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分析化学/化学分析を延々と語る 16 (2004/4/3)
中西準子さんの講演(日本薬学会第124年会)

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 中西準子さんの講演「環境リスクマネジメント−メチル水銀リスクを例にして−」が日本薬学会第124年会(3月29−31日、大阪)の企画の一つとして開催された。中西準子のホームページ は何年間も愛読しているが、生の講演を聴いたことはなかったので聴講してみた。(中西準子さんと、さんづけで書いているが、私は別に面識があるわけではなく、このサイトの方針として「先生」を使っていない。)

 中西さんの顔写真は何度も見たことがあり(Googleのイメージ検索)、声や話し方は写真から想像していたのとあまり違っていなかった。講演の始まる前に座っておられた場所が最前列でなく、後姿が知り合いに似ていたため、つい人違いして声をかけそうになった。誰でもこんな雰囲気の知り合いが一人や二人はいるだろうという、普通にしっかりした感じのかただと思う。ホームページでの張りのある語り口だけから想像するイメージとは少し違っていた。

新しいリスク計算手法の紹介

 講演の内容は、毒性学の知識がある聴衆が対象という前提で、かなり高度だった。こういう学会で異分野から招かれて発表する場合は教養的な内容になるものではないかと思うが、けっこうディテールに踏み込んだ部分が多かった。前半は環境リスク論の大まかな枠組みについて。米国や日本の環境規制の法律がどんな理念で組み立てられているか、といった概説から始まり、不確実さのちょっとした見積もり方の違いによって結果に大きな差が出てしまう現状の枠組みの不合理さが指摘された。後半が本題で、中西さんが提唱している新しいリスク計算手法の紹介。

 新しいリスク計算手法とは、去年12月に発売された「演習 環境リスクを計算する」(岩波書店)の第4章と第5章に書かれている方法のことだという。私はこの本を買っておらず、内容も全く知らなかった。手法の発表自体は数年前に論文で行われていたらしいが、「演習 環境リスクを計算する」を読んで初めて中西さんの方法を理解したという感想が多く寄せられているそうだ。

 その計算手法を講演内容から私なりに要約するとこうなる。現在、食品中の有害物質の濃度規制を行うときに使われている手法は、まず主に動物実験の結果から最大無作用量を求め、それに種差や個体差に由来する不確実性係数を掛けて基準値を決めている。しかしこの方法では「これ以下ならマル、これ以上はペケ」という二分ができるだけだ。

 中西さんが提唱している方法は、二分ではない。たとえば魚に含まれるメチル水銀は、胎児にとって現実的にリスクがあるレベルの濃度だ。でも、リスクゼロまでメチル水銀の摂取量を減らそうとすると、妊婦は滅多に魚を食べられないことになってしまう。これは栄養的にも食習慣的にも問題がある。そこで、どんな規制を行えばどんなリスクがあるかを定量的に計算して、現実との折り合いが付けられる基準値を探ろう、ということらしい。

 その際、統計的な解析が使われる。つまり、従来の手法では、「基準値一杯の高濃度が含まれていた場合」と「最も感受性が高い固体」を考えて、こういう最悪の場合でも健康被害が起こらないようにしようという発想であるのに対し、中西さんの方法では、「食品中の有害物質の濃度はあるレベルを中心に分布している」「各個体の感受性も分布している」という前提で、この二つの重なり部分として、リスクを定量的に計算する。

オンラインで読める概要がほしい

 中西さんのホームページの中では、2003年12月16日の雑感「新刊」 で、次のように書かれている。

第4章では魚介類から摂取するメチル水銀による水俣病のリスクの計算方法を示した。一般的にこのようなリスクは、安全か危険かの判断しかできないような評価法になっているが、この章では、こういうリスクを確率で評価する方法を示した。この考え方や手法は、欧米で出版されているものも含めていかなる他のリスク評価に関する書物にも書かれていない。

今のところ、計算方法の具体的な内容はオンラインでは解説されていないようだ。

 食品衛生に携わっていた一年前までは、私も環境リスク論に大きな関心を持っていた。今回の講演会にも、かつての仕事上の知り合いのかたが大勢聴きに来ておられた。現在私は、ゼロ以外は許されないという、マネジメントの必要のない分野で分析をしている。他に勉強することが多くあって、中西さんの本を買って読む余裕はないし、手元の要旨集には前置きが書かれているだけで、この計算方法の内容には触れられていない。一般市民としては興味を持っており、文章でも読んでおきたい。オンラインで簡単な枠組みだけでも提供されたらと感じた。


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管理者:津村ゆかり yukari.tsumura@nifty.com