アユの一生(その2 参考)
作成:2003/12/15 鮎の話へ

〔生物の発生と体液の浸透圧調整〕

 40億年前、原始の海で泡のような膜の中に地球に初めて生物が誕生した。その頃の海は現在の動物には有害なシアン化水素、青酸カリ、硫化水素などが満ちており、空は濃い炭酸ガスの雲におおわれていた。38億年前、硫化水素をエネルギー源とする化学合成菌が誕生した。(数年前に、原始の海の生物と同じように、深海の熱水噴出孔の周りで硫化水素をエネルギー源とするチューブワームなどの生物が発見された。)
 水に溶け易い炭酸ガスは大量に海に溶け込み、海中のカルシウムと反応して炭酸カルシウム(石灰岩)になり海底に沈殿していったので、濃い炭酸ガスの雲が薄れ地表に太陽光がとどくようになっていった。
 35億年前、
光合成をし酸素を吐き出すシアノバクテリアが誕生した。27億年前、シアノバクテリアの大繁殖と光合成により酸素が増えて、かつての硫化水素に満ちた海を酸素に満ちた海へと変えていった。
 海に溶けていた鉄がその酸素で酸化され、酸化鉄(縞状鉄鉱層;重要な鉄鉱石)となり大量に海底に沈殿した。鉄がほとんど沈殿してしまった後は、酸素は海水から大気へ放出され、次第に大気中の酸素濃度が増えていった。
 20億年前、核をもつバクテリアと酸素を使いエネルギーを生み出すバクテリア(ミトコンドリア)が合体して、細胞が誕生した。遺伝子の情報を元に指令を出す核と、その指令を受けてミトコンドリアがエネルギーを作り細胞内に供給する細胞が、別々の能力を持ったもの同士の共生(感染?)によって出来上がった。
 10億年前に簡単な細胞が集まって単純な動物が発生し、5億3千万年前のカンブリア紀に生命進化の大爆発が起こり動物の種類は一万種以上にも増えた。しかし陸上は強烈な紫外線の直射にさらされており、岩と砂だけの死の世界だった。

現在から 時代 主な出来事
46億年前 地球誕生
45億年前 ジャインアント・インパクトによって月の誕生
40億年前 先カンブリア紀 生命の誕生
38億年前 硫化水素を利用して生きるバクテリアの誕生
DNAの創生
海と陸ができていた(最古の堆積岩)
35億年前 光合成をし、酸素を吐き出すシアノバクテリアの誕生
原核生物(細菌類、藍藻類)の出現、単細胞動物の誕生
27億年前 シアノバクテリア(藍藻)の大繁殖
酸素が海にも空にも満ち始める
二酸化炭素の地球から酸素の地球へ
21億年前 真核生物の出現、動植物の起源となる細胞の誕生
細胞内に核膜に包まれた"核"を持っている
核の中には染色体(DNAの集まり)が格納されている
酸素で呼吸する新しい生命の誕生
10億年前 多細胞生物の出現、原始動物の誕生
7億5千万年前 巨大大陸の分裂の始まり
6億年前 浅い海の出現→動物の種類は約30種類
エディアカラ生物群の繁栄
5億3千万年前 カンブリア紀
5.7〜5.1億年前
無脊椎動物の爆発的登場(カンブリア紀の爆発
生命の進化大爆発→動物の種類は約1万種類に増加
三葉虫繁栄。海の王者は肉食のアノマロカリス
5億1千万年前 オルドピス紀
5.1〜4.4億年前
大絶滅(カンブリア紀のほとんどの生物が絶滅)
5億年前 大陸の衝突による巨大山脈の出現と、大河の誕生
オゾン層が形成され紫外線が防がれる
コケ植物の陸上進出。水辺で繁殖
4億6千万年前 最古の魚、アランダスピス誕生
ヒレも顎も無く、泳ぎは下手

シダ植物の誕生。胞子、水辺で繁殖
オルドピス紀後期の大氷河で多くの生物絶滅
4億?千万年前 シルル紀
4.4〜4.1億年前
顎をもつ魚が現れる
サンゴ繁栄
4億年前 デポン紀
4.1〜3.6億年前

魚が急激に進歩
海の王者はオウム貝(イカの祖先)
魚が河へ進出!最初に
腎臓を持ったプテラスピスの登場
塩分濃度;浸透圧差を克服するための腎臓を獲得
シダ植物、節足動物地上へ進出
3億9千万年前 最初に背骨を持った淡水魚、ケイロレピスの登場
顎と歯、2枚の胸ビレ、2枚の腹ビレがあり、現在の魚の祖先
ミネラル補給の克服、骨が海のミネラル代わり
3億7千万年前 最初にを持った魚、ユーステノプテロンの登場
酸素呼吸の克服。ヒレの中に7本の骨を持つ→手足代わり。
陸上動物の直接的な祖先。
3億6千万年前 4本足を持ち、最初に陸へ上がった動物、イクチオステガ
助骨を持つ→重力の克服)
3億5千万年前 石炭紀
3.6〜2.9億年前
両生類、陸への進出、爬虫類の登場
巨大トンボ、ゴキブリなど昆虫
シダ植物の繁栄。大森林の出現
  ベルム紀(二畳紀)
2.8〜2.3億年前
裸子植物が繁栄、爬虫類が発展
ベルム紀末に史上最大の
大絶滅発生
  三畳紀
2.3〜1.95億年前
最初の小さな恐竜が現れる。アンモナイト
シダ類、ソテツ類、イチョウ類など裸子植物が栄える
哺乳類型爬虫類の出現、哺乳類の祖先
  ジュラ紀
1.95〜1.4億年前
爬虫類とアンモナイトが繁栄、恐竜の巨大化。
シダ植物や裸子植物の大森林

哺乳類は小さな食虫類


6600万年前
白亜紀
1.4億年〜
6500万年前
被子植物の登場。昆虫の繁栄
時代の王者は
恐竜
白亜紀末期に回遊魚の証拠(米国、耳石化石を分析)
巨大隕石の衝突。恐竜の絶滅
  古第三紀
6500〜
2250万年前
哺乳類や被子植物がいろいろ種類を増す
 
300万年前
新第三紀
2250〜
180万年前
アファール猿人誕生(600万年前)
鮮新世(500〜180万年前)の3〜1百万年前頃アユが誕生
   第四紀
180万年前〜
第四紀は寒い「氷河期」と暖かい「間氷期」をくりかえす
今は暖かい「間氷期」にあたる。

アユは寒い「氷河期」にナワバリ性質を獲得した。
150万年前;原人ホモエレクトスの登場
20万年前;古代型ホモサピエンス登場
15万年前;洪積世のころ
日本列島の原型できる。
       この頃、日本海は巨大な湖。
30〜10万年前;琵琶湖アユ陸封される。
10万年前;現代型ホモサピエンスの登場
7〜1万年前;ヴュルム主氷期
1万年前;沖積世に大陸から分離し
日本列島ができた
       縄文時代がはじまる。

 4億6千万年前、10cmほどの最古の魚(アランダスピス)が誕生したが、まだヒレは無く自由に泳げるわけではなかった。

 オルドビス紀になると殻と鱗をもった古代魚の種類と数が増えたが、4億年ほど前の海の王者は、堅い殻を持ち、巧みな泳ぎを 身に付けていたオオム貝であった。
それまでの生物は全て海のなかでのみ生息し、その細胞も体液も当時の海の塩分濃度に合わせて生きていた。

 4億年前、獰猛な肉食動物オオム貝の攻撃から逃れ、海から河へと生息場所を求めた魚(プテラスピス)が発生した。

プテラスピス
プテラスピス
復元模型

 プテラスピスは、体液の塩分濃度を海の濃度と同じに保つために、体に入った余分の水を血液から絞り取り尿として排出する腎臓を発達させて、新天地の河へ進出した。まだ顎はない。
 河でも魚はいろいろに進化していったが、甲羅と鱗を持つものはいたが、まだ背骨は無かった。

 それから1千万年後に淡水魚のなかから、背骨と2枚の胸鰭と2枚の腹鰭を持つ魚(ケイロレピス)が誕生した。

ケイロレピス
復元画

 ケイロレピスは背骨を持つことにより強い筋肉を発達させ、すばやく力強い泳ぎができたと考えられるが、背骨にはもっと重要なミネラルの貯蔵庫という役割があった。
 河水には、カルシウムは海水の1/10から1/100しか含まれていないが、
カルシウムは、神経の働きや心臓や筋肉が動くために無くてはならないもので、カルシウムの量が不足することは、生命にとって大変危険なことである。カルシウム無しでは心臓は、すぐに止まってしまう。
 カルシウムの多い時には、そのカルシウムを骨として貯えておき、カルシウムが不足した時には、この骨からカルシウムを補給する。こうしてどんな場合でも、カルシウムを安定して使えるようにする、それが骨のもっとも重要な役割である。
 骨にはカルシウムだけでなくマグネシウム、リン、硫黄、亜鉛、さらには鉄など、生命にとって必要なミネラルが含まれていて、これらは海に含まれているものと同じであった。
 つまり、
骨は豊かな海の代わりをするミネラルの貯蔵庫であり、海からの自立するための仕組みを体の中に作り上げた

 背骨を持たない魚は河で生き抜くことは難しかったようで絶滅の道をたどった。

 
ケイロレピスの子孫が河の王者となり、後には再び海へも進出し勢力を伸ばしていった。
 それまで海に沢山いた甲羅と鱗だけで背骨を持たない魚も絶滅していった。
 現在川や海で見られる魚は全てケイロレピスの子孫である。

 さらに2千万年後の3億7千万年前、ケイロレピスと同じ様に背骨を持つユーステノプテロンという鰭に7本の骨を持つ魚が誕生した。

ユーステノプテロン
ユーステノプテロン
復元画

その訳は、植物の多い河床でユーステノプテロンは植物をヒレでかき分けて泳いでいたために骨のついた頑丈なヒレが必要だったと考えられている。
 このユーステノプテロンこそが陸上動物の直接的な祖先だったのではないかと考えられている。そして、その子孫が肺魚となって空気中の酸素を利用するようになった。
 さらに1千万年後に最初の4本足の動物が現れ、さらに水中から陸へ進出して四足陸上動物になったといわれている。

 魚や動物の体液(血液)の塩分濃度は、魚が海から河へ、干潟から陸上へ、また河から海へと
 移り住んだ当時の原始の海の塩分濃度が現在も受け継がれているのだといわれている。
 体液の塩分濃度は、
淡水魚は約0.6%、人を含め陸上動物は約0.9%、海水魚は約1.1%である。

 (現在も、海の無脊椎動物の体液は海の塩分濃度(3.2〜3.5%)と同じです。)

脊椎動物はその発生当時から体液の塩分濃度を一定に保つしくみを持っていた。
 この、体液の塩分濃度を一定に保つしくみを浸透圧の調整機能という。
浸透圧を調整している主な塩類はナトリウム(Na)塩とカリウム(K)塩である。
 1つ1つの細胞は細胞外液と言うNaClを主成分とする液の中に浮かんでいる。細胞が縮み過ぎたり、膨らみすぎて、壊れないように、細胞外液のナトリウムの量が変化して、細胞の壁を隔てて細胞内液と濃度的に一定のバランス(浸透圧の調整)を取り合つている。人で、このバランスが崩れると、脱水症状(血圧の低下、立ちくらみ)を起こしたり、浮腫(むくみ)の症状が出てくる。
 
◇ナトリュウム
 細胞外液にあって細胞の浸透圧を調整しています。細胞外液とは組織間液、血液、リンパ液などです。
 細胞外液が原始の海に似た成分組成になっているといわれている。
 
◇カリュウム
 細胞内液にあって細胞の浸透圧を調整しています。カリウムはそのほとんどが筋肉細胞中にあります。

淡水魚と海水魚では、体液の塩化物濃度を一定に保つしくみ、浸透圧の調整機能が全く逆
 淡水中では、鰓や皮膚から水が体内に滲みこみ、何もしなければ水ぶくれになり細胞が破裂してしまう。一方、海水中では体内の水分が海水中に滲み出して細胞がしぼんでしまう。
 したがって、淡水魚は体に滲み込んでくる水を体外に出さなければならないし、海水魚は体から出ていく水をどんどん補給しなければ、生きていけない。これが、体液の塩化物濃度を一定に保たなければならない理由である。

 体液の塩分濃度を淡水魚は0.6%、海水魚は1.1%に保つために、
 
淡水魚は、水はほとんど飲まず、鰓や粘膜などが水が透りにくくなっており、体内の余分な水分を外に出し塩分はなるべく外に出さないように、濃度のごく薄い尿を大量に排出して体が水ぶくれにならないようにしている。また、鰓の塩類細胞から塩分を体内に取り込んでいる。
 一方、
海水魚は常に大量の海水を飲んで水分を補い、体の中で余分になった塩類は、主として鰓にある塩類細胞(塩化物排出細胞)を通して体外に排出し、尿は濃度の非常に濃いものを少量排出して、体の水分が外に滲みだして脱水状態にならないように防いでいる。

 (サメやエイなどの軟骨魚は体液に尿素をためて浸透圧を調整している。そのため肉に臭みがある。)

 汽水域に入り込んだ場合には、海水魚も淡水魚も日頃行っている調整機能を抑えてやるだけで、ある程度の塩分変化に対応できるといわれるが、完全に川から海、あるいは海から川へ移動するには、浸透圧の調整機能を切り替える能力が必要である。
 回遊魚は、汽水域で浸透圧の調整機能を切り替えて、川と海を行き来している。

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