<前編>

「フォクシーランド?」
 葛葉からその怪しい単語を耳にしたとき、月彦は思わず耳を疑った。
 夕食後、葛葉から呼ばれ、リビングの椅子に腰をおろした矢先だった。
「隣町に出来た新しい遊園地よ」
 と、葛葉は洗ったばかりの皿を拭き、丁寧に棚に仕舞いながら補足をする。
「明日開園らしいの、真央ちゃん連れて行ってきたら?」
「…遊園地ねぇ」
 テーブルの上のチラシを見て、月彦は露骨に嫌そうな顔をした。
 理由はいくつかある。
 まず、月彦はこういったレジャーランドの類が大嫌いだった。
 人混み、雑踏の類が特に嫌いなのだ。
 その上開園当日ともなればその人入りはますますもって悲惨なものになるであろうことは容易に想像がつく。
 そして何かとアトラクションに乗るのに金がかかったり、待たされたりとロクな思いをしないのだ。
 月彦は最後に行った遊園地のことを思い出した。
 あの時はGWに家族ぐるみで行き、そしてジェットコースター一つ乗るのに3時間も待たされたのだ。
「私も霧亜も明日は用事があるから一緒に行ってあげられないの」
 葛葉は微笑を浮かべながらまた皿を一枚棚に仕舞い、
「真央ちゃん、遊園地なんて行ったことないんでしょ? 開園初日なら、そのチラシを持っていったら半額らしいし、連れて行ってあげたら?」
 夏休みくらい、父親らしいことしたら?―――と、葛葉は付け足した。
「…まぁ、真央が行きたいっていうんなら、いいけどさ」
 月彦の視線は、テーブルの上のチラシへと向けられていた。
 チラシには大きくキツネを模したマスコット達がプリントされていて、開園時間、料金表などが細かに書かれていた。
(……なんか、変な感じだな)
 それはチラシを初めて見たときから感じる違和感だった。
 だが、一体何が変なのかは分からない、そんなもどかしさ。
(ま、いいか…気のせいだろう)
 月彦は安穏と結論づけた。

 真央が風呂から上がるなり、月彦は件の遊園地の話を早速聞かせた。
「行きたいっ!」
 というのが、真央の第一声だった。
 まだ月彦が言葉の全てを喋り終わる前に、目を輝かせてちぎれんばかりに尻尾を振り回して身を乗り出して、
「父さまっ、大好きっっ!!」
 と、月彦に抱きついてはキスの嵐。
「ちょっ、ま、待てって、真央っっ! まだ、話がっっっ…!」
 月彦が喋るのも構わず、真央はキスを止めない。
 このまま食われてしまうんじゃないかというくらい激しく接吻&顔を舐められた後、漸く少し落ち着いたのか、
「なぁに、父さま?」
 息を荒げながら、今度は頬ずりモードに移行した。
「…んと、な…。真央、夢を壊すみたいで悪いんだが…」
「うん」
「遊園地っていう所は真央が思ってるほど楽しい所じゃあないんだ。人も多い、食い物は高い、何か乗り物に乗ろうとすれば軽く3時間は待たされる」
「うん」
「その上開園当日ともなれば、さらにその倍は混むんだ、たった何分かしか楽しめないアトラクションの為に暑い中何時間も人混みの中でいや〜な思いをしなきゃいけないんだ。それでも行きたいか?」
「うんっ、行きたいっ!」
 神妙な顔の月彦とは対称に、真央はネズミでも弄ぶ猫のように嬉々として一転の曇りもない笑顔を絶やさない。
 嬉しくてたまらないというのが、空気を通して月彦にもビンビンに感じ取れるほどだ。
(…こりゃ、説得は無理だな)
 と、月彦が観念するのにさほどの時間はかからなかった。

















 翌朝、月彦も真央も少し早めに起きて朝食をとり、すぐに準備に取りかかった。
 とはいっても、月彦はといえば普段外出するときのように履き古したジーンズとTシャツに着替えればそれで準備は完了する。
 一足先に玄関で待つ―――が、問題は真央の方だ。
 ここに来て、月彦には、
(…真央は、どんな格好で行くつもりなんだ?)
 そんな懸念が出てきた。
 真央と共に暮らし始めて数ヶ月、振り返ってみれば真央と共に外に出かけるのはこれが初めてなのだ。
 霧亜や葛葉に至っては何度か一緒に買い物に行ったりしているらしいが―――。
(…そうか、真央と出かけるのは初めてなんだ…)
 月彦の脳裏にふと、昨夜の真央の嬉しそうな顔がフラッシュバックしてくる。
 ひょっとしたら真央は遊園地に行くことが嬉しいのではなく、父親である自分に連れて行ってもらえるというのが嬉しかったんじゃないだろうか?
「……………………。」
 ―――ふつと、罪悪感、が湧く。
 今更悔いても始まらない、とにかく、今日という日を出来うる限り真央に楽しんでもらうのが一番だと、月彦は思った。
「父さまっ、おまたせっ」
 と、背後で声がして、月彦は振り返った。
「ん、着替え、終わっ―――……………真央?」
 そして、眉を寄せた。
「行こっ、父さま」
 そう言って真央は月彦の腕を絡め取り、ぐいぐいと玄関へ引っ張っていこうとする。
「ちょっちょっ…真央っ、待て! なんだその格好はっっ!」
「えっ…変………かな?」
 真央は立ち止まり、不安げに月彦を見上げた。
「いや、変じゃない。変じゃあないんだが………………」
 真央の上目遣いに月彦は思わず赤面して目をそらす。
「一体何処でそんな格好憶えたんだ…」
 月彦は疲れたように呟く。
 真央の格好は、フリフリのついた白いエプロンの下に、赤いドレスのようなワンピース。
 さらには頭にもフリフリのついたカチューシャ、白いエルボー・ガントレットのグローブに白のガードル。
 どこからどう見ても、それはメイド服にしか見えない。
「えと、前にその…姉さまが………」
 と、困った顔を浮かべるキツネ耳のメイド嬢。
 突然の属性攻撃に月彦は思わずうぐっ、と唸ってしまう。
「と、とにかく…だ。その服はやめて、普通の服に着替えてくるんだ。前に母さんに買ってもらった服があるだろ? あれでいいから…」
「…父さまは、この服、嫌い?」
「き、きききき嫌いじゃあない! だけどな、そういう服で外を歩いているとだ、目立つっつーかなんつーか…と、とにかーく!」
 上目遣いでにじり寄る真央から逃げ回り、壁に張り付きながら、月彦は声を荒げる。
 息も絶え絶えに2階を指さし、
「早く着替えてこい!!」
「…う、うん…。父さまが…そう言うなら……」
 月彦の突然の大声に思わず耳を伏せながら、真央は渋々了承すると2階へと戻っていった。
「……はぁぁぁ…」
 真央が去った後、月彦はぐったりとその場に腰を下ろした。
「……似合いすぎだっつーの」
 当然その呟きは、真央には聞こえることはなかった。



 家を出て、駅までは徒歩15分。
 さらに電車に乗ること約15分、3つ目の駅で降り、さらに20分ほど歩いた先に目的の遊園地、『フォクシー・ランド』はあった。
 チラシに書かれている地図を頼りに行けば何とかなるだろう―――と、月彦は安直に考えていたのだが、その必要すら無かった。
 なぜなら、まず駅で電車が止まった際にほとんど全員と言ってもいいほどの人数がその駅で降り、皆が『フォクシー・ランド』目指して歩き始めたからだ。
(こりゃあ混みそうだな…)
 駅から出るなり、早々に月彦はその人の多さにうんざりした。
 尤も、隣の真央などは、
「父さま、ほらっ、おっきな風船っ!」
 おそらく遊園地から登っているのであろう巨大なキツネを模したアドバルーンを指さしてきゃあきゃあと黄色い声を上げている。
 ちなみに、メイド服を断念した真央は月彦に言われたとおり、葛葉に買ってもらった服に着替えてきていた。
 髪には赤いリボン、肩が空いた白いシャツに濃紺のスカート。
 黒のニーソックスとレザーブーツに、アクセサリとして見ればあまりにも似合いすぎている赤い首輪。
 つまるところ、こういう格好なわけだ。
 耳と尻尾は当然隠している。
 真央が言うには、普段から尻尾と耳は隠せないことは無いが、しかし集中力を維持するのがなかなか大変なのだそうだ。
 特に尻尾などはふと気を抜いただけで露呈してしまうらしく、昔話などで間抜けなキツネやタヌキなどが真っ先に尻尾を見せてしまうというのはこのことに起因しているらしい。
 だから出しっぱなしにするに越したことはないのだが、さすがにこのような公衆の面前では慎まねばならないというのは、真央も十分承知しているようだ。


 入場チケットと、一日フリーパス券を二人分購入したらそれだけで葛葉にもらった小遣いの半分が吹き飛んでしまった。
 尤も、入場チケットに関しては開園当日に限りチラシ持参の方のみ半額とのことだったから、まだこれでも安くなった方ではあるのだが。
 入場ゲート前の混雑はさすがに殺人的で、これにはさすがの真央も少し嫌な顔をしていた。
 月彦達が来た時間帯が既に開園時間である10時を1時間も過ぎていたのだが、それでも通勤ラッシュのような混雑は変わらなかった。
 入園するまでにかかった時間約30分、しかし一端入園してしまえばそこには混雑という言葉とは無縁の空間が広がっていた。
「へぇ…」
 思わず、感嘆の声が漏れる。
 入場ゲートから入った客がことごとく亜空間にでも飛ばされてるのではないかと思いたくなるほど、月彦の視界には人がまばらだった。
 どういうことかな―――と思った時、眼前にある『フォクシー・ランド案内図』なる地図を見た時にその疑問が一気に氷塊した。
 まず、地図そのものがあり得ないくらい巨大だった、上の方を見るときなどは少し距離を置かないと首が痛くなるほどだ。
 しかも、地図の倍率を見る限り、これでもだいぶ無理をした大きさだとうことが分かる。
 つまり、フォクシーランドという場所は、途方もないくらいだだっ広いのだ。
 そういえばチラシに『東京ディニーズランドの50倍の敷地面積!』という文句が書かれていたのを月彦は思い出した。
 よくあるブラフだろうと月彦は鼻で笑ったのだが、案外本当かも知れない。
「父さまっ、父さまっ!」
 くいくいとシャツの袖を真央が引く。
「ん…ああ、これか…。本当につけてる奴いるのか…?」
 真央が差し出した”フリーパス”を見て、月彦は露骨に恥ずかしそうな顔をした。
 さすがに新進のレジャー施設だけに、いろいろと趣向に凝っているのだろうか。
 『フォクシー・ランド』のフリーパスはキツネ耳型のヘアバンドだった。
「父さま、ほらっ、みんなつけてるよ」
 月彦がちらりと周囲に視線を走らせると、家族連れやカップルなどがことごとくキツネ耳を頭に載せていた。
 僅かなへそ曲がりと、月彦達を除く殆どの客が頭にキツネ耳を載せてぞろぞろと歩き回る様は、それだけでキツネの楽園という感じだ。
 しぶしぶ、月彦もキツネ耳型ヘアバンドを頭に乗せた―――変な気分だった。
「えへへ、父さま…お揃いだね」
 見ると、真央が本物のキツネ耳をぱたぱたさせていた。
 月彦はギョッとして隠そうとするも、しかし周囲の誰も真央のことは気にもとめていない様子だった。
「…真央、耳はいいけど、尻尾はだめだぞ?」
 ほっとため息をつきながら、月彦は諭す。
 この場所なら、ひょっとすると尻尾を出しても誰も不思議に思わないかもしれないが、しかし真央の服装上、尻尾を出せばスカートがめくれることは必定だ。
「大丈夫、耳だけでも結構楽だから、尻尾は我慢できるよ」
「それならいんだが……真央、どれか乗りたいのはあるか?」
 真央はここでこうして喋っている時間ももったいないとばかりにソワソワと落ち着きがない。
 視線を左右に走らせ、見上げ、そして―――
「父さま、あれに乗りたいっ」
 真っ先に指さしたのはジェットコースターだった。




 『フォクシー・ランド』でもっとも大がかりなジェットコースター、『ジェット・フォックス』は最高時速200キロと高さ110メートルを超える落差が売りの凄まじいコースターだ。
 特にキツネの尻尾を模した9蓮ループなどは親の敵のような凄まじいGの応酬が繰り広げられるのだ。
 初め、月彦は真央と共に乗った。
 が、一発で酔った。
 降りるなり真っ青な顔でふらふらと側のベンチへと腰を下ろし、後は一言も発さなかった。
 少しでも口を開けば、朝食べたものを何もかもぶちまけてしまいそうだったからだ。
 それは他の客の多くも同じで、皆が皆この対G訓練機とも三半規管訓練機とも陰口をたたかれそうなジェットコースターから一歩でも遠ざかろうと足を引きずっていた。
 だが中には物好きというか、生粋のコースター好きというのはいるもので、乗った客の2割ほどはリピーターとして再び順番待ちに加わっていた。
 そして真央もその一人だった。
 月彦が正常な気分を取り戻すまでの間、真央は繰り返し5度もコースターに乗り、その都度最前列できゃあきゃあと声を上げていたのだ。
 ちなみに、『フォクシー・ランド』一番の目玉ともいえるジェットコースターのわりには少ない順番待ちで何度も乗れるのには理由があった。
 それは、月彦と真央が乗ったジェットコースターが『ジェット・フォックス』5号機と呼ばれるもので、他に全く同じ仕組みのジェットコースターが園内各所に9機も配置されているらしいのだ。
 どうやら遊園地のオーナーの『客を出来るだけ待たせない』というコンセプトに則った企画らしい。
 こういったことができるのも某遊園地の50倍の敷地面積とやらのお陰なのであろうが、いやはや、それにしてもよくやるものだと月彦は思う。
(世の中には、金持ちがいるもんだ…)
 そう思った刹那だった。
 ふいに、昨晩感じた謎の違和感がふいに月彦の頭をかすめた。
「なっ…」
 思わず、声が漏れた。
 それは一瞬、ほんの一瞬のことだった。
 瞬きほどの間、視界がぐにゃりと揺れたかと思うと辺り一面森の中。
 そして月彦の目の前で、地面に横たわる、一本の倒れた古木に跨って、きゃあきゃあと悲鳴を上げる客達。
 一端目を瞑り、首を軽く振って再び目を開ける―――と、確かにそこには『ジェット・フォックス』の発射台が在った。
(…今のは、何だ…?)
 無意識のうちに、月彦は自分が座っているベンチの感触を確かめていた。
 それは確かに、日差しの熱を微かに蓄えたプラスチックの感触だった。

















 いくつかのアトラクションを回った後、月彦と真央は小休憩もかねて園内のカフェテリアで昼食を取ることにした。
 さすがにキツネの楽園のような遊園地がコンセプトであるだけに、いなり寿司に始まるきつねうどん、きつねそば等々の料理は充実していて、しかも納得の安さと量は他の遊園地にも見習わせたいものがあった。
 月彦はあまり食欲が無かったからきつねうどんだけを、真央はきつねうどんといなり寿司二皿、さらにチョコレートパフェを注文した。
「父さま、どうしたの?」
 余程浮かない顔をしていたのだろう。
 うどんを半分ほど食べたまま手の止まっている月彦の顔を、真央が心配そうに覗き込んできた。
「いや、何でもない。それより真央、楽しんでるか?」
「うんっ。凄く楽しいよっ、……でも、父さまが……」
「いや、俺は最初のジェットコースターで酔っただけさ、すぐに良くなる」
 確かに、コースター酔いの影響もあったが、大部分は違った。
 先刻、一瞬だけ視界を横切った”あの光景”が頭から離れなかったのだ。
(『フォクシー・ランド』か…まさか、な)
 店内はしっかりと空調が効いていたが、それでも嫌な汗が服の下に滲む。
 酔って、幻覚を見ただけだ、と何度も自分を言い聞かせたかった。
 それでも、釈然としない。
 あの後、何度もこの眼前の光景が全て稚拙な作り物のように見えることがあるのだ。
 勿論それは一瞬で、瞬きをすればすぐにしっかりと建設されたそれとなるのだが。
「なあ、真央…一つ、聞いてもいいか?」
「うん、なぁに? 父さま」
 真央が、チョコレートパフェを突くスプーンを僅かに緩める。
「例えば、狐が…妖狐が数万人、数十万人の人間を同時に化かすことって、可能か?」
「数十万人を一度に…?…うーん…無理、なんじゃないかな」
 さらに、真央は少し考えた後、
「ひょっとしたら、ツクヨミ様ならできるかもしれないけど」
 と付け加えた。
「ツクヨミ様?」
「うん、今、妖狐の中で一番偉い人…あっ、人っていうのも変かな…尻尾が5本もあって、金毛白面九尾の狐の唯一の子孫って言われてるんだよ」
「九尾の狐…か」
 月彦もその名前は聞いたことがあった。
 といっても、古の大妖怪で傾国の美女だということくらいしか知らないのだが。
 真央が言うには、その”ツクヨミ様”とやらが真央が知る限りでは最も力のある現代最強の妖狐らしい。
 ただ、何百年も前から消息不明になってるような妖狐も沢山いて、それらの妖狐ならあるいは”ツクヨミ様”以上の力を持っているかも知れない、とのことだ。
「みんなね、六本狐くらいになると、隠居しちゃうの」
 少し可笑しそうに、真央はそんなことを言った。
 六本狐というのは、尻尾の6本ある狐のことで、当然、5本の狐よりは数段力が強いらしい。
 が、ただ安穏と暮らしていても尻尾の数が増えるわけもなく、5本から6本になるにはそれこそ気が遠くなるほどの修行と月の光が必要なのだそうだ。
 そして気の遠くなる時間を修行に費やしたが故に、諸事に疎くなったり、はたまたより修行に没頭するために他の妖狐から離れて山奥に一人移住したりで、結果的に行方不明になってしまう確率が一番高いのが5本から6本の頃らしい。
「でも、余程のことがない限りツクヨミ様も他の大妖狐様達もそんなに大勢の人を化かしたりしないと思うけど……父さま、どうしてそんなこと聞くの?」
「ん、いや…ちょっと気になっただけだ」
 真央を安心させるためにも、月彦は笑顔を浮かべる。
 そうなのだ、よくよく考えれば、同じ妖狐の真央が今ここに居るのだ。
 もしこれが、この遊園地そのものが巨大な”化かし”であったとしても、真央ならそれに気づくのではないか。
(そうだ。余計なコトを考えるのはやめよう)
 今日はとにかく、真央を楽しませることに専念しよう―――月彦はそう決めた。



 昼食を終えた後はパンフレットに従って目玉アトラクションを順番に見て回った。
 地上150メートルから一気に下るフリーフォールに始まり、ジャンボ・バイキング、水上だけでなく水中も走るウォーターコースター、特大スクリーンに映し出される映像に合わせて上下左右に傾き、揺れる3Dシアター等々。
 さらにはレトロなコーヒーカップ、ゴーカート、メリーゴーランドに至るまで貪欲に、月彦はつき合わされた。
 乗って、降りて、息をつく間もなく腕を引かれ、次のアトラクションの順番待ちへと参加する。
 日が傾き、漸く退園する人もまばらに出てきた辺りで、漸く真央にも多少疲れが見え、
「父さま、最後にあれに乗ろっ」
 と指さしたのが、これまた巨大な観覧車だった。
「…わかった、これが最後な…」
 既にくたくたに疲れていた月彦はゆっくりとベンチから体を起こして真央と共に観覧車へと乗り込んだ。
 観覧車のゴンドラはキツネの頭の形をしていて、丁度乗り込み口がキツネの口の部分になっていた。
 中はよくある観覧車のそれと同じように左右にビニールのシートがあって、周りには辺りが一望できるようにガラスが張られていた。
(少しだけ…遊園地に子供を連れてくる父親の気持ちが分かった気がする…)
 ゆっくりと高度を上げていく観覧車のシートに腰を沈めながら、月彦はそんなことを思った。
 尤も、月彦とて確かに真央の父親であるのだが、しかし見た目にはどう見ても父娘には見えず、いいとこ兄妹といったところであろう。
「ほらほらっ、とーさまっ、綺麗な夕日だよ」
 真央は月彦の対面の席に膝を立て、窓の外を指さし足をばたつかせて声を上げる。
 月彦も視線を真央の指の先へと向ける―――山々の間にゆっくりと、扇形の夕日が埋没しようとしていた。
 紅い光が観覧車の中に差すように届き、何もかもをオレンジ色に染め上げていく。
「いい夕日だな」
 月彦は僅かに目を細めながら、一日の疲れが光の中に溶けていくような錯覚を感じた。
「なあ、真央。今日は楽しかったか?」
「うんっ! すっっっっっごく楽しかったっ」
 ぴょんと、ウサギのように月彦の隣に飛び移って、肩を合わせてくる。
 月彦はそっと頭を撫でて、
「そうか、また来たいか?」
「うんっ!」
 この満面の笑みを見れただけでも、一日くたくたに疲れた甲斐はある―――と月彦は思う。
「父さまっ」
「うん?」
 隣に座った真央がなにやらもぞもぞと、月彦の手をまさぐる。
 月彦にはすぐに、真央がどうしたいのか分かった。
 望みの通り、真央の肩に手を回して、ぐっと抱き寄せる。
「えへへ〜っ」
 首をかくんと、月彦の肩にもたれさせて真央は目を瞑った。
 キツネの父娘を乗せたゴンドラはゆっくりと登り、そして頂上を過ぎ、再びゆっくりと下っていく。
「ん…?」
 丁度、時計の2時の場所を過ぎた辺りだった。
 唐突に室内灯が消えて、ゴンドラががくんと動きを止めた。
「なんだ…?」
「…父さま?」
 既に、夕日はその上辺の僅かを残すのみで、辺りは暗い。
 その上室内灯まで消えれば、ゴンドラ内は僅かな月明かりを頼るしかない。
「停電…か?」
 月彦は窓から眼下を見下ろした。
 他のアトラクションは赤々と電灯を点灯させているから、恐らくは観覧車だけの電気系統のトラブルなのではないか、と推測する。
「大丈夫だ、真央。すぐに復旧するさ―――」
 不安そうな真央の肩を抱こうとして、月彦はぎくりと腕を強ばらせた。
 すきま風だろうか。
 微かに動いた空気が、愛娘のいい匂いを月彦の鼻まで運んだのだ。
「父さま…どうしたの?」
 父親のぎこちない腕の動きに、真央は不思議そうに首を傾げる。
「や…なんでも、ない……」
 ヤバイ―――と月彦は思った。
 一端気になり出すと止まらなかった。
 否、今となっては何故今まで気にもとめずにいられたのかのほうが不思議だった。
 密着した部位から具に伝わってくる体温。
 大きく空いた首周り、僅かに見える、その谷間。
 短めのスカートから伸びている、白い、思わずむしゃぶりつきたくなるような白い太股。
 ほんの数分前まで愛しくてたまらなかった愛娘が一瞬のうちに男心を惑わす淫魔かなにかにとって変わられたんじゃないかと疑いたくなるくらい、隣に座っている狐娘は妖しい魅力を携えていた。
「父さま…?」
 吐息が、頬にかかる。
 しっとりと湿った、息が。
「…真央…っ…」
「あっ…」
 肩に回した手で、ぐいと真央を抱き寄せる。
 真央は抵抗はしなかった、引き寄せられるままに、月彦に体を預ける。
 ふわりと、また良い匂いがした。
 かぐわしい、牝の香りが。
「…ぁっ……」
 真央が、微かに呻く。
 肩に回されていた月彦の手が、ゆっくりと下がり、脇腹を通って、スカートの上からまだ肉付きが未熟な尻を撫でる。
「やっ…と…さまぁ…」
 震えた声を出しながら、真央が僅かに身を引こうとする―――を、月彦は逃がさない。
 逆に、反対側の壁に真央を押しつけるようにして、体を密着させる。
 乱暴な動きに、がくんとゴンドラが、僅かに揺れた。
「真央っ…」
 月彦はもう、父親のそれではなくなっていた。
 娘に―――真央に欲情した一匹の牡。
 呼吸をする都度、愛娘の美味そうな匂いが鼻腔を突く。
 牡を欲情させる毒気たっぷりのそれを肺一杯に吸い込みながら、月彦は右手で真央の胸元をまさぐり始めた。
「やぁ…んっ…」
 下着とシャツ越しにしっかりとした弾力を伝えるそれは今なお成長中のものだ。
 揉む、というよりは撫でるという方が適切な手の動きで、月彦は露出した肩口から首、胸までをまんべんなく触る。
「はっ…ぅ…」
 服越しに、ブラの頭頂部の辺りを擦ると、真央は微かに体を仰け反らせて悶えた。
「ぁっ…ぁっ、……と…さま……そ、こ……やっっ……ぁ…」
 丹念に何度も、真央が良く反応する部位を撫でる。
 震える唇から、桃色の吐息に混じって聞こえる、押し殺された嬌声。
 僅かに唾液に濡れたその柔肉を月彦のギラついた目が捕らえ―――
「―――んっ!」
 強引に唇を奪った。
「んっ…んふっ…んくっ…んっ…ンッ……!」
 唇と唇の隙間から、ケダモノの吐息が漏れる。
 ちゅくっ、ちゅくと唾液を啜りあいながら、舌を絡め合いながら、月彦は右手で真央の腹を、スカートを、そして白い足に触れた。
 まずは膝小僧。
 指先で軽く撫で回すようにして、臑、柔らかい脹ら脛を揉む。
 焦らすような、酷くゆっくりとした動きで、太股へ…。
「んんんっ…ぷはっ……あはぁぁっ…はーっ…はーっ…………」
 漸く唇を解放されて、真央は荒く息をつく。
 が、その間もなく、頬にちゅっ…と吸い付かれる。
 そして―――
「ふぁぁぁぁぁっっっ…!」
 狐耳の、敏感な内側を這い回る感触。
 ぞぞぞぞぞっっ!―――背筋を駆け上がってくる快感に思わずのけぞり、真央は月彦の肩に爪を立てた。
 反射的に、何かを我慢するようにぎゅっと太股が閉じられた。
「真央、」
 囁き声と共に、耳の内側を舐めていた舌の動きが止まる。
 同時に、太股をいやらしくまさぐる手。
「…足を開くんだ」
「っ…あッ…!」
 急かすように軽く、月彦が真央の耳を噛む。
「……っ……」
 震える、白い足がゆっくりと開かれた。
 濃紺のスカートが僅かにめくれているが、月彦の視点からはショーツまでは見えない。 
 ―――それが、余計に月彦を駆り立てた。
「…いい子だ」
 左手で真央の髪を撫でながら、囁き、さらに狐耳を舌で丹念に愛撫する。
 右手は開かれた太股の内側を、肌のきめ細かさ、弾力を確かめるように触れ、撫で回す。
「っっ…!…ぅ…と、う…さまぁっ……そんっ…な、…こんな、所…で、…」
 キュッと、月彦の背中に回った手が、シャツを握りしめる。
 荒い呼吸は耳を舐められるたび、太股をまさぐられるたびに途切れ途切れになり、その都度月彦のシャツを握りしめている手もじっとりと汗に濡れた。
 時折僅かばかり見せる真央の抵抗もまた、月彦にしてみれば余計に興奮を駆り立てる要素の一つだったが、それよりなによりも―――
(この、足だ―――)
 と、月彦は思った。
 普段は特に気にもとめなかったそれが今日に限って無性に興奮を駆り立てるのだ。
 スカートから覗いている白い足、太股、足、太股、太股、ふともも、ふともも、ふとももふとももふとももふとももふともも―――ッ!
「ひゃっ…!」
 真央が驚くような声を上げた時にはもう、月彦はその足の間に首を潜り込ませていた。
「と、父さま…やっっ……くすぐったっっ……あんっっ…!!」
 獣のように、真央の白い足にむしゃぶりつく。
 柔らかい肉に唾液を塗りつけるようにして舐め、甘く噛み、吸い付き、また舐める。
 徐々にそれは、発情期の犬がそうするような仕草で真央の足の付け根の方へ、スカートの中へと潜り込んでいく。
「ぁっ…と、父さま……ぁっ…ふっ…ぅ………」
 月彦の頭にそっと手を添え、時折髪を掻きむしりながら、真央は足の力を抜き、侵入を受け入れる。
 幸いとばかりに、月彦は鼻面をねじ込み、完全にスカートの中にまで頭を潜り込ませた。
 そこは独特の湿気と、むせ返るような牝の香りに満ちた空間だった。
「…ぁっ……そ、そんなっ…とこ………あっっっあ、あンッッ!!」
 鼻先に、湿ったショーツの感触があった。
 真央が髪を掻きむしるのも構わず、鼻面をそこにグリグリと押しつける。
「だめっ…だめっ……父さまっっ……そこっっ…そんなっ……グリグリってしたらっっ……やっやぁぁっ…だ、ダメぇェェェッ…!!!!」
 ぎゅうううっ…!
 両側から、太股に顔が圧迫される。
 呼吸も困難だった―――が、月彦は引けなかった。
 耳に押し当てられた太股から、肉を通して伝わってくる、鼻先の、濡れた薄布の向こうの痙攣。
 ひくひくと蠢く肉壁の狭間で潰れ、ちゅくちゅくと音を立てる愛液の音。
「はっ……ぁっ……!」
 スカートの中、太股の間で苦しげに月彦は息を吐き、顔を上げた。
 既にジーンズを破らんばかりに怒張した剛直を解放しようと、ベルトに手を掛ける。
「ぁ…父さま、待って」
 それを、真央が止める。
「真央にも…させて?」
 軽い絶頂の余韻のためか、しっとりと瞳を濡らしながら、真央は微笑んだ。














 位置がさっきと逆になった。
 月彦がゴンドラの椅子に腰を下ろし、真央が床に膝を突き、ジーンズのベルトに手をかける。
「きゃっ…!」
 と、真央が驚いたのも無理は無かった。
 ベルトを外した途端、グンッ!とまるで強力なバネ仕掛けのように巨大な柱が眼前にそそり立ったのだから。
「凄…い、父さま……いつもより……大きい……?」
 うっとりと、真央は目を細め、息を荒げながら驚嘆の声を漏らす。
 確かに、いつもより大きいかも知れない―――と、月彦は思う。
(…だとしたら、それは真央が、真央の足がやらしいせいだ)
 と、心の中で呟く。
 勿論当の真央はそんなことはつゆ知らず、今日に限って何故月彦があそこまで自分の足に執着したのかはわかってないだろう。
 だから月彦も、あえてそのことは言わない。
 言えば、そのことを真央自身が意識することで逆に魅力が損なわれるような気がしたからだ。
「は…ぁ…父さま…舐める、…ね?」
 巨大な肉塊に熱っぽい吐息をかけながら、真央は静かに口づけをする。
 舐める、とわざわざ宣言する辺りがまたやらしい―――と思うが、口には出さない。
「んっ……」
 僅かに、吐息を漏らしながら、真央が口戯を始める。
 ピンク色の小さな舌をちろちろと動かしながら、竿の浮き出た血管の一本一本を辿っていく。
 時折ちゅっ…とキスをするように吸い付いてきて、そして再び舌を伸ばし、舐める。
「んあっ……んっ……んっ……」
 カリのくびれをなぞるような動き、月彦は僅かに声を出してしまいそうになるのをなんとか堪えた。
(気持ちいいというよりは…くすぐったい…かな?)
 そういう感触が、真央の口戯にはあった。
 気持ちいいことはいいのだが、それは絶頂に達するような類のものではなく、どちらかといえばマッサージとかに近い感覚だった。
「真央…もうちょっと、強く……」
 髪を、耳を撫でながら、月彦は注文をつけた。
「んっ……こんな、感じ? んっ…んはっ…んっちゅばっ…ちゅっ…んぶっんぶふぅっ…!」
 唾液を絡め、さらにめいっぱい口を広げて、亀頭部分を口腔内へと迎え入れた。
 舌で裏筋を擦り、続けて鈴口へ窄めた舌を差し込み、尿道を舐め、吸い上げ、竿を手で擦りながら、唾液ごと口に含んだ肉槍を吸い上ながら顔を上下させる。
「んっ…んっ……んぐっ…ぷふぅっ…んっ…くっ…んんっ…んっ…んぶっ…んっ…!!」
 ゴンドラ内に、くぐもった音が響く。
 月彦もまた、自らの肉茎を擦りあげる粘膜の感触に徐々に息を荒げ始めていた。
「っ……!」
 真央の髪を撫でる。
 舌や、唇から与えられる快感そのものよりも、どちらかといえば賢明に奉仕する真央の姿に、月彦は興奮させられていた。
 真央なりに、月彦が喜ぶようにと同じ動作をあまり繰り返すようなことはせず、思いついたことを片っ端から実行しているようだった。
 そういった”工夫”が月彦には嬉しかった。
「っ………真央っ…このまま…いいか…?」
 両手で真央の頭を掴み、自ら動きを早めながら、月彦は呻くような声を上げた。
「んっ……」
 真央は剛直を銜えたまま、微かに頷く。
 目を瞑り、父親の肉茎の感触を堪能するように唇を窄め、舌を絡み付かせた。
 そのまま、顔を上下させる、何度も、何度も。
「っっ…………くッ………!」
 ぐっ……と真央の頭に添えた手に力が籠もる。

 びゅっ!びゅびゅびゅっ、びゅッ!

 与えられた快感に比例するような、濃厚な牡液が、真央の口腔内で弾けるように飛び出した。
「んんっんゥ!!」
 真央はたまらず、眉を寄せて噎ぶ。
 どくっ、どくっと次から次に溢れてくる精液は喉を火傷しそうなほどに熱く、ねっとりと濃く、そしてむせ返るような生臭さがあった。
 それでも、少しも不快には感じない、それどころか、月彦が達した瞬間、その精液を口で受け止めた瞬間には、真央自身もショーツに自らの蜜を滲ませ、軽く達していたのだ。
 快感の共感ともいえる、それは自分の口戯で月彦が達してくれたという満足感からもきていた。
 その快感の証ともいえる愛しい牡汁を、真央はたっぷりと舌先で味わい、そして飲んだ。
 ゴクリ―――と、喉が鳴る。
 ゴクッ、ゴクッ…と立て続けに喉を鳴らして、惜しむように、小刻みに飲み続けた。
「はぁっ………ぁ………」
 ぐったりと、月彦が息をつく。
 射精直後の、独特の脱力感、シートに身をゆだね、射精が止まってもなお剛直にしゃぶりついて離れない真央の髪を優しく撫でた。
「真央…凄く、気持ちよかった」
「ん………父さま、本当…?」
 とろりと、銀色の糸を引いて、真央がようやく剛直から唇を離した。
「ああ、本当だ」
「良かった…―――きゃっ…」
 真央がほっと息をつく間もなく、その体が月彦に抱え上げられた。
「と、父さま…?」
 驚く真央を尻目に、月彦の左手がするりとスカートの中へと潜り込む。
「今度は…こっち、だろ?」
 震える狐耳に、優しく囁きながら、ショーツを優しく擦りあげる。
 真央はハッと顔を真っ赤に染め上げて、そして―――
「うん、欲しい…」
 静かに頷いた。














 今日の真央から、ショーツを脱がすのは無性にむらむらと月彦の興奮を駆り立てた。
 真央はショーツを片足にかけたまま、月彦の腰に跨るようにしてシートに膝を立てる。
 つんと、真上を向いた剛直の先端が、真央の秘弁の入り口を軽く突く。
「ぁっ……父さまッ、待って…ゆ、ゆっくり……」
 月彦の手が、スカートの下、真央の小振りな尻に添えられ、ゆっくりと腰が沈められる。
 ぐぷぐぷと、蜜を散らしながら小さめの秘裂が巨大な肉塊をくわえ込んでいく。
「ぁっ……ぁっ……ぁっ……だめっ…だめっ…………そんなっ………大き、すぎっっっはぁぁンッ!」
 体に芯でも通されたように背骨をピンと立てながら、真央は嬌声をあげた。
 尻をしっかりと捕まれ、いつになく膨れあがった父親のそれを根本までねじ込まれ、ろくに身動きもできない。
「はっぁぁっ……だめっ…こんな、の……裂け、ちゃうっっ……!」
 開きっぱなしの唇から、震えた声で真央は悲鳴を上げる。
「裂ける…? じゃあ…やめるか?」
 快感のためか、ぶるぶると身震いする真央の体をぎゅっと抱きしめ、その狐耳にそっと囁きかける。
「やっ…やめたく、ない…けど、でもっ…でもっ……こんなのっ……ぁっ、やぁんっ!!!」
 問答無用、とばかりに、真央の体を揺さぶる。
 苦痛か、快感か、足を、背中に回した手で月彦のシャツを痛いほどに掻きむしる。
「っ……相変わらず、締まる…な、真央の膣内は…っ!」
「それっ…はっ、と、…さまの…が、いつもより、…大きい、からっっ…!」
「暗いからそう見えるだけだろ、真央の…気のせいじゃないのか?」
 月彦は含み笑いを漏らしながら、さらに強く、真央の体を揺さぶる。
「ひぃっっ! ち、違うっ…ぜったい違うっっ!! ほんとに…おっきっっ……ぃんンッ!」
 剛直の先端が膣奥を小突くたびに、真央は戦慄き、その都度ギュウと剛直を締め上げながら小さく、何度も達した。
「ん……? 真央、尻尾が…出てるぞ?」
 よほど余裕が無くなっているのだろう。
 スカートの下からざわざわと、見慣れた尻尾が持ち上がってくるのを、真央の肩越しに月彦は見た。
「ダメだろ? 真央…ちゃんと隠さなきゃ…」
「だ、だってェ…そんな、余裕、無っ……あっんんんんんンッ…!」
 すりすりと、撫でるように尻尾を撫でられて、真央が噎ぶ。
「真央、本当に辛かったらすぐ言うんだぞ…?」
 囁きながら、月彦は背中に回した手でブラのホックを外し、さらにシャツを捲し上げる。
 薄明かりの中、露わになった真央の形の良い乳房―――その尖った先端を、月彦は優しく舐め上げた。
「ぁっ…ン…! う………だい、じょうぶ……だけ、ど………でも………」
「でも…?」
 片手を背中に回して、真央の体を支えながら、空いている手で優しく、弾力のある真央の乳房を捏ねる。
 きめの細かい肌が、ぷりぷりと指の間で弾け、白い、如何にも柔らかそうな肉はむしゃぶりつきたくなる衝動をかき立ててならない。
「あんまり…激しい…のは……んっ……」
 突き上げが止まり、胸と尻尾への愛撫だけになると、真央は少し余裕が戻ってきた素振りをみせた。
「…じゃあ、これくらいなら…どうだ?」
 貧乏揺すりでもするように、月彦はわずかばかり体を揺らせる。
「んっ…あっ、ぁっ…だい、じょぶ……ぁっ…ぁっ…ぁっ…ぁっ………」
 快感の度合いを示すように、尻尾が固くそそり立ち、スカートを捲し上げる。
 月彦は尻尾と同じく固く尖った乳首をちぅと吸い上げ、下で転がしながら、再び両手を真央の尻に添えた。
「やっ…!」
 それだけで、真央が警戒するような声を出す。
「大丈夫だ」
 月彦は一言囁くと、ぐにぐにと尻肉の感触を楽しむように揉み捏ね、そしてゆっくりと真央の体を持ち上げた。
「ぁっ……やっ、やぁっ……!」
 途端、真央が体を強ばらせた。
 月彦は剛直の半ばが見えるほどまで真央の体を持ち上げ、そして再び腰をゆっくりと落とした。
「はぁんっっ…!」
 真央の口から、甘い声が漏れる。
 月彦は同じように、真央の体を持ち上げ、落とす。
 その動きを、徐々に早く、大胆なものにしていく。
「あっ、あっ…あっ…と、さまっ……あっ…あっ……うんっ…んっ…ぅ…ぁっ………!」
 苦痛めいた声から、甘い声へ。
 慣れてきたのか、時折腰などくねらせながら、肉塊を秘裂いっぱいに頬張り、締め付けてくる。
「んっ…いいぞっ…真央っ……!」
 真央の反応が良くなってきた所で、さらに動きを大きくする。
 たぷたぷと眼前で揺れる乳房に時折顔を押しつけながら、尻肉を揉みしだき、持ち上げては、再び肉槍で子宮口を突き刺す。
 その都度、真央はのけぞり、尻尾を勃てて声を上げた。
「んんっっ!ぁっ…あふぅっ…ふぅっんっ……ぅっ…はぁぁっ…いいっ…気持ちいい…父さまぁっっ……!」
 甘い声が徐々に、淫らな声へと変わる。
 シートに膝を立て、自ら腰をくねらせ、キュウと剛直を締め上げながら腰を何度も上下させてくる。
「んっ…おっ……ま、真央っ……それっ…はっっ……!」
 今度は月彦が狼狽える番だった。
 締まりのよい膣壁がタコの吸盤のように絡み付き、そのまま痛烈に剛直を扱きあげてくるのだ。
 思わず『ひっ…』と悲鳴が漏れるほどのゾクゾクした快楽が、背骨を駆け上ってくる。
「はぁっ…ぁんっ…とーさま…気持ち…いい…?」
 上気した頬、淫蕩した笑みを浮かべながら、愛くるしくキスの嵐を見舞ってきた。
 さらには腰を沈め、ぐりぐりと先端を膣奥に擦りつけるようにくねらせてくる。
 亀頭に擦ってくる肉壁の感触もさることながら、そういう行為を真央が自分からやっていると想像するだけで、月彦は思わず達してしまいそうになる。
「っ……そっちが、そういうことするなら………!」
「ぇっ………ぁっ………きゃあっっ!!」
 両手で真央の尻を掴み、さらに両足でゴンドラの床に踏ん張る。
 そして真央の体を僅かに浮かせ、そこに自分の腰を叩きつけた。
「あはぁあァッ!!」
 ごちゅんっ、と奇妙な音がした。
 月彦はさらに続ける―――ごちゅんっ!ごちゅんっ!ごちゅんっ!
「あひィッ…!はひっっ…!と、父さまっ…やっ…だめっっ…そんなっっ……ひぃっっ…す、凄いっっ…っっぃい!」
「はーっ…はーっ…ッ………ダメ、だ …もう、出るっ……!!」
 真央の尻を掴んだ手をぐいと引き寄せる。
 ぐりぃぃいっ!―――震える先端を、真央の膣奥に無理矢理ねじ込んだ。
「やっぁぁああっ、と、さまっ…だめっっ…あ、あいぃぃいいいッッッ!!!」
 ビビッビッ!
 尻尾の毛が逆立ち、尻尾そのものも固くそそり立った。
「ま…おッ…くッ…!」
 月彦がその名を呼んだ瞬間、痙攣する膣内にどっと、熱いものが溢れた。
「ッ……あッ…はぁぁぁぁぁ…」
 びくんっ、びくんっ…!
 父親にしがみついたまま、真央は惚けたような声を出しながら、絶頂の余韻に浸っていた。
 いつになく大きな剛直だからか、膣内に塗りつけられる牡液の感触が妙に生々しく真央には感じられた。
 錯覚だと分かってはいても、精液の、その一粒一粒が元気よくはね回る感触さえ感知できる気がした。















 観覧車の電力復旧にはどれほどの時間がかかったのかは分からない。
 ただ、沈みかけていた夕日が完全に山に埋没し、そして夜の帳が降りて尚当分は復旧しなかったことは確かだった。
 長いとも言えるその時間だが、真央にも月彦にもそれはあまりに短かった。

「やっっ…父さまっ…こんな…所、で…………」
 人の胴ほどの太さの幹の木を背に、真央が狼狽えたような声を出す。
 無理もない、帰路の途中、いきなり月彦が迫ってきたのだから。
「大丈夫だ、ここなら周りに誰もいない」
 月彦は真央の耳に囁きかけながら、その体をまさぐるのに夢中だった。

 ―――観覧車が復旧したのは、あの後すぐだった。
 室内灯がつくやいなや、二人とも慌てて衣類を但し、(真央は尻尾も隠し)そして何食わぬ顔でゴンドラを下りた。
 が、普段から一晩に二発三発は当たり前の二人が、たったあれしきのことで欲求を満足する筈はなかった。
 否、むしろ中途半端に体を交わしたことで余計に欲求不満になったと言えるかも知れない。
 二人とも、言葉は発さなくても互いの心中は察していた。
 だから、足早に観覧車乗り場を後にし、入場ゲートの方へと向かったのだ。
 本来なら、土産の一つも買ってから出るべきであろう―――が、どちらもそれを言い出さなかった。
 月彦は真央の手を引き、無言で足早に出口を目指した。
 そしてその途中で、人気のない茂みを見つけたのだ。

「真央だって、我慢できないんだろ?」
 華奢な体を木の幹に押しつけながら、月彦は息を荒げ、真央の胸元をまさぐった。
 ノーブラだった、それもその筈、ブラジャーはゴンドラの中に忘れてきたのだから。
「ぅっ…で、でも……もし、人が…来たら……」
 真央は口でこそ乗り気でなさそうなことを言うものの、抵抗の類のことは一切しなかった。
 …いや、それどころか、月彦が茂みに向かって歩き出した時には密かに期待さえしていたのだ。
 勿論それをハッキリとした態度で月彦に示すようなことはしない、が、父親からの愛撫を期待するあまりにすっかり固くなった―――シャツの上からでも容易に場所が分かるほど尖った―――乳首や、スカートの中で今なお牡の生殖器を求めて涎を垂らす秘裂の蠢きまでは隠せない。
「大丈夫さ、…真央が、大声さえ出さなきゃ、な…」
 真央の首の辺りに、月彦は顔を埋める。
 くんと鼻を鳴らすと、独特の牝の香りの他に、僅かに汗の匂いがした。
「手をついて、尻をこっちに出すんだ」
 父親からの、命令とも取れる、口調。
 その冷たい口ぶりに、真央はゾクリと、何かが背筋を駆け上ってくるのを感じた。
(…なんか…犯される…みたい………)
 月彦に言われた通りに、木の幹に手をつき、差し出すように尻を突き出しながら、真央はそんなことを連想する。
(でも…父さまになら……)
 何をされてもいい―――と、真央は思う。
 否、何をされてもいいどころの話ではない。
 『次は何をされるんだろう』―――と、期待に胸を膨らませてさえいるのだ。
 動悸がとまらない。
 尻を突き出したままの格好で、真央はハァハァと発情期の獣のように息を荒げ始めていた。
 ほんの数秒にも満たない待ち時間が、永遠にも思えたその時―――
「っ…んッ…!」
 はらりと、スカートがまくられ、精液と愛液に濡れたショーツがゆっくりと膝下までおろされる。
(やっ…やぁっ…ぁっ……!)
 精液に濡れ、淫らにヒクつくそこを露わにされた瞬間、真央は声を押し殺して小さく達していた。
 ぷるっと尻が震えるのを、なんとか月彦に悟られないように堪える。
(…ショーツ…脱がされただけで…イッちゃった………)
 隠しようのない事実に、一気に顔が上気する。
 そんな真央を知ってか知らずか、月彦は両手で露わになった真央の尻を丁寧に揉み捏ねると、親指でぐっと秘裂を左右に押し開く。
 トロリと、白い蜜が糸を引いて垂れた。
「やっ…父さまっっ…!」
 体の奥底まで覗き込まれるような羞恥にたまらず、真央が声を上げ、振り向こうとする。
 ―――が、それよりも早く、月彦が被さってきた。
「真央、挿れるぞ」
 その囁きと、挿入はどっちが早かったのかは真央には分からない。
 ただ、気がつくと体の奥底、ドロドロとした一番熱い部分をもっと熱い、固い塊が貫いていて、耳を覆いたくなるくらいのいやらしい声が口から出ていた。
「はぁぁぁっ……あんっ…!」
 体を貫く途方もない快楽に、思わず真央は尻尾を隠すことも忘れてしまう。
 しゅるりと現れたそれを、月彦の右手が掴む。
「もう尻尾を隠せなくなったのか? 人が来たらどうするんだ…」
 苦笑しながら、愛娘の弱点の一つであるそれを丁寧に擦りあげる。
「あっ、あぁぁっあっ……あァッ…!」
 尻尾を触られているだけで喉が震えて、勝手に声が飛び出た。
 ゾクゾクするような快楽に、真央は思わずここが夜の遊園地の茂みの中だということを忘れてしまいそうになる。
「真央はやっぱり…後ろからされるのが好きなんだな…」
 尻尾の愛撫を止め、背後から覆い被さりながらそっと、狐耳の中に吹き込んでくる。
 確かにその通りかも知れないと、真央は思う。
 月彦と交わるのは好きだが、その中でも特に、背後からの―――後背位は特に気持ちが良かった。
 体位で感度が変わるというのも変な話だが、とにかく月彦に後ろから、それもやや乱暴にされたときが一番気持ちいいと、真央は経験で知っていた。
(また…乱暴にしてくれないかな…?)
 僅かばかりの羞恥と罪悪感を伴いながら、真央は密かにそんなことを願う。
 そしてさらに心の奥底では、乱暴だけでは足りない、もっと、背筋がゾクゾクするようないやらしい言葉を囁かれながら、狂ったように突かれたいとさえ願っているのだ。
 真央はさすがにその欲望には、気がつかないフリをする。
 フリをしながら、密かに、期待を込めた瞳で、月彦を見る。
(………っ…ぅ…)
 真央は体の奥底から、何か…どろりとしたものが溢れて、自分を蝕んでいくのを感じた。
「真央、動くぞ」
 胸の辺りを捏ねていた月彦の手が、腰のくびれへと添えられる。
 そしてゆっくりと、固い男根が引き抜かれ―――
「あンッ…!」
 ぱぁんっ!
 柏手を打ったような音と共に、剛直の先端が子宮を揺らす。
 続いて、ぱんっ、ぱんと、真央の小尻が鳴る。
「はぁぁぁっ…ンッ! あっ…んっ…あんっ…ぁっ…んっ…あんっ…あっ、あんっ…!」
 痺れるような快楽に、勝手に嬌声が口から漏れた。
「ッ…真央…気持ちいい…ぞ……!」
 囁き、抱きしめながら、尚月彦は腰を震う。
 その都度、熱く痺れたその中心、今にもトロトロにとろけてしまいそうなその場所がめちゃくちゃに掻き回され、真央は何も考えられなくなった。
 ただ快感だけがジンジンと広がり、体中を支配していく。
「あっ…はんっ! んっだ、だめっっ……そんっっ…早っっ……ぁひっ! ぁっ…と、さまっ……父ッ…さまぁっ……!」
 背後から突かれるのは、真央が予想した通り、否、予想以上の快感だった。
 文字通り、身がとろけそうな快楽に、足が、手がガクガクと震え、力をなくし、支えを失う。
 月彦は尚、獣のように腰を動かし、より奥へより真央の中へと剛直を押し込んでくる。
「あはぁぁぁっ!!やっっ…らめぇえっ!!!」
 木の幹に押しつけられながら、真央は大声を上げていた。
 淫らな、サカッた牝の声だ。
 人に聞かれる―――でも、止められない、止まらないっ!
「ひゃっっ…」
 急にくらりと、視界が回った。
 足から完全に力が抜けて倒れたのかと思ったが、違った。
 側の芝生の上に、月彦に押し倒されたのだ。
「あひぃッいいいいっ!!!」
 芝生の上で、尻だけを持ち上げた格好で真央は嬌声を上げる。
 立ったまま突かれている間は、ある程度体を引いたりすることで受ける快感を緩和したり丁度良いものにしたりすることが出来た。
 が、芝生に押さえつけられている状態ではそうもいかない。
 背中を押さえられ、尻尾を捕まれ、奥の奥まで剛直をねじ込まれたまま膣奥をぐりぐりと擦られる。
「ふぅぅ……っ、尻尾がビンビンに勃ってるってことは…気持ちいいってコトだよな…真央?」
 しゅっ…しゅっ…と、勃起した狐尻尾を擦りあげながら、さらに月彦は腰を使う。
「ひゃんっ…!あひっ…やひぃっ…ぁふぅっ…んんっあっあぁああっぁっあんんっ!!」
 月彦に何かされるたびに、真央の体は大きく痙攣した。
 その一回一回が、真央が絶頂に達している証だった。
 あまりの快感に、真央は月彦から逃げようとするかのように体を前に進ませようとした、それを月彦は強引に捕まえ―――
「はぁぁああんっ…! あぁああっあっあぁあっあぁあっひぃいっ!あっあぁああァ!」
 突く。
 両腕で真央の体を抱きしめ、掴み、逃げられないように押さえつけ、そして牡性器を根本までぶち込んだ。
「出すぞ、真央」
 低い声が、狐耳の中に舞い込んできた。
 次の瞬間―――
「あっ…あぁぁぁぁああっぁ…!!!」
 父親の濁った精液が、娘の膣を汚した。


 




















「ぁっ、ぁっ、ぁっ………」
 肉槍が脈動し、精液が子宮口に張り付く都度、真央は小さく声を上げて体を痙攣させた。
 開きっぱなしの口からは、涎が零れていた。
 失禁もしているみたいだった。
 射精は、まだ続いていた。
 どくんっ、どくんと、まるで終わりがないかのように、いつまでも続く。
「ひっ……ぁ……………こんな…っ……出され、たら……溢れ…ちゃうっ……!」
 その言葉を最後に、真央は糸が切れたように失神した。



「…少し、激しすぎたかな…?」
 ぐったりと芝生に伏せている真央を見下ろしながら、月彦はそんなことを呟いた。
 しかし、先ほどのあの、真央の何かを期待するような目を見たときからどうにも理性が飛んでしまって抑制が利かなかった。
「…人に、聞かれてないだろうな…?」
 今更という気もしたが、月彦は辺りを見回した。
 備え付けの街灯がある他には人の気配というものは微塵も感じられなかった。
 あまりに人の気配がないということで月彦は慌てて腕時計へと目をやった。
 退園時間を過ぎたのではないかと思ったのだ―――しかし、時計の針はまだ9時を回った所だった。
 退園時間は確か10時だったから、まだ時間はある。
 とりあえず、帰るのは真央が気がついてからだな―――月彦は真央の体を抱え上げると、側の木の側にもたれかかるように座らせた。
「ん…?」
 ふいに、月彦は振り向く―――が、そこには鬱蒼とした茂みと、夜の闇があるだけだった。
「気のせいか…?」
 首を傾げる。
 一瞬、くすくすと女の笑い声のようなものが聞こえた気がしたのだ。




 真央が目を覚ますのを待って退園したのは10時少し前。
 電車は、危うく終電を逃すところだったのを何とか駆け込み、その後もふらつく真央を支えながら家に帰り着いたのは11時前だった。
 紺崎邸の明かりが完全に消えているのは承知の上だった。
 母、葛葉も姉の霧亜も今夜は家を空けると、昨夜既に聞かされていたからだ。
「ふぃー…疲れたぁぁ……」
 家に入り、明かりをいれるなり、月彦はまずリビングの椅子に座り込んだ。
「まずはシャワーだな、真央、先に浴びるか?」
 二人一緒だと、また変な気分になりそうだから、別々に入ろうと、前もって示し合わせておいたのだ。
「うん…じゃあ、先に、入るね」
 真央は紅い顔のまま、小声で呟くと部屋から着替えをとって来て脱衣所へと小走りに駆け込んでいった。
 月彦は冷蔵庫を開け、冷えた麦茶をコップに注いで一気に飲み干した。
「……まーだ気にしてんのか」
 はぁ…と、ため息をつく。
 一度失神して、目を覚ましてから、真央の態度ずっとよそよそしかった。
 それがどうも、行為の最中に思わず失禁してしまったことに起因しているのであろうことは月彦にも容易に想像が付く。
(いっそ面と向かって『気にするな』って言ってやったほうがいいのかな?)
 月彦としては、別にそれほどイヤだったというわけでもないし、むしろそれほど真央が感じたということでむしろ嬉しいくらいなのだが、当の真央としては父親のまで失禁してしまったということがよほど恥ずかしいことであるらしい。
 月彦としても、真央のそういう所を察して、あえて見て見ぬふりをしているのだが、真央の態度は依然としてよそよそしいままだ。
(まあ、明日になっても気にしてるようなら、はっきり言ってやろう)
 月彦は頷くと、自分の着替えを取りにリビングを後にして階段を上がった。
 案の定2階も真っ暗闇だった。
 電灯のスイッチを探り、明かりをつけてから、自室のドアノブを拈る。
 室内灯のスイッチは入ってすぐ右の壁だ、かちりと押すと、チカチカと何度か点灯の後に室内は明かりを取り戻した。
 カーテンは朝閉じたままだから、あえて閉じる必要はない。
「ふーーー……にしても、疲れたなぁ…」
 リモコンでクーラーのスイッチを入れた後、どっかりとベッドに腰を下ろす。
 これなら今夜はよく眠れそうだ―――と、首鳴らしながらほくそ笑む。
 その時だった。
 唐突に、ガタガタと押入が揺れ始めたのは。
「なんだ…?」
 月彦は咄嗟に部屋から出て、階下に耳を澄ませた。
 シャワーの音がする、真央は確かにシャワーを浴びている。
 じゃあ、あの押入の揺れは?
 霧亜や葛葉が入っているとは思えない。
 月彦は再び部屋へと戻る。
 押入は依然、ガタガタと揺れている。
 機械的な揺れではない、明らかに人為的な揺れだ。
「誰だっ!」
 威嚇の意味も込めて、大声を出す。
 一瞬だけ、驚いたように押入の戸の揺れが止まった。
 が、またすぐにガタガタと揺れる、それも前よりも激しく。
「…〜〜〜っ!」
 月彦は警戒しながら、乱暴に件の戸を開いた、そしてすぐにその場を飛び退いた。
 その瞬間、どさっ、と何かが押入の中割りの上から落ちた。
「へ……?」
 月彦が二重に驚いたのも無理はない。
 押入から出てきたのは、縛られ、猿ぐつわをされた真央だったからだ。

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