ここでは孵化したアユの仔魚が海まで流下し、稚魚まで成長し                 鮎の話へ  ホームへ
春に川へ遡るまでの生態について説明します。                作成:2003/12/15

仔アユ、稚アユの生態

 アユは孵化してすぐに川を流下して河口にたどりついた後は、約半年間海で生活する。
身体に鱗がなく透明な身体の時期はシラスアユといい、全身が黒鱗で覆われるようになったものを稚アユという。
琵琶湖で氷魚(ヒウオ)とよばれているものはシラスアユのことである。

更新: 04.05.09 (1)海での回遊経路に、朝日新聞記事(04.05.07)を追加。
05.03.15 1.河口から海へに、「三河湾内でアユ仔稚魚の成長」を追加
「矢作川河口周辺海域におけるアユの生態」にリンク。


 〔前置き〕
 魚や動物の体液(血液)の塩分濃度は、太古の昔に、魚が海から川へ、干潟から陸上へ、また川から海へ移り住んだ当時の原始の海の塩分濃度が現在も受け継がれているのだといわれている。
 体液の塩分濃度は、淡水魚は約0.6%、人を含め陸上動物は約0.9%、海水魚は約1.1%である。
 (現在の海の塩分濃度は約3.5%で、海の無脊椎動物の体液は海の塩分濃度と同じです。)
 暇のタップリある方は『生物の発生と体液の浸透圧調整』をどうぞ。

 川から海へ、その逆に海から川へ魚が移動することは通常はできない。それは、体液(血液)の塩分濃度を一定に保つための仕組みが、淡水中と海水中では全く逆の仕組みになっているからである。
淡水魚と海水魚では、体液の塩化物濃度を一定に保つしくみ(浸透圧の調整機能)が全く逆
 淡水中では、鰓や皮膚から水が体内に滲みこみ、何もしなければ水ぶくれになり細胞が破裂してしまう。一方、海水中では体内の水分が海水中に滲み出して細胞がしぼんでしまう。
 したがって、淡水魚は体に滲み込んでくる水を体外に出さなければならないし、海水魚は体から出ていく水をどんどん補給しなければ、生きていけない。これが、体液の塩化物濃度を一定に保たなければならない理由である。

 体液の塩分濃度を淡水魚は0.6%、海水魚は1.1%に保つために、
 淡水魚は、水はほとんど飲まず、鰓や粘膜などが水が透りにくくなっており、体内の余分な水分を外に出し塩分はなるべく外に出さないように、濃度のごく薄い尿を大量に排出して体が水ぶくれにならないようにしている。また、鰓の塩類細胞から塩分を体内に取り込んでいる。
 一方、海水魚は常に大量の海水を飲んで水分を補い、体の中で余分になった塩類は、主として鰓にある塩類細胞(塩化物排出細胞)を通して体外に排出し、尿は濃度の非常に濃いものを少量排出して、体の水分が外に滲みだして脱水状態にならないように防いでいる。
 (サメやエイなどの軟骨魚は体内に尿素をためて浸透圧を調整している。そのため鮮度が落ちると尿素が分解しアンモニアになるために肉に臭みがある。)

 回遊魚は、汽水域で浸透圧の調整機能を切り替えて、川と海を行き来しているのである。


(その2)河口から海へ シラスアユ→稚アユ→遡上


1.河口から海へ

 孵化した仔アユは流れに乗って川を下る。運良く河口までたどり着いた仔アユは、まだ泳ぐ力が弱いので2〜80cmの水深に漂よい、川の流れに身を任せて、いったん河口のふくらみにたまり、下げ潮とともに汽水域〜海水域へどっと出ていく。
 海のどこまで流されるかは、その川の大きさや流量、河口近くの海の流れぐあいによってさまざまであるが、川水の影響を受ける範囲に留まる。
 海へ出た直後は、ヒレがまだ分化しておらず、その全体が膜状につながっている。遊泳力はほとんど無く、昼は底近くに沈み夜には浮上する動物プランクトンのような集団生活をしているらしい。
 海へ出た仔アユは、はじめはマリンスノウと呼ばれている有機物の断片を食べているようで、まもなくコペポーダ(ケンミジンコ類)を食べて成長する。植物プランクトンも食べているらしい。
(コペポーダは甲殻類のカイアシ亜綱に属し,動物プランクトンとして最も重要なグループ。体長1mmに満たない小型のものから1 cmを越える大型のものもいる。口のまわりにある脚で水流を起こし、細かな毛の生えた脚で植物プランクトンや小さな動物プランクトンなどを捉えて食べる。その数は大変多く、沿岸では海水1リットルあたり数千個体に達することもある。)
 ヘッケルのコペポーダ:http://bios.sakura.ne.jp/gf/2005/cyclopoida.html
 ケンミジンコ:http://cyclot.hp.infoseek.co.jp/kenmiji/kenmiji.html
  *土佐湾沿岸域におけるアユ仔魚の分布および食性

 岡山水産試験場による高梁川(たかはしがわ)を流下する仔アユの調査では、
高梁川は岡山県の倉敷市で瀬戸内海に注いでおり、十月下旬から十二月下旬まで仔アユが流下する。
河口に設けられた潮止堰から沖合いにかけて塩分調査をすると、三つの不連続線が認められる。
第1の不連続線の上流側は、純粋の河水。
第1と第2の不連続線の間は、海水の影響を受けた河水。
第2と第3の不連続線の間は、河水の影響を受けた海水。
第3の不連続線の外側に、海水がある。
 海に出たアユは不連続線の内側に密に分布する。

 木曽三川河口資源調査団による伊勢湾での調査では、
11月下旬から12月下旬の海アユは、昼間は水表から2m内外の深度に分布し、夜間は約10m内外の深さまで分布する。1月ころになると、木曽三川の河口から3km沖の揖斐川導流提の西方水域(水深6〜10m)で体長2cm以上のアユが見られるようになる。この時期には河口にはまだ接近していない。
2〜3月には水深5m程度の浅い沿岸帯に多く分布するようになるほか、河口内にも生息域を広げる。
と報告されている。
 以前の三河湾の調査では、豊川、矢作川で生まれてこの湾に流れこんだ仔アユは湾内に留まらず、一度伊良湖岬をこえて湾外へ出るらしいと思われていた。これは、三河湾は入り口が狭く冬の水温が6〜10℃近くまで下がるため仔アユが適温をもとめて暖かい湾外へ出るのだと推測されていたためである。(参照:下記の水温の選好性)
 が、下記のように、三河湾内でアユ仔稚魚が成長していることが確認された。
<2005 Mar.>豊田市の矢作川天然アユ調査会の会員で、地元新聞「矢作新報社」の記者でもある新見様から「三河湾で仔アユ成長」のお知らせいただきました。
《 数年前から「豊田市矢作川研究所」(市営)と「矢作川天然アユ調査会」(市民グループ)が合同で、三河湾でアユの生態調査を実施しています。中部電力も協力していま す。その結果、アユ仔稚魚は湾内で成長していることが解明されて来ました。
 三河湾は最も寒い時期には岸際では6度にまで水温が低下するので、そんな時は岸際 からは採集できませんが、船ですこし沖合へ出て集魚灯調査をすると結構とれます。 小型ひきあみや底引き網の調査でもたくさん捕獲できます。》
この調査結果は、05年2月に豊田産業文化センターで開かれたシンポジウムで発表されました。
 矢作川河口周辺海域におけるアユの生態
<新見克也(矢作川天然アユ調査会) 山本敏哉(豊田市矢作川研究所)>

(発表概要)
調査は、2002年11月から03年2月までと、03年11月から04年2月までの延べ八か月間、実施した。夜間に水中ライトを30分間照らし、光に集まってくるアユの数を計測した。調査地点は河口から0.5―4キロの範囲の8地点で、ヘドロが積もっている場所と、比較的きれいな場所で比較できるよう設定した。
その結果、川底にヘドロが積もっていない地点では、30分間で、仔魚(しぎょ)と呼ばれる生後三か月以内のアユ(体長2―4センチ)が50―100匹ほど確認されたのに対し、ヘドロが積もった地点では多くても2匹しか集まってこなかった。同研究所は、ヘドロ発生の原因について、「上流にある矢作ダムで川の流れがせきとめられ、大量の植物プランクトンが発生している可能性がある。生活排水の影響も考えられる」と述べている。
  *矢作川河口周辺海域(三河湾西部)におけるアユ仔稚魚の分布と底質との関係
(他の水産試験場での調査結果でも、仔アユの生息域は海岸から2〜3km位までの河川水の影響を強く受ける範囲に限られるようである。)
  *紀伊半島西岸域における稚アユの成長

(1)海での回遊経路
 海域での回遊経路については、まだ詳細が分かっていないが、東大海洋研究所・塚本研究室の熊野川における調査結果がもっとも詳しい。
  1984〜1987年の熊野川周辺海域での調査結果にもとづくアユの回遊経路が下図に示されている。熊野川河口からその沖合い40kmまで昼夜、水深別(0〜200m)をプランクトンネットを曳いて精査したが、アユ稚仔魚が得られたのは岸より2.5km以内の低鹹な沿岸域に限られていた。また、河口から沖に向かって遠ざかるほどアユの数は減少した。

アユは海においては沿岸回遊を行う。
 アユは秋に河口から海へ流入した後、その後の6ヶ月間に
河口沿岸表層域(未知の生息域-1)波打際(未知の生息域-2)河口淡水域 と移動する。
アユの回遊経路図
図15 海におけるアユの回遊経路の模式図
各生息域でとれるアユの日齢と体長の範囲を示した

(1988塚本他)

 早生まれの仔アユは、「未知の生息域−1」を経由して、早い時期に波打ち際に現れる。
 遅生まれの仔アユは、「未知の生息域−1」を経由して、遅くなってから波打ち際に現れる。

 早生まれで成長の良いアユは、波打ち際から「未知の生息域−2」へ移動し大きくなって河口に現れる。
 遅生まれで成長の遅いアユは、「未知の生息域−2」へは行かずに波打ち際に大きくなるまで留まり、波打ち際から直接河口に移動する。

 はじめの回遊調査では、8〜14日齢の仔アユと早生まれの90〜120日齢のシラスアユの捕獲ができず、その生息域が確認できなった。仔アユは遊泳力がそれほどないので、未確認の日齢の仔アユの生息域は近くの低層部と推定されたのが、未知の生息域-1、2である。
 その後の調査で、この未確認だった日齢の仔稚アユが予想した低層で数は少ないが捕れた。

(未知の生息域-1)は、沿岸域の海底直上0〜3mの底層と考えられ、孵化後2週間目にここへ移ると予想。
(未知の生息域-2)は、波打際よりわずか沖合い(水深3〜20m)の底層と予想。

3ヵ年の調査で、海においていくつかの生息域を移動する際にも一貫して、
 (1)早生まれほど若齢で早期に移動する
 (2)成長のよいものほど小サイズで早期に移動する

ことがわかった。

富山水試が仔魚の生息場所を解明
(未知の生息域-1)は、富山県水産試験場の調査船「はやつき」による7年間にわたる富山湾での調査によって、アユの仔魚の大部分は水深1mより浅い塩分躍層(えんぶんやくそう=塩分が急激に変化するところ)の表層側(淡水の影響を強く受けるところ)に生息し、表層からなぎさに出現することが世界で初めて(もっともアユは日本周辺にしかいないが)明らかになった。富山水試「富山湾を科学する」「アユ(4)」
富山水試、田子泰彦氏の報告。
 富山湾奥部の砂浜海岸の砕波帯では,アユ仔魚は 10〜1 月(盛期は 11 月)に出現し,その平均標準体長は 10 月に 12.1±1.8 mm, 11 月に 18.3±3.0 mm, 12 月に 22.0±4.9 mm および 1 月に 23.3±2.7 mm であった。砕波帯の沖側に隣接する水深 4 m 以浅の浅海域では平均標準体長 36.1±3.8 mm の大型仔魚が 1〜2 月に採集された。水中観察では 11〜3 月にかけて砕波帯およびそれに隣接する浅海域において仔魚の群れが確認された。富山湾では 10〜12 月まで砕波帯を中心に生息していたアユ仔魚は,仔魚の成長や水温の低下などに伴い,2 月頃までにはその沖側に隣接する浅海域へ主な生息場を移すものと考えられた。 (日水誌,68(2), 144-150 (2002))
  *富山湾の河口域およびその隣接海域表層におけるアユ仔魚の出現・分布
      *富山湾の砂浜域砕波帯周辺におけるアユ仔魚の出現,体長分布と生息場所の変化
      *富山湾の湾奥部で成育したアユ稚魚の河川への回遊遡上

<04.05.07朝日新聞朝刊>chiayu-sagami-kakou.PDF へのリンク
神奈川県水産総合研究所内水面試験場による2001〜2003年の調査で、
相模川の河口域で、アユのふ化した直後の仔魚から遡上期の稚魚までが生育していることが県水産総合研究所内水面試験場の調査で分かった。
ふ化したアユは海に下り、そこで稚魚に育って河川を遡上するとされていたが、今回の調査では河口域も成長を助ける「揺りかご」のような水域であることが確認できたという。調査に当たった同試験場の技師蓑宮敦さん(34)によると、河口域にとどまる原因は不明だが、川の水量などが影響しているのではないか、としている。
(四万十川の汽水域でもふ化した直後の仔魚から遡上期の稚魚までが生育していることが確認されています。)

(2)シラスアユの生態 (アユの生態1978小山長雄より)
シラスアユの泳力

シラスアユの泳力は、流速が増すほど速くなる。
体長とシラスアユの遊泳速度 実験に使ったシラスアユは、浜名湖弁天島で12月から2月にかけ採捕したもので、天竜川由来のアユと推定された。

 アユの体長4.0〜6.5cmのものを用いた。
 水路の流速を毎秒3、7、14および50cmの4種類で、そこを少なくとも20cm泳いだアユについて遊泳速度を測定した。

 シラスアユは毎秒14cm以下の弱い流速では押し流されるものは皆無だったが、50cmの流速では小形のアユに流されるものが出た。体長4cm内外のアユにとっては流速50cm/秒は泳力の限界に近い。

体長と遊泳速度とはほぼ比例する。
しかし、流速が速くなればスピードも鈍るという常識は、流速14cm/秒以下では通用しないし、流速50cm/秒ではむしろ逆の関係になっている。

シラスアユの遊泳力
体長5cm内外のシラスアユの流速と泳力の関係が図27である。

流速 3cm/秒のときの泳力は 6〜11cm/秒
流速 7cm/秒のときの泳力は 8〜13cm/秒
流速14cm/秒のときの泳力は15〜20cm/秒

流速14cm/秒では流速3cm/秒のときの2倍以上の泳力が発揮された。

ある程度の流速がないとアユは速く泳げないようである。





光りと色の感受性は海へ出ると変る
4000 lux 以上では光りを避ける。
照度とシラスアユの走光性

 3.5〜5.7cmのシラスアユで走光性活動を調べた。
 4000 lux 以上になると光りを避ける、負の走光性をしめした。
 シラスアユの走光性活動は10 lux でも起こり、照度の増加とともにさかんになり、図28のように1000 lux では水面近くまでのぼる。しかし照度が4000 lux になると露光6分後には一部のアユは下降して水深50cm付近の層に多く集まる。
 走光性が正から負へ変るのは、
仔アユの場合には、1万 lux 程度であったが、
シラスアユの場合は、約4000 lux で仔アユより弱い照度で逆転する。

海中のシラスアユは、日光照度の変化に応じながら、かなり深い層を泳いでいるものとみなされる。

色光への走光性は昼光より低く、緑光(520mn)に対しては活性が非常に低い。

(4000 lux は、四月末の日没2〜30分ほど前の明るさで、1000 luxは日没頃の明るさである。)

シラスアユは明度差に敏感
(その1)の図9と同じ装置で、明度差と背景反応を調べると、
体長3cm以下では、黒を地色とした背景よりも、白を地色とした背景に良く反応した。
 シラスアユは微弱な明るさの違いを感知する立派な視覚を持ち、明るい天空を背景にしてそれと餌料生物との間に生じるごくわずかな明度差を感知して餌を取り込むものと思われる。
体長3cm以上では、黒を地色としたときには小形のアユよりも反応がはるかに高い。
 これは、明度の高い天空を背景とするばかりでなく、明度の低い下方や側方を背景としても摂餌行動を取りうることを意味している。
 海での主な餌は小さな動物プランクトン(コペポーダ、ケンミジンコ類、オタマボヤなど)。

 色彩反応をみると、仔アユでは緑色系統の色にほとんど色覚を持たなかったが、シラスアユは緑色系統の色にやや感受性が鈍いが全ての色に反応し、仔アユより色彩感覚が全般に高まっている。

シラスアユは赤色光が嫌い
シラスアユの色光選好性
550 nmを中心とした緑色系の光りをもっともよく選好し、これより波長の長い光りも短い光りも好まない。
特に、赤色光忌避の性質は顕著である。

シラスアユは可視波長のどの色彩にたいしても色覚をもつが、緑色系色にやや感度が低く、赤色系色や青色系色に敏感である。
赤色光や青色光はシラスアユにとって視覚刺激の強い光りであり、特に赤色は視覚刺激が強すぎる光線だからアユはこれを避けると推定される。
黄緑色光は、視覚刺激の弱い光なので、刺激の少ない黄緑光に集まる。
実験中の観察では、黄緑色光帯にいるアユは何か「ゆったり」しており、赤色光帯を泳ぐアユはつねに「いらいら」していたという。

アユを運ぶバケツは黄色緑色がよい。赤色は大嫌い。青も良くない
シラスアユをバケツで運搬するときに、どの色がよいか実験した。
赤や青のバケツはアユが大騒ぎしてなかなか静まらない。
緑や黄色のバケツのユアは活動が非常に安定していて、多くはバケツの明るい側に定位する。
バケツバケツの内側に図のように黒のビニールテープを貼り付け間隔2cmの縦じま模様をつけ、これにアユを入れた。
赤と青のバケツのアユはかなり激しく、しかも不規則に活動する。
黄と緑のバケツのアユは、最初黒しま以外の明るい部分に頭をつけ、やがてバケツの周囲を遊泳し始める。バケツをぶらさげ、つるを振って右に左に回転させると、いっそう効果は高まる。
アユは背景移動と水の動きに同調して水平方向のみに遊泳し、飛び跳ねるものはなくなった。

シラスアユは成長とともに冷水を好む
シラスアユの温度選好
シラスアユの温度選好2

 孵化したばかりの仔アユは19〜20℃の水温を好んだ。

 体長3〜4cmのシラスアユの選好温度のピークは16℃
      14〜17℃のところを72%のアユが選好した。

 体長4〜5cmのシラスアユの選好温度のピークは15℃
      13〜18℃のところを82%のアユが選好した。

 体長5〜6cmのシラスアユの選好温度のピークは14.5℃
      12〜15℃のところを77%のアユが選好した。

 体長6〜7cmのシラスアユの選好温度のピークは13.5℃
      11〜15℃のところを90%のアユが選好した。

シラスアユは成長するにつれて積極的に冷水を選ぶ性質がある。
1cm成長するごとに1℃低い水温を選好する。

 低鹹な沿岸域をさまよっていた仔稚アユは2〜3月の頃しだいに河口に接近してくる。早春の河水は海水より冷たい。にもかかわらず、アユが河水の影響域を求めてくるのは、この「冷水を選ぶ性質」の発達が重要な要因となっているように思われる。

(3)アユの歯はいつ生え、いつ変る?
 アユは、海での動物性プランクトンから川での付着藻類へと食性が変化する。この食性の変化に伴って、体長50〜70mmの遡上期をさかいにして、稚魚型の歯(そしゃく歯)から成魚型の歯(削り歯)へ変化する。

 稚魚型の歯
 とがった円錐状の歯で成魚型とはまったく異なる。
鋤骨歯(じょこつし)、口蓋骨歯、歯骨歯、中翼状骨歯、其鰓骨歯(きさいこつし)および咽頭骨歯がある。
海産アユは体長約30mm、琵琶湖産アユは体長約35mmの頃これらの歯ができ始める。
体長42mmになる頃には歯は出そろい、体長が60mmになるころまで伸びる。

稚魚型の歯のうち鋤骨歯、口蓋骨歯および歯骨歯は、遡上期に脱落する。
海産アユは体長50mmで脱落しはじめ60mmに達するまでにすべて脱落する。
湖産アユは60〜64mmに達した時に脱落しはじめ、鋤骨歯は78mm、口蓋骨歯は72mm、歯骨歯は80mmに達したときに脱落が完了する。

 成魚型の歯
成魚型の歯列 成魚型の櫛状歯(しつじょうし)の原其は、体長25〜30mmの頃に顎骨の外側にできてくるが、未萌出の歯列の芽が形成されるのは、海産アユでは体長35〜40mm、湖産アユは40〜45mmのころである。

成魚型の歯は上顎、下顎とも12〜14の歯列で構成され、それぞれの歯列は12〜20本のへら状の小歯からできている。
両顎の総歯板数は琵琶湖産で 48〜57 個,海産で 53〜62 個。
  *アユ"Ayu"の歯に関する研究

(4)シラス(イワシ)漁で仔アユが混獲されている
 アユ資源の減少が全国的に危惧されている昨今だが、ダム・堰の建設や河川の荒廃、アユの上れない魚道などに加えてアユ資源の減少の原因の一つとしてシラス(イワシ)漁におけるシラスアユの混獲が疑われている。
 シラス(イワシ)漁は沿岸部を目の細かい網を2隻の船で曳いて行われている。そのときシラスアユがイワシと一緒に獲られてしまうというのである。実際に、シラス漁師がキヒラとかキンタロウイワシの子とか実在しない魚の名前をつけて禁漁のはずのアユの幼魚を捕っていたことが知られている。沿岸沿いに網を曳くシラス漁は何度も見たことがあるが、いわれてみると確かに仔アユが混獲されるというのは疑いもないことである。
 イワシと思ってシラスを食べているとき、その中に仔アユが混じっているかもしれない。なんとかならないものか。
イワシも最近は捕れないといわれて何年にもなるが、イワシとアユの資源回復のために、しばらくの間シラス漁を禁漁にしてはどうだろうか。

2.海から河口へ

 二〜三月のころシラスアユが河口域に現れはじめる。体長5〜7cm程度に成長し、魚体に黒鱗を生じ、半透明のシラスアユから稚アユに変身して川へのぼる準備がはじまる。
 二〜三月の早春は海の水より川の水が冷たい時期で、上に書いたようにアユは成長とともに低水温を好むという性質によって水温の低い河口域へ接近してくる。

しかし河口域へ接近するには、体内のホルモンや塩類細胞の働きを変えて体液の浸透圧調整機能を海水型から淡水型へ切り替えなければならない。
 稚アユを海水と淡水を混合した汽水中に畜養して、淡水と海水のどちらを好むか調査した結果では、
海水混合畜養水 稚アユの好み
淡水好み 海水好み
海水混合率
100(海水)   
75(汽水) 
50(汽水)   
25(汽水)   
0(淡水)   

 海水100%にいた稚アユは海水を好む結果になっているが、実際の海では仔稚アユは河水の影響を受ける海域に生息していて、100%海水の水域にはアユはほとんどいない。
 海水75%の汽水にいた稚アユは海水を好むとも淡水を好むともいえない。
 淡水の混合率が50%を越えると、明らかに淡水を好む。

 海から河口に近づき、海水と淡水が半々に混ざる水域では、すでにアユは塩辛い水よりも甘い淡水のほうを好む態勢ができあがっている。

 稚アユが好む水温の低い水域は、冷たい河水が混じって冷たくなった水域である。さらに低温の場所へ移動しようとすると、そこは冷たい河水が多く混ざった汽水域になる。河水の50%以上混ざった汽水域に入ると明らかに淡水好みになっていく。成長とともに冷水を好むという性質が淡水を好むという結果をもたらすことにもなっている。
秋に海へ降りて半年ほどして稚アユまで成長し、春に川へ遡上するのに、何とも都合の良いしくみに進化したものである。

 稚アユは季節が来たからといって一斉に河口域に集まってくるわけではない。先に示した「海におけるアユの回遊経路の模式図」にも示されているように、ある大きさに成長したものから順に河口域に集まってくる。
 早生まれで成長の良いものほど河口域に早く現れ、遅生まれの成長の良くないものは波打ち際に長く留まり大きくなってから遅れて河口域に現れる。海アユは早く生まれたものほど早く河口に現れて、遡上の態勢を早く整える。

 サケ、マスは生まれた川の臭いを覚えていて、生まれた川(母川)へ帰ってくるが、アユは生まれた川に帰るのだろうか?
 アユは、サケ・マスのように母川回帰本能はないといわれる。しかしながら、海へ下った仔アユは河口付近から海岸沿いに分布していることが多いので、海況に変動が無い限り、結果として母川に帰っていると考えられている。
 しかしながら、稚アユの群れの中には見当はずれの方向に行ってしまうものもあるようで、山口県長門市沖の青海島の北側日本海に面した所に夏のころアユの群れを見ることがあるというし、伊豆の大島あたりでも春頃にアユの群れをみかけるそうだ。青海島なら島をまわって川へ戻れそうだが、大島のように川から遥に離れた所まで来てしまったアユは、川へは戻れずに死滅回遊という結果になってしまうのだろう。

3.稚アユの遡上

 稚アユ遡上の要因や条件については、”甲状腺ホルモンの影響”とか”水流や流れの音の刺激”とかいろいろ調査、研究されているが、今までのところ遡上行動がなぜ起こるのかそのメカニズムは解明されていない。
 しかしながら、稚アユは昔から川の水がぬるみ海の水温と同じ位(約10℃)になる頃に、群れで遡上を始める。一般に最も早期に海から遡上する、いわゆる一番仔はサイズが大きく、二番仔、三番仔と徐々に小さくなっていくといわれている。

(1)早く生まれたアユほど、また成長の良いものほど、早く遡河する(塚本 他)
遡河時期1
 海アユも琵琶湖のアユのように“早生まれほど早く、また成長の良いものから順に”遡河するのか調査した結果が左の図である。

 4〜5月の遡河期に天竜川(太平洋、静岡県)と矢部川(有明海、佐賀県)の河口〜下流域に遡上した稚アユの耳石によって日齢査定した。
どちらの川でも、早く生まれたアユほど、早く遡上する傾向がみられた。


遡可時期2 成長率(1日あたり何mm大きくなったか)と遡河時期の関係を見たものが左図である。
 天竜川も矢部川も、早く遡河する魚ほど、成長がよかった。

 信濃川河口で3年間繰り返し同様な解析をしたところ、やはり早生まれほど、また成長のよいものほど、早く遡河することがわかった。

 海アユも、太平洋(天竜川)、有明海(矢部川)および日本海(信濃川)などの海域や年度によらず、琵琶湖の陸封型アユと同様な遡河時期と孵化日・成長率の対応関係が認められた。

(2)稚アユは流量の多い川へのぼる(アユの生態:1978小山長雄)
 「よび水効果
 稚アユ(体長6〜8cm)の遊泳最適流速は毎秒40〜60cmで、これを巡航流速という。
一般に、のぼりアユの遡上路は巡航速度か、それにもっとも近い低流速のところが選ばれる。
「アユは流量の多い川へのぼる」という通説は、“その川の流速がのぼりアユの泳力に見合った限度内ならば”という但し書つきで、流量の多い川ほどアユののぼりも多いといえる。
流速分布とアユ遡上
 左の図は河口部における増水時と平水時の流速分布を示し、平水時のアユ群集(7群)が増水時にどのような遡上をみせるか模式化したものである。
図の斜線の円が稚アユの群である。
点で埋め込まれた部分が毎秒40〜60cmの巡航速度帯である。

 平水時の図を見ると、アユ群のほんの一部が毎秒40〜60cmの巡航速度帯に沿って遡上するから、L線での遡上路はいわゆる流心になる。
 増水時では、アユ群のすべてが流れ刺激によって走流性を発揮し、それぞれ巡航速度帯に向かって定位する。
増水時は平水時よりも流れの刺激を受けるアユが多いから、当然遡上量は増加する。そして、L’線での遡上路は流心ではなく両岸よりとなる。
 別のいいかたをすれば、流量の多いということは川にアユを呼び込む効果が高いということである。

 このように流れの刺激によって走流性を発揮させてアユを巡航速度帯に呼び込む効果を「よび水効果」という。
これは、雨が適度に多く水量の多い年はアユの遡上が良いと従来いわれていることを証明するものである。

(3)稚アユはいつからコケ(藻類)を食べはじめるか(2004/02/15追記)
 結論を先に言うと、「稚アユは川口を通過して数分から十数分後、10mほど上までくると、全部のアユが群れのまま速度を落として、藻類をはみ始める。」が正解です。
 俗説に、「海でのプランクトン食から、川に上がってからしばらくは昆虫食になり、やがて藻類食になる。」というもっともらしい話がありますが、正しくありません。稚アユが川底の昆虫を食べているのが認められたこと、虫を擬した毛鈎で稚アユ、若アユが釣れる事、などからこのような俗説が出たようである。昆虫を食べていたり、毛鈎で釣れたりするのは事実だが、アユが昆虫食を経てから藻類食に変わるというのは誤りである。
 どこの川でも、きちんと観察された結果では、川に上がるとすぐに藻類を食べ始める。先に書いたように稚魚型の歯は遡上時期に脱落して、藻類食の歯に変わってしまう。
 大きな川や、下流部の流れがゆるくて、底には石がなく砂や泥だけでできている下流部が長く続くような所では良質の藻は生えないので、そのような所をのぼる間はミジンコ類、ユスリカなどの昆虫を食べる雑食性が10〜15cmになるまで続くことがある。川に上がると、質が良くなくても砂や泥の上の藻を食べるのは間違いの無いことである。川へ入ったアユは、かなりまとまりの強い群れを作ったまま、瀬でも淵でも、石や岩の上でも砂の上でも、同じようにコケをはみながら、徐々に川を遡る。
 川底が石でつまった中流域まで遡上し、その辺りに定着しだす頃になると、砂や泥の上の藻は食べなくなるといわれている。
 参考:矢作川におけるアユの生活史―U

(4)稚アユの遊泳力稚アユの遊泳速度と流速、登面力、ジャンプ力(アユの生態:1978小山長雄)

 アユは流れが弱すぎると、かえって泳力を発揮でず、ある適当な流速のときに泳力を最大に発揮する。
稚アユの巡航速度(流速)
体長 最適な流速
5〜6cm 30〜50cm/秒
6〜8cm 40〜60cm/秒
8〜9cm 50〜70cm/秒

この適当な流速とその時の遊泳速度は、アユにとって持続遊泳行動のための最適な条件と考えられる。これが巡航速度(流速)である。

 流速が早くなっていくと遊泳速度は低下し、ふたたび速度を増して第二のピークにいたる。第二のピーク以上の流速では遊泳速度は急激に落ち、ついに走流不能になり流されてしまう。
遊泳速度の第二のピークは最後の力をふりしぼって瞬間的に出したスピードで持続性は無い。これを突進速度(流速)または爆発速度と呼んでいる。

 アユは巡航速度の時に継続してもっとも速く泳ぐことができる。
即ち、巡航速度の流速帯がのぼりアユの遡上路となるわけである。

 個々のアユによってバラツキがあるが、150〜200cm/秒の流速では稚アユはほとんど遡上できず、100〜150cm/秒の流速でも約半数が流れに逆らえずに流されてしまう。
 のぼりアユの泳力の限界は120〜130cm/秒で流れに逆らっていられる時間は平均すると7〜10秒間である。

川に遡上してくる稚アユの堰斜面遡上力はどの程度あるか?
 岡山県高梁川潮止堰での調査結果
(堰の斜面確度=30度、越流水深2〜3cm、流速=150cm/秒)
堰の斜面を登る距離を調べると、個体によるバラツキが大きいが、80〜120cm登るものが多く、最高で130〜140cmだった。140cmを越すものは1尾もいなかった。
堰斜面を50cm以上登ったものの登面スピードを調べると、毎秒25〜35cmのものがもっとも多かった。つまり1mの斜面を登るのに3〜4秒を要する。
 この調査をした小山長雄氏は、「高梁川の堰にしろ櫛田川の堰にしろ、この種の、越流型の流下堰面は2m以上はあるので、稚アユの遡上は完全に阻止される。これを防ごうとすれば、斜面角度をゆるやかにして流速を下げるか、流下堰面の長さを1m以下にするしかない。それが不可能ならば、堰面の途中に階段式魚だまりを造成し、ワン・ステップおいてアユを越提させるなどの方法もあろう。」と述べている。

 (稚アユのジャンプ力は、止水中では平均25〜30cm、流れがあり水が落ち込んでいる場合には60〜70cmとびはねる。
稚アユのジャンプ力からすれば50cmくらいの落差は飛び越えられそうに思えるが、実際はジャンプしたアユが流れを体側に受けるように落下することが多いので、飛び越えられる落差は30cmくらいだそうだ。)

(5)とびはね行動と遡河行動(塚本 他)
 とびはね性の強いものは、よく遡上し、なわばり性質も強い。
アユのとびはね測定 左図の水槽にアユを入れ、落水刺激を与える。この落水に向かってとびはねたアユを金網製かごに集めて、単位時間当たりのとびはね率(とびはね個体数/被験個体数x100)を求めた。

人工河川(長さ193m、幅1m、水深10〜60cm、平均流速33cm/秒、5箇所模擬の瀬と淵を作ったもの)にアユを放流して遡上性を調べた結果と、とびはね行動の結果とが一致した。

放流前にとびはね行動の強弱で2群に分けた稚アユを河川に放流して遡河性を調べたところ、とびはね性の強いものは、弱いものよりよく遡上した
また、とびはね性の強いものほどなわばりをつくる性質が強く、再捕率も高いことが確認された。

水槽実験では、水温上昇時にとびはね行動は活発になり、下降時には抑制された。
野外における稚アユの遡河行動には日周変化がある。稚アユは昼間遡上し、夜間はほとんど遡らない。自然条件下ではとびはね行動にも日周変化が認められ、昼間、特に夕刻によくとぶ。夕刻には水温が最も高くなり、急激な照度の低下が起こる。
同一種苗ならサイズの大きい固体ほどとびはね性は強い。また、同サイズであれば日齢の大きいものは小さいものよりよくとびはねる。

小山長雄氏のとびはね活動の観察では、とびはねは日の出前の4時まえからはじまり日没35分後の7時20分に終了した。
とびはね活動は午前に低く、午後に高い。午後のとびはね数は70%で、午前の2倍にもおよぶ。照度が急下降したとき活動が誘発され、照度が急上昇したときは活動が抑制された。(これは後述の摂餌活動の活性と同じパターンである。)

(6)稚アユの生態(アユの生態:1978小山長雄)
稚アユは明所をさける
一端から他方へ、あるいは中央から両端へ照度が漸減するようにした長方形の水槽に稚アユを放すと、アユの多くは照度の低い部分に集まる。
稚アユは2〜3 lux の微弱な照度差をも感知して高照度を避け、低照度側を選択する。
影と稚アユの行動
水槽を屋外に置き、黒紙で影をつくり、1分ごとに黒紙(陰影部分)をずらしていくと、左写真のように、アユは陰影の移動と行動を共にした。

(写真が見難いが、斜め矢印は光線の射す方向で、水槽上部の黒く太い横線が影を作る黒紙である。影部分の下に稚アユが集まっている。)

 稚アユが感知できるほどの照度差があれば、アユはより照度の低い部分を選択し、いったんそこへ入ったら出たがらない。この場合、照度隔差が大きいほど陰影固執性は強いようである。

 仔アユやシラスアユの場合には強い正の走光性を持っていた。ところが、稚アユではこの性質が逆転して負に変わっている。
シラスアユから稚アユに変身することを契機として食の好みもプランクトン食から付着藻類食に変化する。
プランクトン食は明所指向型なのだが、藻類への暗所指向型でなければならない。つまり走光性の逆転は食性の変化とも見事な調和を保っている−−ということだけは知っておこう。

陰影の移動速度が20cm/秒以下であればアユは影についてくるが、それ以上の速さでは移動刺激に驚くものがでてくる。
陰影の移動速度が50cm/秒を越えると驚いてパッと分散してしまう。
(釣りで、川面に影を映して動くのは厳禁!じっと構えて動かない。動きは毎秒20cm以下! むームズカシイ)

摂餌活動と光り
摂餌活動と明るさ
 四月下旬の午後、池の中にエサを盛った器をつるし、稚アユの摂餌状態を観察すると、雲の切れ間から太陽光が射し出すような照度の急上昇をするときは摂餌活動は衰え、陽射しが影って照度が下がるときには摂餌活動が活発になる
アユはのべつまくなしに食事をしているのではなく、食べたり休んだりしている。食事時間の途中では照度の上昇はあまり影響力はないが、食事時間の終わり頃では照度の上昇が引き金になって、いちじに「休み時間」に入るものと解される。
餌場の明るさと摂餌活動
 アユの摂餌場は明るすぎても暗すぎても好ましくない。直射日光に露出された餌場にはまったくアユが寄り付かないこともある。すりガラス1〜3枚で覆った程度の少し暗いところでもっともエサを食べる
餌場の色光と摂餌活動
 各餌場に同じ明るさの赤、黄、黄緑、青の透過光線が当たるようにして調べた。
黄色光のエサをもっとも食べ、次いで黄緑光、青色光はほんのわずかで、赤色光ではまったく食べない。
 稚アユは直射光の射すような明るい餌場にはほとんどやってこない。もっとも好まれるのは少し暗い餌場である。
青や赤や黄緑色光の餌場は日光露出の餌場より暗い餌場になっているのだから、当然摂餌量が多くてよさそうなものだが、事実はこれに反する。つまり、稚アユは青色光赤色光の餌場を徹底的に忌避する
 稚ユアは黄色光の餌場によく集まる。おなじような性質はシラスアユでも見られたが、かれらは波長の少し短い黄緑色光帯を選好した。

稚アユの活動リズム

 とびはね活動は四峰型である。とびはねはすいちゅうを離れるという点で普通の遊泳行動とは少し違うが、水流に逆らってのぼるという点ではやはり遊泳活動の範疇にはいるものとして、いわゆる遊泳活動ととびはね活動を同一視てよいと考えると、稚アユの日周的遊泳活動は四峰型である。
 摂餌活動は、一日三峰型で、ピークは早朝、正午付近および夕方に現れる。摂餌時間や量は日光照度とか水温などの影響で多少変動するが基本パターンは堅持される。

遊泳、摂餌両活動の日周型を模式化して重ねたものが左図である。
日の出前後と日没前は遊泳もさかん、摂餌もさかん、午前八時から午後五時の間は、泳いでのち食い、また泳ぐといったふうである。
このような活動リズムは、のぼりアユや群れアユや養殖アユに通用するルールだと思われる。

(のぼり鮎のエサ釣りをしていた頃のことを思い出すと、朝日が昇り始め7時か8時ころになると、ピタッと食いが止まるのが通常のパターンだったように記憶している。この時間は摂餌活動の落ち込む時間と一致している。若い頃にこれが解っていれば、長くネバルこともなかったのに、と思う。ヤマメやアマゴもこのパターンなのか?)

視覚
明度視覚、側面背景
(その1)の図9に示す走馬灯式背景移動装置でのぼりアユの明度側面反応をしらべた。アユの反応は明度差が小さくなるにつれ低くなる。
仔アユ、シラスアユに比べ、移動速度の遅い(25cm/秒)背景にはあまり反応しない。
色彩視覚、色覚
背景色反応も走馬灯式背景移動装置で調べた。
稚アユがもっとも反応する色は、橙色と赤色で、青紫と赤紫にはほとんど反応しない。黄、緑、青はその中間である。
赤い色にもっとも強い色覚を持ちついで黄・緑、青っぽい色はあまり見えず紫っぽい色はほとんど見えない−−波長が短い色ほど色覚が低い。
 仔アユやシラスアユの時代は、波長の長い赤色系、ついで波長の短い青色系に色覚が強く、波長の中間の緑色系に色覚が弱いといった中だるみの傾向であった。
生まれてから共通しているのは、アユは赤色系の色にきわめて敏感だということである。

嫌いな色、好きな色
(釣り人の服装について助言してくれているので、それを紹介しよう。)
アユ釣りを楽しむ人たちの中には、平気で赤だのだいだいだのの服装をしている人がいる。みた目にはカッコよさそうだが、わざとアユを寄せつけないようにしているようなものだ。しま柄の上衣はさらにいけない。黒と黄色のしま柄では100%、白と青紫のしま模様は80%以上のアユを忌避させる。さりとて白も光りを反射するから適当でない。総じて派手な色彩は釣り着には好ましくないということである。
光りの色からいうと、稚アユは黄色が好きだ。
釣り着に赤がいけないなら黄色はどうか。黄色の服装をしていればアユが集まってくるのか、というとそれはあたらない。黄色は非常に明るい色で光線を強く反射するからである。もっとも、光りを多く反射しないような生地があれば別だ。そんな心配をするより紫系統の色物を着たほうが無難というものだろう。
 同じ意味で、釣り竿も釣り糸も紫色がよいことになるが、竿のほうは影という刺激が伴うので、さほどの効果は期待できない。

水温の選好性
体調と選好温度 仔アユから稚アユまでの選好温度の推移を眺めてみよう。
仔アユでは前歴温度より高めの水温を選び、
シラスアユではむしろ低温を選び、
稚アユではふたたび高温寄りの水温を選ぶ。

このことはアユの生活環とは切っても切れない適応である。
 早春の河水は冷たい。しかもアユは遺伝的に川(淡水)にのぼることを余儀なくされる。暖かい海中にいるアユがもし前歴温度より高い水温を好むとすれば、アユの遡上は大幅に遅れ、爾後の生活に支障をきたす。だが、幸いなことに、遡上前のユアは前歴温度より二〜四度も低い水温を選ぶように備わっている。ユアは河口深く入りこみ、しだいに体調を整えて遡上の機会を待つ。やがて河水温度が前歴温度に近くなると、遡上を開始する。
その意味で「海水温が河水温とほぼひとしくなると遡上する」というのは正しい。ただし、海水温というより、汽水温といったほうがもっと当たっている。
川にのぼったアユの選好温度は少しずつ高くなり、前歴温度より数度高いところをえらぶが、その上限は二一〜二二度くらいかと思われる。

水質選好性
 アユは澄み水を好み、濁り水を嫌うことは鮎釣りをする者は誰でもよく知っているが、見た目が濁っていなくても化学物質や生活廃水で汚染された水は嫌われるかというと、それはあまり知られていない。
木曽三川の長良川、揖斐川、木曽川の水に対するのぼりアユの選好性をしらべるた。
試供アユは三重県櫛田川産で体長7.3cmで地下水で畜養したものを用いた。
長良川と揖斐川の水をくらべた場合も長良川と木曽川の水をくらべた場合も、アユは長良川の水を好んだ。
信濃川が分水町の南端にさしかかた所で、新潟市を洪水から守ることを主目的にして、大河津分水路が作られ、さらに関谷分水路が作られた。もともとの信濃川河口水(COD2.56ppm)と関谷分水路の水(COD1.64ppm)、大河津分水路の水(COD0.4ppm)とをくらべると、分水路の水が好まれた。CODの差(水の汚れ)がそのまま選好性に反映している。
江の川のパルプ工場廃水での試験では、工場廃水口での排水原液のCODは2340ppmであった。この排水原液中では8分後にはアユが全て死んだ。何倍まで薄めたら忌避しなくなるか実験すると、廃液を1万倍に希釈してようやく河水と区別しなくなった。このときのCODは0.23ppmである。
(残念ながら、このとき廃液中のどの成分をアユが忌避したのかは調べられなかった。)
 上記の信濃川、江の川の例でもわかるように、川水の汚れは間違いなくアユの遡上を阻害している。

(7)稚アユは、10億分の一というごく微量でも合成洗剤の臭いを嫌がって避ける。
 「気になる話」の“LASとはどんなものか”にも書いたが、日高先生による「魚類による化学薬剤の忌避試験法 ―アユによる洗剤の忌避 (1978)」では、合成界面活性剤LASはわずか1.5ppbでもアユはこの臭いを忌避することが確認されている。参照;矢口高雄の「自選 釣れづれの記」 を読んで
 十年以上も前からアユの遡上が減ったと言われ続けている。
 その原因の一つが、家庭などで使われた合成洗剤が河川に流れ、その臭いを嫌がって稚アユが河口に近づかないというのだ。
***
 ppmとは(100万分の一)1グラムの物を1000リットルの水に溶かしたときの濃度です。
 ppbとはppmの千分の一の濃度(10億分の一)で、1グラムの物を1000トンの水に溶かしたときの濃度です。
 
一円玉の重さが1グラムです。
 洗濯機で洗濯するときに、約20gの洗剤を使います。20gの合成洗剤が1ppbの濃度に薄まるにはなんと2万トンのきれいな水が必要です。洗濯した水が川に流れると、1回洗濯するたびに、きれいな水2万トンで薄めなければ、アユはLASの臭いを嫌がって遡上してきません。(活性汚泥方式の大型排水処理場以外ではLASなどの合成洗剤は除去できません。また、川に流れた合成洗剤は、川で分解されないまま海に出て河口近くの海底に沈殿しているそうです。)
 鮎師は、合成洗剤を使わないで下さい。昔からの石鹸で充分きれいに洗濯ができます。
 液体の洗濯用石鹸が販売されており、我が家で使っています。これで合成洗剤と同等に洗濯できます。
 また、合成洗剤に添加されている蛍光増白剤は、食品衛生法、薬事法で食器、布巾、乳児用よだれかけ・肌着・おむつ、包帯、ガーゼ等への使用が禁止されています。真っ白くなると宣伝されている合成洗剤は、人にもアユにも危険な商品です。

***

遡上時の障害と危険
 ようやく稚アユが河口から川へ群れとなって遡上をはじめても、石垢の豊富な中流域に到着するまでには多くの危険と障害がある。
 最大の難関は、堰、頭首工やダムと、稚アユの遡れない形式だけの魚道という名前がついた水路である。
堰や頭首工やダムの下の深みに集まった稚アユはカワウに攻撃され、のぼり難い魚道の脇ではサギが待ちうける。堰や頭首工やダムは、彼らに格好の餌場を提供しているのだ。
 近年カワウが異常に増えて川や湖での被害が急増しているが、その一因は人による環境破壊によって生態系のバランスが妙な方向へ崩れていっているからではなかろうか。

 (8)成長速度の速い稚アユがなわばり形成が最も活発
   成長速度が異なるアユ種苗のなわばり性

よくここまで見てくださいました。ありがとうございます。
ようやく稚鮎が遡上するところまでまとまりました。
(その3 川をのぼりナワバリを持つ) はしばらく後になりそうです。

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(その1) 産卵−孵化−仔アユの流下