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富士の裾野の長いバス（後編）
（前編のあらすじ） 富士山のふもとの湖の近くに、黎明期の高速バスが大切に格納されていました。大型のトレーラーを東北地方から持ち込み、ラフタークレーンを使って、大型バスをガレージから引っ張り出しました。このバスの正体
撮影：澤田募様（山梨県 2009.5.2）
トレーラーに乗せられ、これから宮城県へと運ばれる準備が整いました。
ところで、このバスは、元は「東名急行バス」のバスだったようです。1969年に開通した東名高速道路を運行する高速バスは、沿線のバス会社の出資によって設立した「東名急行バス」と国鉄バスの2事業者に免許が下りました。
しかし、新幹線や自家用車、さらには同業の国鉄バスとの競争に苦戦し、「東名急行バス」は早くに解散の運命を辿りました。
ところで、このバスは、元は「東名急行バス」のバスだったようです。1969年に開通した東名高速道路を運行する高速バスは、沿線のバス会社の出資によって設立した「東名急行バス」と国鉄バスの2事業者に免許が下りました。
しかし、新幹線や自家用車、さらには同業の国鉄バスとの競争に苦戦し、「東名急行バス」は早くに解散の運命を辿りました。
撮影：澤田募様（山梨県 2009.5.2）
大きな固定窓
側面の大きな固定窓も目を引きます。高速バス専用の特注ボディで、側窓の縦寸法を大きく取っています。上の写真で分かるとおり、側面最前部の窓が段落ちになっていますが、初期の高速バスのスタイルの特徴です。
また、このボディは軽量化のため軽合金が使われています。
高馬力エンジン
撮影：澤田募様（山梨県 2009.5.2）
もちろん高速バスですので、性能も格段に違います。V型12気筒で350PSの大型エンジンで、通常の観光バスが250PS程度だった時代、破格の出力でした。
型式は三菱のB906R。1970（昭和45）年式だそうです。東名急行バスとしては、開業後1年程度経った後の増備車だと想像できます。
型式は三菱のB906R。1970（昭和45）年式だそうです。東名急行バスとしては、開業後1年程度経った後の増備車だと想像できます。
撮影：澤田募様（山梨県 2009.5.2）
サロンバスに改造
車内後方はサロンシートに改造されていました。これは、これまでの所有者が「東名急行バス」からバスを譲り受けた際、全面改装を行い仕様変更したもの。社員旅行にも使用するため、当時流行りつつあったサロンをつけたようです。
なお、東名急行バスは国鉄バスと異なり、最後部のトイレは最初からなかったようです。
同窓生は博物館に
撮影：交通科学博物館（2005.3.22）
ところで、大阪の交通科学博物館に「東名ハイウェイバス第1号車」が保存されています。同じ東名高速バスでもこちらは国鉄バスなのですが、型式は同じB906Rで、年式は1年先輩の1969年式です。
「東名急行バス」が純正の三菱ボディだったのに対し、国鉄バスでは富士重工製ボディを採用しましたが、側面の段落ち窓などの形態は共通しています。
今回の「東名急行バス」も、博物館入りの価値がある車両だということが出来るでしょう。
「東名急行バス」が純正の三菱ボディだったのに対し、国鉄バスでは富士重工製ボディを採用しましたが、側面の段落ち窓などの形態は共通しています。
今回の「東名急行バス」も、博物館入りの価値がある車両だということが出来るでしょう。
いくつかの謎 その1
撮影：澤田募様（山梨県 2009.5.2）
−東名グリルではない−
撮影：釜石東前（1986.9.23）
東名急行バスからこのバスを譲り受けて以来、1994（平成6）年まで約20年間、これまでの所有者の下で使用されていたこのバス。語り継がれている東名急行バスとは少し異なる点があります。
まず東名急行バスといえば「東名グリル」と呼ばれる特注グリルが有名です。「東名グリル」は、このボディ標準のヒゲ飾りからモデルチェンジしたもので、右写真のようにライトと一体化したものです。
しかし、今回のバスには「東名グリル」はなく、更に1977年以降のモデルに見られるグリルが取り付けられています。
「東名急行バス」の第2次車の写真を見たことがないので、確信は持てませんが、当初「東名グリル」であったものを、譲り受けた際の改造で当時の最新のグリルに交換したと想像できます。
まず東名急行バスといえば「東名グリル」と呼ばれる特注グリルが有名です。「東名グリル」は、このボディ標準のヒゲ飾りからモデルチェンジしたもので、右写真のようにライトと一体化したものです。
しかし、今回のバスには「東名グリル」はなく、更に1977年以降のモデルに見られるグリルが取り付けられています。
「東名急行バス」の第2次車の写真を見たことがないので、確信は持てませんが、当初「東名グリル」であったものを、譲り受けた際の改造で当時の最新のグリルに交換したと想像できます。
謎 その2
撮影：澤田募様（宮城県 2009.5.3）
−後ろ姿が違う−
撮影：ヒツジさん様（麻績村 2004.4.21）
次にこのバスのリアスタイルです。この年式の三菱ボディは、右写真のように後面のスタイルは丸いおでこに2連ガラスになるはずですが、このバスは1977年以降に見られる大型3連ガラスです。
これについては、鳴り物入りで登場した「東名急行バス」特注ボディゆえ、時代を先取りしたスタイルを取り入れていたと推察します。
これについては、鳴り物入りで登場した「東名急行バス」特注ボディゆえ、時代を先取りしたスタイルを取り入れていたと推察します。
謎 その3 −色−
撮影：澤田募様（山梨県 2009.5.2）
それから、このバスは元「東名急行バス」だというのに、写真で見たことのある赤白カラーではなく、「ケイエム観光」のカラーをまとっています。
これは、この所有者が後にケイエム観光から「サミットバス」を譲り受けるなどした際、所有するバスをそのカラーに統一したということのようです。
これは、この所有者が後にケイエム観光から「サミットバス」を譲り受けるなどした際、所有するバスをそのカラーに統一したということのようです。
サミットバスとは
そのサミットバスというのは何なのでしょうか。
所有者によると、1986年5月に東京で開催された第12回サミットのために設計されたロイヤルサロンバス2台のうちの1台とのこと。防弾ガラス、防弾鋼板等を装備し、ケイエム観光により当時の中曽根首相やレーガン大統領、サッチャー首相など世界の要人を乗せて運行した由緒ある車両だそうです。
車内を見ると、大型の1人掛け座席が窓側に1列ずつある豪華仕様で、後部はサロンシートになっています。
この特別車両を入手することが出来た所有者の素性は明らかではありませんが、このほかにも、コンピューターの宣伝用バスを改造したレストランバスや、ネオプランの2階建てバスなども所有しているそうです。
この「ケイエム観光」カラーが、そのほかのバスのカラーにも広げられたようです。
サルベージのきっかけを作った本
ところで、東北地方を本拠地とするサルベージ隊と今回の山梨県のバス所有者との接点はどこにあったのでしょう。
それは、昨年に発行されたオールドタイマー誌にあります。昨年夏ににんにく畑のボンネットバスをサルベージした際、オールドタイマー誌が取材に訪れ、その様子は2008年12月号に掲載されました。その記事の終わりに旧車、廃車体情報の募集記事が小さく掲載されていました。
それは、昨年に発行されたオールドタイマー誌にあります。昨年夏ににんにく畑のボンネットバスをサルベージした際、オールドタイマー誌が取材に訪れ、その様子は2008年12月号に掲載されました。その記事の終わりに旧車、廃車体情報の募集記事が小さく掲載されていました。
これがなければ解体されていた
1994年の廃車後、ガレージにしまわれたこのバスは、2003年頃までは月1回エンジンをかけていたそうです。しかし、今回そのガレージを倉庫に転用する話が持ち上がり、邪魔になったこのバスは解体されることになりました。
そこに、オールドタイマーを見た所有者の息子さんが「ボンネットバスをサルベージしている変な愛好会に連絡してみては」とアドバイス。このバスの情報が伏見さんの元に届いたのです。
そこに、オールドタイマーを見た所有者の息子さんが「ボンネットバスをサルベージしている変な愛好会に連絡してみては」とアドバイス。このバスの情報が伏見さんの元に届いたのです。
撮影：澤田募様（2009.5.2）
宮城県へ
さて、譲渡してもらうまでの経緯はこのくらいにして、「東名急行バス」を載せたトレーラーは、行きとは逆ルートで宮城県へと戻ります。ゴールデンウィークと高速道路1000円が重なり、10時間かかったそうです。
サービスエリアでは
撮影：澤田募様（2009.5.2）
途中のサービスエリアで休憩しながらの行程です。
1970年式の三菱が運ばれていくそばに、2000年代の三菱観光バスが止まっています。
通りかかった観光バスやトラックのドライバーは、「リベット懐かしいね」を連発。携帯カメラで盛んに撮影していたそうです。
1970年式の三菱が運ばれていくそばに、2000年代の三菱観光バスが止まっています。
通りかかった観光バスやトラックのドライバーは、「リベット懐かしいね」を連発。携帯カメラで盛んに撮影していたそうです。
撮影：澤田募様（宮城県 2009.5.3）
到着
保管場所に到着です。
この後、トレーラーから定位置に下ろし、細かい部分の整備に入ります。V12気筒のエンジンは6年ぶりに甦りました。車内も少しずつ手を加えてきれいにしてゆきます。
記念乗車券から見る東名急行バス
開通記念乗車券（1969年10月）
1969年の東名急行バス開通時に発行された記念乗車券に、初代車両の非常口側側面が写っています。
側面の大きな固定窓や段落ちした最前位窓など、今回の保存車両と同じ特徴をもっています。
側面の大きな固定窓や段落ちした最前位窓など、今回の保存車両と同じ特徴をもっています。
開業3周年記念乗車券（1972年8月）
1972年に東名急行バス開業3周年と貸切バス開業を記念して発行された記念乗車券。
富士山を背景にした東名急行バスの写真が写っています。「1960」というナンバーからこの車両の年式は分かりませんが、いわゆる「東名グリル」をもつ顔つき。後ろのほうの角張り具合から、後面は今回の保存車両と同様のスタイルであることが想像できます。
裏面には、「東名バスのプロフィール」と題して、車両の諸元が描かれています。抜粋すると、
- 排気量2万cc、350馬力、V型12気筒。
- 全長12米、総重量14トン、ホイールベース6.4米。
- 登坂能力3％勾配を時速110キロで連続走行可能。
- 完全冷暖房・強制換気装置付、リクライニングシート。
- チューブレスタイヤ、マキシブレーキ付エアブレーキ及び排気ブレーキを取付けた高性能車です。
開業5周年記念乗車券（1974年6月）
1972年に発行された開業5周年の記念乗車券。写真は、スピードを表現するためか車両がぶれていてナンバー等は分かりませんが、上の2枚の記念乗車券の車両と同じ特徴を持った車両です。
Alacarte
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