平成20年3月(弥生)の短歌
写真:
春を告げるかたくりの花
階段のきしむ音してゆっくりと父は居去りつつ降りて来るらし
(かいだんの きしむおとして ゆっくりと ちちはいざりつつ おりてくるらし)
居去りつつ階段上り来し父の吾呼ぶ声のあたたかくして
(いざりつつ かいだんのぼり こしちちの われよぶこえの あたたかくして)
「春の小川」路地に響かせ下校時の子らハモニカを吹きつつ行けり
(「はるのおがわ」 ろじにひびかせ げこうじの こらハモニカを ふきつつゆけり)
葉の間よりわずかに出でしくんし蘭の花芽みつけたり弥生の朝
(はのまより わずかにいでし くんしらんの はなめみつけたり やよいのあした)
詩 「かたくりの花」
よりそって語り合うかのように かたくりの花が うつむいて咲いている
花を見守るかのように まろやかな葉が やわらかく包んでいる
風邪が癒えぬままに めっきり老け込んだ父が コップに入れたかたくりの花
夕暮れの庭先から 父の咳き(しわぶき)が聞こえる
夕方、市場通りを歩いていたら大きな咳ばらいが聞こえた。それが亡くなった父とあまりにもよく似ていて・・・。
あの日も、ちょうど今日と同じように彼岸の最中で父が泊まりに来ていた。私が「かたくりの花」をはじめて見た日。まだ小さかった娘にその色を尋ねたら「お母さんのセーターとおんなじ色よ」と教えてくれたっけ・・・。そのころが懐かしくなって、三昔も前のノートを紐解いてみた。
また一軒駐車場となりたる海近き市場通りに霧笛の響く
蕗のとう自転車に乗り届けくれし亡き父想いつつパッケージ開く
カップ二つ静かに注ぐコーヒーの香の満たされてゆくささやかな幸
(カップふたつ しずかにそそぐ コーヒーのかの みたされてゆく ささやかなさち)
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