その頃
のびぞう 「ノラざえもん! おなか空いたよ」
ノラざえもん 「ふうん」
のびぞう 「ふうん、じゃないよ。何か食べもの出してよ」
ノラざえもん 「おえ〜」
のびぞう 「うわっ、汚い。いきなり昼に食べたもの出さないでよ」
ノラざえもん 「出せって言ったり、出すなって言ったり」
のびぞう 「そういう意味じゃないんだよ。おなかが空いたから、僕が食べるものを出してほしいんだよ」
ノラざえもん 「日本語って難しいなあ」
のびぞう 「ちゃんと流れを読めばわかるだろ」
ノラざえもん 「いや、あるおばあちゃんが言ってたんだけど、駅の売店の“キヨスク”をずっと“ヨネスケ”だと思い込んでたって言うんだ」
のびぞう 「どうしてホームの売店が他人の晩ごはんに突撃するんだよ」
ノラざえもん 「だからそのおばあちゃんは、ヨネスケは昼は駅の売店で働き、夜は他人のうちの晩ごはんを研究するなんて、働き者だって感心していたよ」
のびぞう 「でもその話は、日本語が難しいという話とはちょっと違うだろ」
ノラざえもん 「それじゃあボクも言わせてもらうよ。のびぞう君が食べ物をねだる相手はお母さんだろ。相手を間違えるから、話の内容も間違えるんだよ」
のびぞう 「お母さんは、今日は同窓会があって遅くなるから、家にいないんだ」
ノラざえもん 「同窓会? それはキケンな香りがするな」
のびぞう 「どうして?」
ノラざえもん 「同窓会と言うと、昔の同級生に会うんだろ。初恋の人に再会して、思いのほかいい男になっていて、現実のダメな夫やダメな息子との生活から逃げ出せるかもしれないと言うほのかな期待に、お母さんは重大な決意を固めてしまうかもしれないんだよ」
のびぞう 「ふうん、そうなの。で、食べ物は何を出してくれるの?」
ノラざえもん 「のびぞう君、どうして僕の話にきちんと突っ込まないんだよ。いじめられっこはこれだから困るよ」
のびぞう 「ハイハイわかりました。ボクは何せ今おなかが空いてるんだ」
ノラざえもん 「しょうがないなあ。それじゃあ、山梨の♣鶏もつ煮!」
のびぞう 「うわっ。ボク、鶏肉ダメなんだよ」
ノラざえもん 「先に言ってよ。もう出しちゃったよ」
のびぞう 「僕の好みくらいちゃんと知ってると思ったよ」
ノラざえもん 「じゃあ・・・♣八戸名物せんべい汁!」
のびぞう 「お! これなら、食事にもおやつにもなるね。でも、どうして地方のB級グルメばかり出すんだよ」
ノラざえもん 「今はB級かもしれないが、いつしか食卓のスタンダードになるかもしれないよ」
のびぞう 「でも、八戸せんべい汁だって鶏肉が入ってるじゃないか。どうしてそういう意地悪するの?」
ノラざえもん 「いやあ、気がつかなかったよ。それより、出しちゃったものは、ちゃんと食べてよ。冷めちゃうし」
のびぞう 「苦手なものは食べられないよ」
ノラざえもん 「そんなこと言うんなら、♣バーチャル胃袋!」
のびぞう 「え? 何それ」
ノラざえもん 「この胃袋をのびぞう君の胃袋に設定するだろ、そうするとパソコンで食べ物の名前入力するだけで、おなかに食べ物が入るんだ」
のびぞう 「へえ、それは画期的」
ノラざえもん 「やってみるよ。“かつ丼””Enter” ほら、おなかに入ったろう?」
のびぞう 「うん。満腹!」
ノラざえもん 「でもちょっと栄養バランス悪いな。“サラダ”“Enter”“たくあん”“Enter”」
のびぞう 「ちょっとのどが渇いたなあ」
ノラざえもん 「じゃあ。“ほうじ茶””Enter”」
のびぞう 「面白そう。ちょっとボクにも貸してよ。“ハゲハゲダットの高級アイスクリーム”“Enter”“感心堂の高級いちご大福”“Enter”“駅前で売ってるカスタードクリームたい焼き”“Enter”“ファンタアップル”“Enter”」
ノラざえもん 「おいおい。ちょっと調子に乗りすぎじゃないか?」
のびぞう 「うう。なんだか気持ち悪い。もどしそう・・・」
ノラざえもん 「ちょっと待て。“今までのすべてを削除”“Enter”」
のびぞう 「ふぅ・・・すっきりした。一時はどうなるかと思ったよ。・・・でも、今度はおなかがすいたな」
ノラざえもん 「よし、それなら“フルオート機能”“Enter”」
のびぞう 「あれ? 何やったの?」
ノラざえもん 「フルオートにするとね、のびぞう君の胃袋に、必要で十分な量の食べ物を常に供給することができるんだ。おまけに、栄養バランスとかも考慮されているから、健康状態も良好に保てるよ」
のびぞう 「本当だ。なんだか元気になったよ。ちょっと町でジョギングしてくるね」
ノラざえもん 「やれやれ。・・・アレ、待てよ。マニュアル見るとフルオート機能は病人専用だって書いてある。過激な運動すると栄養の需給関係が壊れて、人体が破壊されちゃうぞ」
岩手県のバス“その頃”