最後の手紙

烏兎の庭 - jardin dans le coeur

第五部

現代史テキスト 2次私大テキスト

12/25/2015/WED

山村先生のおまじない


山村良橘先生について



山村方式の特徴:掛詞、意味のある文、意味はないが覚えやすいリズムと音

年代記憶法は著書になっていたが現在は絶版。手元にある1982年発行の第24刷はボロボロで多くのページがほつれて落ちそうになっている。

年代記憶法以外にも、まとめて覚えるべき人名や事項を一気に覚える「おまじない」が講義のなかでは数多く披露された。これらは著作には残っていない。ひょっとすると山村世界史を学び、現在、高校や予備校で教鞭をとっている人が使っているかもしれない。

ここでは、テキストにも著作にもない「おまじない」をいくつか紹介する。

「おまじない」は山村先生の声とリズムで聞くと効果が上がる。私は全講義を録音したあと、「おまじない」の部分だけを一つのカセットテープにまとめて、高校と予備校への通学中に聴いていた。

山村先生の年代記憶法や「おまじない」には三種類ある。


1. 語呂合わせと覚える事項の意味が重なり、いわば掛詞になっている

古典的な「1192つくろう鎌倉幕府」では、1192年と「新しい国をつくる」、すなわち、幕府を開くことに意味的な連関がある。山村先生の作品は、その意味の連関が密接であることに特徴がある。

いま、思わず先走りして書いたように、山村先生の一連の語呂合わせは、受験勉強の道具を超えた一つの作品と私は思っている。作成当時は俗世の言葉遊びと思われた川柳が現代では世相を映した文学作品としても評価されるように。

  • 一切、無くしたロベスピエール(1さい、79したロベスピエール):テルミドール9日の反動の年と意味が一つの語呂合わせに組み込まれている。

  • 2. 複数の年や人物や事項を並べ、イメージを思い浮かばせる言葉にする

    この場合、歴史的な意味との連関はないが、意味の通じる文になっているので覚えやすい。

    典型は「闇に止むなく生やしたが悔いはなく、苦にはならない」(1883に86なく884たが918なく928ならない)。イギリスで四回に渡り選挙権を広げていった選挙法改正の四つの年。髭を生やして、そのままにしている人物を思い浮かべることができる。

    下に挙げた「師走の頃は空しく涙」(48すの56は67しく73だ)も好例。四回起きた中東戦争。試験日が近づいている受験生、自分自身の姿と重ね合わせることができる。

    • 師走の頃は空しく涙(48すの56は67しく73だ):四回の中東戦争(1948, 56, 67, 73)。
    • 変にリッチなジョン王ヘンさん、エードエード、イーサイーサ:
      英国プランタジネット朝の重要な王。ヘンリー二世、リチャード王、ヘンリー三世、エドワード一世、エドワード三世。イーサイーサはエドワード王の一世と三世が重要ということ。

    3. まったく意味の通らない文であるにもかかわらず、リズムよく口ずさむことを繰り返しているうちに覚えてしまう

    これも下に挙げた「キロカンダレクダレ」が好例。これは講義で先生の声で聴いた人にとっては覚えやすい。1919年から1937年にかけて、中国に関連した重要事項を一年に一項目ずつ並べた「五四・連・共・九、ボロ・合作⋯⋯」は、ただ音を並べただけ。こういう場合は、カセットテープで先生の語り口そのままを繰り返し聴くと、意味がない音の羅列が脳に定着しはじめる。

    山村先生の朗々とした語り口は、耳に残り、またリズムも真似したくなる。

    • キロカンダレクダレ:
      アケメネス朝ペルシャで名を残した王、キュロス二世、カンビセス二世、ダレイオス一世、クセルクセス、ダレイオス三世)。王国の絶頂期に君臨したカンビセスについては「カンビセス」は「完備せず」ではなかった、という「おまじない」も付属している。
    • エフタルゴフタル、ゴロゴロ:
      エフタルは5, 6世紀に中央アジアで勢力を持っていた民族。ゴロゴロが5と6を指す。
    • ぎっくり、ぎっとん:
      三国時代に魏が定めた九品中生法と屯田法。魏の政策として選択問題が出れば「く」と「とん」で始まる語を探せばよい
    • パルティアは紀元前3世紀から紀元後3世紀:
      「パルティアはパ(数字の8を連想させる)なのだから」と言いながら、黒板に8を書き、真中に線を引く。すると3と鏡文字の3ができる。
    • 仏首相ダラディエと英首相ネヴィル・チェンバレンは、1938年のミュンヘン会議でナチス政権に宥和政策をとった。そのため、ナチスの膨張政策を止められなかった。なぜなら「ダラダラした人とネてる人だったから」。
    • 中世欧州の大学と主要学問。何「されるの」か、わからないサレルノ大学は医学。「ボー」ローニャ大学は“法”学で有名。

    • シュメール、アッカド、バビロニア。いい気持ちでしょう

      これは本科の最初の講義で聴いた言葉。メソポタミア文明の重要項目。先生はゆっくり歌うようにこの言葉を唱え、「声に出すといい気持ちになる」と言われた。前情報なしにこの講義をとった人は度肝を抜かれたのではないだろうか。

      「すごい先生」という情報だけは仕入れていた私も、初めて受けた講義、「世界現代史ゼミ」は驚きの連続だった。「勉強」の概念そのものが変わった


      ところで、歴史の学習に年代の記憶は不要、歴史は暗記科目ではない、と主張する人は少なくない。山村先生は、そうではなかった。むしろ、年代と人名を記憶することを重視していた。いつ、だれが関わったのかを知っていなければ、とくに毎年、刻々と情勢が変化する現代史では歴史の流れが理解できない。

      暗記科目ではないと主張する人は、歴史の流れや全体像を理解せよ、という。しかし、歴史の流れや全体像をつかむことの方が年代を覚えるよりもずっと難しい。年代や人名を覚えることもたやすくはない。だからこそ語呂合わせを駆使して、できるだけ手早く記憶することを山村世界史は目指していた。

      どうしても覚えておかなければならない人名や事項を、舌と耳と指(書く)を駆使して覚える。そうするとテキストや教科書に書かれた「五四・連・共・ボロ・合作」の流れと意味が理解できる。


      なお、テキストや著作は明らかに山村先生と代ゼミに著作権があるが、講義中に聴いた「おまじない」も同様であるのか、わからない。問題を指摘された場合には、即時ウェブ上から削除することになる。


      私の作った年代記憶語呂合わせ

      私も、年代記憶語呂合わせを作ってみたことがある

      • 夏の秘密、アイム・ソー・グラッド:イギリス秘密投票法、1872年。グラッドストン内閣)。
      • 女集まれ、シュトゥットガルト:1907年。国際社会主義女性会議
      • ロックンロールの聖子(成功)、大(台)ヒット:1661年。鄭成功、台湾を攻略
      • 引力法に接線:1642~1727。ニュートンの生没年
      • 和を欠いた五輪:1980年、モスクワ五輪

      山村先生のこと
      山村先生語録

      さくいん:山村良橘名前