その頃
カニ 「ちょっとハチくん。相談があるんだ。サルの奴に仕返しをしたいんだ」
ハチ 「おお。サルの奴は意地が悪いから俺も頭に来てたんだ。で、お前はいったい何をされたんだ」
カニ 「実は、かくかくしかじか」
ハチ 「そうなのか。でも、そもそも、お前はそのおにぎりをどこで手に入れたんだい」
カニ 「道端に落ちてだんだ」
ハチ 「おにぎりがそう簡単に落ちているわけないだろう。わざわざ食べるために一生懸命握ったものだ。そのお米だって、お百姓さんが一生懸命育てたものだ」
カニ 「でも本当に落ちてたんだよ」
ハチ 「それは落ちてたんじゃなくて、置いてあったんだ。物を盗むような奴の相談には乗れないね。あばよ」
カニ 「クリ君、クリ君。相談があるんだ。サルの奴に仕返しをしたいんだ」
クリ 「ああ、あいつはやな野郎だな。俺も何かしてやりたかったんだ。しかし、どうして?」
カニ 「実は、かくかくしかじか」
クリ 「ほほう。でも、どうしておにぎりと柿の種を交換するなんて取引に応じたんだい」
カニ 「柿の種は埋めれば大きな柿の木になって、実がたくさん生るって言うんだ」
クリ 「その通りだけど、君はすぐ食べたいからおにぎりを持っていたんだろ。柿に実がなるまで何年かかると思っているのかい」
カニ 「10年くらいかな」
クリ 「君の寿命は何年だい」
カニ 「10年くらいかな」
クリ 「だろ? そもそも騙された君の不注意だよ。今回の相談には乗れないな」
カニ 「馬糞くん、馬糞くん。相談があるんだ。サルの奴に仕返しをしたいんだ」
馬糞 「それよりおいらは、馬に仕返しをしたいんだ」
カニ 「どうして?」
馬糞 「馬の奴はな、おいらを道路に落としたきり、知らんぷりしてどっかに行っちまいやがった」
カニ 「じゃあ、僕が馬の尻尾を切落としてやるよ」
馬糞 「そうか、お前は立派なハサミを持ってたな」
カニ 「さっそく馬を呼んできておくれ」
馬糞 「いや待て。馬が来たらお前は簡単に踏みつぶされるだけだぞ」
カニ 「だいじょうぶ。馬に『早く座れよ馬のケツ。でないとハサミでちょん切るぞ』って呪文かけると、馬は素直に座るよ」
馬糞 「お前、自分のハサミを笠に着て、そんな脅しをかけていたのか。それじゃあ、サルだって柿の木だって迷惑こうむるよ。みんなに脅しをかけるカニを懲らしめるために、おいらは仲間を集めてくるよ」
カニ 「臼くん、臼くん。相談があるんだ。サルの奴に仕返しをしたいんだ」
臼 「おめえ、ハチやクリや馬糞にまで同じ相談しただろう」
カニ 「うん」
臼 「どうして俺の所に来るのが一番最後なんだ。俺の所には一番最初に来るのが礼儀ってもんじゃないか? 出直してきやがれ」
岩手県のバス“その頃”