最後の手紙

烏兎の庭 - jardin dans le coeur

第五部

バスケットゴール

6/18/2017/SUN

シュートを決めろ - 高校バスケ観戦記

去年の今頃から約一年、高校生のバスケットボールを観戦、応援してきた。今はインターハイ予選。三年生にとっては最後の大会の真っ最中。

今日、朝の試合に勝つと、午後、関東や全国大会にも出場する強豪校と対決することになる。勝ち目はない。その学校と対決するところまで勝ち進むことが目標だった。

去年も一昨年も、そこまでたどり着けなかった。今年こそ。選手たちの意気込みは強い。

自分たちの力がスポーツ推薦で部員が集まる学校にどこまで通用するか、三年間の集大成として確かめたい。そういう気持ちも、選手たちにはあるだろう。


朝9時からの試合は、88対54の大差で圧勝。第4ピリオドには、ふだん出場する機会のないベンチメンバーの三年生も全員出場、3点シュートを決める子もいた。

先々週の二回戦は100点越えで、30点以上の差をつけて大勝した。苦しかったのはその前の週の一回戦。過去に勝ったことのある学校であるにもかかわらず苦戦した。


試合開始からずっと点差のつかないシーソーゲーム。前半、ぴったり同点の38 - 38で終了。後半に入り、第3ピリオドは62 - 60で2点リードで終了。

勢いではこちらが優っているように見えても、点差を広げられない。2点とると2点取られる繰り返し。

そして終了間際、11秒を残したとき、ここでドラマが始まった。


点数は同点。タイム明けでボールは白いユニフォームの相手チーム。こちらのユニフォームは青。

白の選手がサイドから投げ込む相手を探す。青の4番が手を大きく振って投げ込むボールを弾こうとするも、スローインはアーチ状に敵陣に飛んでいく。捕球したのも相手チーム。ここでシュートを決められたら万事休す。青チームは三人がかりでシュートを阻む。

相手選手は青の選手がシュートの姿勢に入ったところで青の16番がボールを奪い取り、敵の追跡を避けるように右へ左へ動いてドリブルしていく。後ろからキャプテンの4番が続いて走る。白のチーム急いで青チームのゴール下へ走る。

フリースロー・ゾーンの中に一人、左右に一人ずつ、素早くディフェンスの態勢を整えた。

白の選手が16番に追いつきそうになったとき、青の4番が左側から走り込んできた。16番が素早くディフェンスの間を抜いて短いパスを出す。4番はジャンプしなが受け取り、アリュープのような体勢でシュート。

このとき、残りは5秒くらいだったか。


難しい体勢ではなかったが、青の4番のシュートはボードに当たったあと、リングに弾かれた。この時点で、後から駆けてきた青白数人もゴール下に集まり、リバウンドの取り合いになった。

数回ジャンプしながらボールを取り合った末、リバウンドをもぎとったのは青の8番。背の高い三年生のセンター。再び、シュート。背の高い彼のシュートはすんなりリングに吸い込まれた。

ボールがリングをすり抜けて床に落ちた瞬間、試合終了のブザーが鳴った。

青チームの応援席から歓喜の叫びが上がった。

コートに膝をついて雄叫びをあげる青の8番。呆然としている白の選手たち。

こうして息子のチームは激戦を制した。


あとでヘッドコーチでもある顧問の教員に聞いた話では、青4番が外したことで時計が進んだから、シュートは外れても、あれでよかった、ということだった。

なるほど。もし早くシュートを決まってしまい、残り5秒でこちらが2点差で勝っていたとしても、相手がゴール下へロングパスを投げ、3ポイントシュートを決めたら、あちらが劇的な再逆転勝利をすることなっていた。

もう一つの可能性。もし11秒の時点で相手が2点シュートを決めていたとしても、残りの数秒で青が3ポイントシュートを決めれば、こちらが勝っていた。

バスケットボールで10秒は長い、2点差では優勢とは全く言えない。点差が開くと時間消化の退屈なゲームになるが、接戦になると1秒、ワンプレイが勝敗を決する。

バスケットボール観戦はこの勝負が決する瞬間を目の当たりにできるところに醍醐味がある。

スター選手のスーパープレイを見られるNBAの動画とは、まったく違う面白みがある。


高校生でも、目の前で繰り広げられる生の試合には迫力がある。緊張感も直接伝わってくる。我が子を応援するために見はじめた人が、我が子が引退、卒業してからも高校生の試合を見に来るようになるのも珍しくない。


午後3時、強豪校との対戦開始。実は両校は同じ駅を最寄りとしていて、生徒たちは南北、別々の出口からそれぞれの学校へ通う。この勝負はK駅ダービーでもある。

去年は目標にしていたシード校との対戦の前に負けていた。そのせいか、卒業生(必ずしも大学生ではない)がたくさん応援に来ていた。自分たちが残した悔しさを現役生が晴らしてくれることを期待していたのだろう。

相手は白地に緑の背番号。こちらは青字に白の背番号。

最初の5分は先手を取っていた。そこから相手が本領を発揮してきた。といっても、猛攻という感じではない。9番が上手い。ドリブルをしながらスルスルとゴール下まで入り、簡単にシュートする。邪魔をする間もないスピードとバランス。

やられている感じがないのに、得点差は広がっていく。前半を終えて28 - 64と大きく離されてしまった。


後半は一転、こちらのペース。このチームには3ポイントシュートを得意にする選手がスターターに3人、セカンドユニットにも1人いる。それぞれ、調子が出てきて、面白いように決まりはじめた。

得点差は徐々に縮みはじめた。第3ピリオド終了時点で、84 - 63。20点差なら勢いに乗れば第4ピリオドの10分で追いつけるかもしれない。大番狂わせの期待がかかる。

第4ピリオド、青は31点の猛攻。白は価値が見えて力を抜いたか、20点しか取れなかった。最後の得点は、キャプテンが振り向きざまに放った3ポイントシュート。彼が憧れていたKobe Bryantの得意なシュートだった。

後半の得点だけなら勝っていたらしい。とはいえ実力差は歴然としていた。前半の優位がなければ、先方は後半、ベストメンバーを揃えて本気を出してきただろう。青チームは、前半で得点差を最小限に抑え、相手を焦らせるくらいまでプレッシャをかけておかないといけなかった。

勝負は前半で決まっていた。


試合の結果と対照的だったのは、試合後の両校の様子。

青チームは目標を達成し、シード校相手に善戦したので、負けても皆大喜び。卒業生たちはもっとうれしそうで、鬱憤を晴らしてくれた後輩たちとはしゃいでいた。

一方の強豪校。体育館の隅で立ったまま顧問が選手に向かって罵声を上げていた。内容が気に入らなかったのか。得点差か。それとも、いつでもそうなのか。

手を出したらスマホで録画して通報しようと思い、恐る恐る近づいた。聞くに堪えない言葉の端々が聞こえた。

殴ってはいないし、言葉もよく聞こえないので、何もせずに青チームが記念写真を撮っている芝生広場へ急いだ。

あんな雰囲気が毎週続いて、バスケットボールが嫌いにならないだろうか。彼らが大人になったとき、これだけ嫌な思い出があるスポーツを続けるとは思えない

世界に水をあけられているために、バスケットボールは旧態依然として指導法が残っていると聞いたことがある。一種のガラパゴス化。


息子の高校バスケ生活は終わった。ここ数ヶ月は、毎週日曜日、あちこちの会場に出かけた。遠い会場まで出かけるのは億劫になることもあった。それでも行ってしまえば、息子だけでなく、名前も顔も覚えた選手の活躍を見るのは楽しかった。

もう、あの選手たちの華麗なプレイを見ることはない。胸が張り裂けそうになる緊迫した試合を見ることもない。

すこしさみしい気持ちもする。

でも、正直な気持ちを書くと、考え方が古く、根性主義で、人権意識もない、暴力的で愚かな指導者の罵声を聞くこともなくなるかと思うとホッとするところもある。


背番号4番