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「月彦を使って仕返し? 随分他力本願な仕返しねぇ」
 真狐はあくまで不敵に笑う。だがその足はツクヨミの編んだ霊力の帯によって拘束され、今や立つことも出来ない。
「黙れ! 淫婦めッ……よくも、よくも妾にッ………!」
 帯を握るツクヨミの手が、わなわなと震える。その頬には今尚羞恥の紅が残り、ぎりぎりと歯を食いしばる音まで聞こえてくるかの様。
「貴様……ツキヒコとか言ったな。この女を徹底的に犯せ。先程貴様が妾にした事、まさか出来ぬとは言わせぬぞ」
 金色の瞳がギロリと睨み付けてくる。断ろうものなら、たちまち黒焦げにされるのではないか――殺気をみなぎらせるツクヨミに、思わず背筋が凍る。
「……俺も、騙されたしな」
 尤も、月彦としてもツクヨミの要請を断る理由は無かった。この性悪狐に対してはもはや同情の余地はない。 真狐ににじり寄ると、ふふふと妖しい笑い声が聞こえた。
「いくら騙されたからって、普通の男ならあそこで手を出したりしないわよねぇ」
 ざくり、と真狐の言葉が胸に突き刺さる。だが、月彦は無視した。
「黙れ、諸悪の根元! 元はといえばお前が全部悪いんだろうが! 真央までダシに使いやがって!」
 ツクヨミが背後に控えているかと思うと、先程とは違ってついつい気も大きくなる。狐の威を借るなんとやらである。
「ふふ、あたし何されるのかしら。興奮しちゃうわ」
 真狐は足を崩すようにして座ったまま、まるで自ら月彦を誘うようにして上体をくねらせる。ただでさえ露出の多い着物がはだけ、巨乳が半分近く露わになる。
 ゴクリ、と月彦は唾を飲んだ。その瞬間―――
「うッ……!」
 咄嗟に情けのない声が出た。腰が勝手にくの字に曲がる。見ると、いつのまに忍び寄ったのか、真狐の右手が剛直を捕らえ、その先端にまるでキスでもするように唇を当てていた。
「くすっ……」
 月彦を見上げ、妖笑。目を細めて、扇情的に。
「ツクヨミ」
 その目が、月彦の後方に構えているツクヨミへと向けられる。
「いい機会だから、あたしがお手本を見せてあげるわ。この男があへあへ言いながら腰砕けになる所をしっかりと見て、今後の参考にしなさい」
「なっ……」
 反論しようとした矢先、 剛直が、ぬっ……と唇の中に吸い込まれる。
「うぁッ……!」
 足から力が抜けた。布団の上に尻餅を突く。真狐が身を乗り出し、剛直がさらに奥まで飲み込まれる。
「ッ……くっ……ぁッ……! ちょっ……かっ……は……!」
 勝手に声が出た。両足がバタバタと意味もなく動き、右手で真狐の髪を掻きむしるようにして悶える。
 わけが解らなかった。ただ、剛直をくわえ込まれただけ。そしてやんわりと、舌で舐め回されているだけなのに、背が反りそうな程に快感が突き上がって来る。
 春菜のようにざらりとした舌で攻められるのとも違う。真央のそれとは根本的に違う。
「な……んだ、これ……前、した、時と……」
 全然違う―――という声は、不自然な喘ぎに変わった。そう、違うのだ。前にした時とも、その後夜這って来た時とも。
 否、月彦は一つだけ、この異常な快感に心当たりがある事に気がついた。そう、一番始め―――真狐に攫われた時。まるでその時のような無力感。蜘蛛の巣に捕まった蝶の様に、藻掻いてもどうにもならない、無力感。
「おい、貴様……ッ……なんだその様は! 先程の勢いはどうした!」
 ツクヨミの苛立った声が、妙に遠くから聞こえた。そんなことを言われても、と月彦が反論しようとした時、ちゅぱ……と音が聞こえて、快感が俄に止む。
「ツクヨミ、なんならアンタも混ざる?」
 二人同時でも良いわよ―――と、妖しい女の声。微かに憤るような息づかいが遠くで聞こえ、再び剛直が口に含まれる。
「ぁッ……ぅ……くッ……!」
 真狐の舌の動きに合わせて、勝手に腰がうねる。ちゅば、ちゅばと音を立てて吸い上げられると、今度は腰が浮く。
 されるがままにならざるを得ないほど、抵抗する気すら失せるほどの快感だった。剛直の根本の辺りを中心に徐々に痺れのようなものが広がっていく。月彦は夢中で真狐の髪を掻きむしり、別の手では布団を握りしめる。
 我慢など、しようという気すら起きなかった。なすがままに快感に翻弄され、程なくびくん、と。腰が大きく跳ねた。
「んんッっ………!」
 真狐が眉を寄せ、ごくりと喉を鳴らす。
「……ふふっ、ツクヨミの時より随分早いわね」
「っっっ……き、さま……!」
 舌先で先端を嬲るように舐める真狐と、わなわなと全身に怒気を漲らせているツクヨミとの間に挟まれ、 月彦は窮した。その”隙”を突かれ、今度は容易く胸を押されて押し倒されてしまう。
「んふふ……どう? 良かったでしょ。あたしのフェラ」
  ”あの子”とは格が違うでしょ?――そんな煽るような口調に、思わず頷きかけて、慌てて首を振る。例えそれが真実であったとしても、この女を喜ばせるような返事だけはするわけにはいかない。
 が、そんな月彦のささやかな矜持、抵抗すらもどうでもいいとばかりにてろり、てろりと胸板を舐め始める。乳首を丹念に舐め、時折吸うなどして、徐々に下へ。臍まで来て、さらに下へと向かう素振りを見せた瞬間、月彦が僅かに体を強張らせるのを舌先で感じ取り、焦らす様に胸元へと戻っていく。
「あたしがムカツクんでしょ? ほら、好きにすればいいじゃない」
 上半身を起こし、猫の様にくねらせながら、指先で月彦の顎の下を軽く撫でる。態とか、いつも以上に着物を着崩しては白い巨乳を中央に止せ、挑発するようにたわわに歪ませる。
(う、あ……く、そっ……)
 真狐の両腕の中で極上のマシュマロのように歪む乳肉を見せつけられるなり、両手に抑えがたい疼きを感じた――時にはもう、己の意思とは無関係に両手を伸ばしていた。
「あぁんっ……♪ もぅ、月彦ったら……余程飢えてたのね」
 真狐はあからさまに芝居がかった甘い声を出し、そして月彦の頭上方向をチラ見する。そう、真狐に押し倒された月彦にはもう、ツクヨミが一体どんな顔をしているのか知る術は無いが、びりびりとした怒気だけが空気を通じて肌を震わせる。
 否、震えているのはひょっとしたら自分の体そのものかもしれない。
「ほぉら、好きにしていいのよ? あの子のじゃ、全然楽しめなかったでしょ?」
 真狐に手首を掴まれ、そのままぐいと引っ張られる。結果、指先が乳肉に埋もれるほどに強く掴むことになり、あぁぁ、と真狐は一層甲高い声を上げる。
「あぁぁ……! イイわぁ……そんな風にギュウウって強く掴まれるの好きぃっ……! もっと、もっとぉ……痛いくらいに強くシてぇ!」
 やはり、芝居がかった甘い声。そう、悶えながら「あんたの貧相なおっぱいじゃそんな揉まれ方なんて絶対不可能でしょ?」とでも言いたげな呷り文句だった。
「あぁあっ! あぁっ……! ぁはぁっ……!」
 真狐はさらに身をくねらせ、声を上げ、そして唐突に月彦の両手首を掴み直すや、そのまま布団に押しつけるようにして上体をかぶせてきた。
「お、おいっ……真狐……」
「いいじゃない。次はあたしにさせなさいよ」
 胸を触らせてやったんだから、しばらく大人しくしていろ――と、月彦には聞こえた。別に従う必要はないのだが、右手も左手も極上の乳肉の余韻に酔いしれるように弛緩して役立たずと化していた。或いは、この性悪狐に何かそういう”呪”でもかけられたのかもしれなかった。
「ったくもぅ……ツクヨミとヤッたくせに、まだこんなに春菜の匂いを残して……」
 ぶつぶつと呟きながら、れろり、れろりと舌を這わせてくる。首筋、鎖骨、胸板を舐められ、ぞわぞわとくすぐったい感覚に身をよじりそうになった矢先。
「おいっ」
  と、唐突に怒気を孕んだ声と共に、前屈みになったツクヨミの顔が視界に入り、月彦はハッと自我を取り戻した。
 そうだ、この性悪狐に仕置きをしなければならなかったのだ――月彦が当初の目的を思い出した、その瞬間。
「んんっ!?」
 唐突に唇を奪われ、しかも舌まで入れられた。
「んんんーーーっ!」
 しっかりと両手で頭を固定され、 れろり、れろりと舌を強制的に絡まされる。ゾゾゾと背筋が冷えるほどに巧みな舌の動きに全身から力が抜け、最初は引き剥がそうと真狐の両肩を掴んだ手までもが脱力し、役立たずになってしまう。
「んっ、んふっ……んふふふふふっっっ」
 唇を合わせたまま、舌を絡ませたまま、真狐が笑っているのが分かる。そう、この女はキスという形をとりながら、とろり、とろりと自分の唾液を送り込んできているのだ。――まるで、男に自分の唾液を飲ませるという行為が好きで好きで堪らないとばかりに。
「おい、貴様……」
 真狐の頭越しに見える、逆さ向きのツクヨミの顔はもう怒りのメルトダウン寸前。ヒクつく頬の筋肉は今にも「そのままこの女としっぽり楽しむつもりなら四肢を引き裂いてバラバラにした挙げ句炭クズにしてやる」と言わんばかりだ。
(わかっては、いるんだが……)
 抵抗が出来ない。よりにもよって、この女の唾液を飲まされるという屈辱極まりない行為ですらも、抵抗らしい抵抗も出来ずに受け入れてしまう。単純に、真狐の技量の一つ一つが巧みであるというのもあるが、それ以上に問題なのが真狐の全身から発散される香り――フェロモンとでも言うべきか――だった。
(頭が、ぼーっとして……)
 こうして真狐に密着され、その匂いを嗅げば嗅ぐほどに思考力が奪われ、さらに抵抗する力までもが奪われる。そのくせ、下半身だけはいつも以上に猛々しく、はちきれんばかりだ。さながら、普段脳へと送っている血までも下半身へと強制的に集められているかの様だった。
「っ……はぁんっ……すっごぉい、グイイイってお腹の所突き上げて来てる」
 密着したまま、真狐がその手応えを確かめるように体を前後させる。
「あたしのキス、そんなに良かった?」
 今のの何処がキスだ!――そう反論するよりも先に、手が動いた。
「あんっ……!」
 両手が、真狐の体を抱きしめるように蠢き、そのまま尻肉を捉え、揉みしだく。
「あーら、なんかスイッチ入っちゃった感じ?」
 余裕ぶった声が癪に障るが、しかし尻肉の感触も極上で揉む手を止められない。そうこうしている間に再び唇を奪われる。んふ、んふと楽しそうに喉を鳴らしながら真狐に注ぎ込まれる唾液を、ほとんど抵抗無く嚥下していく。
 頭がさらに痺れる。先ほどからこつんこつんと、ツクヨミにつま先で頭を小突かれているが、それすら気にならないほどに。
 月彦は、目の前の”女”に夢中になっていた。
「きゃんっ」
 そして不意に尻を揉む手を止め、真狐の体を力任せに引き剥がし、そのまま布団に肩を押しつける。真狐も、特に抵抗をしなかった。布団に押し倒され、月彦に見下ろされて尚、真狐は不敵な笑みを崩さない。たまには責めさせてやるのも一興――そんな余裕の構えだ。
「く、そっ……」
 まるで苛立ちをぶつけるように、そのたわわな胸元を握りしめる。真狐が僅かに苦痛に顔を歪めるが、それすらも感じるのか、腰をくねらせながら甘い声を上げた。
「あはぁっ……イイわぁ……あたしが一番好きな力加減、もう覚えるなんてさすがね。褒めてあげる」
 お前を喜ばせるために揉んでるんじゃない!――そう怒鳴りつけたかった。しかし実際に月彦がやったことは、両手を使ってもっぎゅもぎゅと乳肉をこね回して、挙げ句その谷間に顔を埋めることだった。
(畜生……畜生……畜生……! 悔しいが、こいつの乳は……特級だ)
 この女の言いなりになどなってたまるか!――そんな男の矜持すらも容易く包み込んでしまう、ふたつのたわわな肉の塊の間に生まれる圧倒的な娯楽空間。矢も盾も溜まらず、今度はピンと堅く尖った先端を口に含み、テロテロとなめ回す。特上のおっぱいを揉み、舐めているのに何故これほどまでに屈辱にまみれなければならないのか。
 運命の皮肉に月彦は心の涙を流し、その涙が――ひょっとしたら、奇跡を喚んだ――のかもしれない。
「んぅ……もぉ、月彦ったら……いくらなんでも飢えすぎよ。……ねぇ、おっぱいもイイけど、そろそろ――」
 真狐の手が月彦の髪を撫で首を撫で肩を撫で――そのまますすすと下半身へと伸びて――不意に固まった。
「えっ」
 という、この女の口からはついぞ聞いたことのない困惑の声に、思わず月彦は乳首をねぶるのを止めて、俄に顔を上げた。
「ちょ、ちょっと……月彦、あんた――」
 ギョッとしたような真狐の声と、そしてその目線の先を追いかけて、月彦もまたギョッと多少ながらも驚いた。そう、二人の目線の先には――堅く、太く、腹筋に突き刺さらんばかりに反り返った巨大な肉柱があったからだ。
「な、何よそれ……さっき口でした時より全然おっきくなってるじゃない」
「あぁ……そうだな」
「そうだな、って……」
 唖然、絶句。先ほどまでの熟練の娼婦のような笑みは消え、むしろ怯えすら見せている真狐の姿に、 自然と口元が歪む。
「そういや真狐、さっきなんか言いかけてたよな。”おっぱいもイイけど、そろそろ――”の続きは何だ?」
「ま、待って……ちょ、ねえ……まさかあんた、”それ”をあたしに挿れる気じゃないわよね?」
「何言ってんだ。別にいつも通りだろ」
「全然違うわよっ……なんで、いきなりそんな……腕みたいになってんのよっ」
「真狐の気のせいだろ。それか、お前の中の罪悪感が大きく見せてるんだっ」
 “だ”の所で月彦は真狐を組み伏せにかかる。ひっ、と素の声を上げて体を逃がそうとする真狐の両肩を掴んで押さえつけ、さらに足を開かせる。
「やっ……っ、こ、こらっ……卑怯者っ……!」
「どっちがだっ、神妙にしろっ」
 巨乳を掴むようにして押さえつけると、僅かに真狐の抵抗が緩んだ。その隙に乗じて、月彦は一気に足の間に体を割り込ませる。既にトロトロに蕩けた秘裂へと、巨根を宛がい、一気に。
「ま、待っっ――こんなの、ズルい、っっ……あ、あ、ああああああァァァっあーーーーーッ!!」
 暴れる真狐を押さえつけながら、ぐいぐいと剛直を押しこんでいく。
(う、ぁっ……さすがに、キツ……でも――)
 て巨根の挿入に息を詰まらせながらも下手な抵抗も出来ずに体を強ばらせ、硬直させてしまっている仇敵の姿に、思わず背筋が震える。気を抜けばすぐさま放ってしまいそうな程の興奮にぐっと歯を食いしばって、月彦はゆっくりと抽送を開始する。
「やっ……ちょ、これっ……苦しっ……」
 が、抽送を始めたのもつかの間。はぁはぁと、目尻に涙を浮かべながら懇願するように見上げてくる真狐の姿に、月彦の興奮はあっさりとレッドゾーンを振り切ってしまった。
「ちょっ……月彦、やっ……だ、ダメっ……お、奥っ……にぃ……やっっあんッ!」
 呆気ないほどにあっさりと、真狐の中で果ててしまう。熱いものが迸り、それらを擦りつけるようにして奥へとねじ込む。
「やっっっ、ぁ、ぃぃぃっいッ!」
 真狐の腰が弓のように反り、膣が締まる。そして、痙攣のような動きに伴い、月彦をはね除けようとしていた四肢から力が抜けていく。濡れた瞳は牝色に染まり、唇からは牡を誘うような色めいた息づかい。
「んっ…………」
 月彦はその唇に吸い寄せられるように食らいつき、自らも一匹の牡と化した。

 

 ――事は、思い通りに進んでいる筈だった。
 ツクヨミがそう指示した通り――多少腹立たしい展開はあったものの――月彦は真狐に襲いかかり、欲望のままにその肢体を貪っている。真狐は真狐で、月彦の一挙手一投足にあられもない声を上げては仰け反り、或いは身を縮めて悶え鳴く。その様は、ツクヨミが望んだ筈の姿だった。
 だのに、釈然としない。
 得体の知れぬ苛立ちが湧くのだ。
 気がつけば眉間に皺を寄せ、爪を噛んでいる。一体何が、自分をそれ程までに苛立たせているのか、ツクヨミには解らなかった。
 否、解ろうとしたくもなかった。
 眼前で、もはやツクヨミの事など毛ほども気にとめず、交尾に耽る二匹の獣。
 そして、それらを目する事で体に宿る火照りの事など、ツクヨミには苛立ちしか呼ばなかった。
 ツクヨミは、半ば無意識的に足下に転がっていた瓢箪を拾い上げていた。先端からは、相変わらずの酒の香り。軽く振ってみると、ちゃぷちゃぷと音がする。口を付ければ、甘く、そして苦い味と共に口の中いっぱいに溢れる酒気。咄嗟に胃の腑が裏返るかと思う程の吐き気が襲ってくるのを、ツクヨミは無理矢理に飲み込んだ。ごくごくと、喉を鳴らして。口の端から漏れた酒で襦袢が汚れるのも顧みずに。
 しかし、飲めども飲めども、苛立ちは消えず。そして、体の火照りも収まることはなかった。



 月彦は、文字通り真狐の体に溺れていた。背後に居るツクヨミも、数々の因縁も忘れて、ただただ目の前の裸体を蹂躙することのみを考え、行動する。
 仰向けになった真狐の腰を持ち、遮二無二突き上げる。剛直が最奥を小突く度に真狐は身をくねらせて嬌声を上げ、足を月彦の体に絡めてくる。
 突き上げるたびにたゆたゆと揺れる乳房がまた反則的だった。色も、大きさも、柔らかさも、弾力も全てにおいて牡を――少なくとも、月彦の中の肉欲を司る中枢を刺激して止まない。その動き、揺れ方自体が一種の催眠術なのではと疑いたくなるほどに、月彦は己の中の獣性がむき出しになっていくのを感じた。
「はあっ……はあっ……んっ……ぁ、んッ!」
 ぐっ、と。力任せに巨乳を掴む。真狐の体が強張り、頬が染まり、膣がキュッと締まる。目が、いつもの挑発的な目ではない。不安と期待の入り交じったような、そんな目だ。
 否が応にもムラムラとさせられるその目つきに、月彦は奇妙な既視感を覚えた。何処か別の場所で、別の相手に同じ目をされた気がしたのだ。そしてその相手は直ぐに思い出せた。
 真央だ。真央が同じ目をするのだ。
 普段の睦み合いとはやや違う。月彦が些か暴走気味の時に見せる目。荒っぽく扱われる事に不安を覚えつつも、心の底ではそれを望んでいるような、目。
 巨乳を、力一杯掴み、こね回す。剛直が刺さったままの膣が、ひく、ひくと痙攣する。捏ねながら、剛直をゆっくりと動かすと、真狐は体を跳ねさせて両手を月彦の首に絡めてきた。
「あっ、は、ぁぁっ……あんっ…んっ、んんんっん…!」
 糸で引き合ったように唇が重なる。ちゅぱ、ちゅぷと互いの舌を擦り合わせ、唾液を塗りつけ合う。乳を捏ねていた手を首の後ろに回し、後ろ髪を撫でながら舌を吸う。
「んふっ……んっ……んっ……」
 喉の奥で、真狐が噎ぶ。後ろ髪を撫でていた手で震える喉を撫で、軽く胸を触ってから、背中へと回し、真狐の体を抱き起こす。
 んっ、と僅かに噎ぶ声。真狐の舌の動きが止まるのを許さないとばかりに、月彦の舌が口腔内を蹂躙する。互いの唾液が、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられる音が響く。
「あっ……」
 不意に、月彦の唇が離れる。途端、真狐の口から漏れる声。月彦の両腕が着物を捲し上げ、露出した尻肉をしっかりと揉みしだきながら、真狐の体を上下に揺さぶり始める。
「あ、や、っ……だ、め、ぇ……ッ……!」
 真狐は切なげな声を上げて、両手を背中に回してしがみついてくる。十指悉く、痛々しいまでに爪を立てているが、月彦の動きは止まらない。
 辛うじて腰帯によって固定されている着物も、その大半がはだけ、着崩れている。腹部以外の殆どの肌は露出し、珠の様な汗が浮かんでいた。
「あっ……あ、ァ……あ、あっ……んっ……あ、やっ……あ、あんっ……!」
 体を揺さぶる月彦の腕の動きが徐々に早まり、息づかいが益々荒くなる。下腹部を貫く剛直がぐんと一際堅くなるのを感じたのか、真狐が咄嗟に身を強ばらせる。
「あ、あっ……っん……ふっ……あ、あああ、あァッ!」
 ぎゅう、と剛直を搾るように収縮する肉襞の感触を味わいながら、月彦もまた達する。子種の奔流を受けて、真狐が一際高い声で鳴く――自然と、口の端がつり上がった。
「……また、イッたな」
 ふふんと鼻で笑うように呟くと、真狐がキッと睨み付けてくる。目尻に涙の浮いたその目つきに、ぞくりと。
「……っ……から、こん、……の……卑怯、………………」
「何だ……? 何か、言いたいことがあるのか?」
 尻肉を掴んだまま、一度だけ大きく真狐の体を揺さぶる。今だ萎えぬ剛直が膣内を貫き、あうぅっ、と真狐が悲鳴を上げ、肩に爪をくいこませてくる。
「っ……こんな、の、卑怯だって、言ってるのよっ……! こんなっ……っきいの、で……濃いの、擦りつけられたらっっっあんッ……!」
 真狐の言葉を最後まで聞かずに、月彦は動きを再開する。
「やっ……だめっ、だめっ……すこ、し……休ませっ……あっッ! ひっぁッ……!」
「何言ってんだ。まだ、始めたばっかりだろ」
「は、始めたばかりって……もう、何回イッたと思ッッ……ッっ!」
 真狐の声が突如裏返ったのは、月彦が狐耳をしゃぶったからだ。すかさず腰を大きくグラインドさせて突き上げると、鳴き声がますます甲高いものになる。
「だいたい、休んだら“仕置き”にならないだろ。……俺も満足してないし」
「っ……満足って……なんで、アンタ平気なのよ……アンタだって、もう、何回も、あたしの、膣、に……それに、ツクヨミにもッ……」
「さあな。酒のせいか、春菜さんに仕込まれたせいか、真央に鍛えられたせいか。どれにしろお前の自業自得だろ」
「くっ……こ、このっ…ケダモノっ…ぉッ……………んッ…!」
 くすりと、笑みを一つ。月彦は唐突に体を倒し、仰向けになる。
「ほら、今度はお前が自分で動くんだ。好きだろ、男の上に跨るの」
「っ……誰、が……アンタの、命令に、なんて……んああぁっあッ!」
 問答無用とばかりに、月彦は腰帯の辺りを掴み、下から思い切り突き上げる。たわわな果実のような巨乳が反動でたぷんっ、と揺れるのも構わず、そのまま遮二無二突き上げ続ける。
「やっ、あっあッ! やめっ、ダメっ……あ、あっあっああぁッ! あっ……! 奥っ……奥、ダメ、ぇ、えッ!」
 背を折りながら真狐が鳴く。だが、月彦は腰帯を掴んだ腕の力を緩めず、真狐が腰を浮かす事を許さない。
「う、ごくっ……動く、からっ……やめっ……ぁ、ぁぁぁっぁっあああァッ!」
 嬌声を上げ、真狐がイくのを確認してから漸く、月彦は動くのを止めた。脱力し、ぐたぁと被さってくる真狐の顎をついと掴み、軽く口付けをしてから「早くしろ」と囁きかける。
 真狐は潤んだ瞳をしばし、不本意そうに揺蕩わせた後、ゆっくりと上体を起こした。そのまま、はあはあと乱れる息を整えていると、急かすように月彦が再び腰帯に手を伸ばす。真狐は反射的にびくりと体を震わせ、辿々しくも腰を使い始めた。
「んっ……んっ……」
 鼻にかかった声を漏らしながら、前に後ろに右に左に腰をくねらせる。腰帯の上からでもその淫らな動きが解るほどに、真狐の腰使いは洗練されていた。ただ、唯一月彦が不満だったのは――
「あっ……っ…!」
 腰帯ではなく、両足の付け根の辺りを月彦が掴み、ぐっと真狐に腰を落とさせる。ぐりっ、と子宮口に先端を擦りつけると、真狐が甘い声を押し殺すように唇を噛んだ。
「このまま動くんだ」
「何、言って……」
「真狐は奥が一番いいんだろ。だったら、腰を浮かすんじゃない」
「……っ…………」
 真狐は僅かに舌打ちのような吐息を漏らしてから、腰をくねらせる。――先ほどまでとは、明らかに”違う声”を漏らしながら。
「んっ、くっ……ふ……あ、ん……!……ぁ、ふ、ぅ……」
 違うのは声だけではなかった。にちゃにちゃと、結合部の辺りから聞こえる音が如実に大きくなっていた。白濁の混じった蜜が新しい蜜に洗い流されるようにして溢れ、布団までしとどに濡らしていた。
 月彦は手を真狐の足の付け根から結合部へと滑らせ、充血して勃起している淫核に蜜を絡めるようにくりくりと弄る。真狐が声を上げ、背を折ると今度は腰を強く突き上げてそれをさせない。
「あっ……ッ、やっ……ぁ! そこ、っ…あんっ! だ、めっ……ひんっ…! あぁんっ……だめっ……だめっ……!」
 制止を嘆願するように月彦の両腕を掴む。だが、その手には殆ど力が籠もらず、月彦の愛撫を完全に制止せしめるには至らなかった。そのまま良いように淫核を弄られ続け、体を折ったまま声を押し殺して真狐がイく。。
「ほら、ちゃんと体を起こすんだ。じゃないと、折角の巨乳が良く見えないだろ」
 イき、きゅうきゅうと絡み付いてくる肉襞の感触に満足しながら、月彦は両腕で真狐の両乳を掴み、無理矢理体を起こさせる。
「はあっ……はあっ…………んっっ……」
 真狐の呼吸に合わせるように、ゆっくりと円を描きながら揉みしだく。だがそれも初めだけ。次第に欲望丸出しの、無茶苦茶な揉み方に変わる。握力の限り力を込め、指を埋没させたままこね回す。普通ならば痛いだけであろうその捏ね方が、真狐の口から漏れる喘ぎと剛直に絡む肉襞の感触で心地よいのだと解る。
「っ……ほら、真狐。腰が、止まってるぞ……ッ……」
 俄に上ずった声で言い、催促するように先端をつまみ上げる。数刹那遅れて、真狐が腰を使い出すが、その動きは先程よりも明らかに見劣りするものだった。であるのに、月彦は先程まで以上の快感を感じていた。
 理由は明白。胸のせいだ。腹立たしいまでに大きく、そして柔らかいそれを捏ねていると、毎度の事ながら異常なまでに興奮させられる。そのあまりの質量に、両腕が怠くなるのも構わずに揉みしだき、その都度真狐の膣がきゅうと締まるのがまた心地よい。
 ひょっとしたら、真狐の動きが悪いのも、両胸を捏ねられているからかもしれなかったが、いずれにせよ最早月彦には真狐の腰使いをもっと激しいものにするように促すだけの余裕がなかった。真狐が腰をくねらせる都度、先端が真狐の奥に擦れ、思わず腰を跳ね上げてしまいそうな程の快感が体を貫く。それを悟られまいと、そして気を紛らわそうと両腕に力を込める。
 指の合間から白い肉が盛り上がる。あぁぁッ、と真狐が声を上げて月彦の腕を掴み、悶える。構わず、力の限りもみくちゃにする。膣が、ぎゅううううっと締め上げてくる。
「ッ……ま、こッ…………!」
 堪えきれずに、腰が思わず跳ねた。ずん、と膣奥を強く小突き、真狐が悲鳴に近い声を上げる。咄嗟に腰を浮かそうとするのを、月彦は腰帯を掴んで許さなかった。
「ああああっっ…あんっ……!………また、膣、で…………奥、でぇえッ……!」
 剛直の先端と、膣奥の間で弾ける白濁。その熱い液体の感触に真狐は体を震わせながらイき、一滴でも多くの精液を搾り取ろうとするかのように膣を痙攣させた。
「あっ……あっ……あっ………あんッ………!」
 白濁汁を塗りつけるように、小刻みに剛直を動かす。その都度、真狐は軽くイき、聞いている月彦の方が蕩けるような声を出した。
 やがて上体を支えきれなくなったのか、ごく自然な動作で真狐の体が被さってくる。ぎゅう、と胸板に巨乳が押し当てられ、長い髪がふわさと後から被さってくる。
「……これで……気が、済んだ……?」
 吐息混じりに、真狐が呟く。月彦も同じく呼吸を整えながら、両手でやんわりと真狐の尻を揉む。
「そう……思うか?」
「あっ……」
 真狐の体の中に収まったままのそれが、力強く反り返る。同時に、月彦は獲物に飛びかかる肉食獣のように、真狐の唇へと食らいついていた。
 ………………。
 …………。
 ……。

 

 

 

 

 

 



 
 ……。
 …………。
 ………………。
「んっ……く、ぷ、ふっ……んぐっ……くふっ……」
 くぐもった声を上げて、真狐が剛直にしゃぶりつく。口いっぱいに先端を頬張り、舌先で鈴口を穿るようにして舐め回す。呼吸をするのも忘れたようにむしゃぶりつくその様。完全に己の意志でやっているわけではないその証拠に、長い髪が月彦の手に絡み取られている。
「っ……そう、だ……いいぞ、真狐……巧い……さすがだ」
 声を掛けると、一瞬だけ真狐が上目遣いに見上げてくる。反抗的でもあり、同時に屈服を受け入れきっているようなその目に、月彦のなかでゾクリと何かが爆ぜる。
 真狐に無理矢理に口戯を強いるのは、ツクヨミの時とはまた違った興奮があった。その証拠に、こうして口で奉仕“させる”のは既に三度目。最初の一度は問答無用で口腔内に放ち、飲ませ、二度目は思い切り顔にかけた。それらを拭わせる暇も与えず、こうしてまたしゃぶらせているのだ。
 迸った白濁が、いくらか長い髪にもかかり、べたべたと絡み合っている。一度、その髪を剛直に絡ませながらの奉仕もやらせたが、思ったような快感は得られず直ぐにやめさせた。
「んくっ……ンく……ふううっ……んっ……!」
 真狐の喉が蠢くのが解る。口腔内に溢れた唾液を嚥下しているのだ。剛直から漏れた汁の溶けた唾液を、真狐は躊躇もなく飲み干していく。精液の味が苦いという事は月彦自身試すまでもなく知識として知っていたが、真狐はそれらを本当に美味そうに飲む。恐らく、心底好きなのだろう。牡液の匂いと、味が。
「くっ……ッ……」
 真狐の頭を持つ手に力が籠もる。それが何を示す事なのか、言わずとも真狐にも分かるのだろう。自ずから口腔内に溢れる白濁を受け止め、ごくりと嚥下する。やはり、どう見ても”好物”を飲んでいる時の顔にしか見えない。
(……くそ、だんだん腹が立ってきたぞ)
 ”おしおき”としてしゃぶらせている筈であるのに、当の真狐がさも喉を鳴らしていることに――だ。月彦は乱暴に剛直を引き抜くや、力任せに真狐の体を押し倒す。
「きゃっ……」
 軽い悲鳴を上げる真狐の片足を担ぎ上げるようにして、剛直を根元まで挿入する。
「あんんんんぅ!」
 声を上げる真狐の片足を肩に掛け、月彦はそのまま側位で腰を振るう。上になっている方の乳房だけが前後に揺れ、それを左手で掴む。
「はあっ……はあっ……んっう! あ、ンッ! は、あふっ……んんっ、うっ……く、うぅッ……!」
 抽送の都度、白く濁ったものが結合部から溢れてくる。さんざんに中出しされ、蜜によって薄まったものだ。それらが、真狐の太股の上を流れて、布団を汚す。
「い、やぁッ……っき、彦ぉっ……もう、……もう、やめっ……」
 もはや声だけの抵抗――だが、声には喜悦が混じり、口元にはどこか薄ら笑いすら滲ませている。
 ”そういう女”なのだと思うと、また腹が立ってくる。
「あ、やっ……!」
 肩に掛けていた足を降ろして、狐尻尾を掴んで無理矢理に尻を持ち上げさせる。尾の付け根をなぞるように刺激してやると、それだけで真狐は震えるような声で鳴いた。
「少しは、反省したか?」
「したっ……したから、もうっっ……あああっ、あ、あああぁあああァッ!!!」
 腰帯をつかみ、思い切り手前に引き寄せるようにして剛直を打ち付ける。そのまま何度も、何度も、何度も、何度も。
 腹立たしさをぶつけるように腰を叩きつけ、その都度白い尻肉が激しい音を立てて波打つように揺れる。
「まだそんな大声出す元気があるのか。これなら後十回はいけるかな」
 両手で巨乳を鷲づかみにし、牛の乳でも搾るかのようにこね回す。掌に、ぬるりとした感触があるのは、不思議なことではなかった。つい先程、胸で奉仕させた後の名残。それも、一度では満足できず、二度目は仰向けに寝かせてこね回しながら念入りに蹂躙した。
 両手で白濁を塗り込むようにこね回していると、またこの谷間を使ってやりたいという衝動が湧く。だがそうしないのは、膣に挿入れている方がさらに気持ちいいからだった。
 肉襞の感触も、蜜の滑りも締め付けの強さも全てが牡を満足させる為だけに進化してきたような具合の良さで、月彦はすっかりそれの虜になっていた。実を言えば、月彦の方も威勢ほど余力があるわけではなかった。が、肉体的に限界をとうに超えていても犯さずにはいられない――全くもって腹立たしいことではあるが――のだ。
 そして、何よりも。
「お前みたいに……フラフラしていて、ろくに顔を見せないような女は、犯れる時に、犯れるだけ犯っておかないと、なッ……!」
「ッ……ば、かっ……。……にしたって、限度がっ……ぁっ……!」
 尚も減らず口で喚く真狐の衣類を完全に剥ぎ取り、今度は腰のくびれを直接掴んで犯す。白い背中にいくつも浮かんだ玉の汗。腰を打ち付ける度にそれらが飛沫となって宙を舞い、発情した牝の体臭に否が応にも剛直の硬度が増す。
「んんんんんんっ! あ、ひんっ……! あ、あっ……あっあっあッ! あっ、あぁぁッ……んっ! あっ……ぁあッ!」
 堅くなった剛直に興奮でもしているのか、尻尾がゾゾゾとそそり立ち、さわさわと鼻先を擽ってくる。月彦がその先端に息を吹きかけると、真狐の声にまた違った色が入る。それが面白く、今度は毛先を口に含み、舐めしゃぶる。
「あぅぅぅううっッ! っ……あ、んっ……! だ、め、ぇっ……尻尾っ……ダメっ……尻尾、しながらっ……入れられたらっっ……またっ……イくっ……ッ!」
「本当に“また”だな。もう、百回くらいイッたんじゃないか?」
 苦笑しながら、イッて痙攣し、そして敏感になっている膣を角度を変えながら遮二無二突き上げる。真狐が掠れた声を上げてさらに二度、三度とイき、そのたびにぴんっと勃起する尻尾にまた顔を擦りつける。
「でも――俺はまだイッてない」
 呟いて、真狐の腰を引き寄せ、ずんと貫く。あうぅッ!――そんな悲鳴。
「らめっ……ホントに……もう、……これ以上、されたらっ…………」
「安心しろ……俺の方も、……多分、あと一回くらいが限界だ。……最後に、膣内にたっぷり出してやる」
 ずんっ、と突き、そのまま抽送のペースが上がっていく。あっ、ぁっぁっ――真狐の喘ぎが、呼吸が小刻みになっていく。
「ま、待っ……て、外っ……んっ! 外、にっ……あんッ! 今、膣内、にっ……出されたらッ……ぅんっ! あた、しっ……っ……!」
「イき過ぎておかしくなるって言いたいのか? そんなのは無用の心配だろ。なんたってお前は“あの真央”の母親なんだから」
 自分で言った言葉に苦笑しながら、抽送を早めていく。真狐に言った言葉は嘘ではない。疲労感の襲う体を騙し騙し、真狐に欲情の限りをぶつけてきたがそれも限界に達しようとしていた。
 下腹部に熱量の塊のようなものが堪っていくのを感じ、その限界を感じる。周囲の音、衣擦れの音や真狐の嬌声までもが遠くなり、視界がぼやけていく。月彦は咄嗟に両手を伸ばし、真狐の体を抱きしめていた。
 どくんっ。
 今までになく、体に反動が残る程の量が真狐の膣内に吐き出される。
「めっ……月、ひこっ……ホントに、ッめッ……あ、あ、あっ……あああぁああああぁぁぁぁああああああぁッッ!!!!」
 真狐が体を震わせながらイくのを両腕で感じ、肉襞が収縮して剛直を締め上げる。この、精液どころか命までをも搾り取られるような動きに、月彦はすっかり陶酔しきっていた。
「あっ……ぁ、あっ……あっ…………あっ……ぁッ………………」
 膣内の痙攣とは裏腹に、真狐の四肢は完全に虚脱。頭から布団に伏し、ただただ荒い息づかいをするばかり。月彦がより包容を強め、恐らくは呼吸に支障を来す程に抱きしめても、真狐は身じろぎ一つしなかった。
 さすがに剛直もその硬度を維持できなくなり、急速に萎縮し始める。だが、それでも月彦は真狐の体から手を離そうとはしなかった。途方もない疲労感に連れられて、抗いがたい眠気が襲ってきたが、それでも両腕からは力を抜かず、眠気にも必死に抵抗し続けた。
 もしここで眠って、手を離してしまったらもう二度と会えないのではないか。真央には、家に帰れば会える。だが、真狐には――真狐がふらりと現れるその瞬間にしか会うことができないのだ。
 故に、月彦は他の誰にするよりも貪欲に真狐の体を求めた。居なくなってしまう前に、己の前から消えてしまう前に、少しでも記憶の中に止めておくために。
「真狐………」
 朦朧とした意識の中で呟いた言葉は、果たして現の出来事か。例えそうだとしても、相手の耳まで届いたのかは定かではない。鉛のように重くなった瞼が降りて、自我とは無関係に体が休息に入ろうとしたまさにその時だった。
 それほどの眠気が瞬時に消し飛ぶ程の殺気が、背後に立ち上ったのは。



 気がついた時には、後ろ髪を掴まれていた。訳のわからないうちに髪を引っ張られ、抵抗する余裕もなく仰向けに倒され、どんと何かが胸の上に乗ってきた。
 それは、足だった。襦袢から覗いた白い足が、月彦を踏みつけていた。襦袢を辿っていくと、その先には見知った顔があった。そう、ツクヨミだ。
「………………か」
 妙に聞き取りづらい発音で、ツクヨミが何かを呟いた。呟いて、月彦を踏んでいる方の足を折り曲げ、その膝の上に右腕を乗せるようにして月彦の顔を覗き込んでくる。そのせいで、月彦にもツクヨミの顔がよく見えた。不自然に赤くなり、そして目は虚ろだった。ただ事ではない――と、瞬時に思った。
「……随分と楽しんだ様ではないか。あの女の体、そんなにも良かったか」
 ひっく、としゃくりあげるようにしてツクヨミが体を揺らす。その時漸く月彦は気づいたが、ツクヨミの息は嗅ぐだけで酔っぱらってしまいそうな程に酒臭かった。見ると、左手には件の瓢箪が握られていた。
「貴様は、妾よりもあの女が良いと申すか。妾が、あの女に劣っていると申すか」
 虚ろな目でジッと月彦を見つめたまま、そのようなことを言う。月彦は返答をしたかったが、ツクヨミに胸を強く踏まれているせいでろくに息が吸えなかった。だったら、さっさとその足をはね除けてしまえば良さそうなものだが、ツクヨミのあまりの変貌ぶりにそのことを考える余念がなかった。
 虚ろな目。その体から沸き立つ、紅い光。その意味はわからないが、途方もない力の奔流であろうことは動物的直感から理解した。つまるところ、月彦はこう思ったのだ。“下手な受け答え、行動をすると死ぬ”と。
「いや、そんな事は……」
 やっとの事でそれだけ絞り出す。ほう、と声を上げて、ツクヨミが上体を起こし、足を退かす。
「貴様は認めるのだな。妾の方が、あの女よりも良いと。優れていると」
 ツクヨミの上機嫌そうな笑顔に便乗するようにこくこくと月彦は頷く。頷きながら、ただならぬ気配にずりずりと後ずさりをする。が、それも無駄に終わった。
「ならば――」
 ひらりと、襦袢を舞わせてツクヨミが腹の上に跨って来る。そのまま間髪入れず、月彦の顎を掴んで唇を奪う。酒臭い唾液が口腔内に溢れ、反射的にツクヨミの舌を噛んでしまいそうになるのを、必死に堪えた。
「今すぐ、妾を抱いて見せよ」
「え……」
 と、思わず口に出してしまう。だが、月彦の疑問の言葉もやはり聞かず、ツクヨミは襦袢をはだけさせ、自らの美乳を惜しげもなくさらけ出す。その様に、明らかに正気ではないと解る。
「いや、その……もう、体、が……」
 ツクヨミの機嫌を伺いながら、恐る恐る申し立てる。下手なことを言えば、人間の一人くらい軽く消し飛ばしてしまいそうな程の力がツクヨミから伝わってきていたからだ。
「……妾では、立たぬと申すのか」
 そして案の定、ツクヨミは露骨に不満そうな顔をした。が、そこから先は月彦が全く想像していない事が起きた。一旦は不満そうな顔をしたツクヨミが、今度は意味深な笑みを浮かべたかと思えば、くるりと体の向きを変え、上体を屈めた。――途端、ぬっ……とツクヨミの唇の感触を、月彦は下腹部に感じた。
「う、ぁっ…………ちょっ……つく、よみ…………ツク、ヨミ様……?」
 思わず“様”をつけてしまう程に狼狽え、そしてツクヨミの口戯を受けて無理矢理ながらもそそり立つのを感じる。ちゅっ……と最後に軽く吸って上体を起こし、振り向いたツクヨミはなんとも淫靡な笑みを浮かべていた。
「そう切ない顔をするな。……直ぐに、天国を味わわせてやる」
 月彦の不安げな顔を誤解したのか、ツクヨミは一旦腰を浮かして月彦の方に向き直ると、半立ちになった剛直の上にゆっくりと落としていく。
「んっ……ふ……」
 酒気に染まり、色っぽい声を上げるツクヨミと、その膣内に飲み込まれる感触に剛直が――真狐の時ほどではないにしろ――復活する。が、依然体力が尽きたままの月彦には、もはや抵抗する気力すらなかった。
「は、あっ……どうだ……あの女より、妾の方が……んっ……良いであろう?」
 慣れぬ腰使いで剛直を舐りながら、どうじゃどうじゃと月彦に合意を求めてくる。月彦は尽きかけた体力を何とか総動員して、ツクヨミの言葉に合意しながら必死に褒め続けた。
「そうであろう、そうであろう。妾があの女に劣っているものなど、あるはずがない…………ふふっ、愛い奴よ。貴様は特別に妾の伽衆として城に残るか」
 今度は、月彦が悲鳴を上げる番だった。可能な限りのボギャブラリーを駆使して角が立たぬように拒否の言葉を並べ立てると、
「何、戯れ言だ。本気にしたか」
 ふふふと淫靡な笑みを浮かべて、ますます腰をくねらせる。その摩擦と、なんとも言えぬ独特の緊張感とが相まって――
「っ……つ、ツクヨミ……様……? ッ…………も、もう……出っ……」
「もう果てると申すか。ふふふ………まあ良い、妾の中で、存分に出すが良い」
 あくまで腰を退ける気は皆無のようで、月彦は命を削るような心持ちでツクヨミの中に白濁をぶちまけた。――とはいえ、殆ど残り汁のようなそれは到底――“真狐の血筋”を満足させるようなものではなかった。
「んっ……ぅッ! ふふ、そんなに妾の膣内が良かったか」
 こくこくと、月彦は何度も頷く。
「だから、その……そろそろご勘弁をしていただければと――」
 恐る恐る伺いを立てる月彦に、ツクヨミはにんまりと淫靡な笑みを浮かべる。
「駄目だ。妾を満足させるまでは許さぬ」
「そ、んな――」

 ツクヨミが正気を取り戻し、月彦が解放されたのは日も高くなり、御那城山の民が意識を取り戻すほぼ寸前であったそうな。勿論、その時には真狐の姿は消え失せていた。


 


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