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・2008年06月22日:第36話 科学者の町(上)
・2008年06月22日:第36話 科学者の町(下)
第36話 科学者の町(上)
しばらく前の話。
マーガの町を出て二度の野宿を経て、わたしたちはサヴァイブの町に辿り着いた。
サヴァイブは変わった町だ。建物は二階建てが多いくらいで大抵は普通の木造建築だけれど、広い庭に船のような大きなものが横たわっていたり、あちこちにある馬小屋に似た大きなものから、ギャヒーという、妙な動物の鳴き声がする。
「あれが、ワイバーンの鳴き声よ。身体は小さな個体は数メートル、大きいものは数十メートルになるの」
個人の住宅で飼われているワイバーンは大抵は小さなものだと、テルミ先生が教えてくれる。
時折、住宅のそばに奇妙な建物が並んでいることがある。それもワイバーンの飼育所か、それとも物置かと思うが、先生によると、それらは研究室や実験室らしい。さすが、科学者の町と言ったところ。
ゆるやかな登り坂の道を歩いている間、遠くに木造の天文台らしきものが見えたり、すれ違う人が三輪車に似た貨車に乗っていたり。
「目的の家は、中央区でしたよね」
「ああ、渡す物も用意してある」
ビストリカに答えて、道化師さんは懐から丈夫そうな袋を取り出した。中に入っているのは報酬分の金貨だ。
馬車はすでに、組合の詰め所に渡してある。あとは目的の飛竜船の持ち主に報酬を渡して話をつけたあと、船の準備を経て――準備の間に自由行動、昼食ついでに色々見学したりわたしはフレック・スールー氏を捜したり、という行動計画ができあがっている。
そんな気楽な道行の中。
登り坂の一番上の方から上ずった悲鳴が聞こえたのは、間もなくのことだった。
「ああーっ! 危ない、どけて!」
声の主は、茶色のローブの若いお兄さん。両手に分厚い本を何冊も抱えていて、その目の前から本を積んだ貨車が転がり落ちてくる場面が、やけにスローモーションで見えた。
――ぶつかる!
制御を離れた貨車がゴロゴロと重い摩擦音とともに坂を加速し、しかも、上に載っている勢いのついた本がバサバサと吹き付けるように降ってくる。
後ろにいたわたしは、どうにか道の端に身をかわす。その横では、鬼姫さんが軽いステップで避けた。前の方では、ビストリカがジョーディさんに手を引かれて転びかけている。
「痛っ」
「あ」
テルミ先生の額に飛んできた本のカドが当たるのと、道化師さんが声を上げるのが同時だった。
脇を、高速で貨車が駆け抜ける。
――うわっ、危なっ。
坂を下まで駆け抜けた貨車は、石の柱に当たってゴガン、と大きな音を発した。石に接触した部分は割れ、破片と破れかけた本が散乱する。
「いったぁ……」
「大丈夫ですか、アキュリアさん?」
座り込んで赤く腫れた額を押さえているテルミ先生にビストリカが駆け寄る。その向こうに、地面に顔を突っ込みかけたような、どうしてそうなったのか良くわからないポーズで転がっているシェプルさんが見えた。
ビストリカに治療されるかに見えたテルミ先生はすっくと立ち上がると、傾斜に足を取られて転びそうになりながらこちらに駆け寄る、ローブの青年に突進した。
「ちょっとあんた! 危ないじゃないの!」
「す、すいません、本当にごめんなさい!」
謝り倒す青年に食ってかかるのを、横でビストリカがおろおろしながら、ジョーディさんはあきれた目をしながら見ている。
――誰かシェプルさんにも触れてあげようよ。
とか思いながらわたしも触れないまま見渡すように視線をずらしていくと、道化師さんが石畳に膝をついて、手もとを見下ろしていた。
「どうかしたんですか?」
声をかけながら歩み寄ると、道化師さんが石畳の道の脇にある溝と金貨入りの袋を交互に眺めているのがわかる。
――あ、もしかして……。
「お金が落ちた……とか?」
ほんの一瞬だけど、あの騒ぎの際に、そんな音を聞いた気がしていた。
わたしのことばに、彼は溜め息交じりにうなずいて見せる。
それを耳にしたのか、テルミ先生が、
「ほら、あんたのおかげでお金を落としたじゃない。弁償しなさいよね!」
と青年を脅した。でも、あの金貨って確か、一枚でもおいそれと財布に入っているような価値のものじゃないはず。
「それはその、今は持ち合わせが……と、取れれば許してくださいますよね……?」
と、彼が懐から取り出したのは、金属の棒。先端を引くと伸びる。いわゆる指示棒というやつか。
この石畳の溝というのは、水を逃がすためにあるらしい。余り雨は降らないけれど、水陰柱の異状がわかってから造られたらしい場所には、色々と水を逃がすための工夫を見かける。
溝は、どこかの水路につながっているらしい。覗き込むと、細い隙間に金色の輝きが見えた。
ローブの青年は、屈み込んで溝に指示棒を入れるものの――
「あ……入らない」
途中までは入るけれど、太くなっている柄のほうでつっかえてしまう。
「傷つけるわけにゃあいかないんだろう?」
刀を抜きかけた鬼姫さんが、思い直したように刃をおさめる。
わたしはふと、思いついていた。
こういうときに役に立ちそうな魔法を覚えたじゃないか。というか、こういうときにしか役に立ちそうにない魔法を。
今こそ、それを使うとき――わたしは早口で、呪文を唱えた。
「〈グノ・アルジレク〉」
溝の下にはまっていた金貨の周りがぶわっと黒い煙のようなものに包まれたかと思うと、わたしの差し出した手のひらの上に重みが生まれる。
溝の金貨は消え、手を開くと、そこに黄金の輝きがあった。
「へえ……見たことのない魔法を使うのね。それ、どこで覚えたの?」
テルミ先生にきかれて、誤魔化し笑いを浮かべる。
「ええと……どっかの図書館で見た魔導書、だったかな」
まさか、怪盗にもらった魔導書で覚えた盗みのための魔法だなんて言えるわけがない。
ともかく、これで料金分の金貨がそろったようだ。めでたしめでたし。
「さあ、あんた役に立たなかったんだから、何かよこしなさいよね」
こちらはめでたくない様子の青年を、テルミ先生が脅迫している。
「もういいだろう、今後気をつけてくれれば」
「今後気をつけるで済むなら、警察とかいらないのよ。ここでガツンと言っとかないと、また同じことを繰り返すわ」
「そんな、子どもじゃあるまいし」
食い下がる先生だけれど、道化師さんは早く目的地に行きたそう。ジョーディさんもあきれ顔。
ローブの青年は怯えきった様子で、ポケットから何かを取り出した。
「こっ、これで勘弁してください!」
先生が何かのチケットらしきものを渡され、それに視線を落とす。
「へえ……エバスティン商会チェーンのレストラン・バーミナー、基本コース無料ペアチケットだって」
「よろしいのですか、こんな……」
ビストリカが言いかけるのを制止して、テルミ先生はそのチケットで手を打つことにしたようだ。
――恋人と行く予定だったかもしれないし、親孝行のために両親にプレゼントする予定だったかもしれないのに。あーあ、可愛そう。
と思いながらもわたしがテルミ先生を止めないのは、実際、下手すりゃ死人が出るような失態だったからだ。あの青年には、チケットは勉強料だと思ってもらおう。
肩を落として散らばった本を集める青年を尻目に出発しようとして、道化師さんが、ようやく動かないシェプルさんに気がついた。
「シェプル、何をしている。行くぞ」
微塵も心配されないシェプルさんがちょっと可愛そうだ。と思ったのはほんの一瞬だった。
金髪の貴公子は何事もなかったようにすっくと立ち上がると、悲劇の主人公のように周りを見渡す。
「ボクに手を差し伸べてくれた乙女に、今夜のボクの愛を捧げようと思っていたのに……誰も来ないとは、何と言うことだ! みんな、もったいないことをしたね。でもボクは心が広い……さあ、今すぐこの手を取るんだ!」
息巻くのを無視して、わたしたちは坂を登りきった。
目的の飛竜船の主は、大きな工場のような建物で待っていた。黒い顎髭が印象的なヤシュラさんというオーナーには話が通っているらしく、乗員の準備が整えばすぐにも出発できると言う。
準備には一時間余りは必要だし、丁度昼食時に差し掛かる頃合だ。ということで、余裕を見て二時間後にまた集合しようということになった。
「それにしても、ワイバーンってのも慣れれば可愛いもんだねえ。昔トカゲみたいな小型竜を相手にしたことがあるけど、あれは狂暴だったなあ」
鬼姫さんが、大きな船を背中に乗せたまま地べたに腹ばいになっているワイバーンの、緑の鱗を撫でながら言う。赤い大きな目は可愛いと言えなくもないけれど、牙の並ぶ人間など丸呑みしそうな口は恐ろしい。よく、その口の近くに手を出す勇気があるなあと思う。
「竜ったって色々だ。温厚なのもけっこういる」
その向かいで、ブラシ片手にワイバーンの身体を洗うのを手伝っているジョーディさんが口を挟む。そういや、シュレール族も竜の系統だったっけ。
「きみたちは、行くところがあるんだろう。そろそろ食事にでも出たらどうだ?」
道化師さんはもう少しヤシュラさんと話しをするつもりのようだ。
シェプルさんは、『科学者の町のインテリ系美女と甘いひとときを!』とか言ってすでに姿を消している。テルミ先生は散々悩んだ末、あのチケットをビストリカと使うことにしたらしい。
「本当はもう一枚くらいあったら丁度良かったのにねえ」
「アイちゃんも来ません? お金出し合って、三人で食べましょうよ」
と誘われたけれど、基本コースと言ったって、有名なレストランでなくてもコース料理はけっこう高額だろう。わたしは断って、どこか安い食堂を見つけることにする。
と、ヤシュラさんの家を離れようとすると、鬼姫さんが追いかけてきた。
「メシにするんだろ? あたいも行くよ。ここ来るとき、この先にちょっと小奇麗な店を見かけたんだ」
わたしは正直、料理がまずくなければどの店でもいい。よほどぼったくられなけりゃ、お金が足りなくなるようなこともないし。
「じゃ、そこにしますか」
――そういや、スールー氏の家の場所、ヤシュラさんに聞いてこなかったな。まあ、お店で聞けばいいか。
そう思いながら、西部劇のパブっぽい仕切りのような小さなドアを払いのけて入った店は、今までこの世界で入ってきた店とはちょっと趣が違っていた。
第36話 科学者の町(下)
店内は石造で、テーブルの変わりにレンガで組まれたストーブが配置されている。中で火を起こし、その上に網をかけて肉を焼く仕組みのようだ。いわゆる焼肉屋さんか。
しかし、壁に掲げられたメニューが『ワイバーン・脚』、『ワイバーン・翼』、『地狗竜・もも』とかって……。
「へえ、竜の肉かあ。あんまり食べたことないな」
あんまり、ってことは何度かはあるのか。わたしはメニューを見てしばらく固まっていたけれど、鬼姫さんはちょっと楽しそうに言って、近くの二人用の席につく。
離れたところに、三人組の客の姿があった。網の上では赤い肉がじゅーっと音を立てて焼けていて、漂う匂いは、けっこうおいしそう。
うーん、竜を食べることに抵抗がないと言えば嘘になるが、食べてみたい好奇心もある。鬼姫さんの反応からすると、食べ物としてそんなに珍しい物ではないらしいけれど……。
「竜って、どういう感じの食べ物なんですか?」
ずいぶんと曖昧な問いだが、鬼姫さんはメニューを見ながら答えてくれる。
「んー、脂身みたいな赤身の肉かな。もも肉は硬めで、他は柔らかめ。ワイバーンの翼が好きな人も多いけど、お勧めは地狗竜の腹だよ。柔らかくておいしいんだ」
うーん、何だか良くわからないが……こういうときは、わかってる人と同じ物を注文しよう。同じ物と言っても料理が出てくるわけじゃないので、ほとんど鬼姫さんに注文する肉の種類を選んでもらうだけだけれど。
で、結局注文したのは地狗竜の腹肉ともも肉、ワイバーンの翼という内容。
焼いて食べてみたところ、腹肉は柔らかくて、鬼姫さんの言うように脂身みたいな触感の赤身。もも肉はもっと歯ごたえがあって、牛肉に似ている。翼は、魚の軟骨みたいな歯応えだけれど、味は噛めば噛むほど旨味が出るような感じ。
昼どきにはけっこう客が入ってくるらしく、わたしたちが食べるうちにも、何組か客が続いてきた。中には、科学者風の白衣姿もある。
「ポイザドラゴンの肉が旨い、って聞いたことあるんだけど、さすがにここにはないみたいだね」
爪楊枝を咥えたままシェシュ茶を注文した鬼姫さんが、少し残念そうに言う。
わたしは、種類の少ないデザートから何か選ぼうとしていたところだった。
「ポイザドラゴンって、どんな竜です?」
「毒持ってんだよ。で、毒抜きした肉がピリッとして、そういうの好きな人は癖になるって話聞いてさ」
「なるほど……」
毒持ってる竜の肉なんて、わたしは不安になるけどなあ、と思いながら、デザートをシェシュ茶のゼリー三色クリーム添えに決定。
「まだ時間は充分あるね。アイはその、何とかって学者さんのところに行くんだろ?」
鬼姫さんはデザートは頼まないようで、わたしの完食待ちだ。
「地質学者のフレック・スールーさんです。魔法研究所とは違うやり方で世界を救う方法を研究しているとか」
少し食べる速度を速め、最後の一欠片を口にする。さっぱりしていて、なかなかおいしい。
値段も意外に安いし、竜の肉もなかなかいいもんだ。有名レストランのコース料理にもちょっとは興味があったし、食べられなくて残念という気持ちもあったけど、これはこれで良かったのかも知れない。
「ご馳走さまでした」
店の主人にそう言ってお金を払い、また西部劇のパブのようなドアを開いて出て行こうとしたとき、後ろから声がかけられた。
「あー、きみら、フレック・スールーに用事があるんだろう?」
振り返ったそこには、わたしたちの後に入ってきた白衣姿のお客さん。寝起きらしいボサボサの黒髪の、ちゃんとしていればハンサムっぽい青年だ。
「ええ、そうですけど」
そういや住所を店の主人に尋ねるの忘れてた、と、思う間もなく。
「じゃあ、ぼくの家に来るといい。でないと、行き違いになっちゃうからね」
そう言って彼は、いたずらっぽく笑った。
二階建ての小さめの家に一人暮らしだと言うスールー氏は、リビート先生のことを聞いて、懐かしそうに笑った。
「研究所の人たちがネタンに来ているという話は聞いていて、会いに行こうかとも思ったけれどね。旅慣れないと、なかなか町を出られなくて」
細めの丸太を組み合わせたような家の内部は、ログハウスのような手作り感やぬくもりより、幾何学的な印象があった。それでも、わたしたちに勧められた椅子は木目が自然で素朴な感じ。
やはり木製の机やテーブルの上にはさまざまな資料や用途不明な立体パズルのピースのようなものなどが散乱し、壁にも良くわからない図があれこれ貼り出されていて、見ていて飽きない。
中でも、もっとも目を引くのは、大きな世界地図だ。
「へえ、こんな大きくて詳しい地図、初めて見たよ……あたいには科学なんててんでわからないけど、見てる分には面白いもんだねえ」
鬼姫さんは地図から目を離すと、部屋の端に視線を動かす。水槽があり、水槽に流れ込むチューブと流れ出すチューブが続く。その勢いを借り、小さな水車が回っていた。それを目を丸くして眺め、彼女は感嘆する。
「そう、科学は面白い物だよ。アクセル・スレイヴァには、科学を馬鹿にする魔術師もいるが……彼らには是非、ぼくらのことばにも耳を傾けて欲しいね」
「わたしたちがやっていること以外にもあるんですか? 世界を救う方法が」
そう、その方法を聞いてみたくて、わたしはここに来たのだった。
スールー氏はわたしたちと向かい合うように、椅子に腰掛ける。
「ああ、可能性だけならいくらでもあるさ。用は、水の量が問題なんだ。今、天に吸い上げられている分の水をどうにかすればいいのさ。どこかに逃がすなり、隔離するなり、完全に消滅させるなり……まあ、実際にやるのは口で言うほど簡単ではないけれどね」
科学で水陽柱を直すとかじゃなく、新しい仕組みを作ろうということか。
「まあ、魔法研究所のやっていることも否定はしないよ。でも、それが成功してもいずれは同じことが起きる。だからぼくは、永遠に水を恐れることのない世界にしたいんだよ」
確かに、水陽柱を直すことで当面の危機は乗り越えられてもいずれは同じことが起きるかもしれない。そうなったら、また地球から魔術師候補が選ばれるんだろうか。それまで、地球の人類が生存しているといいなあ……って、何か本末転倒な気がするけれど。
とはいえ、本当ならそんなずっと先のこと、誰も考えないだろう。そういう未来のことまで考えるのが、科学者らしいと言えるかもしれない。
「次の異状が起きるまでには、きっと別の方法も確立できますよ」
「確かに、時間はあるけれどね」
わたしたちにも出した、自分に入れたお茶をすすりながら、彼は苦笑した。
「こういうときは、最悪のパターンを考える癖がついていてね。きみたちのやることが、何かの原因で失敗するかもしれない。次の異変が起きるのが、予想よりずっと早いかもしれない」
言われて、わたしの脳裏にネタンの掲示板に書かれていたことが行き過ぎる。
それは、鬼姫さんのほうも同じらしい。
「あたいも最近知ったんだけど、魔王を倒さないと意味がないとか何とか、言われてるらしいねえ」
「ああ、今までも魔王が倒されてから、水陽柱を安定させてたらしいしね。それに、水陽柱が不安定になるまでの期間にも、バラつきがあるようだ」
「で、それが失敗したりすぐに無意味になった後、何か具体的にできる方法があるのかい?」
内容の割にあんまり危機感とかはなさそうな鬼姫さんのことばに、スールー氏はにやりとほほ笑み。
「あるよ。まだ、細部の計算が完成していないけどね。水を隔離するための空間を科学と魔法を利用して作るモデルと、湖をあちこちに作るモデルを考えている」
と言って、広い机の上に置かれた木製のいびつな球体を手で示す。球体には何やら数字がびっしり書かれているが、良くわからない。そして、スールー氏は一般人に余計なことを説明して優越感にひたるような科学者ではないみたいだった。
「じゃあ、わたしたちのやったことが上手くいかない場合は、頼ってもいいんですね」
わたしのことばに、科学者はほほ笑む。その笑みは、ちょっとリビート先生に似た、穏やかな雰囲気がある。
「期待してくれていい。もちろん、きみたちの作戦が上手く行くようには祈っているよ。今はただ、魔王の件が気がかりだが……」
「それは、あたいらに期待だ」
鬼姫さんが胸を張って刀を叩く。
「それも、期待しておこう」
少しだけ心配そうな表情を浮かべていた科学者は、頼もしそうに、不敵な笑みを浮かべた女戦士に笑顔を向けた。
段々と時間が差し迫ってきたので、わたしたちは最後には少し急いで挨拶をして、彼の研究室兼家を出た。
――エルトリアの未来が、人々のこれからの生活の安全が、わたしたちの行動の結果にかかっているのかもしれない。
今更ながら、わたしは責任の重さを実感したのだった。
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