大百科』(1979)。

体裁や装丁になじんだからか、持っていたのは大百科シリーズばかりで、小学館の全百科は一冊ももっていなかった。もっとも、全百科は大百科の成功を追いかけた二番煎じだったので、大百科シリーズのほうが圧倒的に人気が高かった。


本書でも指摘されているように、大百科シリーズは、オタク文化を生み、それを読んで育ったオタクたちがさらに成長させた。

ここでいうオタク文化とは、広い意味での子どもも巻き込んだ情報社会と言い換えられる。

70年代、日本社会は豊かになり、人々の趣味の世界も広がった。そして、人々はいろいろな分野について広く知りたくなり、また、自分の好きな分野については、もっと深く知りたくなった。

大百科シリーズは、とくに子どもたちが感じていたそうした欲求に応えることができた。鉄道、スーパーカー、野球選手。どれも、男子小学生にとっては、誰もがつながる常識であり、嗜みの一つだった。


あらためて指摘するまでもなく、現代は、インターネット社会。ケイブンシャは倒産してしまい、大百科シリーズは終わった。書店に行っても、似たような本はあっても、児童書コーナーの隅にひっそり置かれている。

子どもたちは、親の力を借りながら、WikipediaやYouTubeで情報を仕入れ、趣味の世界を楽しんでいる。

ネットと紙媒体の大きな違いは、過去に取り出した情報をすぐに取り出せるか、ということと、偶然の出会いが生まれるか、という点にあると思う。

大人でも、ネットで得た情報を自分で使いやすいよう整理するには苦労する。そのためにある情報管理アプリは、さらに情報の過剰積載を生む。ネットを使う小学生を見ていると、好きなものをたどって先へは行けるが、前に見た記事や番組に遡ることには手こずっている。

また、本の場合は、書棚から本を取り出しパラパラめくっているうちに、探していたこととは違うけれども、面白い記事に出あうことがある。

大百科シリーズは、自分の好きな分野の情報をとことん深めるコツと、知らなかった世界に偶然出会う楽しさを教えてくれた。大百科シリーズを楽しんだ親ができることは、ネットと紙媒体を組み合わせて、その楽しみをさらに大きくする方法を一緒に見つけることではないか。その作業じたいが、親子で共に過ごす楽しみになる。