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分析と分析値の信頼性を、管理して保証するということ

 このページには、品質保証(QA=Quality Assurance)及び品質管理(QC=Quality Control)に関する資料を少しずつ集めていきます。私はQAの専門家ではありませんから、既にGLPやISOへの対応を本格的に進めている機関の方には、このページはほとんど役に立たないと思われます。たとえば、将来的なQA対応をめざして情報収集中/QA対応の予定はないがQCを強化したい、といった分析機関や分析部門に所属する方には、役に立つ可能性があります。

QA・QCの勉強がやりにくい理由(2003/6/22)
現代統計実務講座を受講して (2004/6/20)
地方衛生研究所のホームページで公表されているQA取り組み状況(2003/6/22)


QA・QCの勉強がやりにくい理由(2003/6/22)

 信頼性保証や精度管理という言葉で表現されるテーマは、分析化学に携わる者の基礎科目と言ってよいほどになってきた。たとえば、日本分析化学会編「分析化学便覧(改訂5版)」の主要内容をざっと見れば、このテーマが分析化学に占める比重がよくわかる。けれども、これほどつかみどころがなく、勉強しにくい分野も珍しいと思う。とりあえず、なぜこの分野は勉強しにくいのかを考えてみれば、少しは勉強しやすくなるかもしれない。

 まず、@用語や訳語が統一されていない。このページのタイトルをどうするか、かなり悩んだ末に「分析と分析値の信頼性を、管理して保証するということ」というややこしいものにしたが、よく使われる言葉だけでも、信頼性保証・品質保証・品質管理・精度管理など、いくつも挙げられる。私は以下、「QA・QC」を使っておく。訳語が統一されていない例として、たとえばAssuranceの訳語に保証と確保があり、Qualityの訳語に品質・分析の質・信頼性等がある。その他にも、統一されていない訳語は気が遠くなるほどある。こういうことになっている背景として、日本では長らく分析値の信頼性が問われることがなかったという事情がある。主に欧米が先導して国際的に普及してきた分野だから、まだ日本で十分に消化されているとは言えない。

 また、A品質管理(QC)と品質保証(QA)をごっちゃに考えて混乱しがちになる点にも注意が必要だ。これも、日本で分析値の信頼性が問われることがなかったことと関係しているのだが、たいていの分析機関や分析部門では、体系的な品質管理をほとんどしてこなかったのに、いきなり品質保証に対応せざるを得ない場合が多い。品質管理は、分析の質を把握したり質向上のための活動をすること自体を指すが、品質保証とは、外部に対して分析値が得られる過程を詳細に示すこと等によって信頼性を保証することだ。大ざっぱに言って、技術的な面のレベルは QC > QA をめざすべきだし、文書や組織面のレベルは QC < QA になるだろう。また、QCはどこまでも追求可能だが、QAはその時点や分野に応じて社会的・制度的に要求される水準というものがある。QA・QCでやらなければならないことは多いが、それぞれの達成水準をQAに合わせるのかQCに合わせるのかきちんと把握しておかないと、不十分になったり過剰になったりするおそれがある。

 BQAは法律や制度がからむ問題であることも、理系にとっては苦手意識の要因になる。科学的事実のように動かない答えがあるわけでなく、人間が定めるルールが基準になる。また、QCにしても、技術的な問題に限らず、組織のあり方や人材教育などまで総合的に考えなければ、実効性のあるものにならない。

 一層わかりにくいことに、CQAにはGLPとISOの2系統がある。そして、それぞれに専門家集団が存在して日本に導入してきたから、訳語の不統一がなおさら拡大された。
 GLP (Good Laboratory Practice)は強制であり、各国が法律に基づいて定めるものだから、この適用を受ける分野では、対応しなければ営業や業務ができない。GLPはもともと医薬品で進められたが、現在では農薬や食品分析等にも適用が拡大している。
 一方、ISOは国際標準化機構(International Organization for Standardization)のことで、ISOが定めるQA基準は非強制である。ISOの認証を取得しなくても、営業や業務はできる。ただし、同業他社の大多数が認証を受ける状態になったら、認証を受けない機関は受注競争で不利になるだろう。ISOは工業製品で始まったから、GLPよりも適用範囲が広い。なお、ISOは電気分野だけは対象としていないが、電気分野のIEC (International Electrotechnical Commission)と統合してISO/IEC規格として広く使われるようになってきた。

 さらに、D分析化学の領域は幅広いため、QA・QCには各分野で異なる技術的な問題があり、未解決な問題も多数ある。医薬品GLPは歴史が古いから他分野への導入もこれが基本になってきたが、なかなか一筋縄で行かず、各分野で模索中だ。現時点で懸命に勉強した内容も、何年か後には古くなってしまうかもしれない。

 以上のような理由があいまって、Eそもそも教科書がないという状況だ。 日本分析化学会編「分析および分析値の信頼性」はたいへんよくできた解説で、必携と言ってよい。これが刊行されたのは1998年だが、この本を買ったとき私は、これから似たような本が続々出版されるのではないかと思った。しかしその後も類書は出ていない。(より細分化されたテーマでの書籍はいくつか出ている。)個別分野で出されているGLP基準やISOに対応したJIS規格を入手したり、関連学会が主催するセミナーに参加するなどして、教材の調達から自力でやる必要がある。

 最後に、F統計の素養が必要というハードルもある。これは個人的な問題に過ぎないかもしれないが、私の場合、(財)実務教育研究所の現代統計実務講座という通信講座(8ヶ月間)を受講して、やっとQCの根底にある考えが理解できるようになった。分析をやる人が得意なのは化学だろうが、統計は化学とは頭の使い方がかなり違うので、腰を据えて取り組まないとなかなか身につかないと思う。

 以上、QA・QCを勉強しにくい理由は、私が考えついた限りで7つもある。こういう勉強しにくい分野なのだと認識するのが第一歩ではないだろうか。そして基本は、自分の働く試験室を小さな工場と捉えて、いかにいい製品(分析値)を作るか、分析の依頼者や関係者にいかに品質を信頼してもらうかを考えていくことだろう。

参考文献:日本分析化学会編「分析および分析値の信頼性 信頼性確立の方法」(丸善)1998


現代統計実務講座を受講して (2004/6/20)

 統計の基礎を勉強するために、2002年頃、財団法人 実務教育研究所 が提供している 現代統計実務講座 を受講した。食品衛生関係の業界誌などにもよく広告が載っている講座で、見かけたことがある人も多いと思う。受講を検討されている方のために、私の受講体験を書いておく。

分析屋にとってどんな風に役立つか

 受講したことで、いろいろな分布、標本抽出、誤差法則、推定と検定、回帰と相関といった統計の基礎が体系的に理解できた。私は大学では全く統計に関する講義を選択しておらず、受講前の知識は高校レベルだった。つまり、平均値と標準偏差と抜き取り試験の確率程度しか知らなかった。それが、受講によって、少なくとも各用語の意味は理解できるようになったし、各種統計計算も、スラスラというわけには行かないが、テキストのどのあたりを参照すれば解けるか見当がつくようになった。なにより、統計というもの全体を貫く考えをつかむことができた。

 品質管理に統計は欠かすことができない。自分の試験室が出している分析値の精度を評価するのは、分析値の品質を管理するということだ。食品分析分野では松田りえ子さんの「内部精度管理−食品衛生検査の実際」(林純薬工業、1998)がおそらく唯一の総合的な解説書だが、統計の基礎が理解できていなければ、こういう本の内容を理解するのは難しいと思う。残留農薬スクリーニングの腕前を確かめるには のような考察も、要は統計の話だ。

 また、不確かさの概念の基本には誤差法則がある。誤差を理解するためには分布を理解しておかないといけない。検量線は表計算ソフトを使って簡単に描けるとはいえ、その不確かさを評価するためには、回帰と相関を理解しておく必要がある。それから、微量不純物を指標にしてプロファイリング分析を行う場合には、クラスター解析を利用する場合が多い。

 精度管理の講習会の講師をされている方から聞いた話。「聴講者から『添加回収率は何%以上なければいけないんですか?』という質問がよく出る。そんなことは一律に決められることではなく、分析対象物や試験法によって違うものなのに」とのこと。統計を勉強すると、この講師の嘆きの意味がよくわかる。母集団(毎日の分析値)から標本(管理試料)を抜き取るわけだが、根本的に重要なのは標本でなく、母集団がどのように分布しているかを把握することなのだ。

講座の概要と受講の実際

 この講座の「テキスト」は8単元で構成されている。
  1.統計とは何か
  2.集団構造の記述
  3.母集団と標本
  4.推定と検定
  5.回帰と相関
  6.統計調査
  7.標本調査法
  8.品質管理と実験計画
 各単元を1ヶ月で履修する。つまり8ヶ月が受講期間だ。8ヶ月で消化しきれなかった場合も、4ヶ月まで受講期間の延長が認められている。

 履修する内容はすべて厚い「テキスト」に書かれているが、別途「ガイドブック」という薄い本があり、こちらに、単元のねらいや学習のてびき、参考図書などが書かれている。つまり、「テキスト」が教科書とすれば、「ガイドブック」は教師のアドバイスみたいなもの。各単元ごとに、まず「ガイドブック」を読んでこれから学習する内容を把握し、単元の最後にもまた「ガイドブック」へ戻っておさらいする、というパターンで勉強する。

 各単元ごとに「報告課題」がある。この答案を作成して郵送すると、添削されて返ってくる。これ以外にも、講師に不明点をききたい場合は「学科質問」の制度が用意されていて、郵便で問い合わせるようになっている。最後に「終末試験」があり、これに合格すると修了認定される。

講座を受講する意味

 基礎レベルの統計は既に強固に確立された分野であり、書店に並んでいる入門書の項目も互いにあまり違わないように見える。それなら、講座を受講しなくても、自分で関連書を買い集めて自習するほうが経済的とも思われる。(現在の入学金は 5,000円、受講料は 54,800円。)

 でも、私の場合は意志が弱くて、自分だけで勉強しようとしてもなかなか進まなかったろうと思う。毎月報告課題を出さなければならない、そのためには単元の内容を理解しなければならない、さもなければ受講料が無駄になる・・・という圧迫感があってこそ、全部をこなすことができた。ただし、「一日の学習時間の標準は60分から90分程度」とされているが、そこまではできなかった。山場は第3から第5単元で、このあたりはそれぞれ十数時間は勉強した記憶があるが、その他の単元はもっと手抜きした。

資格ビジネス

 以下は余談。資格はビジネスだと実感したことについて。

 この講座の修了者には「修了証書」が発行される。修了証書の費用は受講料に含まれている。別途、修了者には「統計士」という資格が付与されることになっていて、統計士の証明書がほしい場合は3,000円払い込む。(この資格にどんな意味があるのだろうか?と思いつつも、私は3,000円支払った。)また、この講座を修了したことを第三者に証明したい場合は、「修了証明書」を発行してもらえる。1通2,500円。希望する連絡先(勤務先の人事担当部署長や上司など)に、修了した旨、推薦書形式の書類で通知してもらうこともできる。1通3,000円。

 上位の講座に 多変量解析実務講座 というのがあり、これも受講料50,000円程度だが、案内が頻繁に届いた。講座受講中も、修了後も一年間くらい、しつこいほどダイレクトメールが来た。

 さらに、(財)社会通信教育協会 というところが運用している 生涯学習インストラクター という制度がある。各種講座を「優秀な成績で」修了すると、生涯学習インストラクターとして認定されるとのことで、該当者は各講座から社会通信教育協会へ推薦される。私は「統計インストラクター2級」に推薦された。もっと成績が良ければ「1級」だったのだろうか?

 この資格にどんな意味があるのか「統計士」以上にわからなかったが、地域の生涯学習センターで講師が必要とされた場合等に紹介されるとのことだったので、申請した。12,000円ほどかかった。今のところ、講師の依頼はない。ただ、大阪生涯学習インストラクターの会 というところから入会案内が届いた。年会費3,000円だそうだ。資格で稼ぐ金額より資格に投資する金額のほうが多いものなのかも・・・「資格」で自信が持てて充実感を感じられるなら、お金を払う価値はある。退職したあかつき(約20年後の予定)には、入会させていただいて、地域社会に貢献したい。

 統計を身につけるという必要のみに照らせば、最初に払い込んだ受講料で十分だった。せっかく得た知識を忘れてしまわないよう、仕事に使う部分だけでなく、全般的なこともときどき復習しようと思う。


地方衛生研究所のホームページで公表されているQA取り組み状況(2003/6/22)

この表をまとめた目的
 各機関の取り組み方と、取り組みの公開の仕方を概観すること。

表の作成方法
 全国の地方衛生研究所のホームページを閲覧し、組織図(図の形になっていなくても、すべての部門が掲載されていれば組織図とみなす)が掲載されているか確認した。掲載されている場合は、その図の中に名称として独立したQA部門があるか否かを確認した。また、部門名として独立していなくても、業務内容紹介などでQAの担当部門や担当者が書かれていないか確認した。各ホームページにQA関連の記事が掲載されている場合は、「関連ページ」としてリンクを示した。
 なお、地方衛生研究所は、同一自治体内の他機関(保健所等)のQAを担当する場合もあり、QA部門の対象が主に他機関なのか自機関なのかホームページ内の記述だけでは不明な場合もあったが、名称としてQA担当の部門があれば、「あり」と記した。

注意! この表は、あくまでホームページで公表されている情報をまとめたものに過ぎず、各機関のQA取組状況の全貌を把握できるわけではない。

 なお、このリストは地方衛生研究所ネットワークの地方衛生研究所名簿に掲載されている機関名及びリンクに基づいて作成した。

表 地方衛生研究所のホームページで公表されているQA取り組み状況
機関名 組織図のページ 独立したQA部門 QA担当者・部門(兼務) 関連ページ 備考
北海道立衛生研究所 あり なし 不明 1
札幌市衛生研究所 あり なし 不明
函館市衛生試験所
青森県環境保健センター
秋田県衛生科学研究所 あり なし あり 健康管理部が精度管理を担当
岩手県環境保健研究センター あり なし 不明
宮城県保健環境センター あり なし 不明
仙台市衛生研究所 なし 不明 不明
山形県衛生研究所 あり なし あり 理化学部がGLPを担当
福島県衛生研究所
新潟県保健環境科学研究所 あり なし 不明 1
新潟市衛生試験所
茨城県衛生研究所
栃木県保健環境センター あり なし 不明
宇都宮市衛生環境試験所
群馬県衛生環境研究所 あり なし 不明 1,2
埼玉県衛生研究所 あり なし 不明
千葉県衛生研究所
千葉市環境保健研究所 あり なし 不明
東京都健康安全研究センター あり あり 1,2 (独立) 1,2,3,4 平成15年4月改組(東京都衛生研究所より)
品川区衛生試験所
杉並区衛生試験所
足立区衛生試験所
神奈川県衛生研究所 あり なし 不明
横浜市衛生研究所 なし 不明 不明
川崎市衛生研究所 あり なし 不明
横須賀市衛生試験所 なし 不明 不明
相模原市衛生試験所
山梨県衛生公害研究所 あり なし 不明
長野県衛生公害研究所 あり なし 不明
静岡県環境衛生科学研究所 現在アクセス不能
静岡市衛生試験所 なし 不明 不明
浜松市保健環境研究所 なし 不明 不明
富山県衛生研究所 あり なし 不明
石川県保健環境センター あり あり (独立) 精度管理室がISO14001の運用と相談・指導も兼務
福井県衛生環境研究センター あり なし 不明
愛知県衛生研究所 あり なし 不明
名古屋市衛生研究所 あり なし 不明
岐阜県保健環境研究所 あり なし 不明
岐阜市衛生試験所
三重県科学技術振興センター
保健環境研究部
あり なし 不明 1 ISO9002取得
滋賀県立衛生環境センター あり なし 不明
京都府保健環境研究所 あり なし 不明 1
京都市衛生公害研究所 あり なし あり 1, 2 疫学情報部門が担当
大阪府立公衆衛生研究所 あり あり (独立) 1,2 企画調整課に検査管理室あり。対象は「府が設置する食品衛生検査施設」
大阪市立環境科学研究所 あり なし 不明
堺市衛生研究所 あり なし 不明
兵庫県立健康環境科学研究センター あり なし あり 1 企画情報部が県立の食品検査施設の精度管理(GLP)における信頼性確保に関する業務を担当
神戸市環境保健研究所 あり なし あり 企画・情報部が精度管理担当
姫路市環境衛生研究所
尼崎市立衛生研究所 あり なし 不明
奈良県保健環境研究センター あり なし 不明
和歌山県環境衛生研究センター あり なし 不明 平成15年4月衛生公害研究センターより改称
和歌山市衛生研究所 あり なし 不明
鳥取県衛生研究所 あり なし 不明
島根県保健環境科学研究所 あり あり (独立) 1,2,3
岡山県環境保健センター あり なし 不明
広島県保健環境センター
広島市衛生研究所 あり なし 不明
山口県環境保健研究センター
香川県環境保健研究センター あり なし 不明
徳島県保健環境センター あり なし 不明
愛媛県立衛生環境研究所 あり なし 不明
高知県衛生研究所 あり なし 不明
福岡県保健環境研究所 あり なし 不明
福岡市保健環境研究所 あり なし 不明
北九州市環境科学研究所 あり なし 不明
佐賀県衛生薬業センター なし 不明 不明
長崎県衛生公害研究所
長崎市保健環境試験所
大分県衛生環境研究センター あり なし 不明
熊本県保健環境科学研究所 あり なし 不明
熊本市環境総合研究所
宮崎県衛生環境研究所 あり なし 不明
鹿児島県環境保健センター なし 不明 不明
沖縄県衛生環境研究所 あり なし 不明


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管理者:津村ゆかり yukari.tsumura@nifty.com