素晴らしい夜だった。演奏も、選曲も、サポートミュージシャンも、視覚効果も、すべてが完璧だった。そして何より、家族で過ごした時間が最高だった。
昨日は午後を休みにして、昼過ぎに出かけた。今日も、一日休みにして、余韻に浸りながらこれを書いている。
バス停でのんびりしていると、娘から「もうグッズ販売の列にいる」と連絡があった。販売開始とともに並んでくれたらしい。すぐにTシャツをお願いして返信した。妻と息子も買ってほしいものを伝えた。
総武線に乗り水道橋で降りて東京ドームへ向かうと、物販には長蛇の列。追加の買い物はあきらめて、すでに買い物を終えてハンバーガーショップにいる娘と合流した。しばらくして妻と息子も到着した。時刻はまだ3時過ぎ。開場までにはまだ2時間ある。それまで店で待つことにした。皆はコーヒー、私はビールを呑んだ。グッズを購入した人が店に集まりはじめてたちまち満席になった。外は寒波。座って待っていられるのはありがたいことだった。
5時半に予定通り開場。アリーナということはわかっていたけど、正確な場所は、行くまでわからなかった。しかもS席のエリアが広く、ステージの前からスタンド席までS席。これはかなり不公平な配置だった。
私たちの席はアリーナの一番後ろの左側。ちょうど三塁側ベンチの前だった。「ここでWBCのあの熱戦が繰り広げられたのか」。東京ドームでは、そういう感慨もあった。
ステージの様子は肉眼ではほとんど見られなかった。それでもアリーナ席だったので没入感と臨場感は十分に味わえた。
開演前「1曲目は何だろうね」と息子に訊いた。「"My Life"か"Miai 2017"じゃない」と息子。かつては"Prelude/Angry Young Man"で始まることが多かったけど、最近は演奏していないらしい。「意表をついて"Movin' Out"」と私は返した。
いよいよ開演。1曲目は"My Life"、2曲目が"Movin' Out"だった。そのあとは休むこともなく、怒涛のようにヒット曲が続いた。
選曲で、驚きながらうれしかったのは、"Movin' Out"のほか"Zanzibar"と"Keeping the Faith"。後者は、息子が幼稚園児の頃、米国出張の土産のDVDで繰り返し流して踊っていた思い出深い曲。本人はあまり覚えていないらしい。
選曲は"The Stranger"、"52nd Street"、"Glass House"、"An Innocent Man"からが多かった。70年代後半から80年代半ばまで。小学五年生で姉に教わり、高校受験の勉強の頃まで。MTVを流す番組が流行っていた頃。ビリー・ジョエルを一番聴いていた頃でもある。
コンサートに満足した理由はいくつかある。まずサポートミュージシャンが超一流だった。間奏のアドリブもコーラスもよかった。まさか、"The Longest Time"をライブで聴けるとは思っていなかった。
次に、アレンジがオリジナルからあまり変えていなかった。間奏では、ギターやサックスがアドリブを聴かせていたけれど、それもオリジナルのメロディからかけ離れたものではない。聴き慣れたオリジナルにほどよくライブ感を加えていた。
声もよく出ていた。"An Innocent Man"では「もう"High Note"を出すのはたいへん」と言いつつ、見事に歌いきった。音楽プロデューサーの本間昭光によれば、一部の曲はキーを下げていたらしいけれど、私にはわからなかった。
視覚効果でよかったのは、"We Didn't Start the Fire"。そもそも2時間近く歌ったあとのアンコールの1曲目がこれだったことに度肝を抜かれた。70歳を過ぎているとはとても思えない、みなぎるパワーを感じた。
ビリーが生まれた1949年から世界史を振り返る"We Didn't the Fire"。スクリーンには、歌詞に登場する人物の顔が次々に映し出された。指で、スマホの画面をスライドするような細工も楽しい。おそらく発売されるであろうDVDで詳しく確かめたい。
アンコールの最後は"You May Be Right"。盛り上がったままコンサートは終演。"Just the Way You Are"のようなしっとりした曲で終わると予想していたので盛り上がったままで終わる演出には驚いた。この終わり方もよかった。
2006年に、ビリー・ジョエルについて思うところを文章にした。そのときは将来、家族で彼のライブを聴く機会があるとは夢にも思わなかった。
20年近く前に書いた文章にも、ビリー・ジョエルほどに聴き込んでいるミュージシャンはほかにはいない、と書いた。それは今でも変わらない。昨夜は、彼の音楽が私の人生をどれほど豊かにしてくれたかを実感した夜でもあった。
息子がチケットを確保してくれて、娘が先入りしてグッズの購入をしてくれた。家族のありがたみを感じた。十代初めに姉を失くしている私にとって、家族が揃って元気でいることは何よりの幸せ。
姉が教えてくれたビリー・ジョエルを、姉のことを知らない子どもたちが楽しそうに聴いている。「受け継ぐ」とはこういうことなのだろう。
Someday your child may cry, and if you sing lullaby
Then in your heart there will always be a part of me
ーーー"Lullabye"
この歌の意味がよくわかった。姉に感謝したい気持ちを初めて感じた。ありがとうという気持ちで胸がいっぱいになった。
子どもたちには、あえて姉のことは話さなくてもいい。一緒にビリー・ジョエルを聴いたことで、私の気持ち、すなわち姉への感謝の気持ちは、彼らに十分に伝わった。
昨夜のセットリスト。いろいろなメディアでセットリストを聴いたりMVを見たりできる。
- My Life
- Movin' Out
- The Entertainer
- Honesty
- Zanzibar
- Start Me Up
- An Innocent Man
- The Longest Time
- Don't Ask Me Why
- Vienna
- Keeping the Faith
- Allentown
- New York State of Mind
- The Stranger
- Say Goodbye to Hollywood
- Sometimes a Fantasy
- Only the Good Die Young
- The River of Dreams
- Nessun Dorma
- Scenes from an Italian Restaurant
- -encore-
- Wd Didn't Start the Fire
- Uptown Girl
- It's Still Rock and Roll to Me
- Big Shot
- You May Be Right
さくいん:ビリー・ジョエル、HOME(家族)、70年代、80年代