創作能『杜の湧水』~もりのゆうすい~
『杜の湧水』は、山梨県北巨摩郡(現・北杜市)に伝わる民話を題材にし、「こどもが演じる能」として佐久間が書き下ろした創作能です。
「能」は大人だけが観るもの?大人だけが演じるもの?でしょうか。
かつては日常生活の中で「謡曲」や「能」に親しみ、お稽古する子どもたちもたくさんいました。そんな子供たちが大人となり、「能」という伝統芸能を支え、伝承―。650年もの間、「能」は変わらぬ姿を保ち続けたのです。
『杜の湧水』は「国民文化祭やまなし」をきっかけとして創作されました。
「能」を知らない子どもたちに、ただ「見せる」のではなく、「演じる」ことによって、現代にも息づく伝統芸能であることを実感して欲しい…そんな思いからの企画でした。
そして平成25年(2013年)10月、山梨県北杜市高根西小学校の児童により、実際に演じられ、大変大きな反響を呼びました。
《演じる体験》や《観る体験》を通じて、一人でも多くの子どもたちに、能のすばらしさを伝えていきたいと思います。
『杜の湧水』あらすじ
源宥(げんゆう)と名乗る修験者が二人の従者を連れての旅の途中、北巨摩群(山梨県北杜市)のある村にたどり着く。そこで宿を借りようとするが、人の姿が見当たらない。仕方なく無人のあばら家で仮寝をすると、夢の中に一人の童女が現れ、「この村はかつてわずかな水を求め争ったため、八ヶ岳の神の怒りを受け滅んだ村である。」と告げる。そこで童女は手にした竹を源宥に差し出すと、「あの山の頂に小さな池がある。そこにこの竹を刺せばたちまち水があふれ、村をよみがえらせることができる。しかし山中は険しい。いかなることがあろうとも、この竹は決して失わないように」と言い捨て、幻のごとく消えていく。
目覚めた源宥は、枕元に竹が置いてあるのを見つけると、さっそくに八ヶ岳の頂を目指し旅を続ける。すると途中で熊と狼に襲われるが、刀をもって退治しようとする二人の従者を押しとどめ、法力をもって退散させると、いよいよ山頂の小池にたどりつく。
しかしそこには、これまで見たこともないような巨大な白蛇が小池の前にとぐろを巻いて源宥たちをにらみつけていた。当然、従者たちの刀の力は及ばず、源宥も祈りの力で退散させようとするが、大蛇はかまわず源宥たちに襲い掛かる。そこで源宥は本来ならば手にした竹で蛇の目を一突きすれば退散することを知っていたが、『何があっても竹は失わないように』との童女の言葉を思い出し、結果、己の命と引き換えに小池を譲ってもらおうと、大蛇に身を捧げる。
すると、その勇気に感じ入った大蛇は、源宥を襲うことなく小池をゆずると、源宥は早速に小池に竹を差し、見事に水を溢れさせる。実はこの大蛇こそは、かの村をほろぼした八ヶ岳の神。先刻の熊と狼も、山々の守護神であった。やがて湧水は川となり、山を下り、麓の村を見事によみがえらせた。