雪の写真家 ベントレー(SNOWFLAKE BENTLEY, 1998)、Jacqeline Briggs Martin文、Mary Azarian絵、千葉茂樹訳、BL出版、1999


職場近くの図書館では児童書は2階。受付に冬の絵本が集められている。題名と背表紙の彩りから印象的なものを抜き取る。「1999年度コールデコット賞」「アメリカ図書館協会優良児童図書」と裏表紙に書かれている。意識をしてコールデコット賞の受賞作を読んでいるわけではない。ちょっと風変わりな題名や、色彩豊かな表紙を探していると、受賞作によく行き当たる。

ウィリー・ベントレーは、農業を生業としたアマチュア写真家。1865年に合衆国、バーモント州、ジェリコで生まれ、1921年に亡くなるまで、生涯をそこで過ごした。

小さいときから自然に興味をもち、とりわけ雪に異常なほど関心をもっていた。雪の結晶といえば、中谷宇吉郎博士。そうした、点と点とのつながり以上のことは知らない。中谷がベントレーの写真から雪の結晶に興味をもったということも、訳者が添えている紹介文ではじめて知った。

プロフェッショナルとは何か、アマチュアとは何か。ずっと考えはているけど、、答えがでない。プロ意識とアマ精神といわれるように、前者は自覚的なもので、後者は反対に無自覚なものであるという見通しはある。そこにお金が入り込むとわからなくなってくる。金を稼ぐのがプロで、稼がないのがアマ。そう簡単には割り切れないように思う。

絵本は、ベントレーの成長と仕事を追う物語とは別に、伝記的情報を注記で伝える。

ウィリーは写真のために15,000ドルのお金をつかった。いっぽう、写真やスライドを売って得たお金は、4,000ドルにすぎなかった。

プロを単に職業と解するなら、赤字はプロとしては失格だろう。けれども地道な仕事を通じて、「小さな村でくらすひとりの農夫が、世界的な『雪の専門家』としてみとめられた」と書かれている。彼はその道のプロと認められていた。それだけではない。絵本は、ごくわかりやすい言葉で、プロの仕事の意味を伝える。

小さな村に舞いおりた雪は、
ウィリーのとった写真によって、山をこえ、海をこえて、
世界じゅうの人びとのもとへと、とどけられました。
そして、その写真は、多くの人に雪のすばらしさを教えてくれたのです。

ベントレーの仕事が、同時代の研究者だけでなく、時代も場所も専門分野をも隔てた人々に届いたのはなぜだろうか。雪の結晶を写真を撮影するという仕事を、彼は報酬のためにしていたわけではない。けれども、ただ好きでやっていたわけでもない。彼の仕事は、報酬でも快楽でもなく、仕事そのものへの使命感に支えられていた。あとがきのかわりに、ベントレー自身の言葉が添えられている。

酪農家からは、いっぱいのミルクを。そして、わたしの写真からも、おなじくだいじなものを受け取ってもらえるだろうと、わたしは信じている。

詳細にこだわる伝記絵本は見ているだけでも楽しい。当時の服装、家の内装、昔の写真機、それから彼が暮らしたバーモント州ジェリコのかつて様子だけでなく、今の風景まで伝わってくる。


碧岡烏兎