池田の蓄音機おじさん
「ちこんき」で御座る]
(Old-fashioned phonograph mania in Ikeda, Osaka)

-- 2011.01.17 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
2011.02.04 改訂

 ■はじめに - 「ちこんき」で御座る

 昨年(=2010年)の11月7日(日)に私は大阪府池田市の「手回し蓄音機鑑賞会」に参加し、SP盤(※1)のノイズの有る昔懐かしい音を堪能しました。電動モーターが組み込まれる以前はゼンマイを手で巻いてターンテーブルを回転させて居ましたが、それが手回し蓄音機です。不便な様ですが電源が無い場所でも再生可能なのです。
 この鑑賞会の存在を私に教えて呉れたのは池田市在住の”不良定年”で、氏は毎年秋に行われる「池田市文化デー」の一環として催された09年の鑑賞会に参加し「中々良かったよ」と仰った時に「私も是非聴いてみたい」と言ったのを覚えていて下さり、10年の「池田市文化デー」での鑑賞会を知らせて呉れました。当日は午前(11:00~)と午後(14:00~)の2回催されましたが私は午後の部に行く事にしました。”不良定年”氏はボランティアとして文化デーの行事を手助けして居り、忙しい活動の合間に鑑賞会や逸翁美術館 -逸翁は阪急電鉄創業者の小林一三(※2)の雅号- などを案内して呉れました。氏は私が主宰する【ブラボー、クラシック音楽!】の会員ですが、この日同行したのは同会会員の”マダム””グルメ”さん、そして良く喋る”超多忙な閑人”氏でした。彼等は又、私が局長を務める「純喫茶探偵団」のメンバーでも有ります。入場料は無し、タダです。
 会場は「落語みゅーじあむ」隣の「嘉づ家」というラーメン屋ですが、左下の写真の如く旧い日本の商家風木造家屋で外観からはラーメン屋には見えません。
写真1:会場のラーメン屋(旧呉服店)。写真1-1:呉服店時代の看板。 それもその筈、ここは元は呉服屋だったのです。1階の庇の上の一枚板の看板の拡大が右の写真ですが「京都 紅屋呉服店」と右読みで書いて在ります。そう、池田は古代渡来系豪族の秦氏が住み着いた地です。
写真1-2:連子に貼り出されたラーメンのメニュー。 しかしラーメン屋なのです。連子に貼り付けた白地の紙の拡大が右の写真ですが「塩らーめん 七○○円」「つけめん 七三○円」などとメニューが大きく記されて居ます。
 私たちは左の写真の黄色い暖簾を潜って中に入り靴を脱いで奥に通されると、奥座敷の畳の上には座布団が置かれ中庭には折り畳み椅子が置かれて”客席”が設えて在りました。

 [ちょっと一言]方向指示(次) 秦氏は日本に養蚕や機織の技術を齎したので、池田は古代は「呉服(くれは)の里」)として栄えバス停名に「呉羽の里」が在ります。呉服(くれは)・伊居太(いけだ)・穴織(あやは)の古社は何れも秦氏漢氏(※3)の伝承を保持し、この地が嘗て摂津国豊嶋郡秦上郷・秦下郷で穴織神社が秦上社呉服神社が秦下社と呼ばれて居た事を伝えて居ます。今に残る「呉服町」「綾羽」「畑(はた)」という地名や秦野小学校の秦野(はたの)も秦郷の名残です。その後、池田は中世には池田氏の城下町に成りましたが戦国末期に廃された為に江戸時代は清酒・木炭などの商業の町として発展しました。

 奥座敷の畳の上には手回し蓄音機が3台置かれ、傍に作務衣を着たおじさんが突っ立って居ます。私は畳席に座り、この人が手回し蓄音機にSP盤を掛けて聴かせる川村とか言う人だな、確かFMラジオで手回し蓄音機の話をしてた人ではないかな、などと思いを巡らせました。そして入口で貰ったチラシを何気無く見たら「ちこんき」と大きな字で書いて在りました。皆々様、「ちくおんき(chikuonki)」では無く「ちこんき(chikonki)」で御座るゾ!、"uo"が"o"に約(つづ)まって御座るゾ!!

 ■池田の蓄音機(ちこんき)おじさんの鑑賞会


写真2:川村さんと朝顔型ラッパ付き蓄音機。 右がこの催しを毎年開いて居る「蓄音機ディレクター」の川村輝夫さん、池田市の室町生まれの室町育ちと仰った彼が「池田の蓄音機(ちこんき)おじさん」です。ご覧の様に作務衣を纏った仏頂面は『池田の猪買い』(※4)という上方落語に出て来る猟師みたいです。写真は如何にも時代掛かった朝顔型ラッパ(←昔のホーン・スピーカー)が付いた蓄音機の説明をし乍ら実演してるところです。スピーカーは1つ、つまりモノラル(monaural)です。
 コンサート・ホールの様な近代的な会場では無く、昔乍らの木造家屋の和室というシチュエーションがレトロな「ちこんき」と相性が良く、中々乙(おつ)な感じでした。写真3:主に使われた蓄音機。

 左はこの日主に使用した機種でラッパ型スピーカーは蓄音機の下のキャビネットの中に納められて居ます。鉄針の上のサウンドボックス(※5)で増幅した音を銅製パイプで下のスピーカーに送り出します。
 筐体は木で出来て居ますね。現代では殆どがプラスチックに置き換わって仕舞いましたので、木の材質感がやはりレトロです。この機種の横に小型の機種も置いて在り、小型機でも実演しました。
 川村さんは78[回転/1分間]のSP盤1枚毎に鉄針を交換して居ましたが、ダイヤモンド針に比べ鉄針は柔らかく磨耗し易いとの事です。
 私が聴いた午後の部ではガーシュウィンの『サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー』(歌:フランク・シナトラ)やグレン・ミラーの『ムーンライト・セレナーデ』(演奏:グレン・ミラー楽団)など私の好きなジャズ・ナンバーの他に古賀政男の『芸者ワルツ』 -チラシに拠ると午前と午後とでは曲目が相違- も掛かり、懐かしい音を充分に堪能しました。特に鉄針や竹針などの骨董的品々を回覧して見せて戴けたのが良かったですね。竹針の先端をカッティングする器具も在りました。

 川村さんは自らのWebサイトで「針音が気になる音響マニアには音楽が聞えません。音楽を聴こうとすれば針音は気になりません。」と仰ってますが、誠にその通りです。私も「ちこんき」から発せられる音楽に耳を澄ませて聴きました。今では私たちの身の周りの至る所に音楽が溢れ返り、その所為で私たちは「音楽を耳を澄まして聴く」という基本的態度を失い掛けて居ると思います。因みに、私の【ブラボー、クラシック音楽!】は発足当初から「音楽を耳を澄まして主体的に聴く事の大切さ」をコンセプトの一部として掲げて居ます。そういう意味で音楽を聴く原点を再確認させられた企画であり、選曲も良かったと思いました。温故知新ですね。
 昔はレコードの値段は他の物価に比して非常に高く蓄音機などという物は贅沢品の一つだったので、蓄音機が在る家は「お金持ち」に限られて居た様に思います。そういう時代に於いて蓄音機を買えない人々、蓄音機に縁の無い人々が人伝に聞いた発音が「ちこんき」という約(つづ)まった形で定着した、そんな風に私は考えて居ます。貧乏な家の生まれの私は蓄音機など触った事も無かったので、帰り掛けに左上の写真の蓄音機を触らせて貰い川村さんに家には何台位蓄音機が在るのか尋ねたところ、7台在るとの返事でした。又、数多くのSP盤のコレクターでもあり外国旅行の際にもSP盤を仕入れて来るそうです。
 ところで室町生まれと仰った川村さんですが、前述の如く室町には秦氏と関係深い呉服神社(くれはじんじゃ)が在ります。日本の雅楽も秦氏や漢氏の様な渡来人が伝えた音楽を基に出来上がって居り宮内庁の雅楽奏者の中にも秦氏の末裔を自認してる人が居る様ですが、色々な楽器を器用に弾く多芸多才な川村さん、ひょっとして秦氏の末裔ではないでっか!!
    {この章は2011年2月4日に更新しました。}

 ■蓄音機(ちこんき)おじさんの映画評論レポート

 ところが、です。私が主宰して居る【ブラボー、クラシック音楽!】は2010年11月から梅田お初天神通りのジャズ・ライヴハウス「ニューサントリー5」(略称:NS5)に会場を移し新会場での初日は11月10日(水)に行いましたが、その会で私は池田で川村さんという人が催した「手回し蓄音機鑑賞会」に【ブラ・クラ】(=【ブラボー、クラシック音楽!】の略称)のメンバー4人と共に行った話をチラとしたら、何と店長の森さんが休憩時に「川村君とは大学の同期だよ」と仰いました。その時は「へえー、そうですか」という感じでしたが、1月の例会で森店長のリクエスト曲の『男声合唱組曲「柳河風俗詩」』(詩:北原白秋、曲:多田武彦)関西学院グリークラブの演奏で掛けることに成りましたが、当日森店長が川村さんのケイタイに電話すると、川村さんは映画を物色して梅田界隈をウロウロしてるという事で会が始まる前にNS5に懸け付けて来られました。川村さんは名門関学グリー出身、元学生指揮者です。名刺には音楽評論家・映画評論家...と色々記されマルチ・タレント振りが覗えますが、先ずは音楽評論家として後輩の演奏を講評しました。
 ところが更に、翌日から名刺交換した私のメールアドレス宛てに映画評論レポートのメールが毎日届けられたのです。私は映画には全く疎い人間ですが、川村さんの「画像入り採点付き評論レポート」 -「川村輝夫の映画情報[m]m/[d]d」と題されて居る- を読むと、”その映画を見た様な気分”に成るから不思議です。
 そこで私は川村さんとの出会いの昨年11月の「手回し蓄音機鑑賞会」から書き起こす事を決意し、川村さんの映画評論レポートの一例として2011年1月15日に届いたものを極力オリジナルに近い形で以下に掲載する事にしました。川村レポートは必ず最後に「○×点」と評価点を明記してるのが痛快です!

      ▼件名=「川村輝夫の映画情報1/15」のメールの内容▼

「しあわせの雨傘」

輝000:タイトル。
輝Potiche:配役。

優雅で退屈な毎日を送るブルジョワ主婦が、

心臓発作で倒れた夫の代わりに雨傘工場を任されたことで

新しい生き方を見出していく人生讃歌。

監督は「Ricky リッキー」のフランソワ・オゾン。

出演は、「隠された日記、母たち、娘たち」のカトリーヌ・ドヌーヴ、

「アニエスの浜辺」のジェラール・ドパルデュー、

「PARIS(パリ)」のファブリス・ルキーニ、カリン・ヴィアールなど。

カトリーヌ・ドヌーブ衝撃のジャージ姿で幕を開ける本作は、

『まぼろし』『8人の女たち』『スイミング・プール』など

女性を描かせたら右に出る者はいないフランス映画界の逸材

フランソワ・オゾン監督の最新作。

原題の“potiche(ポティッシュ)”とは、

暖炉や棚の上に飾ってある壺のことで、

美しいだけで実用性のないものを指し、

自身のアイデンティティを持たない女性に対して軽蔑的に用いられるのだそうだ。

元々はピエール・バリエとジャン=ピエール・グレディによる戯曲で、

その喜劇をオゾンが大胆に脚色し、

育ちの良さと大胆さを併せ持つヒロインを演じた

大女優ドヌーヴのお茶目でキュートな魅力を引き出した秀作である。

輝Poticheポスター:ポスター。

毎朝のジョギングとポエム作りに励む

スザンヌ・ピュジョル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、

優雅で退屈な毎日を送るブルジョワ主婦。

結婚30年になる夫のロベール(ファブリス・ルキーニ)は雨傘工場の経営者で、

スザンヌには仕事も家事もやるなと命令する

典型的な亭主関白だ。

娘のジョエル(ジュディット・ゴドレーシュ)は、

父親が秘書のナデージュ(カリン・ヴィアール)と

浮気しているのは「パパの言いなりのママのせい」だと非難する。

一方、息子のローラン(ジェレミー・レニエ)は芸術家志望。

工場を継ぐことには全く興味がなく、

異母兄妹かもしれないとも知らず、

父親の昔の浮気相手の娘と恋愛中だ。

そんな中、雨傘工場はストライキに揺れていた。

輝002:場面1。

労働組合の要求を断固拒否したロベールは社長室に監禁され、

それを知ったスザンヌはその昔、

短くも燃えるような恋に落ちた市長のモリス・ババン(ジェラール・ドパルデュー)に

力を貸してくれと頼みに行く。

輝003:場面2。

面白い作品です。

大女優カトリーヌ・ドヌーブの貫禄・存在感は

大鼻男ジェラール・ドパルデューをも上回ります。

女性が社会的にも活躍すると言うのは素晴らしいことですね!

女性必見の作品です。

90点

 という具合です。しかし、このレポートを毎日1本ずつ作成するのは可なりの作業だと思いますが、良く遣りますね。誠に大儀で御座る。この様に川村さんの映画評論レポートはダイジェストの形を採り楽しめる内容ですので、私は彼の”映画評論を鑑賞”して居ます、ブォッホッホッホ!

 ■結び - ”ひょんな事”からの出会い


写真e:池田市のマンホール蓋。
 私は数年前からマンホール蓋のデザインに興味を持ち並々ならぬ注意を払って居ますので最後に池田市のマンホール蓋をご紹介しましょう、蓄音機(ちこんき)おじさんとは何の関係も無いですが。右の写真も鑑賞会に行った序でに撮影したものですが、ご覧の様に山鳩(=市の鳥)と五月躑躅(=市の花)の図柄です。五月躑躅は池田市のシンボル的存在の五月山にこじ付けてる様な気がしますが、これで市民文化会館をアゼリアホールと呼んでる訳も解りました、アゼリア(azalea)とは躑躅のことです。

 さて、人と人との出会いには不思議な縁が有るものですが、今回の川村輝夫さんとの出会いも”ひょんな事”が切っ掛けです。”不良定年”氏の案内で偶々「手回し蓄音機鑑賞会」に行った事、【ブラ・クラ】の会場をNS5に引っ越した事、NS5の森店長と川村さんが大学同期だった事、そしてNS5を新会場として紹介して呉れたのが嘗て「曽根崎2丁目北商店会」の会長を務め梅田に顔が利く”超多忙な閑人”氏で、これらの偶然的な”ひょんな事”が幾つか重なった結果でした。
 という事で、皆さん出会いを大切にしましょう。最後迄読んで下さって有り難う御座いました!

                (^o^)/

φ-- おしまい --ψ

【脚注】
※1:SP/SPレコード(standard playing record)とは、1分間78回転のレコード盤。音色・音量の再生出来る範囲は狭い。最初、機械式に音溝を刻む方式から、1924年頃電気吹き込みに成った。片面5分程度の録音時間。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>

※2:小林一三(こばやしいちぞう)は、実業家(1873~1957)。山梨県生れ。慶大卒。阪急電鉄を創設、東京電灯・東宝を経営、又、宝塚少女歌劇を創始、関西財界の雄。第2次近衛内閣商工相。号は逸翁。

※3:漢氏(あやうじ)は、古代の渡来系の有力な氏族。元、直(あたい)姓。応神天皇の時渡来した後漢霊帝の曾孫阿知使主(あちのおみ)の子孫と称する東漢直(やまとのあやのあたい)と、後漢献帝の子孫と称する西漢直(かわちのあやのあたい)とが在った。天武天皇の時、連(むらじ)姓・忌寸(いみき)姓と成る。子孫は坂上氏ら。

※4:池田の猪買い(いけだのししかい)とは、上方落語の一つ。この噺はアホな主人公が大坂船場の旦那(甚兵衛)の所に「体が冷えてどないも成らん」と相談すると「それなら猪肉、それも獲れ立ての”新しい”猪肉を食べるに限る」と勧められて池田の猪撃ちの名人(六太夫)を訪ね、一昨日のではダメだ獲れ立てのが欲しいと言って猪猟に付いて行きます。六太夫が発した鉄砲の音で気絶した猪をアホが「これ新しいんか?」と訊くので、六太夫が「ほれ、この通り新しい」と言い乍ら鉄砲の台尻で猪の頭を小突くと猪は逃げて行って仕舞った、という落ちで終わります。
 江戸時代は池田で猪肉が食えたんですね、今は丹波篠山迄行かないと食えませんが。

※5:サウンドボックス(sound box)とは、[1].弦楽器の共鳴箱。
 [2].旧式の蓄音機で、レコード針の振動を受けて音を発生する増幅装置。針を付ける部分の上に取り付ける。
<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>

    (以上、出典は主に広辞苑です)

●関連リンク
参照ページ(Reference-Page):秦氏について▼
資料-聖徳太子の事績(Achievement of Prince Shotoku)
補完ページ(Complementary):関学グリーと柳河風俗詩▼
関西学院グリークラブと柳河風俗詩
(Kwansei Gakuin Glee Club and Yanagawa poetry)

「純喫茶探偵団」とは▼
懐かしの「純喫茶」(Nostalgic 'Pure coffee shop')
秦氏と養蚕技術について▼
2003年・交野七夕伝説を訪ねて(Vega and Altair legend of Katano, 2003)
温故知新の心▼
温故知新について(Discover something new in the past)
マンホール蓋は面白い▼
ちょっと気になるマンホール蓋(Slightly anxious MANHOLE COVER)
躑躅の花盛り沢山▼
2008年・大阪城の躑躅(Azalea of Osaka castle, 2008)
音楽を耳を澄まして主体的に聴く事の大切さ▼
「ブラボー、クラシック音楽!」発足の経緯
(Details of our CLASSIC event start-up)

私が主宰する【ブラボー、クラシック音楽!】▼
ブラボー、クラシック音楽!(Bravo, CLASSIC MUSIC !)
2011年1月の【ブラボー、クラシック音楽!】の内容▼
ブラボー、クラシック音楽!-活動履歴(Log of 'Bravo, CLASSIC MUSIC !')


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