特別借りたい本がなくても、図書館にでかけると、何か借りて帰りたくなる。面白い本を見つける手早い方法は、新刊棚と返却されたばかりの本が書棚に戻る前に置かれる仮置場を見る。本書は新刊棚で見つけた。
驚いた。詩人は、言葉でものを考える。画家は、絵でものを考える。それから音楽家は音楽でものを考える。そこまでは想像がつくけれど、世の中には、色でものを考える人がいるとは知らなかった。
色で世界を見る著者の姿勢は徹底している。パリに行けば、タクシーの色を、中東に行けば、砂漠の色を、CMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの印刷で使われる四原色)の配分で見る。表紙カバーにある著者紹介では、妻と娘まで四色の配分で表現されている。一体、6C/20M/30Y/0Kと表わされるのは、どんな女性だろう。
本書は、世界中をまわって、著者が出会った配色パターンが、各地に典型的なデザインと、ついでに書けばデザインを意味する文字も合わせて、これでもかというくらい紹介にされている。面白いのは、言語学者が言葉について言うように、色についても、一つの色ではなく、配色、つまり色と色の関係から意味が浮かび上がってくると考えていること。
日本風、フランス風など、配色はおおまかに国単位で分類されているけれど、著者の真意は、色配合の文化は国境と一致しないことを明らかにすることにある。スコットランドやハワイは独立したページを与えられ、アメリカのページでは、先住民の配色文化が数多く盛り込まれている。
各ページには、それぞれの文化に見られる独創的なデザインも合わせて掲載。添えられた短いエッセイが、軽妙ななかに、平和を愛し、不正義を憎み、文化の多様性を擁護する強い主張が見えてくる。
色にはじまり、いつのまにか色だけではない、デザインもアートも超えた世界へと話は広がる。それこそが、著者が愛する多色文化のアートなのだろう。
すばらしい世界旅行。色彩の巻。
uto_midoriXyahoo.co.jp