平成20年8月(葉月)の短歌
写真:
赤い彼岸花
アスファルトに真昼の暑さ残しつつ続く猛暑の一日(ひとひ)暮れゆく
今年の夏はこんなに暑い日が少なかったように思う。
熱帯夜水飲むくりやに立ちすくむ冷蔵庫に氷の生(あ)るる音怪し(あやし)
あれは6,7年前になるだろうか。暑さで目が覚め水を飲みに台所に降りて来たら・・・。誰もいないはずなのに・・・。思わず水の入ったコップを落としそうになってしまった。冷蔵庫を買い換えたときの恐ろしい思い出。
力こめ当(あ)つる包丁に大き西瓜パシッとはじけ甘き香放つ
田舎から大きなスイカをもらったときのこと。包丁を当てたとたんに「パシッ」とはじけたあの音!甘い香りとともにまっかな色が目に浮かぶ。
せみ時雨の木立のトンネル抜け出でてひろがる稲田に日暮れの迫る
うっそうと茂った木立は蝉の音のトンネルだ。その音に吸い込まれそうで、思わず盲導犬のハーネスを持つ手が緊張してしまう。
一本の箸にて食(た)ぶるところてん山茶屋包みかなかなの声
こんな体験はもう二度とできないのではないだろうか。ところてんのほのかにすっぱい味とともに忘れられない山すその思い出。
癌を病む友見舞い来て風鈴の優しき音色の駅を後(あと)にす
いつも元気だった友を見舞っての帰り。風鈴の音がこんなにも寂しく、悲しく感じられたことはなかった。
稲田風吹き通りゆく部屋に座し父母の仏前に手を合わせいる
昔のままの家なのに何かが違うのです。昔のままの田んぼから吹いてくる風なのに、やはり何かが違うのです。たまらなく父母に会いたくなってしまいました。
今月はいつの間に過ぎたのだろう。「暑い、暑い」と言っていた日も例年より少なかったように思う。とにかく、天候がめまぐるしく変わり「ゲリラ豪雨」などという言葉が頻繁に繰り返された月である。
今日もその「ゲリラ豪雨」が夕方に出没した。今はすっかり涼しくなり、虫の音が何事もなかったように聞こえる。
街路樹の葉群を風の揺らしつつ秋はいち早く忍び寄りくる
「お母さんまっさおな空よ」見えぬ眼を凝らせば風は秋の気配す
蝉しぐれして静かに暮れゆく故郷(ふるさと)の裏庭に吹く風ははや秋
稲穂田を渡りくる風さわさわとわれの素足に秋運びくる
盲導犬のハーネス握れば寝不足のけだるき背筋しゃんと伸びくる
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