前々から図書館で予約していた本がようやく回ってきたので、トラウマについての本を久しぶりに読んだ。
思った以上に専門的で難しい。しかも、この種の本であれば当たり前のことだけれども、実際にトラウマを引き起こした出来事についても書いてある。この種の専門書を読むとき、読むのが辛くてつい事例の紹介は避けてしまう。
そこで、「第13章 トラウマからの回復ー自己を支配する」から読みはじめた。
以下、13章で紹介されているトラウマからの回復法。
- 1. 落ち着いて意識を集中した状態になる方法を見つける
- 2. 過去を思い出させる光景や思考、音、声、身体的感覚に反応するときに、その落ち着きを保ち続けることを学ぶ
- 3. 今を思う存分生き、周囲の人々と十分にかかわる方法を見つける。
- 4. どうにか生き延びてきた手段についての秘密も含めて、自分に隠し事をしないで済むようにする。
「自分に隠し事をしない」とは、「ありのままの自分を受け入れ、肯定する」ということだろう。
この4点に特に驚きはない。前にも『トラウマ後 成長と回復 ― 心の傷を超えるための6つのステップ』で、同様の指摘を読んだことがある。そこで紹介されていた回復法は次の3点。
- 1. あなたは一人じゃない
- 2. トラウマは自然で正常なプロセス
- 3. 成長は旅
本書と矛盾するところはない、むしろ両者は相互補完の関係にある。また、これらの回復法はトラウマだけではなく、うつ病の回復法とも通じるところがある。
知識の上ではわかっている。でも、これを行動に移すことが難しい。正直なところ、4つの回復法を読んだときに感じたことは「それができたら苦労はしないよ」だった。
今の私には「1. 落ち着いて意識を集中した状態」になろうとすることで精一杯。
ところで、原題にある"Score"とはどういう意味か。辞書で引くと点数や楽譜という意味の他に「真相」という意味があるらしい。おそらく原題は「真相」と"Trauma"と重ねているのだろう。
「記録する」という邦題の表現も興味深い。なぜ「記憶」ではなく「記録」なのか。
私の理解では、「記憶」は自在に操ることができる。思い出したときに懐かしく思い出すことができて、考えたくないときには頭から消しておくことができる。「記録」はいつ再生されるか、自分ではわからない。速度と音量もわからない。
目まぐるしく早回しかもしれないし、耳を塞ぎたくなるほど大音量かもしれない。
4つの回復法にも書かれているように「光景や思考、音、声、身体的感覚」に自分の意識と無関係に反応してしまう。それが「記録」であり、"Score"であり、トラウマである、ということになる。
本書を読んで驚いたのは、アメリカではトラウマが拡散していて、「国民の健全性にとって最大の脅威」になっているということ。
2001年以降(原文漢数字)、親やその他の家族の手にかかって亡くなったアメリカ人の数は、イラクとアフガニスタンでのアメリカ人戦死者の数を大きく上回っている。アメリカの女性は、乳癌にかかるよりも家庭内暴力の犠牲者になる可能性のほうが二倍大きい。アメリカ小児科学会の推定では、ライフル銃やピストルなどの小火器で亡くなる子供は癌で亡くなる子供の二倍いるという。(「エピローグ 選ぶべき道」)
おそらくは私が読むことができなかったページには、上記のような「脅威」がより詳しく書かれているのだろう。恐ろしいとしか言いようがない。
日本でも、銃の犠牲者こそ多くはないが、家庭内暴力や児童虐待は毎日のようにニュースになっている。その点ではアメリカを追従していると言える。
本書は、トラウマ患者の一人一人に語りかけるだけではなく、トラウマが拡大し日常化しているアメリカ社会への警鐘を鳴らす意味合いが大きいように感じられた。
さくいん:アメリカ