<後編>

 決して新しい型とはいえないクーラーがゴゥンゴゥンと唸り、賢明に室内の温度を下げようと涼しい風を送り続けていた。
 にも関わらず、”それ”が押入から転がり出てきた時、月彦の体中からどっと嫌な汗が噴き出した。
「ま…お…?」
 あまりの事に、月彦はしばし呆然とその場に立ちつくした。
 耳には、確かに聞こえる、シャワーを浴びる音。
 目が、縛られ、転がっている真央を捕らえる。
 では、先ほど階下ですれ違ったのは一体誰なのか?
「真央っっっ!!」
 縛られ、転がった真央の瞼が開き、月彦を見上げる―――間違いない、真央だ!―――咄嗟に月彦は真央に飛びついていた。
「っ…はッ!」
 猿ぐつわを外した途端、真央が苦しげに大きく息を吸い込んだ。
 押入の中が余程息苦しかったのか、そのままぜぇぜぇと息を荒げる。
「父さまァ…」
 熱に魘されたような声が、真央の唇から漏れた。
 瞳がゆっくりと動き、月彦を捕らえる。
「あいつが…私に…化けて……」
 掠れた声だ。
「あいつ?」
 月彦が尋ね返すと、真央はこくりと頷いた。
「…さっき、着替えを取りに来たときに…」
「着替え…」
 ほんの十数分前、真央が着替えを取りに一人で部屋に上がったときに入れ替わった、ということだろうか。
 となれば、今階下でシャワーを浴びているのは真央に化けたニセモノということになる。
「ッ…とにかく、この縄を……!」
 話は後、と月彦はまず普通に縄の結び目をほどこうとした―――が、どこを探しても結び目らしきものは見あたらない。
 色、感触共にそれが縄であることは間違いないのだが、結び目が無い以上素手でそれをほどくことは不可能だった。
「ダメだ、鋏かなにか…」
 長らく使われた形跡のない勉強机の上を引っかき回し、引き出しをひっくり返しては中身をぶちまけ、漸く一本のカッターナイフを見つけた。
「真央、危ないから動くなよ…」
 チキチキと音を立てて刃を出し、それで”縄”を斬りにかかる。
 ”縄”は予想以上に固かった、カッターナイフをノコギリのように動かしながら、なんとか少しずつ月彦は刃を進ませていく。
 特に、縄の残りが少なくなった時などは勢い余って真央の体まで傷つけてしまわないように慎重に刃を動かした。
 やがてぶちんっと縄を切断した途端、空気が抜けるようにしゅうしゅうと縄は一気に縮始め、一本の細い糸のようになった。
(……髪の毛?)
 それは長い、女性の髪の毛のようにも見えたが、月彦はさして気にとめなかった。
 チキチキと再び刃をしまって、カッターナイフを机の上に放る。
「うっ…」
 真央がゆっくりと体を起こす。
 縄で圧迫されていた辺りが痛むのか、両手でそれぞれ逆の腕をさすっている。
「真央、大丈夫か…?」
 尋ねながら、真央のその手首の辺りに痛々しい縄の後があるのを月彦は見た。
 おそらく、手首を縛られた後、その上から縄を巻かれたのだろう。
「うん、ちょっと痛いけど…大丈夫……ぅ…ッ…!」
「…真央、どうした…!?」
 突然、真央がうずくまるように体を曲げる。
 月彦は慌てて手を伸ばして、それを支えた。
 くっ…と月彦の方に体重がかかってくる。
「痛むのか?」
 真央が押さえている辺りをさすってやろうと、月彦が手を伸ばした刹那、
「…んむっ…!?」
 真央の腕が獲物に食らいつく毒蛇のような動きで月彦の首の後ろへと回った。
 瞬きを一回するほどの時間、その間に真央の両手は月彦の頭へと添えられ、そしてその唇は重なっていた。
(ま、お…?)
 そう、言おうとした。
 だが、ふさがれた唇からは蛇の頭のような舌が入り込んできて、月彦の舌の動きを封じていた。
 そして―――
「ん…ぐッ…!?」
 ”それ”が口移しされた途端、月彦は真央の両肩を掴み、力任せに引きはがした。
 それでも、やや遅かった。
 真央を突き飛ばすより刹那秒早く、月彦の喉は反射的にごくりと、口移しされたものを飲み込んでしまっていた。
「…ッ…真央、何をっ…」
 飲ませた―――と、言おうとしたが、声が掠れてそれ以上出なかった。
 股間の辺りにもぞもぞとした感触、目を下方へやると、真央の右手がズボンの上からその場所をまさぐっていた。
 反射的に月彦はその場から飛び退く、一歩、二歩、三歩―――ドンッ、と背が壁にぶつかって、漸く月彦はその足を止めた。
「ふふっ…」
 絨毯の上に座り込んだまま、”真央”は蕩けるような笑みを浮かべている。
 その声には些か異質なものが混じっていた。
「ほーんと、すぐ騙されるんだから。真央がヌケてるのはやっぱり血筋ね」
 ぺろり、と薄紅色の舌で唇を舐め、すっくと立ち上がる。
 その両手首からは、既に縄の後が消えていた。
「なっ……ま、お…?」
 声自体は真央の声、だがどこか大人びた、艶のある独特のイントネーションとアクセント。
 その”声”に月彦は覚えがあった。
 …足が、ガクガクと震え、立っていられなくなる。
 ずるずると壁にもたれながら尻餅をつく月彦に、眼前の真央―――否、真央の形をした女は愉快そうに笑みを浮かべた。
 両腕を、己の肩に爪を立てる様に交差させ、冷たく、一言。
「―――変化、解除。」
 呟くと同時に、その体は白い煙のようなものに包まれた。
 一端霧散しかけたそれらが収束するように渦巻き、再び爆ぜたその場所には、真央とは別の女が立っていた。
「なっっ……お、前は…―――ッ……あの時、の……!」
 記憶の中の恐怖からか、月彦の声は掠れていた。
 絶句しながら喋るような不自然さ、背後は壁だというのに、体は本能的に女から少しでも距離を取ろうと藻掻く。 
「あら、私のこと憶えててくれたんだ? 嬉しいわぁ」
 女―――真狐は心底愉快そうに目を細め、そして妖艶に笑った。

「はぁ……」
 真央は濡れた唇で、さも憂鬱そうにため息をついた。
 シャワーを浴びて汗を流しても、心の中まではすっきりとしない。
 ずっと”その事実”が重く頭にのしかかっていた。
(…父さまの、前で………)
 思い出すだけで顔が真っ赤に染まる。
 いくら快感で我を忘れていたとはいえ、交接の最中にあんなコトを―――先ほどから何度、そうやって自分を責めたか分からない。
 責めても何も解決しないことは分かっていた、それでも反芻せずにはいられなかった。
(前にも…ここで………)
 風呂場に居ると、イヤでも思い出される、霧亜に最初に絡まれた時の事。
 あの時も、霧亜に秘所を弄られて真央は失禁してしまった―――が、そのショックも今回に比べればさほどのことはなかった。
(……恥ず…かしい…っ…)
 心底、そう感じる。
 そして、その羞恥に対して、ほんの僅かばかり伴う快感が、真央の罪悪感を倍加させていた。
「………ッ…」
 下唇を、噛みしめる。
 心の中に二人の自分が居る―――と、真央は思う。
 一人は、清純な”娘”でありたいと思っている自分。
 もう一人は、愛欲に溺れた”女”になりたいと思っている自分。
 どちらが本当の自分なのか、またどちらの自分が幸せなのか、真央には分からない。
 それは月彦に初めて抱かれた晩からずっと続く、心の葛藤だった。
 天秤のように、ある時は”娘”に傾き、ある時は”女”に傾く。
 今日の遊園地―――その観覧車での事がその良い例だ。
 ほんの刹那秒前まで、”愛くるしい娘”であっても、その殻は脆く、月彦に軽く触れられただけで罅が入り、割れてしまう。
 そして、”女”の自分が姿を現すのだ。
「……んっ…!」
 昼間のことを思い出しただけで、シャワーを持つ手が震えた。
 目を瞑ると、体をまさぐる月彦の手の感触までもがリアルに思い出される。
「ぁっ……は、ぁ……」
 呼吸が速くも乱れていた。
 乳房の先端がシャワーから噴出されるお湯を弾くように固く尖り始める。
(やっ…だ、め…反省、しな、きゃ…………)
 そう思っても、体の疼きは止まらない。
 空いている左手がその反対側の乳房を捕らえ、先端をくりくりと弄り始める。
「は…ぁう……ぁ、ンっ…!」
 背筋が、ゾクリと震えた―――が、それは弱い。
 同じ事をもし月彦にされたら、軽く10倍はゾクゾクする
 真央はその”味”を知っている、だから、自分自身の愛撫によって得られる快感の少なさが焦れったかった。
「ぁっ…う…やっ、ぁっ……!」
 左手が、乳房に飽きたと言わんばかりにそこを離れ、臍を過ぎ、恥毛の下へと指を伸ばす。
 指先に、ぬるりとした感触―――お湯ではない。
「ぁっっ…!」
 ちゅぷりっ…、溢れてくる熱い蜜をかき分けて、いとも簡単に中指が埋没した。
 膣の中にはまだ月彦の精液が残っているのか、”いつも以上”にトロリとしていた。
「はっ…ぁっ…だめっ……だめっぇ……!」
 声を乱しながら、真央は腰を艶めかしくくねらせ、左手の指の動きのままに身を悶えさせていた。
 ゴトッ…と何かが落ちる音がした―――シャワーだ。
 気がつくと真央は両手で体を慰め始めていた。
(やっ……父さま、に…シてもらった…ばかり、なのにっぃ…!)
 己の節操の無さに半ば呆れながらも、真央は手を止められない。
 左手が、再び乳房を愛撫し始める。
 その中指は白いものが混じった粘液に濡れていて、それをピンピンに尖った乳首に塗りつけ、摘み、くりくりと転がす。
 右手は、左手が抜けた穴を埋めるようにその割れ目に潜り込み、トロトロとした蜜をかき混ぜたっぷりと纏った所で、今度はそれを塗りつけるようにして、最も敏感な部位をなで始める。
「あッ……! ふっ…ぅ…んっ…父さまぁ……父さまぁァ……!」
 月彦の名を呼びながら、真央は自慰に没頭する。
 だが、それでもまだ弱い―――絶頂にはほど遠い。
 真央は再び妄想…否、回想に耽った。
 月彦に抱かれたときの、体をまさぐられたときの掌の感触、耳の裏を舐められた時の舌の感触、徐々に荒々しくなる、息づかい。
 熱く、固い男根に貫かれるときの、天使の堕落にも似た背徳感―――それに伴う、体の肉という肉が溶解してしまいそうなほどの、快楽。
 そして、体の奥底で爆ぜる、濃厚な精液の奔流、膣奥を押し広げるように打ち出される、白濁のマグマ―――牝としての、その至福の瞬間。
「あッ……はぁッ…!」
 躯が、びゅくっ、びゅくと膣内で爆ぜる精液の感触を思い出した刹那、真央は声を上げていた。
 少しでも月彦のそれの感触に近づけようと、指を三本、束ねるようにして秘裂に押し込む。
「あぁあァッ! あっ…あぁぁアっあァッ!」
 びくんっ、びくんっ、びくんっ…!
 小刻みに震える体。
 太股が震え、膝が笑い、真央はぺたんと湯船の縁に座り込んだ。
「はーっ……はーっ……」
 呼吸を整える。
 視界はぼんやりとどこか歪んでいて、絶頂の余韻からかチカチカと爆ぜるように火花が走っていた。
「はーっ……はーっ…………」
 肩で息をしながら、真央は言いしれぬ虚しさを感じていた。
 自慰の後、いつも襲ってくるものだ。
 一時的に自らの手で体を慰めても、結局はこの虚しさを味わされる―――分かってはいても、一度ついた火は容易に消せるものではなかった。
(体…洗わ…なきゃ……)
 気怠い余韻の中、真央はしゃがみ、風呂場のタイルの上で蛇のようにのたうっているシャワーを拾い上げようと手を伸ばした。
(…妖…気?)
 ふと浴室の外の方から漂ってきた気配に、手が止まった。
 一瞬、気のせいかと思った―――が、妖気に反応するように、濡れた尻尾がざわめき始める。
「もし…かして―――」
 どこか懐かしささえ感じさせる妖気、その主を連想した刹那、真央は浴室から飛び出していた。

「そんな隅に居ないで、こっちに来れば?」
 ベッドに腰掛け、真狐は手招きしながら、空いている手で自らの隣のスペースをぽんぽんと叩いた。
 手招きの、指を動かすその動作一つをとっても、艶めかしく、男を誘うようないやらしさがあった。
 いや、指や、動作だけではない。
 体のどの場所を見ても、これほど”妖艶”という言葉の似合う女はそう居ない。
 きつね色よりも、金に近い長い髪、そしてせり出した、狐耳。
 目は意地の悪さを示すように端がつり上がり、常に男を求めるようにしっとりと濡れている。
 肌は白く、唇は淡い桃色―――そこに、時々紅色の舌がちろりと、値踏みするように覗く。
 服装は着物、丁度真央が初めて月彦と会った時に来ていたものに酷似したデザインをしていた。
 が、割と自分に合ったサイズを身につけていた真央に対し、真狐のそれは自分の本来のサイズより一回りか二回りは大きそうなそれをゆったりとだぶつかせているような感じだ。
 結果、掌からゆうに溢れそうなほど大きな乳房が半分近く露出している―――が、ギリギリのところでその先端までは見えない。
 ゴクッ―――胸元へ目をやった瞬間、喉をなま暖かい唾液が駆け下りていく。
 胸元から覗いているその白い膨らみはただ大きいだけではなかった、男であればまずむしゃぶりつかずには居られなくなるほどの艶のある独特のたわみ方をしていた。
 そう、あの乳房を好きに揉みしだくことが出来るのなら、この女の奴隷になってもいい―――そう思わせるだけの”魅力”が。
(……ッ! 何を……ッ…馬鹿なッ…!!)
 知らず知らず、目の前の妖狐の肢体を舐めるように凝視している自分に気づき、咄嗟に首を振って邪念を払おうと努める。
 だが、いくら振り払おうとしても、思い出すまいとしても、体は憶えている。
 この女の体の味を。
 この女と過ごした、退廃的な日々を。
「ねぇ、こっちに来なよ」
 まるで月彦の思考を読んでいるように、絶妙のタイミングで真狐は足を組み直す。
 着物のスリットから、白く長い足がすらりと伸びて、そして組まれる―――集中して見入っていたからか、月彦にはそれがひどくスローモーションな動作に感じられた。
 涎が出そうなほど、巧そうな素足とはこういうものを言うのだろう。
 昼間の、観覧車の中で異常なほど月彦を猛らせた真央の太股でさえ、おそらく今見たらまだ肉付きの浅い、酸っぱいだけの青臭い果実のように思えるかもしれない。
 ―――ゴクリと、また喉が鳴る。
「だ、誰がっ…!」
 尋常じゃないほど上ずった声を上げながら、月彦は震える手と足をまるで足が半分もげたクモかなにかのように動かして、なんとか距離をとろうと努めていた。
 近づくのは危険だと、理性が訴え続けていた。
「へぇ…ずいぶんキラわれてるんだ、あたし」
 言葉とは裏腹に、くすくすと真狐は含み笑いを漏らす。
 その笑い声一つをとっても、人を引き込み、狂わせるような雅さがあった。
(…こいつは…真央とは違うッ…!)
 確かに、真央にも妖しの魅力はあるにはある―――が、真狐のそれはケタが違う。
 対峙しているだけで全身から脂汗がどっと吹き出し、立つことすらままならない。
「月彦、」
「……っ…!」
 ただ、名を呼ばれただけで、月彦はまるで悪事でも見抜かれたかのようにギクリと体を強ばらせる。
「返事くらいしなさいよ。あんた月彦っていう名前なんでしょ?」
 組んだ足の上に頬杖をつきながら、にやにやと笑う。
 どうして私が名前を知ってるのか不思議なんでしょう?―――そう言いたげな笑みだ。
「それとも、真央みたいに”父さま”って呼ばなきゃ返事してくれないの?」
「………………ッく………!」
 嘲笑うような口調に、月彦が歯をならした時だった。
「父さまっ!」
 バンと勢いよくドアが開いた―――真央だ。
 余程急いで来たのか、髪はまだしっとりと濡れ、体にはバスタオルを一枚巻いただけの姿だ。
「あら、噂をすれば…ね」
「っっっ!………かあ、さま…?」
 余程驚いたのだろう、母親の姿を見るなり、真央は部屋の入り口で固まってしまった。
 その右手はまだ、ドアノブを握ったままだ。
 ―――母親との再会に感動している…様には見えない。
「そん、な…母さま、どう、して…ここに……?」
 棒立ちのまま、震える声で呟く。
 真央の言葉も無理はなかった、本当なら、眼前の母狐は妖狐の里の牢の中に居るはずなのだから。
「奇遇ね、私も”そのこと”で真央に話があったのよ」
 真狐は組んでいた足を元に戻すと、すっくと立ち上がった。
 そしてゆっくりと、真央に歩み寄る。
「信じてたのよ、真央。あんたが脱獄の手伝いしてくれるって、母さま、信じて待ってたのに」
 真狐の言葉には徐々に怒気が籠もっていく。
 そのしなやかな指先が、真央の顎を捕らえ、視線を外すことを許さない。
「………まさか、牢に入れられたあたしをほっぽって、人間の男と同居してるなんてね。しかもずいぶん楽しそうじゃない?」
「………ち、違うっ…の、母さまっ…これ、は………―――っっ!」
「違う? 何が違うの?」
 一瞬のうちに、真狐は真央の背後へと回っていた。
 両腕を真央の肩口からかぶせ、その大きな耳に口づけをするように唇を寄せる。
「お陰で牢から出るのに半年以上もかかったわ。ホント、苦労したのよ?」
「ひっっ…ぃ…!」
 ぬろりと、狐耳の内側を舌が這う感触に真央は思わず悲鳴を上げた。
 緊張しているのか、怯えているのか、その尻尾は強ばるように直立している。
「で、でもっ…母さま、そんなこと…したら―――ッ!」
「追っ手は来ないわ」
 怯えたような声を出す真央に、真狐は頬をすり合わせるほどに顔を寄せ、口元を妖しく歪めた。
「私がただ、脱獄してきたと思う? 私をハメた奴らにきっちり”お礼”もせずに?」
「……っ…!」
「妖力を回復してすぐに、里長のクソジジイと評定衆の屋敷を焼いてやったわ。真央にも見せてやりたかったわぁ…あいつらが慌てふためいて屋敷から飛び出してくるトコ、”尻尾に火がつく”ってああいうのをいうのね」
 その時のことを思い出したのか、真狐はくすくすと鼻で笑い始める。
「里長のジジイなんて、三本狐だからちょっとは手強いかと思ったら、てんでたいしたことなかったわ。逃げ出してきた評定衆の二本狐共とまとめて軽く火で炙ってやったらすぐ泣きついてきてさ、まあ、私も鬼じゃないし尻尾を焼くだけで許してやったわ…ふふっ、でもあいつら、尻尾が再生するまであと10年は妖術も使えないただの尾無し狐のままね。いい気味だわ」
「そんなっ……母さま、尻尾を焼くなんて……!」
 真央が一層顔を恐怖に引きつらせて、真狐の方を見る。
「そーねぇ、このあたしを半年も幽閉した奴らへの礼にしては、ちょっと甘すぎたかな?」
 優しすぎるのが私の悪いところね―――と、付け足し、怯える真央の髪を優しく撫でる。
 尤も、”優しく”撫でられている筈の真央自身は一向に怯えの表情を緩和させていないのだが。
「でも正直、あそこまで歯ごたえがない奴らとは思わなかったわ。三本狐のジジイはともかく、評定衆の連中なんてろくに狐火も使えなかったのよ。お陰で折角吸収した妖力の大半が余っちゃったわ」
「吸収…って、母さま…ひょっとして………」
「私も牢屋暮らしが長かったからさぁ、里の若いオトコ片っ端から食ってやったわ。そしたらあいつら、最後は見境なしの交尾狂いになっちゃって妖力はスッカラカンのくせに止まんないの。で、私もさすがに疲れちゃったから、代わりに里の女の子達襲わせたわ」
 真狐はにっ、と笑みを浮かべてから、『特に、里長と長老達の周辺の女達を重点的にね』と付け足した。
「ひでぇ……」
 呟いたのは月彦だ。
「酷い? どこが? 誰も殺してないし、おまけにあと一年もすれば里じゃあ子供もジャンジャン産まれて万々歳じゃない。感謝して欲しいくらいだわ」
 心底そう思っているのか、真狐はさも愉快そうにくつくつと笑う。
「あとは飽きるまで眺めて、里を去ったわ。食った男の一人から真央が里に居ないって事も聞いて知ってたし。”父親の所へ行った”ってね」
 真狐は一瞬だけ、チラリと月彦の方に視線を走らせ、そして再び真央にもどす。
 真央は先ほどから首以外は殆ど微動だにしていなかった。
 尻尾まで直立し、それが真狐の腰の横の辺りまでピンと伸びている。
「さて、ここで問題よ、真央。私は大量に余った妖力をどうしたと思う?」
「えっ……」
 と、真央は一瞬答えに詰まったが、すぐに連想したのだろう。
 ハッと、目を見開いた。
「も、しかして―――」
「”ツクヨミ”にしか出来ないんだって?」
「…―――ッっ…!!」
 真央がギクリと体を震わせる―――さらに、追い打ちをかけるように、真狐はぴんと真央の体を覆っているバスタオルを弾いた。
「やっ―――!」
 はらりと落ちる、淡い黄色のバスタオルを真央は慌ててたぐり寄せようとする―――が、
「ダメよ、真央」
 耳元で囁かれた冷たい一言―――に、真央はびくりと制止した。
 両手は小刻みに震えている、が、絨毯の上に落ちたバスタオルを拾う動作はしない。
「ひゃっっ…か、母さまっっ……」
 硬直した真央の体に、真狐の手が這う。
「私も一度やってみたかったのよ、”数十万単位の人間を同時に化かす”のをね。それに丁度人間界で豪遊するお金も欲しかったから、まさに一石二鳥ね。でも―――」
 その右手が、脇の下をくぐって、真央の右乳房を掴んだ。
「私も驚いたわ。まさかあんたが来るとは思ってなかったし、でもそれ以上に驚いたのが―――あんたが幻覚だって気がつかなかったことよ」
「っっ……ぁっやっ…!」
 ちろちろと、狐耳に真狐の舌が這う。
 同時に、やんわりと円を描くように、右手が乳房をこね始める。
「真央、いつも言ってたわよね? あんたは半妖で人一倍騙されやすいんだから、外出するときはいつも眉に唾を塗っときなさい、って」
 また一瞬、月彦は視線を感じた。
(そういや、さっきもそんなこと言ってたな…)
 どうやら純粋な妖狐である真狐から見れば、真央は相当騙されやすいらしい。
「眉に唾を塗れば、簡単な変化も幻覚も見破れる、半妖のあんたなら私の幻覚も見破れた筈よ」
「ぁっ…! やっっ…やぁぁあっっ…!!!」
 びくりと、真央は背を仰け反らせた。
 その股間には、恥毛をかき分けるようにして、真狐の左手が張り付いている。
「ずっと見てたのよ? あんたが枯れ木に跨って騒いでいる所も、食用キノコ囓ってる所も、そして…」
「ひっっ…ぁっ…ぁぁっっ…ぁっ…!!」
 くちゅっ…と音を立てて、真狐の指が秘裂に埋没する。
 そのまま、真央の腰のうねりに合わせるように、指が蠢き―――
「月彦とシてる所もね」
「ッぁっッ……ひぅんッ!」
 指が埋没している場所からぴっ、と飛沫が飛んだ。
 太股がガクガクと震えて、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに膝が笑っている。
 それでも、真央が膝をつけないのは真狐に尻尾を強く握られ、引っ張られているからだ。
「”停電”の演出はサービスよ。人間ってああいうところでするの、好きなんでしょ?」
 一瞥。
 月彦は唇を噛みしめる。
「でもさ〜、初めはほんの家族サービスのつもりだったんだけど、真央の幸せそうな顔見てたらだんだんむかっ腹立ってきちゃってさ〜、だってそうじゃない? あたしのことなんてすっかり忘れて、自分だけ良い思いしちゃってるんだから」
「わ、私は別に…母さまのこと忘れてなんか……っっはぁううッ!!」
 口答えは許さない、とばかりに真狐の指先が淫核をつまみ上げる。
 つま先立ちになり、悲鳴を上げる真央の耳に、真狐はそっと唇を寄せ―――
「―――だからね、決めたの。あんた達の仲を引き裂いてやろうって」
 ぬろり、と敏感な耳の内側を舌が這う。
「えっっ…そ、そんっっ…なっっっあひッッ…ぃいいぃぁっぁああっぁッはぁァ!!!」
 突然の愛撫。
 蜜に溢れた秘裂を巧みに抉られ、淫核を擦りあげられ、たった数秒のうちに真央は電流のような絶頂を迎えた。
 その秘裂は二本の指をくわえ込んだままヒクつき、その都度ぴっ、ぴっと透明な蜜が飛んだ。
 真狐の手が掴んでいた尻尾を離すと、まるで糸の切れた操り人形のように真央はその場に崩れ落ちた。
「真央っっ…!」
 刹那、月彦は弾かれたように飛び出していた。
 崩れ落ちる真央の体が絨毯へと倒れ込む前に受け止め、そしてゆっくりと横たえる。
「失神しただけよ、朝になれば目は覚めるわ」
 真央の蜜に濡れた指を唇に含みながら、真狐はくすくすと嗤う。
「子供の時間は終わったのよ。これからはオトナの時間、…ねえ、月彦?」

「…仲を引き裂くって、どういう意味だ」
 気絶した真央にバスタオルをかけて、月彦は怒気を含んだ声で言った。
 対峙している相手に対し、少なからず怒りを感じているからか、先ほどのように手足がワケもなく震え始めるということもなかった。
 これならいざというときには真央一人背負って逃げられる―――と、月彦は横目で開きっぱなしになっているドアを確認した。
「そのままの意味よ」
 真狐は相変わらずの調子だ。
 人を食ったような媚笑を浮かべ、時折誘うように―――その真央よりも一回りほど大きな―――尻尾を左右に振る。
「あんたは今夜、あたしのモノになるの」
 ふぁさっ、と、尻尾が揺れる。
「前の時とは違うわ、一晩じっくり体を重ねながら、魂の芯まであたしの虜にしてあげる」
 す…と、その白い、細い腕が、指が伸びてくる。
 爪の先が唇に触れるかという所で、月彦は強引にその手をはねのけた。
「……俺だって、ただ一方的にやられた前の時とは違う!」
 今は逃げるしかない―――と、月彦は即座に判断した。
 気絶したままの真央を抱え上げ、絨毯を蹴って部屋の外へ出ようと―――
「痛ッ…!」
 突然、ゴンと鈍い衝撃が走った。
「な、なんだ…?」
 ちかちかと点滅する視界を頭を振ってなんとか落ち着けようとする。
 再度、部屋の外に出ようと足を踏み出したとき、月彦の目の前にあった”部屋の出口”がフッと消え、壁に変わった。
「ふふっ、そっちは壁よ。部屋の出口ならあっちでしょ?」
 月彦の醜態を嘲笑いながら、真狐は向かって左の壁を指さした。
 そこには確かに、ドアが開いたままの出口があった。
「そんなっ…さっきまで、確かに……」
 月彦は混乱しながらも、部屋の出口へと走った―――が、すんでのところでそれも壁に変わってしまった。
「なっ…に………」
 目の前の光景が信じられず、思わず手を伸ばしてみる―――指の先から伝わってくるそれは確かに長年慣れ親しんだ、自分の部屋の壁の感触だった。
「で、出口は…どこ…に……」
 狼狽し、月彦は周囲を見回す。
 気がつけば部屋の四方とも壁に囲まれ、部屋の出口はおろかベランダへと通じるアルミサッシのガラス戸すらも消え失せていた。
「んっ………」
 耳に、そんな息づかい。
 腕の中の真央がもぞもぞと体を動かす。
「真央っ…気がつい―――……うわぁあああっっ!!」
 声を掛けようとして、月彦は即座に”それ”を放り出した。
「きゃんっ…! もぉ…痛ったぁい、いきなり大声上げてどうしたの? ト・ウ・サ・マ…♪」
 尻餅をつきながら、”真狐”は意地悪く月彦に微笑みかける。
「ま、真央をどこへやったッ!」
「真央? 真央ならさっきからそこで寝てるじゃない」
 月彦は即座に、真狐が指さす先の絨毯の上を見た。
 そこには確かに、先ほど月彦がバスタオルをかけてやった時のままの姿で横になっている真央が居た。
(…待てよ、これも多分……)
 即座に足を踏み出そうかとして、月彦は思いとどまった。
 動揺を抑え、少しでも頭を冷静にしようと深呼吸をする。
(…そうだ、さっきアイツが自分で言ってたじゃないか…!)
 月彦は両手の親指をぺろりと舐め、唾液で濡らし、それを自らの両眉に塗った。
(頼むッ…!)
 縋るような気持ちで、月彦は一端瞼を閉じる。
 そして、そっと、除き穴から様子をうかがうように辿々しく、瞼を開いた。
「…見えたッ!」
 眉唾の効果であろう、四方が壁となっていた部屋はいつもの配置となり、ドアも、ガラス戸もしっかりと見えた。
 そして、ベッドに横たわっている真央の姿も。
「真央ッ…そこかッ!」
 今度こそ本物だ!―――月彦は駆け寄り、そして抱き上げようとした。
 が、逆に伸ばした手を、捕まれ、月彦はベッドへと引き込まれる。
「えっ―――」
 ぐるりと視界が反転して、わけのわからないまま月彦はベッドに仰向けになっていた。
 眼前には、真央が被さるようにして膝立ちしていた。
 ただ、その顔は驚くほど無表情だ。
「ふふ、ほんと、面白いように罠に引っかかってくれるんだから」
 真狐の声が、どこからか響いてくる。
 同時に、ボンッ…と真央の姿が煙に変わる―――そこに現れたのは言うまでもない、真狐だ。
「うっ…あっ…!」
 月彦は悲鳴を上げ、藻掻き、ベッドの上から逃げようとした。
 が、両手首から先、両足首から先がことごとく砂に埋没するようにベッドにめり込んでいて全くと言っていいほど身動きがとれなかった。
(これも…幻…だッ!)
 何度も自分に言い聞かせ、その都度目を瞑り、逃げようと試みた―――が、それはその都度、失敗に終わった。
「眉に唾を塗れば幻術は見破れる―――それこそ、眉唾モノの話なのにねぇ…ふふっ…ホント、真央と一緒で騙すのが楽だわぁ」
 真狐は月彦の腹筋の辺りを跨ぎ、そして腰を落とす。
 同時に、肉付きのいい尻の感触が、衣類越しにも伝わってくる。
「ねぇ、ほら…次はどうするの? 抵抗してみせてよ」
「くっっ……!」
 抵抗しようにも、四肢が全くといっていいほど言うことをきかないのだ。
 そんな状態でできることと言えば、相手を睨み付けてやることくらいだ。
「ああんっ… もぉ、そんな怖い目しないでよ…ゾクゾクして来ちゃう」
 月彦をからかうように舌を見せ、両手を胸板につき、上体を倒してくる。
 大きく開いた胸元の谷間がその体勢によってさらに強調され、月彦は不本意ながら、視線を釘付けにさせられてしまう。
「何っ…する、気だ……っ…」
 月彦の声は完全に上ずっていた。
 そして愚問だった。
 これから何をされるかなど分かり切っている、先に宣言されたのだから。
「ふふっ、そーねぇ…とりあえず、こんなのはどぉ?」
 左手が、ゆっくりと後頭部へと回ってくる。
「なっ…、何っ…をっ……んっっ…!」
 唇に、柔らかい肉の感触。
 やがてそれを割って口腔内に侵入してくる、小さな蠢くモノ。
 月彦は歯を食いしばって、それの侵入を拒んだ。
「ん…んふっ……んっっ……」
 左手だけではなく、両手が頭の後ろへと回され、さらに擦りつけるようにして体を密着させられる。
(うっ……わっ……!)
 唇をふさがれて居なければ、おそらく悲鳴を上げていただろう。
 ふれあっている部分から驚くほど柔らかい肌の感触が衣類越しに伝わってきて、さらに体重がかかってくると密着の度合いも増し、思わず仰け反ってしまうほどの快感が全身を駆けめぐる。
(やっ……ばっっ………!)
 その心地よさに反応するように、股間が怒張を始めていた。
 何とか意思の力でそれを拒もうとするも、とうてい敵いそうにない無力感を同時に月彦は感じていた。
「はっ…ンっ…んくっ……んっく……」
 キスの合間合間に、艶めかしい吐息が鼻の辺りを擽る。
 ぴちゃ、ぴちゃ、ちゅぷ…。
 唇を舐められる、そんな音。
 時折軽く吸われ、また舐められ、甘く噛まれ…。
「んっぁっ……くっんふっ…」
 ゾクゾクと背筋を駆け上ってくる、電流のようなものに月彦はつい、歯を食いしばるのをやめてしまった。
「んっ…!」
 真狐の舌が、ここぞとばかりに潜り込んでくる―――もちろん、それを噛むことも出来た。
 だが、月彦はそれをしなかった。
 口腔内の奥まで入り込み、自らの舌を弄ぶように撫でられる。
 ちゅばっ、ちゅぶっ、ちゅっ、ちゅっぴちゃっ、ちゅっ…。
 時には針のように細く、時には紙のように平たく、変幻自在に形を変え、翻弄してくる、舌。
 次第に、月彦の舌もその動きに合わせるように動き始める。
 そう、丁度初心者のダンサーが熟練のダンサーに手ほどきをされているような、そんな辿々しさで。
「んはっ…」
 唐突に、真狐は唇を離した。
 本当に唐突だった、思わず月彦は引き抜かれるその舌を追うように自らの舌を突きだしてしまっていた。
 慌てて、それをしまう。
「ねえ、つきひこ?」
 ”月彦”よりもゆっくりとした発音だった。
 真狐は僅かに目を細め、しっとりと潤んだ瞳で月彦を見下ろしている。
 頬は、僅かに上気していた。
「何…だよ」
 月彦はぶっきらぼうに答える。
 例え不本意ながら、無意識のうちに―――といういい訳をつけたとしても、この眼前の女の舌技に夢中になってしまった自分が恥ずかしかった。
 くすっ、と笑い声が聞こえて、真狐の上半身が被さってくる。
 ふわりと、長い髪が揺れ、甘い香り、左耳の辺りに、微かな息づかいを感じた。
「…唾、飲ませて」
「へ…?」
 小声で囁かれたその言葉に、思わず月彦は聞き違いかと思って聞き返した。
「唾、口の中に溜めて」
「なっ、なんで…そんな事っ…ひっっ……!」
 左耳を伝う、ぬろりとした感触。
 ゾッとするその感覚に、全身に鳥肌が立った。
「いいから、口の中に溜めて」
「っ…んっぐ………」
 喋り終えると、再び耳を這う舌の感触。
 月彦はまた悲鳴を上げそうになるも、口を閉じて、言われたとおりに唾液を口の中に溜めた。
「ふふっ…」
 頃合いを見て、真狐が再び唇を重ねてくる。
「んっ…くっ……」
 差し込まれる舌、今度は月彦も歯で拒んだりはしなかった。
 言われたとおりに溜めておいた唾液を、差し出すように唇を窄め、舌で押し出す。
「んっ…んく……」
 ゴク…ッ、吸い上げられた唾液が飲み干される、微かな音。
 その直後、月彦の口腔内にも、どろりとしたものが流し込まれる。
「んっ…!?」
 一瞬、月彦は抵抗しようとした。
 が、すぐにその口腔内に溢れた―――恐らくは、真狐の唾液―――溶けた飴のような甘味に酔いしれ、軽く舌で掻き回すようにして味を楽しんだ後ごくりと喉を鳴らした。
 ぴちゃ…ぴちゃ…ちゅぷ…。
 名残惜しむような舌と舌のダンス。
 柔らかい、そして時折きゅうとしがみついてくるようなその舌がゆっくりと引き抜かれていくのを、月彦には止められなかった。
「はぁっ…ぁっ……あふっ……」
 熱っぽい吐息、真狐は微かに上気した体をくったりと月彦に預けてくる。
 その、”大人の体の質量”―――特に、むっちりと実った乳房が潰れて、月彦は少し息苦しかった。
「はぁぁぁ……やっぱり人間のオトコはいいわぁ…」
 真狐はうっとりとそんなことを呟きながら、鼻を月彦のシャツに擦りつけるようにしてくんくんと鳴らす。
「汗の匂い…大好きぃ…」
「あっ、汗ぇっ…!?」
 思わず、素っ頓狂な声を上げて、月彦は逃げるように身を引こうとした―――が、それを避けるように両手で肩を押さえつけられた。
 むくりと、真狐は上体を起こす。
「逃げないでよォ、せっかくノッてきたんだから」
 さわっ…と、その右手が月彦の、やや膨張気味の股間をズボンの上から撫でる。
「うっ、わっ…あうっ……!」
 その、僅かな刺激ですら月彦はのけぞり、上ずった声を上げてしまう。
「ふふ…そっちも、薬が効いてきたみたいね」
 ぺろり、と舌なめずり。
 口の端を歪めて、月彦を見下ろす。
「くっ…薬っ…!?」
 オウム返しに聞き返した瞬間、月彦は思い出した。
 始めに、真央に化けた真狐に飲まされた”何か”のことを。
「濃縮絶倫丸、特製の強壮剤よ」
「ぜつり…ッ…!」
 薄々そうじゃないかとは思っていたものの、実際その耳で聞いて改めて月彦は絶句した。
 絶倫丸、人をケダモノに変える薬―――そう言っても過言ではない。
「濃縮したぶん効果が出るのが遅いのが難点だけど、でも…そろそろね」
「そ、そろそろって……うっあ、あっっ……!!」
 真狐が一端腰を浮かしたかと思うと、その尻を月彦の股間の上へと落とした。
 そのままぐりぐりと、膨張した股間に恥骨を擦りつけるように腰をくねらしてくる。
「あはっ、すっごぉい…まだ満タンじゃないのにもうこんなに大っきくなってる」
「あっ…くッ…!」
 衣類越しに与えられるその快感に呼び起こされるように、懐かしい感覚がわき上がってきた。
 グツグツと、腸が煮えくりかえるような、その熱。
 体中の血管が膨張して、その中をどす黒い血が駆けめぐっているような錯覚。
 ドクンッ!
 心臓が大きく跳ねる。
 ドクンッ!
 肋骨を内側から叩き、突き破らんばかりに。
「はぁああっぁああぁあっっ………!」
 体中から汗を噴き出しながら、月彦は大きく息を吐いた。
 熱が。
 熱の塊が体の中でのたうち回っていた。
「ふふっ、体が熱くなってきた? 脱がしてあげよっか?」
 にやりと、意地悪笑み。
 さわさわと蜘蛛の足のような指が10本、這ってきて月彦のシャツの襟元の辺りを掴む。
 てっきり、普通に脱がせられるのかと思った―――が、違った。
 月彦の耳に飛び込んできたのは、ビリッ、と布地が裂ける音だった。
「ばっ…かっ、何をっ……!」
「いいじゃない、どうせ安物でしょ?」
 ちらりと、舌を見せて、嗤う。
「それに、破りながら脱がせた方が『犯してる』って…実感湧くじゃない?」
「ッッ……!」
 ビビッ…ビッ…!
 力任せにシャツが縦に裂かれ、上気した肌―――胸板と腹筋が姿を現す。
 さらに、邪魔だと言わんばかりに左右に分かれたそれも引きちぎり、上半身を完全に露出させた。
「ふふ、すっごい熱…でも、まだまだ……」
「ッ……!」
 舌が、這う。
 喉から、首の付け根。
 ちろちろと、ナメクジのような軌跡を残して。
「んっ…」
 ちゅっ…と音を立てて、乳首が吸われる。
 ぬろっ、ぬろっ…周囲をたっぷりとなめ回した後、さらに勃ち始めたそれを口に含み、再び吸い上げる。
「っっっぱぁっ……………ねぇ、あたし乳首噛むの好きなのォ…、噛んでもいい?」
「ッ…ダメに、決まッ―――…痛っっ!!!」
 有無も言わさず…とはこのことだ。
 最初から月彦の承諾を待つつもりなどなかったのだろう、前歯で甘く噛み、舌で転がし、さらに尖った犬歯で刺すように噛む。
「んーっ……ちゅぱっ…んっ…ちゅーっ…んくんく…」
 月彦が暴れるのも構わず、真狐はもう片方の乳首の方も同じように舌で勃起させ、そして噛み始める。
 激痛―――とまではいかないが、時折襲ってくる刺すような痛みに、月彦は顔を歪め、耐えた。
(なんで…俺が…こんな事……)
 されているんだ、という怒りにも似た感情は湧く。
 だが、依然として四肢の自由は奪われたままでは真狐をはねのけることもできない。
(こんな…やつに……!)
 好き放題されている、それが現実。
 薬を盛られ、幻術でハメられ、服まで破られ―――そう、盛られた薬の効果は刻一刻と現れてきていた。
 全身を駆けめぐり熱い血。
 漲る力。
 ドクドクとまるで耳元で太鼓でも鳴らされているような音を立てて心臓がはね回っていた。
 同時に、股間のあたりに今までにない圧迫感、窮屈さを感じていた。
 みちみちとズボンのベルトが軋む音が聞こえてくるほどにそれは膨張し、猛っていた。
「はぁぁ…いいわぁっ…すごくいいっ…」
 熱に魘されたような声。
 はしゃぐ子犬のように尻尾を左右に振り、真狐は漸く唇を乳首から離した。
「月彦、手…出して」
「手って…お前が………!?」
 そう言いかけて、月彦は目を見開いた。
 まるで何事も無かったかのように、右手が目の前にあった。
 その手首を、真狐が掴み、自らの乳房へと誘う。
「ぎゅうぅぅううって、して」
 月彦の掌を、着物の内側へと導き、しっとりと汗ばんだ乳房に宛い、そんなことをねだる。
 反射的に、月彦は右手に力を込め、握りしめた。
(うっ…わっ…!)
 思わず、背筋に冷たいモノが走るほどの柔らかさ。
 このまま指が埋没してしまうのではないかと錯覚するほど、たわわに、その肉は月彦の指を受け入れた。 
 かと思えば、そのさらに内側から感じられるしっかりとした弾力。
 肌の手触りがほんの少しひんやりと感じられるのは、おそらくそれだけ月彦の体が熱を持っているからだろう。
「んふぅううっ…もっと、もっと強くゥゥ…ぎゅーってしてェ…!」
 舌を覗かせ、淫らに喘ぐ。
 身をくねらせる都度、周囲に媚臭が飛び散り、月彦の鼻腔を刺激する。
「ッ…これで、いいのかっ…よッ……!」
 もはやそれが当然であるように、自由を取り戻した左手をも突き出し、両手でたわわな乳房を捏ねる。
 要求通り、肉に埋没して指が見えなくなるほどに握りしめ、上下左右に引っ張るようにこね回し、弄ぶ。
「んぁあっぁあっっ…! ふぁあんっぅうゥ…! はぁぁっ…いいいいっ……おっぱい気持ちいいィィッ……!」
 強く乳房を握りしめられる度に、微かに体を震わせて、真狐は喘ぐ。
 真央のものとは明らかに違う、雪乃のそれよりも大きい、たわわな果実。
 月彦はだんだんと、その柔らかさと質量に魅了され始めていた。。
「はーっ……はーっっ………!」
 息を荒げながら、ただただ乳房を捏ねることにだけ専念する。
 ぷっくりと勃ちはじめていた突起も眼中にないとばかりに、その白い肉の塊を粘土のように捏ね、その触感に酔いしれた。
「はーっ…はーっ………はーっ………」
 呼吸をするたびに肺を犯す、毒鱗粉のような媚臭。
 むっとする、空気よりも粘質なその牝の臭気を吸い込む度に、確実に理性が蝕まれていく。
(…す、が…)
 何かが、首を擡げる。
(…牝…がッ…!)
 体の中で、何かがむくりと体を起こす。
 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ―――!
 心臓が、血液が、爆ぜる。
「…があっ、あぁ、あっあ、あァああっ!!!!」
 まるで断末魔、否―――咆哮を上げて、月彦は仰け反った。
「えっ、あぁっ…っきゃっ…んひぃいぃいッ…ッッ!?」
 乳房を痛いほどに握りしめられ、真狐はたまらず悲鳴を上げて腰を浮かした。
 その時だった。
 バチィインッ!―――そんな音を立てて、何かがはじけ飛んだ。

「やんッ!?」
 予期せぬ場所からの、予期せぬ場所への刺激に、真狐はそんな声を上げた。
 何か、とてつもなく固いバネ仕掛けのようなものがその股間にバチンと当たったのだ。
「な、何……えっ……」
 真狐が目にしたのは、醜く膨れあがった肉塊と、その周囲に散らばった―――かつてベルトの留め具だった物。
 限界を超えた力に金具は歪み、ベルトの皮は引きちぎれていた。
「う、わっ…凄っ…」
 その在る意味凄まじい光景に、うっとりと目を細め、感嘆の声を上げる。
 グンと自らの存在を誇張する、その牡性器。
 子供の腕ほどもある、赤黒いそれは先端に既に蜜を滲ませ、時折ぴくぴくと小刻みに揺れていた。
「真央とシてた時より…おっきいじゃない…」
 恐る恐る、手を伸ばして、握りしめる。
「っあッ!」
 それだけで、腰を跳ねさせて、月彦は声を上げる。
 真狐は笑みを浮かべ、そして月彦の股ぐらに潜り込むようにして、その先端に軽く、口づけをした。
「うっ…ぁっ…!」
 月彦の腰が跳ねる。
 構わず、真狐はその舌を尖らせるとちろちろと亀頭の先端に浮かんだ蜜だけをなめ取り始める。
「月彦、ほら」
 ちゅぱっ、ちゅっ、ぺろっ、ちゅ…。
 啄むように牡性器と口づけを交わしながら、真狐は体を180度入れ替え、月彦の頭の方へと尻を向けた。 
 月彦は両手を真狐の体へと伸ばし、その着物の腰帯から下の部分を捲し上げた。
 美味そうな肉付きの尻と、半分透けたような色をしたショーツが露わになる。
「ちゅばっんはっ…ちゅっ、破っても…んっ、ぷふっ…ちゅっ…いいよ」
 ハーモニカでも吹くように、竿を横から銜え、ぴちゃぴちゃと舌を這わせる。
「破った方が…コーフンする…でしょ?」
 ぴんと尻尾を立てて、誘うように尻をくねらせる。
 月彦はまず、両手で尻の肉を鷲づかみにし、頭を起こして透けた下着の上から鼻面をねじ込んだ。
「んあっ…そ、そんっ…な、やっ、やぁぁんっあはぁぁぁあっ!!」
 糸を引いて剛直から唇が離れ、熱っぽい吐息と共に漏れる、嬌声。
 月彦は構わず、両手で尻肉を揉み捏ねながら、ふぐふぐと鼻先と唇に当たる下着越しの媚肉の感触に酔いしれていた。
 両手から伝わってくる肉の感触が、また心地よかった。
 ぐにぐにと、粘土でもこねているような弾力。
 揉んでも揉んでも揉み足りない、否、揉めば揉むほどますます興奮をかき立てられるような不思議な感触だった。
「んぶふうっ、、ふーっ…んふっ…んんっっっ!」
 鼻先には、湿った下着の感触。
 くっちゃりと濡れた薄い布地の向こうから漂ってくる、むせ返るような媚臭。
 本能の赴くままに、その媚臭を嗅ぎ、下着の上から舌を伸ばし、さらには唇を吸い付けて―――
「ひぁっ…! やはァぁぁぁァああアッ!!!」
 ずびびびびっっ!!
 卑猥な音を立てて下着の上から強引に恥蜜をすすり上げる。
 が、やはり下着のせいで思うようにはいかない―――邪魔だとばかりに、月彦はショーツに手を掛け、強引に引きちぎった。
「ぁっっ…ほ、本当に破っっ…んひぃいッ!」
 びくんと、尻尾が勃つ。
 月彦は両手の親指で秘裂を広げ、そこに吸い付くようにして恥蜜を啜る。
「ぶはぁぁあっ…んんぐっんっんぶぶぶぶっ…じゅるっんふっぶふううぅ…!」
 砂漠で2,3日放浪した後のような、貪欲さ。
 花弁を広げ、その内側を丹念に舐め上げ、唾液を塗りつけ、にじみ出た蜜と共にまとめてすすり上げる。
 性経験豊富そうな割には、まるで処女のそれのように色鮮やかなクレヴァス。
 だが、そこから溢れるねっとりと濃い蜜はむせ返るような牝臭を放ち、月彦の中の”牡”を刺激して止まない。
 ぴちゃぴちゃと、どこまでも貪欲に、一心不乱に月彦は舌先で蜜を啜った。
「あぁっぁっ…んぁあっあッ! はぁぁぁっ…もうっ、月彦ってば、ケダモノみたい…」
 呆れたような呟きを漏らしながらも、真狐もまた、貪欲に膨れあがった剛直を口に含みぬろりと舌を這わす。
 長い竿部分を唾液で濡らし、絶妙の手加減で扱きあげながらカリ首を擦るように舌先で舐め、鈴口を穿る。
「んはっ…ちゅっ、んっ…はふっ、んっっくんっぶふうっんはっ…やぁぁっ…そんっな、吸われたら…尻尾、ボッキしちゃうぅンッっ…はっぁふッあ、ンっ…!」
 熱っぽい息が、唾液でぬらぬらと光沢を放つ剛直にまんべんなくかかる。
 瞳を潤ませ、うっとりとした視線を投げかけながら口戯に没頭する様は発情した牝の仕草そのものに見える。
 月彦のことをケダモノ―――とは言ったが、もし第三者がこの光景を見れば、どっちもどっちだと鼻で笑うことだろう。
「はぁぁっ…もーだめ…ジンジンしてきた…」
 ついと、尻を持ち上げ、尻尾を振って邪魔よとばかりにぺちぺちと月彦の両手の甲を叩く。
 着物もすっかり着崩しながら―――肘の辺りまでずりさがり、形の良い美巨乳をたぷんと揺らして、ゆっくりと月彦の剛直の、その竿の上に腰を落ち着ける。
「はぁんぅっ…ぁあぁっ…すっごく熱いぃいぃ…」
 にゅりっ、にゅりっ…。
 接触部から漏れる、そんな音。
 柔らかい媚肉がとろっとろの粘液を潤滑油にして牡性器に吸い付き、舐めるように前後する。
「はっ……あッッッ…ッッ……!」
 真狐の両太股の付け根の辺りを掴み、月彦は掠れた声を上げた。
 無理もない、といえる。
 口戯を受けている最中でも、月彦が少しでも達しそうな素振りをみせると真狐は即座にその舌の動きを弱め唇を引き、絶頂の波が引くまで焦らすような手コキだけの愛撫が続く―――そのようにしてさんざん焦らされてきたのだ。
 ぐいぐいと、自らの股間を押し上げ、さらに太股に当てた手を押しつけるような仕草―――を見て、真狐はにやりと、淫蕩とした笑みを浮かべた。
「いいわ…、あたしも月彦の、すっっごく欲しいから」
 上体を被せてきて、そんな囁き。
 一端腰を上げてから、真狐は剛直へと手を伸ばし、自らの潤んだそこへと先端を宛う。
「んっっ……あっ、、、」
 にゅぷりと、徐々に先端が埋まっていく。
「あっ、あっ、あっ、あっ……!」
 ずぶぶっ…ゆっくりと埋没していく、もはや肉槍とも呼べない、肉塔。
 その圧倒的な質量に、真狐は自分が串刺しにされているような、そんな錯覚を憶えた。
「ぁっく……やだっ…おっきぃ……」
 唇に手の甲を当てるような仕草。
 口戯をしていた時から―――否、最初ズボンのベルトを壊して仰天した時から薄々感じていたことだった。
 巨根―――そもそも当時中学生だった月彦を攫うきっかけになったのがそれだ。
 それから幾年月、まだ未成熟だった体は大人のそれへと代わる。
 今、自分の体を貫いているものの質量は明らかに、数年前自分が月彦を攫った時のそれを上回っていた。
 計算外―――といえば、そうだった。
「はっんっ…やっっ…凄…い……んくっ…!」
 ずっ、ずぷっ…ずっ……!
 10秒で1ミリ。
 それくらいのペースで、ゆっくりと腰を埋めていく。
 体を支えている太股がガクガクと震え始める。
「んっあ……!!」
 つんっ、と突然体の奥を突かれるような感触があった。
 剛直の先端が、膣奥、子宮口に当たったのだ。
 真狐は恐る恐る、結合部へと指を這わせる―――そして、ゾッと背筋を凍らせた。
 剛直はまだ、その全てが収まりきってなかったからだ。
「ぁっ、ぁっ…そん、なっ………ひっっ………!?」
 ほんの数分前まで、余裕綽々相手を食ったような笑みを浮かべていたその顔に、微かに怯えの色が広がった。
 太股を押さえていた月彦の手が、腰を沈めるように力を込め始めたのだ。
「やっ…やぁっ…月彦っ、ちょっ…待っっ…くひぃぃいぃィッィッッ!!!」 
 それは、唐突にやってきた。
 両の太股を押さえつけた状態のまま、月彦がぐっと自ら、腰を突き上げたのだ。
 ごちゅっ…と鈍い音と共に子宮が持ち上げられ、真狐は弓なりに体を反らせて、悲鳴を上げた。
「あっ…あぁっ、あっ…………!」
 小刻みに震えながら、呼吸すら圧迫されているように、苦しげに短く、何度も呼吸をする。
「はぁぁあっ…ふぅぅううっ……!」
 かたや、月彦の方は満足―――ともとれるような、ため息にも似た息づかい。
 四年ぶりに味わう、生粋の牝狐の極上の膣の感触にしばし酔いしれた。
「はぁぁっふぅっう…ズル、い…こんな、の…反則……ぁふっう……」
 張りつめていた糸が切れるように、くたぁ…と、真狐は両手を月彦の胸板の上につく。
 不思議と、痛みは全く無かった。
 それどころか―――
「やんっっ…ぁ、う…!」
 膣内に収まったそれがびくっ、びくっ、と微かに脈動するだけで、背筋を電流のようなものが走った。
「…動…かない、のか?」
 荒々しい息づかいの合間、そんな声が聞こえた。
 狐耳をぴくんと震わせて、真狐は顔を上げる。
「う、動け…って…」
 言われても―――と続けようとする前に、月彦が体を起こし、尻を掴んだ。
「やっ…ひんんっっ!!」
 反射的に、真狐は眼前の月彦の体にしがみついていた。
 背中に両手を回し、掻きむしるように爪を立てて、しっかりとしがみつく。
「やっ、やぁぁっぁっ…う、動いちゃ…やぁぁっっぁっ……ひっぁっくあふっンッ、ァ、くっふ、あッ!!」
 ゆさゆさと体が小刻みに揺さぶられる。
 その都度、ぐいぐいと子宮が押され、真狐は仰け反って声にならない声を上げる。
 キュウと両足も月彦の腰に絡め、締め付け、尻尾をばたつかせながら、喘ぐ。
「……ッ…!」
 ふいに、体を揺さぶる月彦の手が止まった。
 代わりに、ぐっと、尻肉を掴む手に力が籠もる。
「ぇ…ぁっ……いッ!?…ふっ……ぐっっっ!!!」
 どくっ…と、唐突にはき出される、何か。
 熱く、濃いそれが限界近くまで押し広げられた膣の肉と剛直の合間をみるみるうちに満たして、程なく結合部からびゅくっ、と漏れだした。
「あっっ…出っ…!? あはぁっあっ…ひっっ………!!」
 びゅっ…びゅびゅっ、びゅっ…びゅっ!!!
 止めどなく、子宮口に浴びせられる灼熱の牡液。
 剛直の先端から特別濃いゲル状のそれはぐいと子宮を持ち上げるほどの勢いで何度も、何度も打ち出された。
「やっ……コレ…凄…いっ…………うっ、んっぁ…まだ、出て……」
 月彦にしがみついたまま、真狐は震えた声を出しながら、軽く達してしまっていた。
 凶暴なほどに巨大な肉槍に貫かれながら、膣内を汚す、ねっとりと濃い精液の感触に興奮しながら。
 その大きな耳に、ぜえぜえと荒々しい息づかいが届く。
 自分のものと、月彦のもの。
 やがて、尻肉を掴んでいたその手が、ぐっと力を取り戻す。
「…まだまだ…だ」
 低い呟きが、狐耳のなかに舞い込んでくる―――瞬間、真狐はゾクリと身震いした。

「やっ、やぁぁっぁ、お、…奥…まで、…来る…っっ…!!」
 ベッドシーツを握りしめながら、真狐は悲鳴を上げる。
 はあはあと荒い息が、背後から絶え間なく聞こえる。
 ぐっ…と体重がかかってくる、手が、這ってくる。
「…まだ、入る、ぞ…ッ…!」
「ひっぃ……!」
 逃げるように伏せる狐耳をそっとつまみ上げて、息を吹き込むように囁いてくる。
 さらに、体重をかけてくる―――剛直が、さらに深く、尻尾の根元…菊座へと埋没していく。
「あはっぁああっ、ひいいっぃいィィいッッ!!!」
 背が反る。
 ギリギリと歯を食いしばり、体の奥底まで割り込んでくる、剛直の感触に耐える。
「ふぅっ…ぅ、…、…ずいぶん、大人しくなったじゃないか」
 犯している牝の―――否、真狐の腰を腰帯の上からしっかりと掴み、引き寄せながら、月彦は満足げに呟く。
「初めの勢いは…どうしたんだ?」
「っ…う……」
 ギリ…と、歯を噛みしめる。
「こん、なの……反則…こんな、…っきぃ…の…」
「聞こえないな」
 腰を引き、ドンと大きく一突き。
「んあうっ…!! あはぁぁぁっ…ぁっ、あっ………!」
「なんだ…またイッたのか?」
 びくっ、びくと小刻みに痙攣する白い肉体を見て、蔑むように月彦は嗤う。
 そして構わず、ぐっ…ぐっ、と腰を使い始める。
 ぬらついた剛直が根本まで菊座に埋没し、そして再びカリ首の辺りまでのぞき、再び埋まる。
 ぱんっ、ぱんと尻肉を叩く、小気味の良い音を立てて。
「はぁぁっ…んっひっぃ…やぁぁっ…凄…ひっ…あふぅうっ…んっ…ぁっ、くふぅ……!!」
 口の端から涎を零しながら、真狐は喘ぐ。
 結合部の下、本来綺麗なピンク色のクレヴァスがあるそこは白く、ねっとりとした牡の精液にまみれ、汚れていた。
 菊座を突かれ、体を震わせ、ひくひくとそこが蠢くたびに、とろりと、透明な液と共に僅かに、ゲル状のそれが零れてくる。
 五回、連続で出された後だ。
 座位のまま、3回。
 そのあとベッドに押し倒され、正常位で一回、側位で一回。
 その間一度として秘裂から剛直を抜かれず、たっぷりと出された精液を子宮口に、膣壁に塗りつけるように何度も何度も突き上げられ、イかされたのだ。
 計算が、どこからか狂っていた。
 もはや、主導権は真狐ではなく、月彦の方に移っていた。
「んっ……っぁ……出す、ぞ……!」
「んっ…ぁっ、やっっ……あふっっ!!」
 ぱんっ、と尻が鳴り、剛直が根本まで押し込まれる。
 刹那のうちに、駆け上がってくる奔流。
 ぐっ…と、剛直が膨れあがり、菊座が押し開かれた。
「はぁんっ…あっ、やっ…で、出て……ひんんっあっ…あっ……いいっ…また、イクッ…イクのっ……!」
 体の中に広がっていく、なま暖かい精液の感触。
 尻尾を勃起させながら、真狐は何度も震えた。
「…出されただけでイクのか、真央以上の淫乱だな」
 蔑むように、月彦は呟く。
 そう、態と、狐耳の内側にだけ聞こえるように、小声で。
「ホント、いい尻してるな…あんた」
 ぐにぐにと、両手で尻肉をこね回す。
 弾力のある肉―――いつまで揉んでいても飽きない。
「…このまま…もう一回、だ」
「ッ……ぁっ……」
 背後から被せられる声に、また、背筋がゾクリとする。
 薄々、真狐は気がついていた。
 自分がこの”ゾクッ”と背筋を駆け上ってくる感覚の虜になりつつあることを。
 過去、自分が好き放題犯してきた牡からは得られなかった類の感覚。
 否…ただ、忘れてしまっただけかもしれない感覚。
 それの、虜に。
「やぁっ…あぁっンッ…あっ…はあっあっ…!」
 続けて、菊座を犯される。
 先ほど出されたばかりのドロッドロの精液の感触もまだ残っている。
 巨大な肉塊のピストン運動がそれらをめちゃめちゃに掻き回す。
「ほら、どうしたんだ、前の時みたいに『もっと、もっと』って言えよ」
 月彦は口元にうすら笑みすら浮かべながら奥の奥まで剛直を突き込んでいく。
 前の時―――真狐に、初めて攫われた時のことだ。
 あの時は訳も分からず童貞を奪われ、そのまま何度も何度も精を奪われ、一方的に陵辱された。
 それが、今や立場が逆転している。
 かつて自分を恐怖させてやまなかったものを凌駕する―――そのことに、月彦は身震いするほどの恍惚を感じていた。
「ッ…言わ…なく、ても…するっ…くせ、にぃっ…くふっんんっっ…!」
「当たり前だ、あんたが盛った薬のせいで、出しても出しても萎えないんだから…。責任はとれよな」
 腰の動きを止め、ぐにぐにと尻の肉を揉む。
 さっきから何度そうしているかわからない。
 つい手を伸ばしてしまうほどの、そうせざるを得ないほどの魅力が、その牝尻にはあるのだ。
「っぅぅ…、こんな、筈じゃっ……」
 そんな呟きが聞こえた。
「なんだ? 言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
 尻を揉んでいた手を腰のくびれに添え、再び、腰を打ち付け始める。
「はぁっ…っくっ…やっ…はぁぁっ…こんな、…の、…こんなの、知らな、い…んあっ、ぁっふ…こんなのっ…初めてっ、なのォッっ!!」
 きゅっ、きゅっ…と剛直の出入りするそこを窄めながら、背を反らせ、震える。
 その窄まろうと、必死に収縮しようとする尻穴を、剛直がまた強引に押し広げ、穿つ。
「そいつは…光栄、だな。………ッ…出す、ぞ」
 宣告。
 恐らくは態とか、狐耳の中に吹き込むように、月彦は囁く。
「やぁッ…あはぁァぁあっっ………!」
 どくっ…と、またしても夥しい量の精液がはき出される。
 何度も剛直が震え、その都度、びゅくびゅくと、体を揺らすほどの”水圧”で。
「はっあっ…あ、あっ、…ひっ…こんな、いっぱい………ぁつ、く、ふっ…ぅっ……!」
 打ち出される精液の奔流、それに伴う牝としての絶頂。
 その余韻に浸っている側から、ぬろりと剛直が引き抜かれた。
「…ッ…!」
 突然、乱暴な手つきで髪を掴まれ、真狐は強引に体を起こされた。
 眼前には、白濁の粘液でぬらつき、光沢を放つ赤黒い肉塊が突きつけられていた。
「舐めろ」
 月彦は短く言い、唇へと剛直を押しつけた。
「…う、ぁ……」
 真狐は呻きながらも、恐る恐る舌を出し、精液にまみれたそれを舐め始める。
 ぴちゃぴちゃと、音を立てながら、肉塊に対してあまりに小さな舌で、白い塊を舐め取っていく。
「綺麗に舐め終わったら、またあんたの中に挿れてやるからな」
 くつくつと笑いながら、月彦は掴んでいた髪を離し、逆に労るように撫でる。
 …そこで、一つ思う所があったらしい。
「そういや、まだ名前を聞いてなかったな」
 ぴたりと、口戯の舌が止まる。
「…真狐、真の狐って書いて…真狐…」
「そうか。じゃあ、真狐、…続けろ」
 命令口調。
 にもかかわらず、不思議と不快感は湧かなかった。
 真狐は言われたとおり、剛直に舌を這わせ、唾液を塗りつけ、白濁を啜った。
 空いている右手ではやんわりと、その付け根から下がる袋をやんわりと揉み、マッサージする。
「んはっ…ぁ、ふっ…んっ…」
 左手は、塗りつけた唾液を潤滑油にして、軽く竿を扱きあげる。
 その巧みな手つきに、徐々に月彦の方も呼吸を乱して―――
「んんっくっっ…!!」
 突然、両手が頭に添えられたかと思うと、剛直が口腔内に挿入された。
 真狐は眉を寄せる―――剛直は喉奥までみっちりと割り込んでくる。
「はぁぁっ…ぁっ……」
 月彦は荒々しく息を吐きながら、腰を前後し始めた。
 真狐の頭を両手で掴みながらまるでそれ自体を性器かなにかのように扱い、剛直を何度も突き挿れる。
 その都度、肉塊の先端が喉奥を叩き、真狐は苦しげに呻いた。
「んぶっ、ふっ…んんっ! んぷっ…んっ…んんんんっんぐ!!」
 口腔内を犯す、牡性器。
 その抽送は長く続くかに思えた―――が、終わりもまた突然に来た。
「んんんっくふっ…!!」
 どくりと、はき出されたものが、口腔内を満たす。
「ッ…飲め、よ。大好物…だろ?」
 月彦は、両手で頭を押さえつけたまま、離さない。
 一も二もなく、真狐ははき出された精液を飲み干すしか無かった。
「んぐっ……んっ…ぐっ…ごぷっっ…ッ……!!」
 ゴクッ…ゴクッ…、飲むスピードが、出されるスピードに追いつかない。
 口の端から突如、白濁を溢れ、やむなく月彦も抑える手を離した。
 びゅっ……と、唇から出た先端から、白濁が迸る。
 それが真狐の顔を―――髪を、鼻を、額を、唇を、頬を、白く汚し、染めていく。
「けほっ……けほっっ………!」
 噎せ、何度も咳をする、その都度、口の端からとろとろと白いものが漏れる。
「はぁっ……はぁっ…………」
 漸く呼吸を落ち着けて、真狐は顔を上げた。
 そこにはまだ、一向に萎える様子を見せない肉塊が、グンとそびえていた。
「まだ…だ」
 月彦が、肩を押す―――仰向けに、倒される。
「まだ、萎えない。まだ…出し足りない」
「ひっ……ぁっ、やっ、やぁぁぁああっっ!!!」
 のし掛かってくる体重、下腹部に挿入される肉柱―――真狐は、悲鳴を上げた。

「はぁっ……はぁっ……」
 腕の付け根を押さえつけ、何度も腰を打ち付ける。
 その都度、ぐぷっ…ごぽっ…と、汚らしい音を立てて、透明とも白ともつかぬ粘液が溢れてくる。
「はぁっ…どう、した…もうヘバったのか?」
 腰の動きを止め、月彦は余裕の笑みを浮かべながら、されるがままになっている牝狐を見下ろす。
「真央よりだらしが無いじゃないか、”母さま”のスゴい所…俺にも見せてくれよ」
「っっ………そんな、事…言われたって………―――くひぃッぃい…ッ!!」
 ぐっ、と一際深く、剛直が突き込まれる。
「妖狐の中で一番の淫乱なんだろ?」
「ッ………ぁっ、ぅ、くぅぅ…………!」
 囁き、ぺろりと狐耳の内側を舐める。
「きょ、…今日、はっ…疲れてる…から、調子が…でないのよ」
 誰が聞いても苦し紛れのいい訳にしか聞こえないようなことを呟きながら、真狐はぷいと顔を背ける。
 その、負けず嫌いな…それでいてどこか子供っぽさが残るような仕草にクスリと月彦は笑みを浮かべる。
「そうか、疲れてるのか…じゃあ、こいつでたっぷり…労ってやんないとな」
 こいつ―――というのはもちろんアレのことだ。
 グッ…と腰を引き、抽送を再開する。
「やっっ…な、んでっ…そーなっっ…ぁあひっんっ…やっっ、それっ…おっき…過ぎ…反則ッッ……あっ、あんっ…あ、ンッ…んっくぅ!!」
「…反則、って…言うけどな」
 押さえつけていた手をどかし、代わりにたぷたぷと誘うように揺れている双乳を掴み、握りしめる。
「真狐のコレだって…十分反則だぜ…。こんなもん目の前で揺らされたら…萎えるものも萎えられねーよ」
 両手に、力を…込める。
「ぁっひぃぃっぅううっ…やっ…だめっ、…だめっ、そこっ…ぎゅーってしたら……」
「何言ってんだ、さっき自分で『ぎゅぅうってされるのが好き』って言ってくせに」
 掌からゆうに溢れる―――凶悪なほどの質量と柔らかさのそれをこね回し、痛いほどにぎゅうっ…と握りしめる。
 白い肉が指の合間から盛り上がり、指が隠れるほどに、だ。
「やっやぁぁっぁっ、…だめっ…ぎゅうってされたらッ…イクッ…また、イッちゃうッ……!」
 胸を握る都度、膣内がヒクヒクと反応し、痛烈に締め付けてくる。
 それが心地よくて、月彦は何度もこね回し、『ぎゅうぅう』と握りしめた。
「そういや―――」
 ふ…と、捏ねる手をとめる。
「乳首…噛まれるのも好きって…言ってたよな」
「ぇっ…ち、違っっ…あたしは…噛むのが…好き―――ッッぃいッ!!!」
 問答無用。
 たわむ乳房の先端に唇をつけ、ぴんぴんにしこったそれを歯で甘く噛み、くにくにと転がす。
 勃起した突起からは微かに…ミルクの香り、味がした。
「ぃひッぃ…ぁっだ、めっ…噛まっ…ないでェッ…あふぁっ…あっぁあっ!!!」
 月彦は耳を貸さない。
 ちゅばちゅばと丹念に吸い付き、乳肉を揉み、また吸い、噛み―――を繰り返す。
 片方に飽きたらもう片方。
 唇をつけていない方も唾液にぬれたその桃色の突起を指先で弄り、摘み、引っ張る。
「いやらしい乳だな…。こっちのほうが反則だ」
 ちゅぱっ…糸を引きながら、唇を離す。
「こんな乳から出る母乳で育ったから、真央まで淫乱になるんだ」
「そん、なっ……関係、なっ…んんっっ…!!」
 唐突に、秘裂を圧迫していたものが消えた―――と思ったのもつかの間だった。
「…ダメだ、…ムラムラ…する……!」
 苛立ったような声。
 月彦はどかりと腹の上に腰を下ろし、その猛るものを乳肉の間に挟み込む。
 両手で肉を寄せる―――と、先端と竿の一部以外ほとんど、白い乳房に埋もれてしまう。
「はぁぁあぁぁぁっっ……!」
 熱い息を吐きながら、ずっ…ずっ…と腰を前後させ始める。
 剛直が纏っていた液体を潤滑油となり、極上の乳肉の感触に月彦は酔いしれ、乳房を寄せる手の力を強め、腰の動きも早める。
「やっ……凄く…熱…い……っ……」
 自分の胸元を行き来する赤黒い塊。
 その塊が放つ熱に真狐はうっとりと瞳を潤ませ、自然とその動きに舌を合わせていった。
「はぁっ……ぁっ…ふぅっ…ふぅっ………!」
 月彦の息が徐々に乱れ、腰の動きがますます早くなる。
 にゅりっ、にゅっ…―――剛直の動きに、柔らかいプリンのような乳房が震え、突起が揺れる。
 月彦の動きは唐突に止まった。
 その先端を丁度谷間の一番深いところで止め、一際強く、両手で乳房を圧迫する。
「んっ…ぁっ……!」
 ゾクリと、真狐の背筋が冷えた。
 乳肉の合間で、びゅくびゅくと爆ぜる精液の感触。
 勢いよく打ち出されるそれは柔らかい肉を容易に押し広げ、びゅっ…と谷間から吹き出、真狐の左頬の辺りを微かに汚した。
「はぁっ…はぁっ……」
 肩で息をしながら、ようやくに月彦が手を離す―――と、一気に谷間から、どろりとした精液が漏れ、広がった。
「…これ…で…気が…済んだ?」
 恐る恐る、真狐は聞いた。
 が、月彦から返ってきた答えは―――
「…俯せになって、尻を…上げろ」
「ぇっ……」
 聞き違い―――かと、思った。
 だが、月彦は急かすように尻尾を掴み、引く。
「早くっ」
「そん…な、まだ…する、の…?」
 真狐の声には怯えが混じっていた。
 それでも、恐る恐る、月彦に言われたように、俯せになり、四つん這いになる。
「まだ…おさまらないんだよッ…!」
 両手で、尻肉を掴み、今度は秘裂の方へと先端を埋め、一気に―――
「ひっあっ、くっ……ぁぁっあぁぁあっああぁっ…!」
 突き挿れるっ。
「それに…そっちだって…後ろから挿れられた方が『犯されてる』って実感が…湧くだろ?」
「ぁっいああっ…そんなっ、実感…要らなッッ…やっ…ふっっ………んッ!!」
 剛直を根本まで埋め、さらに体重をかけ、覆い被さる。
 手を、腰のくびれから、乳房へ。
 張りのあるたわみ方をしたそれの先端はさきほど月彦が出したもので白く濡れ、時折雫を垂らしていた。
「こうなると…狐っていうより殆ど牛だな…」
 両手で、絞るように握りしめる。
「ひっ…うっっ…ぁっ…やっ…ぁぁっ…はぁぁぁあっぁあンッああっ…もう…もう、らめっ…許…し…て………堪忍してっ…ェ……ッ!」
 敏感な乳房をぎゅうと捏ねられ、奥深く差し込まれた剛直をキュウキュウ締め付けながら、真狐は泣きそうな声を上げた。
 それでも、月彦の手の動きは緩まない。
「堪忍? 真狐様ともあろうお方がただの人間の男に”お願い”か?」
 口づけをするように唇を狐耳に寄せながら、態と貶めるような言葉で月彦は囁きかける。
 さすがにこれには、真狐は下唇を噛み、閉口した。
「そうだ、それでいい…その方が、こっちも犯り甲斐がある」
 月彦は大きく腰を引き―――
「ひっっぐっ……!」
 パァン!と、音が鳴るほど強く、腰を打ち付ける。
 続けて、何度も、尻を打ち、子宮口を突くようにピストン運動を始める。
「はぁぁああっふぁっ…ぁっくひっぃ…ぃいっっ…!! っっっくっふ…!」
 かたや、真狐は上半身をぐったりとベッドに伏せ、尻だけを持ち上げた状態で月彦にいいように突かれ続ける。
 それでも、時折強く膣奥を抉られた時などは背を反らせ体を仰け反らせ、声を荒げて、剛直を締め付けながら絶頂に達した。
「ふぅっぁはぁっ…ぁっひっ…らめっ…も…らめっぇ…イキ…過ぎて…おかしく、なりそ……はぁぁっぅっ……ひんっ…!?」
 蕩けるような声を出して、くたぁと脱力しきっていた所へいきなりの刺激だった。
 思わず、真狐は体を起こして、振り向いた。
「…そういや真央は、後ろから突かれながら、尻尾を弄られるのが好きだったな」
 月彦は意地悪な笑みを浮かべながら、真央のそれよりも幾分大きなその尻尾を掴み、ゆっくりと扱き始める。
「やっ、やんぅうっ…尻尾…っ…なんて……ひっっ……」
「ダメ…じゃないだろ? 今、尻尾触ったとき…ギュって凄い締まったもんな」
 真央と一緒だ―――そう思いながら、マッサージをするように、やんわりと尻尾を揉む。
 かと思えば強く、手淫をする時のような仕草で強き扱きあげる。
「ひゃぁぁあっああっッ! やっんッ…イクッ…尻尾……イッちゃうゥッッッッ…!!」
 びびっ、びっ…!
 尻尾を勃起させたまま、びくびくと痙攣するように膣内が強烈に締まる。
「へぇ…ずいぶん可愛い声出すじゃないか。…ご褒美―――だッ…!」
 締まるそこを強引に押し広げ、ごちゅっ…と奥までしっかり密着させる。
 そして―――
「ひっっぃっっ…あっ…出て、るぅっ………」
 びゅぐっ…びゅぐっ…!
 もはや幾度目かも数えられない、膣を汚す液体の感触。
 そして、まるでその精液を飲み干そうと蠢いているような、膣壁のうねり。
 尻尾が何度かぴくぴくと起ち、そのまま気絶でもしたのか、くたぁ…と力を失った。
「ふぅうっっ……うっ……!」
 肺の中に溜まった淀んだ空気をはき出しながら、月彦は脱力した。
 最後の一射で力の全てをはきだしてしまったかのように、漲っていた力が潮が引くような鮮やかさで消え失せていく。
「…さす、がに、…疲れた…な………」
 息も絶え絶えに、そのまま後ろに倒れ込んだ。
 背中がベッドに沈む。
 突き動かす衝動が漸く収まった―――かと思えば、今度は抗いがたいほどの眠気が襲いかかってくる。
 指一本動かすのも億劫な、その気怠さ。
 見れば、カーテンの隙間から既に光が差し込むような時間帯だった。
 気絶するように、月彦は瞬く間に眠りの縁へと落ち込んでいった。

 月彦が再び目を覚ましたのは昼前だった。
 疲れと眠気が癒えたからではなかった、喉がヒリヒリと焼けるほどの渇きと、恐竜かなにかの唸り声かと聞き紛うほどの腹の音によって強制的に起こされたのだ。
「う……あ………」
 上体を起こす―――と、頭痛と耳鳴り、あと眩暈もした。
 おまけに体中が、ベッドシーツがやたらとべとべとになっている。
 まさに最悪の寝覚めった。
「…あたまが…ぐわんぐわん言ってる……」
 月彦はのそのそとベッドから体を起こし、とりあえず下着だけは身につけた。
 と、その時、ベッドの上で寝ている―――裸の上にタオルケットが掛けられた―――真央の姿が目に入った。
「あれ…そういえば、あいつは―――……」
 気になって、部屋中を見回してみるが、真狐の姿は何処にもなかった。
「追い返せた…のか?」
 月彦は必死に記憶を辿った―――が、どうにも昨夜の記憶は曖昧で、断片的にしか思い出せなかった。
 ハッキリと思い出せたのは、真央を抱えて逃げようとして、失敗して、押し倒されて…そして唇を奪われ、その後胸を触った辺りまでだった。
(…あのあと、どうなったんだ…?)
 記憶が曖昧だった。
 ぼんやりと、体に残る手応えで”抱いた”ということは分かった、が具体的に何をしたのか、どんなことをされたのかが思い出せなかった。
(まぁ…いいや…)
 頭痛がして、深く考えるのも億劫だった。
 のそのそと部屋を出ようとして、はたと振り返った。
(ひょっとしてアイツ…そんなに悪い奴じゃないのかもな)
 月彦がそう思ったのは、真央がちゃんとベッドの上で寝ていて、月彦はかけた覚えのないタオルケットがかかっていたからだ。
 

 リビングに降りて、まず冷えた麦茶を1リットルほど一気に飲み干した。
 続いて食パンをそのまま5切れほど囓って漸く喉の渇きと空腹は落ち着いた。
「…さて……」
 着替えを盛って、月彦は恐る恐る脱衣所へと入った。
 鏡の前に立つのが怖かったからだ。
 前に真央にクスリを盛られたときは見るも無惨にげっそりと痩せこけていた、今度は―――どうだろう…?
「…なんだこりゃ!」
 目を瞑って鏡の前に立ち…そして、恐る恐る開く―――と同時に月彦は声を上げていた。
「お…ぼ……え…………て………ろ………?」
 月彦は眉を寄せながら、自分の顔面に張り付いている、汚い書体のひらがなを順番に読み上げた。
「……憶えてろって言われてもなぁ」
 既に記憶にないんだが―――と思いつつ、月彦は顔を洗った。
 幸い、水性ペンで―――もしくは、水で消えるなんらかの液体で―――書かれていたようで、すぐに文字自体はおとすことができた。
 顔も、覚悟していたほどは痩せこけていなかった。
 安堵のため息をついて、月彦は下着を脱ぎ、風呂場へと入り、すこし熱めのシャワーを浴びた。
 
 風呂から出て、月彦は何の気なしにリビングのTVのスイッチを入れた。
 チャンネルをいくつか回してみて、殆どの局が『一夜にして消えた謎の巨大遊園地』のことを報道しているのを見て、再びスイッチを切った。
「ふぁ……もっかい寝よ…」
 月彦は、大きくあくびをして、ゆっくりと階段を上がった。






エピローグ:『きつねのおやこどんぶり』へ続く..

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