その頃
のびぞう 「ノラざえもん、ヒネ夫がつけてた竹トンボは見つからないよ」
ノラざえもん 「そうか。それは困ったな」
のびぞう 「それよりも大変なんだ。PTAが騒ぎ始めてるんだ」
ノラざえもん 「PTAが? どこで?」
のびぞう 「学校で」
ノラざえもん 「学校で騒いじゃダメじゃないか。先生に怒られちゃうぞ」
のびぞう 「ノラざえもん。食いつく所が違うよ。大体、PTAは先生に怒られないよ。どちらかと言えば怒る方だよ」
ノラざえもん 「そうだったのか。先生を怒るなんて隅に置けないな。で、何を騒いでるって?」
のびぞう 「ヒネ夫が空を飛んだのは、ノラざえもんが与えた竹トンボのせいだって、もうバレてるんだ」
ノラざえもん 「だからヒネ夫に与えたのはボクじゃなくてのびぞう君だろ。正確に言えば、いじめられて巻き上げられたんだけどさ。ハハッ」
のびぞう 「笑う所じゃないよ、そこ。で、PTAはそういう危険な物を簡単に出しちゃうような変な生き物を飼うことを禁止しようとしてるんだ」
ノラざえもん 「それはもっともだ。変なものを簡単に出しちゃうような変な動物は、保健所に引き取ってもらえばいいんだ」
のびぞう 「え? 何のことか分かってる?」
ノラざえもん 「カメレオンとかトイプードルとかだろ」
のびぞう 「違うよ。ノラざえもんのことだよ、ノラざえもん! ペットでもないのに人の家に居候して、学校にも行かないでゴロゴロしている生き物は、教育にも良くないって言うんだ」
ノラざえもん 「それは濡れ衣だよ。こんな役に立つ生き物は他にないと思うんだけどな」
のびぞう 「でも、今度の一件はまずかったよ」
ノラざえもん 「でも、こういう生き物はボクだけじゃないよ。隣町の大原君のところにはオバケのQ太郎っていうのが居候してるし、中学生のヒロシのTシャツにはピョン吉がくっついてるし、あと、ロボコンとかこまわり君とか、そんなのいくらでもいるよ」
のびぞう 「こまわり君は人間だけど」
ノラざえもん 「細かいことに気付いていないでさ、もっと本質を捉えようよ」
のびぞう 「それはそうと、こういう危機的状況の中で、何か道具を出すことは出来ないの?」
ノラざえもん 「そうだな。じゃあ、♣インスタント・メモリアルアルバム!」
のびぞう 「何それ?」
ノラざえもん 「生前の写真を1枚入れるだけで、分厚いメモリアルアルバムが出来るんだ。読むだけで1年間はかかるから、別れの悲しみから開放されること請け合いだよ」
のびぞう 「まだ生きてるかもしれないって言ってるだろ」
ノラざえもん 「そうか。じゃあ、♣ミュージアム作成キット!」
のびぞう 「これは?」
ノラざえもん 「生前のデータをマニュアルに沿って入力するだけで、立派なメモリアル資料館が出来るんだ。ミュージアムショップで売るキャラクターグッズとか郷土のお土産もワンクリックで作れるよ。」
のびぞう 「え? じゃあ、ボクのデータを入れれば、ボクのグッズも出来るの?」
ノラざえもん 「もちろんさ。死ねばね」
のびぞう 「生きてるよ! ボクも、ヒネ夫も!」
ノラざえもん 「まあそう興奮するな。オプションを選択すると、海の見えるカフェが作れたり、エントランスの中央に剥製が展示できたりするよ」
のびぞう 「剥製? ホッキョクグマじゃないんだから、ヒネ夫を剥製にするなんて、気持ち悪いよ」
ノラざえもん 「それもそうだな。あと、♣港の見える墓地優先購入券! だってあるよ」
のびぞう 「もういいよ。ノラざえもん。キミに付き合ってると、大事な友達を失いそうだ。ボク、これからヒネ夫の無事を確認してくるよ。またな」
ノラざえもん 「行ってしまったな、のびぞう君。今ボクが出したものはここに全部置いておくよ。これを使って、ボクのことをずっと忘れないでいてね。さあて、帰るかな」
岩手県のバス“その頃”