公共交通をよくする富山の会の「提言」(並行在来線に関する第5次提言)        2012年9月11日
 
富山県並行在来線経営計画概要(最終)策定と富山県並行在来線準備株式会社発足にあたっての「提言」
−富山県の「並行在来線経営計画概要(案)」に対するに沿線住民及び事業所・企業へのアンケートをもとに
 
はじめに
 さる7月、北陸新幹線開業に伴いJR西日本経営から分離する北陸本線の県内区間を受け継ぐ富山県並行在来線準備株式会社が発足しました。県は、来年1月には「並行在来線の経営計画概要(最終)」を策定し、県並行在来線対策協議会の役目は終えるとしています。
 「公共交通をよくする富山の会」は、北陸本線が“孫ひ孫の時代にも維持可能な鉄道”として運行されることを願い2002年11月2006年10月2010年2月、さらに2011年9月には「『経営計画』策定に当たっての富山県への『提言』」を発表してまいりました。
 私たちは、県の並行在来線経営計画概要(案)(以下「経営計画」とする)を受け、この春に、経営計画に対する沿線住民事業所・企業へのアンケートを実施しました。この二つのアンケート結果は、6月9日のシンポジウム「北陸新幹線の開業で 北陸本線はどうなる どうする Part7」で報告。また、アンケート結果を当「会」のホームページで公開しました。これらのなかで、寄せられた意見などをもとに、「並行在来線経営計画概要(最終)」策定に、また県並行在来線準備株式会社の今後の経営に生かされることを願い、以下の「提言」をおこなうものです。なお、この「提言」は昨年9月「提言」を補強するものでもあります。
 
【1】住民・利用者が安全・便利で、低廉な運賃が保障される第三セクター鉄道を
 
 富山県の並行在来線経営計画(北陸線の第三セクター化)についてのアンケートは、JR北陸本線県内区間の各駅周辺地区の住民を対象に、4月下旬から5月上旬にかけてアンケート調査用紙を各住宅に配布し、5月末までに返信していただくことで実施しました。
 配布数3,185通に対し回答数は607通、回収率は19%でした。これらの「回答」には、第三セクター鉄道化への利用者目線から見た不安や問題点、今後の期待などが寄せられています。このアンケート結果をもとに、JR北陸本線が第三セクター鉄道となった後も、利用者の立場に立った鉄道運営が成され、公共交通を活かしたまちづくりの中核として役割を発揮するようことが望まれています。
 
(1) 運賃は最低でも据え置きでなければ利用者の理解は得られない
 県は、第三セクター化後の運賃を1.25倍にする試算を行いました。富山〜高岡間の運賃は現在320円ですが、400円になる計算です。アンケート結果では、回答者の71.5%が現行水準を望んでいます。多くの人々が「新幹線の開通によって並行在来線利用者が不利益を被るのは理解できない」と考えています。
 運賃水準は最低でも現行水準を維持すべきです。また、1〜2年以内に運賃値下げも行うべきでしょう。地域密着を掲げるなら、自家用車利用者を鉄道利用者に変えていかねばなりません。万葉線では戦略的な値下げが行われ、利用者増に結びついています。
 
(2) 他社路線にまたがる乗車運賃は乗車距離により通算を
 経営計画は、北陸本線の運営を各県別に設立された第三セクター会社が引き継ぐとしています。この結果、県境を超えて移動する鉄道利用者は、初乗り運賃が2回生じ運賃負担が増えます(図参照)。氷見線など枝線から第三セクター鉄道に乗り継ぐ際も同様です。経営計画ではそれに対し軽減措置を検討するとしていますが、具体的には記されていません。
 アンケート結果では、「会社に関係なく乗車距離に基づいて運賃を通算」が62.8%、更に一歩進んで「ゾーン運賃制を採用する」が8%。7割の人々が経営分離によって初乗り運賃が余計に発生することを拒否しています。
 JR旅客6社は、運賃は乗車距離により通算しています。欧州ではバスなども含めたゾーン運賃制が主流です。少なくとも、現在、運賃が乗車距離に基づいて通算されている範囲については、引き続き同様に切符が買えるようにすべきです。将来的にはゾーン運賃制を導入して県内・隣県他社線との運賃通算を実現すべきです。
 
(3) 第三セクター鉄道の各駅でもJRの切符を買えるように
 現在、北陸本線の駅では、JR全線の切符を購入できます。しかし、県は、その状態が第三セクター化後は維持できなくなるとの見方を示しています。JR切符の取扱について、アンケート結果は「不便になるのでJR切符は今のまま買えるようにして欲しい」が65.4%、「JR以外の鉄道切符(地鉄、ポートラム、万葉線など)も買えるようにして欲しい」が18.3%です。
 9割近い人々が第三セクター鉄道の各駅でJRの切符が引き続き購入できることを望んでいます。少なくとも現在買うことができる範囲の切符は買える状態にすべきです。将来的には県内・隣県他社線の切符も買えるようにしていくべきでしょう。
 
(4) 運行頻度は日中でも15分程度の間隔で
 経営計画では、「地域密着」のダイヤを組むとしています。しかしながら"「地域密着」のダイヤ"が具体的に何を意味するのかはっきりさせていません。
 第三セクター鉄道のダイヤについて、期待される運行頻度を推し量るものとして、待ち時間の許容程度を尋ねたところ、「15分」が30.6%、「20分」が26.4%、「30分」が26%でした。待ち時間を15分程度に抑えれば8割以上の人々が満足するといえます。
 待ち時間が長いと言うことは地域のニーズに合致していないことを意味します。第三セクター鉄道の最たるライバルは自家用車ですから、せめてそれに代わる選択肢として検討できる程度の運行頻度が必要です。
 
(5) 運行区間は少なくとも金沢から直江津まで
 経営計画では、第三セクター鉄道の運行範囲を西方向は金沢まで、東方向は糸魚川間までとしています。アンケート結果では、西方向については「金沢まで」が77.4%、「小松まで」が16.1%でした。一方東方向は、「直江津まで」が64.7%、「糸魚川まで」が28.2%でした。小松〜直江津の範囲で運行を行えば9割以上の人々を満足すると言えます。
 特に東方向の運行区間について、アンケートで浮かび上がったニーズと経営計画の内容は乖離しています。7割近い人々が直江津までの運行を望んでいるのです。運行区間が糸魚川で途切れてしまえば、新川地域は東方面を閉ざされた袋小路となってしまいます。県全体の発展のためにも、少なくとも金沢〜直江津間の範囲での運行を基本とすべきです。
 
(6) 大阪・名古屋・新潟方面からのJR特急の県内乗り入れは維持を
 JR西日本の関係者は県議会で、北陸新幹線金沢延伸後は「金沢以東の特急の運行は考えていない。」と発言しました。県民の声は、県内への乗り入れの維持を求める声が圧倒的です。
 現在運行されているJR特急の北陸新幹線金沢延伸後の扱いについて、アンケート結果では「現在の頻度で富山県内へ乗り入れすべき」が70%、「早朝・深夜など新幹線では対応できない時間帯のみ富山県内乗り入れを維持すべき」が19.7%でした。一方、新潟方面と県内を結んでいるJR特急の扱いについては、「減便して(3往復程度)維持すべき」が45.5%、「現在の頻度で維持すべき」が29%でした。JR特急乗り入れの維持は、北陸新幹線を歓迎している人も、していない人も共通して望んでいます。また、交流人口の増加を目指しているなか、大阪・名古屋・新潟方面との移動が不便になってはいけません。
 JR特急に遅れが生じた際の、金沢での富山方面への接続についても不安が残ります。   県はJRに対して大阪・名古屋・新潟方面からの優等列車の乗り入れを、現行運行頻度に沿ったかたちで維持させるべきです。
 
(7) 通勤・通学時間帯の運行車両数は現行の運行車両数以上を維持を
 経営計画では、第三セクター鉄道において新型車両(521系)の導入が進められることとなっています。この計画は歓迎すべきことです。しかしながら、旧型車両が一編成3両での運行に対し、新型車両は一編成2両での運行が可能です。従って、便によっては両数減が生じるのではないかと懸念されます。
 通勤・通学時間帯の運行車両数について、アンケート結果では「今のままで十分(6両)」が58.8%、「今より両数を増やすべき(8両程度)」が13%でした。「今より少なくても良い(4両程度)」は15.8%です。7割以上の人が現行の運行車両数以上を望んでいます。
 かつてJR富山港線では、車両数減が行われて毎日のように積み残しが生じた結果、少なからぬ旅客が、他の交通手段に切り替えたことがありました。県は通勤通学時間帯のみならず、各便の運行車両数について、少なくとも現行の運行車両数以上を維持すべきです。
 
(8) 運行管理は各県の運行会社が別々の場所で行うのではなく、一カ所で集中管理を
 経営計画では、当面、金沢運転指令所を活用するが、将来的には県独自の運行管理システムを構築する方向としています。県ごとに運転管理を行うことについてのアンケート結果は、「各県の第三セクター鉄道が共同で運行を集中管理することが望ましい」が52.2%、「第三セクター鉄道は運行管理を行わず、JR西日本に委託することが望ましい」が31%でした。8割以上の人が運行の集中管理を望んでおり、県ごとに管理されることを望んでいません。
 金沢運転指令所を3県共同で活用することが、安全上・、経費上からも妥当であり、県ごとの運行管理は避け、集中管理を行うべきです。
 
(9) 一日運休の回避を目指した除雪体制の構築を
 経営計画では除雪体制について、JR西日本が富山運転センターに配備している車両を有効活用するとしていますが、それ以上の具体的なことは明らかになっていません。
 除雪体制の整備レベルについて、アンケート結果では「除雪体制を万全にして、丸1日の運休は避けるべき」が63.2%、「積雪によっては運休が一冬に1日程度生じるのはやむを得ない」が17.4%でした。6割以上の人々が丸1日の運休を許容せず、8割以上の人々が一冬に1日以上の運休を許容していません。
 冬場の通勤通学輸送は北陸の鉄道が最も利用者に期待されることの一つです。県は過去の運休状況を分析し、上記のニーズ沿った除雪体制を整備すべきです。
 
【2】第三セクター鉄道となっても「全国鉄道ネットワーク」の一環を担うことを明確にし、安全で利便性の高い、地域産業に役立つ貨物鉄道としての役割発揮を
 
 「並行在来線の第三セクター鉄道に伴う貨物輸送に関するアンケート」は、4月下旬に貨物鉄道輸送を行っている46事業所・企業と貨物鉄道を利用していない54事業所・企業計100社にアンケート調査用紙を郵送し、5月末までに返信していただくことで実施しました。
 「回答」が寄せられたのは40事業所・企業。貨物鉄道を利用している事業所・企業の41.3%、貨物鉄道を利用していない事業所・企業の38.9%から「回答」が寄せられました。
 40%という回答率は、貨物鉄道を利用していても、利用していなくても並行在来線問題が企業にとって関心の高い課題であることをあらわしています。アンケートには、第三セクター鉄道化への様々な不安や問題点、今後検討されるべき課題なども寄せられています。
 
(1) 金沢運転指令所の活用の継続し、一カ所で集中管理を
 経営計画は、当面、金沢運転指令所を活用し、その後県単位の運転指令所をつくる計画です。アンケート結果は、「各第三セクター会社、JR旅客、JR貨物の運転指令があり、複雑になるが問題はない」とする「回答」を選んだ事業所は一つもありませんでした。
 一方、「どのような問題が発生するかわからない」が34.9%(A)、「いくつも運転指令があっては、事故や災害が発生したときの対応が心配」が22.2%(B)、「各第三セクター会社、JR旅客、JR貨物の運転指令では、複雑になり、大いに影響がある」が7.9%(C)でした。
 (B)(C)のいずれか、または両方を選択したのは37.5%、(A)を選択は39%。(A)(B)(C)のいずれか、またはこの三つの「回答」のうち複数を選択したものを合わせると77.5%です。  ここには、県単位の運転指令所をつくることに、先行きの不透明さを感じ取っています。
 安全な運行のために、また新たな運転指令設備にかかる経費を考えても、金沢運転指令所を3県共同で活用することは理にかなったものであり、一カ所で集中管理をすべきです。
 また仮に、県別の運転指令所を設置した場合、県間の運行を調整する「調整機関」の設置を望む声も約2割あり、この提案も検討されるべきです。
 
(2) 第三セクター鉄道のもとでも、貨物鉄道輸送の特性である定時制を守る
 大重量の貨物を定時で輸送できるのが貨物鉄道輸送の特性です。この「定時制」について、第三セクター鉄道化で、「どのような影響があるか、わからない」が67.5%、「県別の第三セクター鉄道区間ができれば、貨物鉄道輸送に大いに影響がある」が20.0%、「JR貨物は線路を使用しているだけであり、第三セクター会社区間があっても影響はない」が5%です。
 JR貨物や荷主からみれば、北陸新幹線の開業に伴う直接のメリットはなく、逆に第三セクター鉄道区間ができることで「定時制」が損なわれる可能性をはらむことにもなります。
 一方、第三セクター鉄道会社にとっては、貨物列車・車両が、どれだけ運行されるかによって線路使用料が計算されます。貨物鉄道輸送の「定時制」が確保されることを第三セクター会社としても重視しなくてはなりません。
 
(3) 鉄道施設の安全を確保するために国とJR西日本の責任で譲渡前の修理・修繕を
 総重量1000d、時速100`の高速で走行する貨物列車にとって、また地域鉄道となる第三セクター鉄道にとっても鉄道施設・設備の安全が維持されることは経営上の基本問題です。
 アンケート結果は、「貨物鉄道輸送に見合う線路使用料を国が保障しており、第三セクター鉄道であっても問題はない」が12.5%。「第三セクター鉄道では、貨物輸送に可能なレールや架線などが維持されるのか心配」が約半数の47.5%になりました。
 県が鉄道施設・設備を買い取る手立てをとっても、将来も赤字が続く経営基盤の弱い第三セクター鉄道です。JR貨物に増加工事費や運行経費を負担する理由もありません。
 第三セクター化区間の修理・修繕が必要な全体(箇所と費用など)をJR西日本に明らかにさせるとともに、譲渡前に、計画的な修理・修繕を行わせることです。
 さらに、整備新幹線の「貸付料」を活用した鉄道施設の大規模な修理・修繕や重大災害への補償制度の創設などを関係各県、各県の第三セクター会社と共同して取り組むことです。
 JR貨物の第三セクター会社への資本参加なども参加も検討されるべきです。
 
(4) 「全国鉄道ネットワーク」の一環を担うことを「経営理念」に
 経営計画の「経営理念」は、第三セクター会社が「全国鉄道ネットワーク」を担うことを明記していません。これに対するアンケート結果は、「東日本大震災のことも考えれば、『全国鉄道ネットワーク』の一環を担うことを明確にすべきである」が67.5%です。
 多くの企業が第三セクター会社になっても、「全国鉄道ネットワーク」の一環を担うことを望んでいます。県内大手企業からは、「全国ネットワークが鉄道の強さで有り、全体でコスト負担する考えが必要」と書き添えられていました。
 「経営理念」には、県民の生活交通の役割を担う公共性とともに、全国的な鉄道網の一翼を担うことを加えるよう再検討すべきです。
 
(5) 貨物鉄道を利用する可能性が「ある」7.5%は小さくない、貨物鉄道利用促進を
 事業所・企業が今後、貨物鉄道を利用する可能性についてのアンケート結果は、「ある」が7.5%、「ない」が27.5%、「わからない」25.0%でした。
 この貨物鉄道を利用する可能性が「ある」7.5%は、貨物の輸送分担率(輸送トンキロ)が自動車64.1%、内航海運32.0%、鉄道3.9%という現状のもとで低いものではありません。
 また、今後、貨物鉄道を利用しようとする「理由」についての質問には、「回答」が多い順で、「モーダルシフトを維持すべきだから」「コスト削減につながるから」「定時制があるから」「長距離輸送だから」となりました。
 アンケートの記述の中には、「貨物鉄道利用の可能性はサービス次第」という声も寄せられています。荷主などのニーズに応えて貨物鉄道の「サービス」条件や水準を高めることが課題といえます。県は、国にも働きかけ、貨物鉄道輸送の利用を高める取り組みを強めることが求められています。
 
(6) 鉄道の特性を生かされる県内産業の育成と発展を
 製品などの輸送についてのアンケート結果は、鉄道輸送の割合が4割以上が7.5%。鉄道のみ利用は一社、多くの企業は鉄道とトラック輸送を併用しています。
 貨物鉄道で輸送している製品・材料は、多いものから食料品(14.9%)、化学工業(14.9%)、金属製品(8.5%)、紙・パルプ(4.3%)、非鉄金属(2.1%)とつづきます。
 これらの産業を県産業連関表(平成17年度判)の富山県製造業の生産額を特化係数でみると、化学工業(特化係数1.60)、金属製品(同2.44)、紙・パルプ(同1.67)、非鉄金属(同5.67)などと、いずれも全国水準を上回る産業となっています。
 富山貨物駅は、荷役の所要時間を短縮できるE&S方式を導入していますが、アンケート結果からは、富山貨物駅の輸送、保管、在庫管理など総合的な物流拠点にするための県と国の取り組みに期待が寄せられたものといえます。
 
(7) モーダルシフト推進のためにも国に並行在来線の経営が成り立つ仕組みを
 貨物鉄道の将来に関するアンケートの結果は、「国の責任として、日本海縦貫貨物鉄道を維持する」が22.0%、「モーダルシフト政策を推進するために、国も県も貨物鉄道輸送をもっと推進する」が15.5%、「港湾への鉄道の乗り入れなど港湾との連携の強化などで鉄道貨物の輸送量を増やす」が11.9%、「拠点間直行輸送、荷役の効率化などで輸送時間を短縮」「トータル物流コストの削減」が10.7%の順になりました。
 今年6月の国土交通省「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」では、「現在、トラックドライバーは若手になり手がいなくなり年々大幅に減少している。将来は長距離ドライバーが確実に不足すると考えられ、500qといわずに200〜300qについても鉄道輸送へのシフトを考えていくのが有意義」とする意見が出されています。
 JR貨物の線路使用料の引き上げを決めた2011年6月の衆参両院は、全会派一致で「全国の鉄道ネットワークが我が国の経済活動及び国民生活を支える重要な役割を担っていることに鑑み、その一層の機能強化を図るべく、総合的な交通体系の中における鉄道の将来ビジョンを明確にすること。」の付帯決議を採択しています。
 県は、並行在来線を受け継ぐ第三セクター鉄道の経営が成り立つよう、また日本海縦貫貨物鉄道が将来に渡って維持される新たな国の法律をつくることをもとめて、国の役割と責任を果たさせることです。
 
【3】利用者・住民の声を生かして、並行在来線を運営する第三セクター鉄道会社に対する支援の体制をJRと国、県、市町村が積極的に
 
 以上の二つのアンケートにあらわれているように、誰もが並行在来線の第三セクター会社の発足を心から歓迎しているものではありません。新しく会社が発足したからといって国やJRの役割と社会的責任を不問にして、その負担を背負うことを了解しているものでもありません。しかし、将来も維持可能となる鉄道にするために、並行在来線を運営する第三セクター鉄道会社に対する支援の体制をJRと国、県、市町村が積極的にとるべきです。
(1) JRに鉄道資産の無償譲渡を求める、また国にその役割を求める
 2011年末の県議会決議にあるようにJR資産の無償譲渡を求めることは県民的合意のある課題です。これまで、国は第三セクター鉄道の苦悩を追認するだけであり、JRは並行在来線を分離しなくてはならない根拠を示すこともありません。
 県も並行在来線準備株式会社も、住民・利用者とともにJR資産の無償譲渡を実現するためにJRに働きかけ、国もその役割を果たすよう求めることです。
 
(2) JRに対して、譲渡前に路線などを十分に点検させ、集中的な修理を求める
 第三セクター会社の経営に過大な負担を背負わせているのは、JR貨物も走行する高規格鉄道だからです。北陸本線は、適時施設・設備の更新が行われてきたとはいえ1965年の完全電化、複線化から半世紀近く経過する路線です。譲渡前の総点検と集中的な修理は、新会社の将来に決定的に影響を与えます。JRがその役割を果たすよう全力をつくすことです。
 
(3) JR出向社員の人件費はJRが負担することを求める
 専門的技術をもつJR出向社員を抜きにしては新会社は運営できません。一方、JRにとっては、並行在来線が「捨てた会社」であっても、整備新幹線などへの集客の役割を果たし受益をもたらす会社です。JR線は、地域の社会的資本であり、撤退することによる地域への社会的影響を考え、出向社員の人件費はJRが全額負担することを求めるべきです。
 
(4) 県と市町村、新幹線の固定資産税を活用し「経営安定基金」を充実する
 経営計画では、さしあたり10年先を見越して「経営安定基金」(仮称)を創設することにしていますが、10年後に経営が安定することは展望できません。県と市町村の恒常的な資金注入も必要になってきます。しかし、地方自治体の財政状況も考慮し、整備新幹線の固定資産税を基金に充当することや、県内企業の出資などによる基金の充実も図ることです。
 
(5) 重大災害・事故や大規模施設更新に関する支援制度の確立を国に求める
 第三セクター鉄道区間ができても、北陸本線の日本海側の動脈であることには変わりはありません。「貸付料」を活用した重大災害・事故への支援制度の創設や充実、さらに大規模施設・設備の更新費支援などの創設を求めることです。
 
(6) 上下分離方式による将来も安定する鉄道に、国に総合交通特別会計の創設を
 国は、国土形成からみても日本海縦貫鉄道のような幹線となる鉄道を維持する法体系を整備していないでいることが問題です。鉄道の上下分離方式には、いろいろな形態はありますが、道路と同じように鉄道もインフラ部門を国が維持することです。そのために鉄道、道路、港湾、空港を含めた「総合交通特別会計」(仮称)の創設を国に求めることです。
 
(7) 県は、市町村と住民が第三セクター鉄道会社に関与できる条例を
 県並行在来線の新会社は、県とは別の営利法人になります。しかし、この会社は「経営理念」案にもあるように、地域振興と住民福祉の向上を目指す公益性・公共性ある企業です。
 現行法では、資本金の2分の1以上を出資する県以外の自治体は、新会社への関与が制限されます。各市町村と住民が、第三セクターである新会社の安全や利便性の向上、経営になど関与できる条例(または指針)を制定し、県民が支える仕組みを確立することです。