Home Again――遠きにありて思うもの
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Homeという言葉から連想される音楽を集めた私家集の第二弾。 “Home Again”という題名は四重の掛詞。家に帰るという意味と、“Home”と名づけたアンソロジーの第二弾という意味と、今回、採録したCarole Kingの一曲の題名、そして、私自身が、帰宅途中に繰り返し聴いているという意味。 前回よりはHomeという言葉が直接にでてくる歌が多い。そして音楽としては、前回の西海岸のAORから、ソウル、ブルース、フォーク、そしてブリティッシュ・ロックまで地域が広がっている。 同じなのは、どれも私にとって、思い出深い曲ばかりということ。
1. Two of us, The Beatles, Let It Be2003年は“Let it be: naked”が発表され、ラジオでよく聴いた。思い出してビートルズを聴きなおすきっかけにもなった。“Let it be”は安価な海賊版を持っている。そういえば“Let it be”の最後は“Get back”。“Get back to where you once belonged.” こちらもHomeに関わりがある。 2. Fast car, Tracy Chapman, Tracy Chapmanこんな家、こんな街は飛び出して、「速いクルマ」でどこかへ行きたい、新しいHomeを作るために。聴くたびに、“belong”を日本語にする難しさを感じる。どこかにつながっている気持ちということか。このアルバムは演奏は軽快だけど歌詞は重苦しい曲ばかり。高校三年、FM横浜、帆足由美、通信添削、模擬試験、そして予備校……。快と不快が入り混じる記憶。この曲の演奏と歌詞が催す気持ちも同じ。 渋谷望『魂の労働』を読んでいる間、なぜかずっとこの歌が頭のなかで流れていた。労働と抑圧の悲惨な状況が歌われているからだろうか。この曲で繰り返される言葉は、“And I had the feeling that I could be someone”。同書最終章、最後の一文、「固有性(singularity)を獲得し『サムバディ』になること」とも符合する。 3. Fountain of sorrow, Jacsone Browne, Late for the Skyジャクソン・ブラウンは好き、といっても、聴くのはいつも、アルバム“Late for the sky”。 この歌では戻ることのできない過去がHome。それも遠ざかるばかりではない。一枚の写真から引き戻されてしまうHome。そこから歌がはじまり、現在がはじまる。 4. Jessie, Roberta Flack, Killing Me Softly With This Song作詞作曲は、Janis Ian。ということは、最近まで知らなかった。この曲を聴くと、三ヶ月だけ一人暮らししていた頃を思い出す。一人暮らしといっても、実習に行った工場近くの会社の寮。小さなラジカセと、気に入ったテープを沢山もっていった。持ちこんだのは、駅構内で買った安直なアルバムを録音したテープ。最近になって、ようやく最初に収録されたオリジナル・アルバム“Killing me softly with this song”を聴いた。 5. Wailing Wall, Todd Rundgren, Runt, The Ballads of Todd Rundgrenトッド・ラングレンは、はじめて行った合衆国の思い出。はじめての外国。ワシントン・DC、ボストン、そしてニューヨーク。記憶をとじこめるために持ち歩いたカセット・テープ。今ではコンパクト・ディスクをトレイに入れれば、たちどころに一度しか訪れたことのないボストンの冷たい空気がよみがえる。 6. Homeward Bound, Simon and Garfunkle, The Greatest Hits旅仕事の切なさをうたった曲。ミュージシャンが旅や家を歌うと、そうした主題になりやすい。前回とりあげたJourney,“Faithfully”も同じ。ポール・サイモンの場合は、たとえ帰ることができても癒されない、根源的な孤独が暗示されている。 7. Home again, Carol King, TapestryCarol King, “Tapestry”を全編聴いたのは、実はごく最近のこと。このアルバムは、歌、歌詞、編曲、演奏、いずれも気に入っている。 原曲はもちろん、さまざまなミュージシャンが一曲ずつ歌う“Tapestry Revisited--Tribute to Carol King”もいい。この曲はCurtis Stingersが重厚に歌い上げる。なかでも好きなのは、Rod Stwartの“So Far Away”。 8. A warm little home on a hill, Stevie Wonder, Someday at Christmas毎年必ず聴くクリスマス・アルバムの一曲。Homeのない人にとって、クリスマスは格別辛いときだという。強制収容所では、クリスマスのすぐあとに力尽きて亡くなる人が少なくなかったと聞いたことがある。「クリスマスには、きっといいことがある」と期待が高まったところで何も起こらないと、耐え切れないような絶望が襲うからだという。 9. Billy Joel, Everybody Has a Dream, The Stranger前回採用した“And so it goes”に比べると、この曲は相手に過度に依存しているようにみえる。フェイド・アウトのあとに“Stranger”の口笛。人は誰でも、誰もいないところで自分だけに見せる顔をもっている。誰かといるときの顔は、素顔ではない。 だとすれば、この曲で歌われているat homeなときは、どんな仮面でいるのか。それを考えると、ぞっとする。 10. Leaving home ain’t easy, Queen, Jazz生きていれば、Homeを離れなければならないときもあるかもしれない。しかし、離れるということは、いつか帰れるということでもある。Homeにいる限り、どこにも帰ることはできない。 たとえ心の中だけでも、帰る場所があるのは悪いことではない。ようやく、機嫌がいい時には、そんな風にも思えるようになってきた。“Jazz”はQueenで唯一、アナログ盤でも持っているアルバム。 11. Bad sneakers, Steely Dan, A decade of Steely Dan“A Decade of Steely Dan”を締めくくる一曲は、Donald Fagenの語るような唄い方と、はっきりとわかるMichael Mcdonaldのコーラスが印象的。 「冷たい雨に打たれて笑う」という言葉は、他の歌でも聴いたことがある。松任谷由実「ずっとそばに」(『Reincanation』、東芝EMI、1983)。 降り注ぐ八月の雨 この曲は、原田知世「時をかける少女」のB面にもなっていた。 12. American Tune, Paul Simon, Central Park Concert合衆国東海岸を旅行中、失くし物をした。Homeにつながっているそれをなくしたとき、もう帰ることができないほど遠いところに来たような気持ちになった。その後、失くしものは見つかった。家にも無事帰ることができた。そのときの思い出。Homeにつながるものとは、もちろん、旅券のことではない。 中学二年でこの曲を初めて聴いて以来、ずっとずっと、この曲で歌われているような気持ちでいる気がする。後半はライブ演奏が四曲続く。 13. Lonely Stranger, Eric Clapton, Unplaggedおれはどうせひとりもの だから、家なんか、ない。家なんか、いらない。 こんな気持ちになったことがない人もいるのだろうか。“American Tune”(Paul Simon)のように、ずっと共鳴しているわけではないけれど、ときどき、こんな気持ちにもなる。 14. My hometown, Bruce Springsteen, Bruce Springsteen & The E Street Band Live/1975-85このアルバムは、“My Hometown”が収録されている三枚目ばかり聴く。“River”と、それを導く長い語り。語り終えて始まるハーモニカの前奏。すべてが流れになっている。 途方に暮れて転居したこともある。それでも今では、大都会の一角に、Hometownと呼べる街を見つけて住むようになった。この曲の歌詞と同じ年になり、同じように息子がいる。 15. Take me home, Phil Collins, Serious Live代々木アリーナ、最前列ブロックの思い出。3時間近くに及んだライブは、今でもアルバム“Serious Live”で追体験できる。名ドラマーでヒット・メーカー。おまけにバリ・ライトの特許保持者。こんなスーパー・スターが“I'm an oridinary man”と唄う。それができるからこそ、フィル・コリンズがスーパー・スターでいられるのだろう。 何をされようと、何と言われようと構いはしない、でも帰りたいんだ、俺を家へ連れて行ってくれ。 そう唄いながら、フィルは次のツアーへと旅立っていった。 |