将来も維持可能な並行在来線・北陸本線のためのに
−JRの社会的責任と国の役割を求める提言−
 
2010年2月25日 北陸線・ローカル線の存続と公共交通をよくする富山の会
                           (略称:公共交通をよくする富山の会)
はじめに
 北陸本線(金沢・直江津間)は、2014年度末の北陸新幹線の開業と同時に、現時点ではJR経営から分離される計画です。開業から100年目の年に、県民の暮らしと地域経済に限りない便益をもたらしてきた北陸本線が、どのような経営形態となって、暮らしと地域経済にどのような役割を果たすのかが、いま問われています。〔資料(1)〕
 1月22日付各紙は、「並行在来線 JR支援」(「北日本新聞」)、「岩盤を破る第一歩に」(「富山新聞」)などの見出しをつけて、富山・石川・新潟・長野県の4県知事がJRからの経営分離をすすめる旧政府の「政府・与党合意」を見直す&向で「合意」と報道しました。
 また、この4県に国交省、JR西日本、JR東日本、鉄道・運輸機構を加えた8者会議も開催され、随時、国交省やJRの担当者を交えた専門部会をつくり議論がすすめられることになりました。
 この背景には、昨年12月15日前原国交相が「自民党・公明党連立時代の政府与党合意は白紙に戻す」と表明し、「JRも当該地域における鉄道事業者として、経営分離後も並行在来線維持のためにできる限りの協力と支援を行う」ことや、貨物鉄道ネットワークも検討するなどの「整備新幹線の整備に関する基本方針案」を明らかにし、夏頃までに新たな方向を出すことにしたからです。
 「JRの責任」にもふれた新政権の方向付けは、北陸新幹線開業後の北陸本線の運行に新たな道をひらく可能性を持ったものとして評価できます。しかし、JRの「岩盤を破る」ことに発展するかどうかは、これからの住民と利用者、関係自治体などの運動にかかる問題でもあります。〔資料(2)(5)(6)(7)(9)(15)〕
 
 私たち「公共交通をよくする富山の会」は、北陸新幹線が開業した後も並行在来線・北陸本線が必要という立場です。それは、だれもがどこへでも安全で快適に移動できる権利、交通権の立場と、北陸と富山県の地域内及び地域間の基幹鉄道である北陸本線が活発であることが地域経済発展の重要な要素と考えているからです。
 「公共交通をよくする富山の会」は2002年11月、「公共性と企業性の調和がとれた北陸本線のために、県民的な討論と検討、合意が求められている」として、北陸本線がJR経営から分離し第3セクター鉄道となっても「国として責任を果たす財政的な支援」と「経営が成り立つ見通しがたつまでJRでの経営を続けること」を「提言」(「孫ひ孫の時代にも暮らしに便利な北陸本線のために」)しました。
 2006年10月の「提言」「北陸ならではの創造的な並行在来線・北陸線のために」では、北陸本線は県内公共交通の基幹である生活路線であると同時に、貨物鉄道の動脈という二重の役割があり、旧政府の「政府・与党合意」の「枠組みそのものの再検討が求められている」としました。
 2007年8月には、北陸信越5県の市民団体などと共同して「提言」を発表。旧政府の「政府・与党合意」を見直し、国とJRが果たす今日的な役割を求めてきました。〔資料(4)(8)〕
 
 並行在来線をめぐる新たな局面のもとで、私たちのこれまで3回の「提言」、JR経営から分離した各地の第3セクター鉄道の視察・調査、北陸本線の旅客と貨物の調査、5回のシンポジウムなどの到達点を踏まえて、@JRの社会的責任と国の役割を明らかにし、A将来も維持可能な北陸本線へいま取り組むことが必要な「課題」の2点について新たな「提言」を行うものです。
 
提言@ 
 JRは並行在来線の運行と維持を経営経費に組み込み社会的責任を果たし、国は地域交通と貨物鉄道の全国ネットワークを守る役割を
 JR経営から分離した並行在来線・第3セクター鉄道の3線4社(「しなの鉄道」「IGRいわて銀河鉄道」「青い森鉄道」「肥薩おれんじ鉄道」)は、どこでも創意ある取り組みを行う一方で、極限までの「合理化」をすすめても苦難の経営を余儀なくされています。この経営の困難は、北陸信越4県を走る並行在来線も、今年12月に青森駅まで延伸する青い森鉄道などでも同じ状況です。
 このもとで、国とJRの責任と役割を求める声は全国でひろがり、譲渡するJR施設・設備価格の引き下げ、JR貨物線路使用料引き上げ、JR貨物の資本参加、JR東日本の青い森鉄道支援、新幹線「長崎ルート」の並行在来線では上下分離とし運行はJR九州が行うなどの新たな処置がとられてきました。〔資料(10)(11)(12)(13)〕
 それでも、JR経営分離の第3セクター鉄道会社に明るい未来をもたらすものではありません。
 根本的な解決のためには、JRに「過重な負担を負わせてはならない」「新幹線を第二の国鉄にしない」(1991年4月18日参議院運輸委員会)などとして、並行在来線をJR経営から分離するとしてきた旧政府の「政府・与党合意」そのものを根本的に見直す道しかなくなっていたのです。〔資料(3)〕
 
(1)JRは、並行在来線の運行と維持を経営経費に組み込み社会的責任を果たすこと
 私たちは、2001年5月に開催した「JR北陸線・ローカル線の存続と公共交通を考えるシンポジウム」の呼びかけで、「近年、JRの自由な企業活動として経済効率が優先されるために、私たちの生活がおびやかされ、公共性が損なわれる状況もうまれています」と現状を告発し、「鉄道の企業性と公共性との調和のあり方」を問いかけました。〔資料(8)〕
 今日、地球環境保全型の企業活動や、企業倫理がより高く、よりよいサービスを提供する企業が求められる時代になっています。大企業が利潤を追い求めるだけでなく、地球環境と社会に貢献するという、質の高い企業活動、企業性と公共性との調和、「質の高い」利益の追求こそ、JRのすすむべき道であり、JRが率先してその役割を発揮することが求められています。〔資料(14)〕
 1月21日の8者会議でJR西日本・東日本は、文書を提出し「並行在来線をJRの経営から分離することに、関係する自治体の合意が得られている」として経営分離に固執したと報道されています。〔資料(9)〕
 JR西日本の経営状況をみると、平成21年3月の連結決算では内部留保の一つである資本準備金は550億円。連結剰余金、資本準備金、退職給与引当金、長期債務引当金を合計した内部留保は8,944億円です。JR東日本の内部留保は2兆1,708億円にもなります。内部留保は、4年間でJR西日本は約1.44倍、JR東日本は約1.73倍にもなります。〔資料(16)(17)(18)〕
 さらに、北陸新幹線建設促進同盟会の「資料」によれば、金沢まで北陸新幹線が開業した場合のJRの収支見通し(儲け・年平均)は10年後で229億円、15年後に306億円です。〔資料(19)〕
 北陸本線の県内区間の「下」(鉄路・道床・線路などのインフラ)の維持管理費は、県内分で年間18.8億円(試算)です。それでも、並行在来線をJR経営から分離し、その諸経費などの支出を減らそうというです。並行在来線をJR西日本が引き続き管理しても決して「過重な負担」を背負うことにはなりません。JRが発足した1987年頃の状況とは一変しているのです。
 JRが、並行在来線の運行と維持費などを経営経費に組み込み、環境と社会に貢献するという立場で社会的役責任を果たすことは十分に可能です。JRはその役割を果たすべきです。 
 並行在来線の経営が成り立つようJR西日本とJR東日本がそれぞれ運行を継続することです。また、国がJRに、この社会的責任を果たさせ、公共のインフラを守る国の役割を発揮することです。
 私たちが、このような提案を行うのは、住民の暮らしと地域経済を守るためです。
 
(2)貨物鉄道の動脈・北陸本線の維持に、国の責任ある役割を
 並行在来線の第3セクター会社と地方自治体の過大な負担のうえに、貨物鉄道輸送の全国ネットワーク・サービスを依存するという、並行在来線の経営分離政策は根本的に改め、EU諸国の鉄道貨物政策にも学び、北陸本線を日本海縦貫貨物鉄道の動脈として維持し、発展させるべきです。
 昨年12月15日の国交省・整備新幹線問題検討会議「資料」は、「並行在来線等を運行する貨物鉄道ネットワークを維持する必要がある」「対策を検討する」としています。具体的には明らかにされていませんが、貨物鉄道の全国ネットワークの維持≠ノ言及したことは評価できるものです。
 北陸本線の貨物列車は一日約40本、東北本線に並ぶ輸送量です。高速(時速90q)で大重量(コンテナ列車の総重量1,300d)の貨物列車が走ります。東北・北海道と西日本の両地点を結ぶ貨物鉄道の日本海側ルートは、太平洋側を通るよりも3時間以上も短縮できるされており、貨物列車の約9割、一日約7,500トンを輸送する、まさに、日本海側の貨物鉄道輸送の動脈です。
 青い森鉄道(目時・八戸間)は、貨物列車の走行維持のためにかかる施設管理費は旅客民営鉄道の約7倍といわれています。国が責任を持ってJR貨物の線路使用料を引き上げるべきです。〔資料(20)〕
 EU諸国では、@鉄道のインフラへの支援、A複合貨物輸送を支援し貨物輸送量の増大、Bトラック輸送の規制、という3つの考えのもとで貨物鉄道運輸政策をすすめています。貨物鉄道の全国ネットワーク・サービスは、物流維持の面からも、CO2削減など環境負荷軽減に向けたモーダルシフトの面からも、国が責任をもつべきです。〔資料(21)〕
 
提言A
 より便利、より安全で、快適な並行在来線のための基本原則を確立し、県境をつなぎ、暮らしと地域経済の発展に役割を発揮する鉄道に
 ゆうまでもなく北陸本線は、富山県と北陸地域の地域内交通の基幹鉄道です。都市間輸送である北陸新幹線が開業しても、この役割を失うものではありません。県内と北陸地域の地域内交通が便利で活発であってこそ北陸新幹線の輸送量は確保され、地域経済の発展にもつながります。
 地域住民・利用者の利便性向上と安全第一の北陸本線に向けて最小限に確立しなければならない原則があります。これを県民とともにすすめていかなければなりません。
 
(1)より便利、より安全で、快適な並行在来線・北陸本線のための「10原則」
 並行在来線から転換した第3セクター鉄道では、新駅の設置、企画切符の発行など様々に創意工夫ある施策を展開しています。これらを先行事例として学び生かすことは大切ですが、住民の暮らしを支援する鉄道としての基本的な原則が確立されなければなりません。
 それは、@電車を維持する。A複線・電化を維持する。B列車本数を増やす。JR線や私鉄との接続を便利にする。C運賃を高くしない。初乗り割高を解消する(欧州のように運輸連合によってゾーン運賃制導入などで運賃の統一を行うなど)。D駅のバリアフリー化と利便性の向上。駅員がいる駅、車掌がいる電車を運行する。E所要時間を短縮する。F安全を確保する。事故・災害に対応する国の制度・補助を確立する。G地元や地域の負担を軽減する。H経営基盤が強い経営主体をつくる。I駅とバス、コミュニティバスなど公共交通機関との接続が便利な運行にとりくむ。ことです。
 IGRいわて銀河鉄道は、通学定期の値上げを押さえる措置が再三延長され、新たに県と沿線市町村による「通学定期特別支援措置」をつくり子どもたちの負担を軽減しています。〔資料(24)〕
 特急が廃止されることで、特急停車駅である石動・高岡・魚津・黒部駅のまちづくりも心配されます。
 北陸新幹線が金沢まで開業しても大阪まで開通しなくては未完の新幹線です。利益の側面だけからサンダーバードなど特急を金沢止まりとするのでは、いまより不便になってしまいます。
 富山県は、JR経営分離後の普通列車を金沢駅と糸魚川駅へ乗り入れるモデルケースを検討しています。しかし、県境で分けられた鉄道であれば、県境をまたぐことに初乗り運賃が発生します。
 住民と利用者の立場での「10原則」を確立し、今後の展望を切りひらくことです。
 
(2)現行鉄道システムの維持は、安全性と利便性に貢献し、沿線自治体の負担軽減
 住民・利用者とともに県と沿線自治体が、県境をつなぐ鉄道として、JRの社会的責任を求めるアクションを起こし、安全で正確な対応や、利便性と公共性を守ることです。
 北陸本線は、人身事故、踏切事故、信号機のトラブル、車両事故、雨・風など天候などによる運転の規制・抑止などは金沢の輸送指令と連絡をとり、その指示で対応しています。これは、長い年月をかけて形成された北陸本線の鉄道システムです。各県ごとの別会社にすることは、この鉄道システムを強制的に県単位で分離することになり、車両基地、運転指令、車両検査など、新たな施設・設備などの建設を沿線自治体に背負わせます。〔資料(22)〕
 
(3)住民参加の仕組み=「鉄道委員会」(仮称)の設置を
 県や沿線自治体、交通事業者、交通労働者、専門家などとともに住民参加の「鉄道委員会」(仮称)を設置し、事業の計画、検討・検証が行われることを提案します。
 北陸本線は、貨物列車が走るため旅客運行だけの鉄道より鉄道施設の維持・管理の負担におおきなものがあります。鉄道総合技術研究所に、国とJRの責任で総点検させることも必要です。〔資料(20)〕
 特急列車を運行しなければ線路容量が増えるために、普通列車を増便し利便性を高めることは可能です。しかし、青い森鉄道は今年3月から減便(三戸・八戸間)を予定しています。しなの鉄道では、線路などの鉄道施設の傷みを少しでも減らすためにスピードをダウンさせ保守費を削減しました。肥薩おれんじ鉄道はディーゼルにしました。〔資料(23)〕
 富山県の人口は2030年には100万人を大きく割り込むと予想されています。北陸本線の鉄道施設は適時整備・更新されているとはいえ老朽化を心配する声も上がっています。新たな旅立ちに向けて、県と各自治体が住民・利用者とともにすすむことが不可欠といえます。
 
 地域は、人が住み、働き、育ち、楽しみ、生活をする場です。また、文化を創造し、自然環境の豊かな総合空間です。経済的な効率だけで北陸本線の運営を考えたのでは将来に禍根を残すことになりかねません。
 新たな局面のもとで、並行在来線・北陸本線に新たな展望をひらくためには、JRがどのような社会的役割と責任を果たすかです。また、県や各自治体が住民・利用者とともに国やJRにどのようなアクションを起こすのか、国がどのような役割を果たすかも問われていることになりました。
 いま大切なことは、将来も維持可能な鉄道のためにJRに社会的責任をしっかり果たさせることです。