コニカが被告となった裁判記録より経過説明を抜粋

  1. Tはコニカに入社し、本社採用の正社員として雇用された。入社当時の所属部署 はコニカ関西支社のメディカル&グラフィックイメージングカンパニーの営業職であった(乙14)。          
  2. コニカにはタイムレコーダーも設置されておらず、記録上は時間外労働の事実が表示されない扱いになっていたため、時間外賃金はほとんど支払われない実態であった。Tの勤務も、退社時間が午後10時過ぎになることが多くあり、月に2日か3日は休日出勤もあったが、時間外労働については、割増賃金は言うに及ばず当該賃金さえ支払われなった(T調書)。
  3. これに対しTは、入社当時からコニカに改善を求めていたが、一向に改善されることなく残業代の支払いのないサービス残業の実態は継続していた。Tは、時間外労働の問題について改善を要望したところ、上司のU課長から、「人員施策について」と題する文書(甲12)を示され、コニカでは会社の方針として残業代を支払わないといっている旨説明された(T調書)。
  4. その後間もなくTは、事前にはもちろん直後にも何らの告知や説明もないまま、降級された。
  5. Tが上記降級の事実を初めて知ったのは、東京本社の人事部に呼び出された際、M人事課長から説明されたときである。しかし降級理由については、その際も具体的説明がなかったため、Tはどのような理由で降級されたかを知る由はなかった。
  6. なお、Tがコニカ側の降級の理由を初めて知ったのは、それから4年近くも経てコニカ労組に呼び出されたときである。その際Tは、コニカのコニカ労組に宛てた文書を見せられたが、それによると、「3年間新規顧客開拓ゼロ」ということが降級事由の1つにされていたが、これは明らかに事実に反するものであった。
  7. Tは、かかる事実に反することまで降級事由にされていることを当時全く知らずにいた。
  8. コニカのコニカ労組に対する、「組合員に対する苦情回答書」(乙15・別紙)は、後に東京都地方労働委員会の不当労働行為救済申立事件においてコニカが提出したものである。同文書における降級理由は、Tがユニオンに加入したことを契機にコニカ労組は、Tの労働問題を採り上げざるを得なくなったため、コニカでもこれに対応したものであろう。それ故、これが降級当時にも真の理由とされていたものかは大いに疑問がある。しかも、上記のとおり、明らかに事実に反する「3年間新規顧客開拓ゼロ」を降級理由としており、明らかに不当である。また、その他の降級理由は、いずれも曖昧な理由にすぎず正当性を見いだすことは、到底できないものばかりである。なお、同文書中の「本人のコメント」における「M写真」の件は、以下の経緯により記載されたものと思われる。
  9. 前記に記載したTがコニカ労組に呼び出された際、Tは、同労組の役員から開拓した新規顧客を1つでいいから挙げるよう指示され、回答したことがあった。その際、Tがその1つとして、「M写真」を挙げた。これがコニカ労組からコニカに伝えられたものであろう。
  10. 降級後Tは、関西支社のメディカル&グラフィックイメージングカンパニーの営業職から東京事業場日野のメディカル&グラフィックイメージングカンパニー営業技術部の技術職に配置換えとなった。
  11. その後Tは、処遇問題などの労働条件に関する改善を求めて、M取締役らと断続的に協議をしていた。
  12. コニカ東京事業場日野の人事課長にH人事課長が就いた以後は、上記協議はH人事課長との間で行われるようになった。
  13. コニカ東京事業場八王子に関する長時間のサービス残業の実態を報道した記事(甲13の3裏)が掲載されたことからも明らかなとおり、当時、コニカにおいては、Tの所属職場に限らず全社的に違法時間外労働が常態であった。
  14. H人事課長との協議後、Tは、東京事業所日野のコンシューマーイメージングカンパニーCSセンターに配置換えになった。
  15. Tは、H人事課長らとの面談において、処遇問題などの労働条件に関する改善を求めるとともに、コニカ労組に対しても上記問題を採り上げるように求めていたが、同労組は一向にこの問題で動く様子が見られなかった。
  16. H人事課長証言においても、コニカ労組がコニカとの間で初めてTの降級問題等を採り上げたのは、Tがユニオンに加入した後である旨証言している(H人事課長調書)。
  17. Tは、このようなコニカ労組の対応に失望し、ユニオンに加入、同ユニオンの労働組合員の労働問題として、コニカと交渉しようとした。
  18. これを契機に、コニカ労組では、ようやくTの労働問題を労働組合として、コニカに対し、採り上げることになった。しかし、それは、単にポーズの域を出なかったようであり、何らの解決さえもたらさなかった。Tに確認すべき「組合員に対する苦情回答書」(乙15・別紙1)さえ、当時、コニカ労組からTに見せられたことがない事実によっても、同労組が真剣に取り組んでいたとは考えられない。
  19. しかも、コニカ労組は、唯一交渉団体の協約を理由にユニオンがコニカと交渉することに反対し、Tがユニオンとともにコニカに対し、交渉しようとすることを妨害する対応をとった。唯一交渉団体条項は、他の労働組合についてまで、及ぼすことのできないのであるから明らかに不当な行為であった。
  20. このためTは、コニカ労組に対し、脱退を申し入れた。そして、同時にユニオンからコニカに対し、団体交渉の申し入れを行った。
  21. コニカは、上記団体交渉の申し入れに応じなかったため、ユニオンらは、コニカが団体交渉に応じるよう求めて、東京都地方労働委員会に不当労働行為救済申立をおこなった。
  22. 以後Tは、ユニオンとともにTの労働問題の解決を目指して行動することになった.。Tは、ユニオンに加入した頃、ユニオンに取材に訪れたタイム誌記者の取材を受けたことがある。タイム誌記事(乙1・別紙1)は、上記取材に基づくものと思われる。
    懲戒事由のうち1つは、Tが上記取材に応じたことに関するものである。
  23. ユニオンらの都労委申立後Tは、コニカの時間外労働賃金不払問題につき、労働基準監督署に申告したところ、担当官から資料を示すよう求められた。
  24. そこで、コニカの電磁記録にある時間外労働賃金不払いを示す資料を、自宅からファックス送付した。
  25. その後Tは、労働基準監督署を訪れたとき、担当官から、コニカにおける時間外労働賃金につき、遡及是正の措置をとることになった旨を知らされた。
  26. その結果、他の同僚が残業をしていても、Tだけは、上司から早く帰るようにいわれ、退社定時刻の午後5時10分過ぎには退社するようになっていた。
  27. 労基署指導が判明した後のA係長メモ(乙4・別紙)は、金曜日当日にTが定時刻に退社した後、机の上に置かれていたものであり、Tがこれに接したのは、翌週月曜日の朝、出勤した後である。
  28. 上記メモに基づき、Tはプリント作業を行い、これを提出した。
    懲戒事由のうち1つは、上記プリント作業に関するものである。
  29. 残業代遡及是正の前日、Tは、A部長らから未払残業代を支払う旨の文書を渡され、Tが労働基準監督署に対し送付した資料に関し、これを咎められた。Tは、他に方法がなかったので、やむをえず行った旨答えた(乙14)。
  30. その後Tは、再度W部長らに呼び出され、再び労働基準監督署に提出した資料に関し、今後このようなことをしないよう約束を求められた。これに対しTは、コニカが違法な時間外労働規制を続ける限り、労働基準監督署等への資料を提出しないとは約束できない旨告げた。
    懲戒事由の1つは、上記発言に関するものである。
  31. その後W部長はTに対し、会社のLANを使用することを制限し、その旨の通告書(乙1・別紙7)を渡した。この際も、Tは、会社の機密をライバル会社にもってゆくような行為はしない旨述べた。
  32. ユニオンからコニカに対し、団体交渉要求が行われていたが、応じなかったため、ユニオンは、情宣活動としてのビラ配布等を開始した。コニカは、上記労働組合活動を止めさせようとして、W部長をして、Tの身内(警察官)に対し、この間の事情を手紙で知らせる行為をした。
  33. 再度、ユニオンによるビラ配布(乙1・別紙8)の情宣活動が行われた。翌日、W部長とN課長がTがいる実験室に入ってきて、前日のビラ配布を止めるよう命じた。これに対し、Tは、仕事を与えることやユニオンとの団体交渉に応じるよう求めて、反論したため、双方で口論になった。この際の遣り取りにおいて、コニカから上記ビラに記載されたPS版事業の約100億円売上減という事項について、触れられたことは一切なかった(T調書)。
    懲戒事由の1つは、上記口論に関するものである。
    また、懲戒事由の1つは、上記約100億円の件が記載されたビラを配布したことに関するものである。
  34. その後Tは、コニカの株主として、コニカの株主総会に出席し、会社の経営上の諸問題に関し、質問を行った。
    懲戒事由の1つは、上記株主総会出席に関するものである。
  35. 翌日、W部長とN課長がTのいる実験室にやってきて、前日の株主総会出席の件で話をしてきた。部屋を変えて行われた遣り取りの中で、W部長はTに対し、迷惑しているので株主総会出席のようなことは止めるよう求めた。これに対しTは、一株主として行った行為である旨反論した。
    懲戒事由の1つは、上記遣り取の際の口論に関するものである。
  36. そして、H人事課長は、X市のTの身内(警察官)を訪れ、株主総会のビデオを見せ、会社上層部からTを懲戒解雇するよう求められている旨述べて、その前にTが自主退職するよう勧めた(甲9)。
  37. 直後、Tは、会社に出勤したところ、W部長らに呼び出され、東京事業場日野の人事課において、W部長、N課長も同席し、懲罰委員会開催の通知と自宅待機を命ずる文書(甲4)を手渡された。
  38. そしてTは、警備員らが監視するもとで作業着の着替えをさせられ、退社することを強制された。
  39. Tは、上記文書(甲4)の指示どおり、弁明書(甲5)を作成したうえ、H人事課長の指示に基づき、当日、日野工場門前まで出向き、同課長にこれを提出し、自宅待機した。
  40. Tは、H課長の指示どおり再び出社したところ、H課長から懲戒解雇をする旨の文書を読み上げられ、この懲戒解雇を承認するかどうかを尋ねられた。これに対しTは、承認しない旨答えた。30分程後Tは、H課長から懲戒通告書(甲6)を渡された。
  以上が、被告コニカがTに対して行った懲戒解雇に至るまでの経過の要約である。

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