げんきなマドレーヌ(Madeline, 1939)、Ludwig Bemelmans作・画、瀬田貞二訳、福音館書店書店、1972
  マドレーヌといぬ(Madeline's rescue, 1954)、Ludwig Bemelmans作・画、瀬田貞二訳、福音館書店書店、1973


ずっと昔からある絵本というのに、その存在すら知らなかった。きっかけは瀬田貞二『きょうはなんのひ』。途中で『マドレーヌといぬ』の一場面が林明子による挿絵とともに引用されている。子どもがこれを覚えていて、図書館で検索したいと言い出した。探してみると、これまで読んだことのないような楽しい絵本だった。

作者の人生は、破天荒だ。1889年、当時オーストリア領だったチロル地方(現イタリア領)生まれ。父親は、ベルギー人。16歳で単身渡米し、レストランで働く。漫画から身を起こし、レストランの壁に描いた落書きが客として来ていた絵本の編集者の目にとまる。そして、絵本『マドレーヌといぬ』ですぐれた絵本に贈られるコールデコット賞を受賞。

ルドウィッヒ・ベーメルマンスの人生には、コスモポリタンとアマチュアの精神が輝いている。彼は、きっとさまざまな苦労をしたに違いない。それでも作品には、苦労も説教も思想も、どこにも書かれていない。別な本で読んだ本に引かれた一言から、彼がたどりついた深い思いが伝わってくる。

わたしは自分の絵を売らなければならないのがつらいから、自分用に描いて楽しむ方法を捜して、絵本にきた」(瀬田貞二「絵本のすがた」、松居直ほか編、『絵本とこども』、福音館書店、1966)

ベルギー人の血を引く、チロルで生れた画家が、ニューヨークで描くパリの街で楽しく過ごす子どもたち。

『マドレーヌ』の世界は、まさに辻邦生のいう「世界文化混淆(アレクサンドリア)」。マドレーヌとは、実は妻の名前ということが、これまた心憎いほど愛らしい。


碧岡烏兎