−− 2006.09.05 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
2006.12.24 改訂
■はじめに − 盗難中の『叫び』と『マドンナ』を発見
9月1日のAFP通信に拠ると、04年8月22日にノルウェーの首都オスロのムンク美術館から白昼盗まれ行方不明に成っていた、エドヴァルト・ムンク(※1、※1−1)の名作『叫び』と『マドンナ』が今年06年8月31日に2年振りに発見された、ということです。又、強奪後オスロ市は情報提供者に賞金200万ノルウェー・クローネ(約4千万円)を賭けましたが、2作は警察に依って発見された為に賞金は支払われませんでした。ノルウェー警察当局は、発見された2作を「本物に間違い無い」とし損傷状態については「予想より良い」として居ます。実は私は8月の末から9月の初めに旅をして居て、この朗報を知ったのは9月4日のことでした。
■盗難時と犯人逮捕時の私の感想
この2作が盗まれた時、私はその衝撃 −何故、衝撃を受けたかは最後に述べます− を自分の掲示板<板−2>に記して居ます。しかし、この投稿は「掲示板のおちゃらけ議論」には定着されて居ません。そこで事件の経緯と顛末を知って戴く為に、先ず私の掲示板上での感想をここに転載しましょう。
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<04年8月29日:盗難時の感想>
ムンクの名作盗難! 投稿者:エルニーニョ深沢 投稿日: (No.40/2004)8月29日(日)18時45分53秒
<板−2>
ノルウェーからショッキングなニュースが入って来ましたね。もう1週間程前に成りますが。1週間経っても解決して無いので一言。
22日(日)、マスクを被った2人組(3人組か?)が閑静なオスロ市郊外に在るムンク美術館に押し入り、拳銃で威嚇して見学者の目の前で堂々とエドヴァルト・ムンクの名作『叫び』(1893年作)と『マドンナ』(1895年作)の2点を持ち去ったということです。犯人たちが逃走用に使用した黒のアウディは数時間後に発見され、その近くに作品の額縁の破片と思われる物も見付かったとのことで、作品の状態が気懸かりです。
この2作品と『思春期』(1894年作)とは、ムンクの作品の中でも最も評価の高いもので、取り分け『叫び』は、テレビ・コマーシャルなどにもパロディー化されて用いられて居る程、最もポピュラーな作品で、ムンクの代表作です。
『叫び』には4バージョン在り、1つはオスロ市内のナショナルギャラリー(国立美術館)に展示され、2つ目はコレクターが所持、残りの2つがムンク美術館に展示されて居て、盗難に遭ったのはその内の1つです。
盗まれた『叫び』と『マドンナ』は共に<生命のフリーズ>中の『愛』の連作の一部を成す作品で、『叫び』は精神に病んだムンクの内面の不安と葛藤がその儘迸り出た様な構図で、見る人を釘付けにする迫力が有ります。『マドンナ』は死相を宿した様な半裸婦(=マドンナ)を”愛”の対象である精子が取り囲み、片隅から”愛”の結果である胎児が呪う様な目付きでマドンナを睨んで居る、というフロイトが喜びそうな精神分析的な構図です。
警察は犯人逮捕に向け、国境や空港に警戒態勢を布き、ムンク美術館は23日から閉館。今回の事件で、美術品のセキュリティ問題も取り沙汰されて居るそうですが、取り敢えずは世界的名作が無事に戻ることを祈るのみです。
<05年5月1日:犯人逮捕時の感想>
ムンク盗難犯逮捕 投稿者: エルニーニョ深沢 投稿日: (No.53/2005)5月 1日(日)05時06分24秒
<板−2>
昨年の8月29日にこの<板−2>のNo.40で、オスロ市郊外に在るムンク美術館から見学者の目の前でエドヴァルト・ムンクの名作『叫び』と『マドンナ』の2点が3人組と思われる男たちに盗まれたと書きましたが、容疑者と思われる男性が4月8日に逮捕、12日にも2人目の男性が逮捕された、とのことです。
これで盗まれた2作品が見付かる期待が高まって居ますが、盗難後フレーム部分のみが壊れた状態で発見されて居る為、作品の損傷具合が心配です。
盗まれた2作品はムンク作品の中でも最も有名で幾つかのバージョンが有りますが、一説に拠ると『叫び』は日本円で80億、『マドンナ』は20億するという話です。しかし余りにも有名な作品の為に売買は不可能と言われて居て、犯人も現金化出来ず困っているのでは、と推測されて居ました。この2作品は私も大好きな作品なので、無事に発見されて欲しいですね。
■■犯人逮捕後〜絵画発見以前の過去のニュース
そこで、上の犯人逮捕以後から絵画発見迄の経過にどんな事が起きて居たか、過去に遡って主なニュースを拾ってみました。
◆05年5月2日〜06年8月30日の経過
<05年12月20日>
20日のCNNニュースに拠ると、オスロ地検は19日に絵画強奪実行犯の男5人、そして盗難絵画を受け取った罪で6人目の男をそれぞれ起訴したそうです。
事件の概要は、覆面姿に銃でムンク博物館から絵画を持ち出したのは2人で、3人目が運転する車(=乗り捨てられた黒のアウディ)で博物館を離れ、更に別の2人が待機する車に乗り換えて逃走したとのことです。起訴された6人の内、逮捕されて居るのは3人で、有罪に成れば最高刑は実刑17年だそうです。このニュースを読むと、04年8月22日の盗難は予め周到に練られた計画的犯行であったことが解ります。
逮捕から20日位経過して居ますが、盗まれた名画2枚は依然行方不明で、焼却されたのではと危惧されて居るとか。又、犯行の目的や動機は不明の儘で、「個人コレクターの依頼説」や、事件に先立つ「04年4月の銀行強盗捜査の人手を奪う説」など、様々に憶測されて居る模様。後者の説が真実だとすると絵画犯は銀行強盗そのもの、或いはその仲間ということに成り、絵画盗難時の銃や計画的手口から充分考えられ、又その方が話は俄然面白く成ります。否々、私は絵画が心配です。
<06年5月3日>
3日のCNNニュースに拠ると、ノルウェーの裁判所はムンクの絵画盗難容疑の6被告の内、3人に禁固刑、3人は無罪とする判決を06年5月2日迄に下し、美術館から直接強奪した2人に1億2200万ドル(約140億円)の損害賠償金も支払う様命じたそうです。
この2作で日本円にして100億円以上の価値が有る、ということなのでこの損害賠償金はその辺りから弾き出された数字と思われますが、2人の個人にそれだけの支払い能力が有るのかどうか?、売却して利益を得て居れば支払い能力が有るとも言えます。しかし裁判の判決というのは往々にして茶番臭く馬鹿げて居る場合も有ります。
尚、有罪の禁固刑を受けた3人は無罪を主張して控訴の方針とか。
◆絵画発見(06年8月31日)
そして冒頭のニュースの様に06年8月31日に目出度く2作品が発見されたのです。
■■絵画発見以後の新情報追加記事
ここで漸く話が振り出しに戻りました。そこで、例に依って絵画発見以後の新情報をウォッチします。
◆06年9月1日以降の経過
<06年9月26日>
9月26日のニュースに拠ると、戻って来た『叫び』と『マドンナ』が9月26日、発見後初めてムンク美術館に展示され報道陣に公開されました。
<06年12月22日>
発見された当初「予想より良い」とされて居た絵画の状態ですが、12月22日のニュースに拠れば、専門家の話として『叫び』は湿気に因る損傷が目立ち、更に作品の下部には擦り傷など目立つ損傷も有り、修復するかどうかの決定は未定という話です。しかし、未だに犯行目的や動機がはっきりしてませんね。
{このの章は06年12月24日に最終更新しました。}
■結び − 偽善者では無い私も一先ず安心
04年の事件の報を聴いた時、私は大きな衝撃を受けました。以来、ムンクの『叫び』と『マドンナ』が”無事”に戻って来るかどうか私は非常に心配して居ました。と言うのはこの2作が単に有名な名画だからとか高価だから、という世間的な話題性などでは無く、前述の様にこの2作が、人間の内奥に宿す存在不安・愛・死・性という問題を鋭敏な感覚で抉(えぐ)り出して居る点に共感と感銘を受け、私の”お気に入り”の絵だからです。仮に横山大観が盗まれたのであれば、私は殆ど無関心だったでしょう。私は何でも同情したがる”偽善者”では無いのです!
(-_*)
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【脚注】
※1:ムンク(Edvard Munch)は、ノルウェーの画家(1863.12.12〜1944.1.23)。表現主義絵画の先駆者。世紀末の不安・孤独・憂愁など人生の悲劇面に主題を求め、強い色彩とデフォルメに依って内面の感情を表現した。次第に作風は明るく成り、人間的な情感・関心が高まるが、晩年は世界情勢の悪化に伴う苦難の裡に死んだ。「叫び」など。ノルウェーのオスロにムンク美術館が在る。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※1−1:表現主義(expressionism)とは、20世紀初頭から第一次大戦後迄、ドイツの社会矛盾を反映した文学・芸術思潮。自然主義・印象主義に対する反動から作者個人の強烈な主観を通して対象を極度に変形・歪曲する。文学ではG.カイザー/ウェルフェル、絵画ではムンクやコルヴィッツを先駆としてノルデ/カンディンスキーら、彫刻ではレーンブルックら、建築ではタウトら、音楽ではシェーンベルク/ウェーベルンらがその代表。
(以上、出典は主に広辞苑です)
●関連リンク
@補完ページ(Complementary):後を絶たない絵画盗難▼
2007年・ピカソの絵画盗まれる(Picasso's pictures were stolen, 2007)
”偽善者”では無い私▼
ちょっと気になるマンホール蓋(Slightly anxious MANHOLE COVER)
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