青い空の彼方

本をつくりたい。これは長年の夢だった。第一部で無理やりにJavaScriptを使って縦書き表示にしたのも、本への憧れからだった。

自費出版をいつかしたいと思っていた。いつか、というのはいまはお金がなくてできないから。夢は遠い夢のままだった。

今年になって、夢が動きはじめた。まず4月にKindle版電子書籍をつくった。校正や表紙デザインに手間を取られたけれど、出版することじたいはあっさりできてしまった。費用もまったくかからなかった。

さあ次は紙の本。電子書籍が簡単にできたものだから意気込んでみたものの、どこのサービスを見ても、やはり費用が高い。自費出版をする人の平均年齢は67歳という記事を読んだので、実現はまだまだ先になると意気消沈した。

そんな折、X(旧Twitter)で「基本無料でできる自費出版」という広告が流れてきた。

会社名はネオパブ。現在はパブファンセルフという社名に変わっている。

「無料なんて怪しいな」と疑いながらウェブサイトを見ると、AmazonでPOD(Print On Demand)をするサービスとわかった。オンデマンド出版は、絶版になった学術書などでも使われている出版方法。注文された分だけ印刷するから在庫負担などはない。その代わり、一冊つくる費用は安くない。そういうイメージを持っていた。

怪しいものではないことがわかったので、電子書籍で使った原稿を元にして一冊あたりの費用を見積もってみた。結果は400ページで3,000円。悪くない。最近買った『徴候・記憶・外傷』(中井久夫)が404ページで3,800円だった。何とか専門書並みの価格で本がつくれることがわかった。しかも初期費用はほとんどかからない。

これは試すしかない。そう決心して、作業をはじめた。電子書籍では画面のサイズによってレイアウトが変わるリフロー型だった。紙の印刷では原稿のPDF通りに印刷される。行末を文節や音節で区切る私のスタイルも再現できる。

ところが、この作業がたいへんだった。いま時間を持て余しているとはいえ、400ページの推敲と校正にはかなり時間がかかった。しかも、何度見直しても誤字脱字や行末の不揃いが見つかる。

もう一つ、手間取ったのがリンクの削除。電子書籍の原稿ではたくさんリンクを貼った。リンクがついた文字には傍線がつく。これをひとつずつ削除していく。これも、何度やっても見落としがあり、時間がかかった。

校正してゲラ(印刷用PDFファイル)を作り、また校正。これを何度、繰り返したことか。校正という専門の仕事が成り立つ意味がわかった。

楽しかったのは表紙のデザイン。Canvaというオンラインソフトを使った。基本デザインは電子書籍版と同じ。文字のサイズや色、写真の配置を念入りに行なった。こちらは何度繰り返しても辛くはなかった。色選びにはずっと昔に買った配色の本『世界の配色ガイド』を利用した。

本をつくるときには、セルフ・プロデュースにしたいと前から考えていた。文字のフォントから装丁まで自分の思い通りにつくりたかった。今回、ほぼ実現できた。装丁の素材以外、本のデザインに関係するところはすべて自分で決められた。

人名索引も作った。予想していた通り、森有正が一番参照数が多かった。1ページに収めなければならなかったので、割愛せざるを得ない人もいる。北村匠海は二度、浜辺美波は一度しか登場しないので掲載はあきらめた。代わりに出演した作品を監督した月川翔を入れた。また、一度しか登場してなくても、尾崎翠米津玄師は索引に入れた。索引を見れば、私の読書の傾向がわかるだろう。

本をつくるからには、きちんとつくりたかったので、ISBNも取得した。これは少し費用がかかった。5,500円。一回、呑みに行った程度。

売れることは期待していない。内容からいっても、多くの人が関心を持つ本とも思えない。

自分が思い通りにつくった本が一冊、手元にあればいい。いまは誰かに贈ることも考えてはいない。「カミングアウトしない」という宣言を本のなかで宣言しているから矛盾している。誰かに読ませるものではないだろう。

興味を持ってくれる人には読んでもらいたい。自分からはもう告知や宣伝はしない。


参考:ブックデザイン

ブックデザイン

さくいん:中井久夫北村匠海浜辺美波月川翔尾崎翠米津玄師