A RIVER DREAM, Allen Say, Houghton Miffin, 1988

THE LOST LAKE, Allen Say, Houghton Miffin, 1989

Under the Cherry Blossom Tree: An Old Japanese Tale(1974), Allen Say, Houghton Miffin, 1997

THE SIGN PAINTER, Allen Say, Houghton Miffin, 2000


シンガポールの書店で、アレン・セイの絵本を書棚にあるだけ買って来た。ペーパーバックを二冊、ハードカバーを二冊。“THE LOST LAKE”は椎名誠の訳を読んでいる

“A RIVER DREAM”は、同じように野外活動を題材にした作品。セイと同じくらい気に入っているユリー・シュルヴィッツには、“Rain Rain Rivers”という作品がある。夢が川に注いで広がっていくという点が同じ。子どもの心が部屋を飛び出して空想の世界を飛び回る絵本では、最近読んだ『おじいさんのえんぴつ』(Grandfather's Pencil and the Room of Stories, Michael Foreman、黒田優子訳、金の星社、1996)も楽しかった。

想像の無限の広がりは絵本には欠かせない主題。多くの作家がそれぞれの表現で挑戦している。セイは二つの作品を通じて、家から飛び出して自然のなかに飛び込めば人間関係が修復できることを、そして、そんな豊かな関係があれば部屋のなかでも遠い川へと飛んでいくことができることを、伝えている。

“Under the Cherry Blossom Tree”は、「あたま山」の名前で知られる日本の昔話を元にしている。これ以降の作品と違い、絵はコミカルで躍動感にあふれている。もともと漫画家を目指して修行していたことがわかる。

この物語では、欲深なおじいさんは自分自身に文字通り溺れてしまう。自分の内側に自分自身を投げ込んでいる絵を見ていたら、「自分を裏返す」という言葉が思いついた。谷川俊太郎の若い頃の詩に「俺を裏返せ」という言葉がある。題名は忘れてしまった。その言葉がずっと心の端に引っかかっている。森山啓『谷間の女たち』の書評を書いたとき、反省自己批評という意味で「自分を裏返す」という表現を使った。

欲望に負けることも自分を裏返す、反省することも自分を裏返す。違いは、裏返したあとに自分が残っているか、池しか残っていないか。つまり、自分の限界に挑戦するという意味では、野心に溺れることと野心を棄てることは紙一重なのかもしれない。

“THE SIGN PAINTER”は、幻想的な作品。最後のページにエドワード・ホッパーのよく知られた“Nighthawks”が引用されている。この絵を見るまで、セイとホッパーの画風が似ていることに気づかなかった。無表情の人物、登場人物以外に人通りのない風景、写実性のなかに現実にはありえないものを忍び込ませて絵画であることをわざとわからせるところなどが確かに共通している。そして、見るものに即座に解釈を与えないという点でも、二人の絵は共通している。

この作品が暗示するものは何なのか、私にはよくわからない。芸術家になる途上の若者の不安や決意を象徴するということはわかる。それでは職業として絵を描くことは完全に否定されているかというとそうではない。絵を描くためには生きていなければならないし、生きていくためには食べていかなければならない。そして、食べていくためには働かなければならないから。

冒頭、“Are you lost, son?”と看板画家に尋ねられ若者は答える。“Yes, I mean... no.”肯定でもあり否定でもある応答。そしてもう一つ、印象深い台詞、“just passing by”も、謎めいている。「ただ通り過ぎていくだけ」とは、どういうことだろう。人は出会ってもまたすぐ別れていくことを意味しているのだろうか。それとも、自分がほんとうにしたい仕事以外は、ただ食べるためにやり過ごすほかないという意味だろうか。

途中に登場する巨大なローラーコースター“ArrowStar”は野心や欲望を象徴しているのだろう。では、野心や欲望は、職業や芸術とはどういう関係にあるのか。

紹介記事セイの経歴やインタビュー、それからコールデコット賞受賞挨拶も探して読んでみた。絵本作家アレン・セイについてはいろいろなことがわかったけれど、この作品は何を伝えようとしているのかは、やはりわからない。

職業や仕事に心から打ち込んでいる人や、芸術とは何か、芸術は職業や仕事とどう結びつくのか、という問いに自分なりの答えをもっている人であれば、最後のページの若者の表情を読み取ることができるだろう。例えば、ある人は読み終えて、この若者は次の町で芸術家になったと想像するかもしれない。

私には、次の町でも彼はまた職業につくように思えてならない。それは絵とはまったく関係のない職業かもしれない。それでも彼は絵をやめないだろう。でも、どんな風に絵を続けるのか、何も想像がつかない。

職業、仕事、芸術、という言葉に何ら定義を与えられずに過ごしている私には、この絵本はわからないことばかり。ただ時間だけが通り過ぎていく。Only time is passing by.