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察し思いやり



 予備校の喫煙室でタバコを吸いながら、ある中国人学生とメールでやり取りしていました。

 どうしても相手に話が伝わりませんでした。

 メールの内容は『了解しました』という他愛もない日本語の話。けど、ただ意味を教えるのではなく、どういう時に使うのか、その話をしていました。

 それがなかなか伝わらない…。

 

 いい加減イライラしてきました。

 もちろん、そんなこと、メールには書きませんでしたが、相手も相当イライラしていたようで、私が怒るようなことを書いてきました。

 上級の学生なので、彼女に悪気はないんですよね。 日本語は上手なんで問題ないんですが、私の考えが全く理解できないようでした。でも、ちょっとしたプライベートでトラブルがあって、 ブルーな時に、さらにブルーにさせられました。

 そこで、『察し』という言葉を辞書で調べるように言ったら、急に相手からメールが来て、私の『心』を確認してきたんです!

 びっくりしました。

 何が起きたんだろうって。

 

 予備校の喫煙室でメールしていたから、すぐ授業になっちゃって、そのまま授業に入りました。

 そうしたら、不思議なことが起きました。

 

 神様からのプレゼント?

 

 そのまま、『なぜ○さんは、あんなメールをよこしたんだろう。』って、考えながら授業に入ったから、ボールペンを忘れて教室に入りました。

 そして、それに気がついて職員室へ戻りました。

 やっぱり、『なぜ○さんは…。』って考えていたから、黙々と歩いて受付に行ったら、受付の女の子が黙ってボールペンをくれました。

 私もずっと考えごとをしていたから、黙って受け取って帰ろうとしました。

 

 そこで、ハッとした!!

 振り返って、彼女に聞いちゃいました。

 

  『何で分かったの?』

 

 …って。

 

  『何でボールペンを取りに来たって分かったの?』

 

 …って。

 これっていつもやっていることでもないんです。初めてなんです。相手の受付嬢も、名前もすぐに忘れてしまうような空気のような存在の女の子。恋人でも奥さんでも、長年、一緒に仕事をしてきた人間でもない!!

 彼女の返事は、

 

 『いや、何となく』

 

 …でした。

 不思議?

 

 でも、これくらいならどこの国にもあると思います。

 けど、日本人って、本当に『言葉を信用しない』人たち。

  『口で言うこと』

 ではなくて

 『行動』

 が全て。

  『言わなくても分かるでしょ?』

 が全て。

 

 だから、常に日本人は言葉の意味を理解しようとするのではなく、その言葉を発する相手の『心】を読もうとする。もちろん、そうではない日本人も大勢います。けど、それを彼らと比較するにはかなり無理があります。我々、日本人はそれが普通すぎて気づいていない。

 その『日本人の察し』が出来ないから、外国人はアルバイトを断られる!!

 仕事が出来ない、能力がない、から嫌われるんじゃなくて、『察し』が全て。

 日本語が出来ても、『察し』が出来なければ、日本社会から嫌われる!!

 それは、日本人でも全く同じこと!!

 仕事のできるやつとは、この『察し』が鋭いやつ!!

 仕事のできない奴とは、『察し』ができず、『天然』とか呼ばれるやつ!!

 別に、煙草を手にとったのを見たら、すかさずライターを出すようなことではない!!

 

 それに気がついたら、思い切り涙が出てきました。

 そのまま教室へ入らず、トイレに入って泣いちゃいました。

 本当に、本当に泣いちゃいました。

 そして、私のもとから巣立っていった大勢の外国人卒業生たちに謝りました。

 

 ごめん!!!

 オマエら、本当に、苦しい思いをさせちゃったろ!!!

 ごめん。

 

 本当に悪い先生だった。

 なんで、こんな大切なこと、教えなかったんだろう、って。

 日本事情と称して、くだらない教科書なんぞ、教えている場合じゃなかった。

 もっともっと大切な、教えなければならないことがあった。

 

 何で、こんな大切なことを教えなかったんだろう、って情けなくなりました。

 

 日本人は、何を言っても、常に言葉の向こう側を見ようとする。その言葉も、間違っていたらそのまま受け取って、その向こうを見ようとする!だから、私は日本語を教えるだけじゃなくて、その日本語を発したとき、相手の日本人が何を『察する』のか、教えなければいけない!!よく分からずにトラブルが起きると、『習慣の違いだ』で終わらせちゃいけない。

 その違いが何なのか、教えなきゃいけない!!!

 

 涙が止まらない。

 

 外国人には『察し』が出来ない。

 いや、その習慣がない!!

 

 常に日本人は、相手の考えていることを読もうとする。

 会話でも、まず相手が何を考えているのかを考えようとする。

 それをしないで会話をするのは喧嘩しているときだけ。

 だから、日本人が外国人の会話を耳にすると、まるで喧嘩をしているように聞こえてしまう。それは『自己主張』が優先される会話だからだ。

 

 そして、日本人は、心が読めない相手を信用しない。

 日本語の使い方を間違えると、心が読めないから怒り出すけど、正しい日本語を使っても、正しい『察し』が出来なければ相手は怒り出す!!

 相手の発する言葉を、あっさり信用しない!!!

 それは、相手の人格を信用しないのではなく、表に出てくる『言葉』を信用しない。

 本当は何を望んでいるのか、それを考える人種。

 

 日本社会から歓迎されなければ、どこの国の人間だろうが嫌われて、留学なんて成功しません。けど、それは歓迎されるために日本社会に媚び諂えという意味ではありません。日本の習慣を守れ、ということです。けど、その日本の習慣とやら、表に現れる部分ばかり強調するけど、本当は見えない部分にこそ大切なことがあって、それこそ教えるべきだと考えています。

 

 

 



 

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