<プロローグ>

「あっぅっ…っくッ…で、出るっっ……!!」
 悲鳴ともとれる声を上げて、男が僅かに腰を浮かせる。
 いや、浮かせるというよりそれはバネ仕掛けの人形か何かが突然跳ねたような、そういう動きだった。
 両手で女の腰をしっかりと掴み、剛直の先端で強かに子宮口を突き上げたまま、どくりと牡液を吐きだした。
「はぁン…っ……!」
 女の、艶めかしい声。
 己の体内に男の体液が溢れる脈動を感じながら仄かに身を震わせ、女もまた、絶頂を迎えた。
「っ……はぁっ………はぁっ……!」
 男は射精を終えると、ぐったりと全身から力を抜いた。
 ただ、呼吸だけは荒く、虚ろな瞳は何処を見ているのか、焦点はろくに合っていないようだった。
 そんな男の頬を撫でる、女の手。
 その手つきは我が子を愛でる母親のようでもあり、玩具を弄ぶ子供のようでもあった。
「…うっ……す」
 掠れた声で、男が呻く。
「うん、なぁに?」
 女は男の頬を撫でながら、妖しく笑みを浮かべる。
 声もまた酷く扇情的な、艶めかしいものだった。
 男も女も一糸まとわぬ裸体。
 男はまだ若い、外見を見るにまだ二十歳にも満たない若者を思わせる。
 方や女、こちらはやや年上のように見える、人の年齢に尚して24,5といった所であろう。
 人の年齢に直して、と言うのは勿論、女が明らかな人外のものであるからだ。
 その長い髪の合間からせり出した大きな獣耳、尻にはキツネの尻尾。
 そして女に跨られている男にもまた、同じものがあった。
 二人は妖狐の一族だった。
「も……む、り…です…」
 男の声は辛うじて聞き取れた。
「無理? 何が無理なの?」
 女は口の端を歪めて、意図的に膣内を収縮させる。
「……ッ……!!」
 男の体が途端に跳ねた。
 言葉とは裏腹に、男の茎は吟とそそり立ち、依然女の膣を貫いたままだ。
「ほぉら…まだ、こんなに元気じゃない」
 目を細めて、女がくすくすと笑う。
「ぅっ…ぁっ……やっ…も、う……やめっ………やめっ………ッ!!」
 女が淫らに腰をくねらせる都度、男は哀願するように声を漏らす。
 だが、女がそれで行為を止めるようなことはない。
 それどころかますます、腰の動きを早め、大胆にしていく。
「んっ…!ぁっ…んふっっぅ…!」
 女が動くたび、結合部からごぽりと淫湿な音を立てて牡液と牝液の混じったものが溢れ出す。
「はぁぁっ…いぃわぁぁっ…凄ぉい…っっ…お腹の中っ…掻き回…されてッ…るゥンっ…!」
「うっ…ぁっ……ぁっぁうっ…あっ!」
 女の動きに翻弄されながら、男は悲鳴のようなうめき声を漏らすだけだ。
 抵抗は、出来ない。
 神経の束の命令権を全て目の前の女に持って行かれたような、そんな錯覚さえあった。
 男の手が、揺れる乳房へと伸びる。
 これは男の意思ではなかった、にも関わらず、両手は女の乳を鷲づかみにした。
「やはぁっ…ぁんぅうっ!」
 圧倒的な質量が、両手の指の間から溢れる。
 力を込めれば、指が隠れるほどに白い乳肉が盛り上がった。
「ぁっぁっ……そぉぉンっ…もっとぉぉ…おっぱいシてェっ!…滅茶苦茶に捏ねてェっ!」
 サカった声を上げて、女が男の手首を掴む。
 自ら乳房に押しつけるようにして動かしながら、ますます腰を跳ねさせる。
 ぱちゅんっ、ぱちゅんっ。
 結合部がぶつかり合うたびに蜜が飛び散り、互いの腹を濡らしていく。
「あはぁぁぁあっ! んぅううっっ…ふぅぅんっぅ…はぁっ…気持ちいィ…溶け…ちゃいそォ…」
 女の動きに合わせて、その膣肉がちゅるちゅると収縮し、男の剛直を強かに締め付けてくる。
 否、締め付けるだけではない。
 そこだけが独立した生物のように、男のものの形に合わせるようにうねり、吸い付き、舐めるようにはいずり回るのだ。
 仕組みの全てが牡の男性器を攻め、精液を搾り取る為だけに磨き上げられたような極上の膣だった。
 さらに付け加えるならば、女の容姿はそのことごとくがそういう雰囲気を兼ね備えていた。
 艶めかしく白い肌も、くびれた腰も、むっちりとした尻も、手のひらから零れるほどに豊かな乳も、全て牡の性欲を刺激するためだけに作られたのではないかと疑いたくなるほどだ。
 端の切れ上がった、いかにも狐然としたクールな顔立ちも、一端行為が始まってしまえば羞恥と快楽に歪み、淫らに牡を求める牝狐のものとなる。
 男は、女のことが好きだった。
 だからこそ、里の規律を犯してまで獄中の女を外に連れ出したのだ。
 その挙げ句が、この体たらくだ。
 女に想いを打ち明け、女もそれに応じるように男に体を預けてきた。
 その後はただ、動物的な本能の赴くままに、男は女の体を貪った。
 男が違和感に気がついたのは、既に二桁は女と交わった後だった。
 通常、それだけの回数をこなせば精も根も尽き果て、動くことすらままならなくなるはず―――であるのに、男の股間のものは今でも尚固さを失わず、直立していた。
 体力的な疲れはある、既に意識も朦朧としている、それなのに女と交わることをやめられないのだ。
 違和感はそれだけではない、妖力の著しい衰えだ。
 まるで、行為を通じて体力、妖力共に女に吸い取られているかのように、女の方には一向に衰える様子が見えないのだ。
(このままじゃ…殺されるっ……!)
 過去、女に抱かれ、あるいは押し倒され、食い物にされた男達が考えた事と同じ事を、男も考えた。
 やはり、女は牢から出してはいけなかったのだ―――若い妖狐は後悔した。
 何故、あの時の自分はあれほどまでに―――さして良い噂も聞かぬ―――否、むしろ悪い噂しか聞かないこの女に恋い焦がれていたのか。
 男には解らない。
 男の、女に対する想いもなにもかも全て、牢に閉じこめられた女が僅かに漏らし続けていた”香”による作用だということも。
 女が閉じこめられていた牢はただの牢ではなかった。
 それは”合わせ鏡の牢”と呼ばれ、文字通り合わせ鏡によって作られた無限の閉鎖空間の中に化生の類を封じ込めるという、言わば一種の結界場だった。
 さしもの女も独力での脱出は困難だった、そこで女は牢の外に助力を求めることにしたのだ。
 鏡の隙間から、自らの妖力をたっぷりと込めた特殊な香を絶えず、漏らし続ける。
 同性には利かない、が異性が吸えば、たちまち女の虜となるような香だ。
 運悪く、この若い妖狐はその餌食となった。
 そして結界場に封じられていた女の、最初の”食事”に選ばれた。
 そういう事情は、若い妖狐にはわからない。ただ、己の生命の心配をするだけだ。

「はうっっうっ…!」
 男が悲鳴を上げ、体を跳ねさせる。
 十数回…やもすれば二十を越える―――男は己の精の滾りを再び女の膣奥へと叩きつけた。
「あぁぁあんんっ!!ぁぁっ…いいわぁっ…熱くて濃いのっ…びゅくびゅくって跳ねてるぅうゥっ!」
 自らの体内ではね回る精液の奔流を、女は嬉々として受け止め、法悦の声を上げながら身をくねらせた。
 同時に膣肉が剛直に吸い付き、精液を搾り取るように絡み付いてくる。
「うっ…ぁっ…!!」
 女の欲求に応じるように、男の体はその限界まで射精を続け、女の膣内を白く汚した。
 そして今度は男自身、ハッキリと知覚していた。
 射精の都度、ポンプが水を汲み上げるように勢いよく、自らの妖力が女に吸い取られていくのを。
「…けてっ………すっ…けて…!」
 男は必死に懇願した。
 懇願している最中すら、その両手は女を喜ばせるためにそのからだを這い回っている。
 滑稽だった。
 目には涙を溢れさせ、必死に哀願しつつも、体は女を求めているのだから。
「んふふっ……あはははははっっ、ふふふふふふふっっ!!」
 女が笑う。
 唇から鋭い犬歯を覗かせて、しっとりと濡れた尻尾を雅に振って。
「ねぇ…自由になりたい?」
 男に被さり、男の狐耳に囁きかける。
 下半身はつながったまま、男をいたぶるように何度も締め上げながら、耳の裏を舐め、頬を撫で、髪を弄る。
「うっ…あぅっ…あうっうっ…!」
 男はもはや、悲鳴以外の口はまともに聞けないようだった。
 ただひたすら、女の問いに首を縦に振る、何度も、何度も。
「そう、じゃあ、私に協力するわね?」
 今の今まで、発情と快楽に濁っていた女の目が、刹那のうちに澄みあがる。
 黒い瞳は真剣のように細く、まるで昼間の猫を彷彿とさせた。
 男には、女の胆に推されるまでもなく、選択肢など無かった。
 ただ、首を縦に振る、それだけだ。
「別に難しいコトじゃないわ。ただ、貴方のお友達…そうね、特に活きがいい男の子をここに連れてきてくれればいいの。簡単でしょ?」
 ふふっ…と、女は笑みを漏らす。
 酷くいやらしい、妖艶の笑みだ。
 それだけで、集められた妖狐の牡達がどういう目に合うのかは容易に想像がつく。
「ふふふっ…一人や二人じゃダメよぉ? 顔も、髪も、口も、耳も、背中も、胸も、お腹も、お尻も、太股も、それからココも―――」
 キュウッ、と女が膣内を収縮させる。
「体の外も中も全部、濃ぉい精液ミルクでドロドロになっちゃうくらいに輪姦して欲しいの。 だから、ね、ヤりたくてヤりたくてうずうずしてる子達、100人でも200人でもいいから、い〜っぱい連れてきて」
 吐息混じりに熱っぽく囁くと、女は立ち上がり、男の茎を解放した。
 女との交わりを止めた途端、男の体を激しい脱力感が襲う。
 それでも、男は未だ体を女の術の支配下に置かれているのか、逃げる素振りも逆らう様子も見せず、足を引きずるようにして部屋を後にした。
「くすくす…、なるべく早く連れてきてね。じゃなきゃ、手当たり次第に襲いに行っちゃうンだから」
 女は妖しく笑む、自らの太股を白く汚す塊を指先で絡め、舌先で舐め取りながら。
 淫ら、妖艶という言葉がこれほど似合う女も珍しいかもしれない。
「んふふっ…ふふっ…あはぁぁっ…っ……!」
 両手で肩を抱き、女は喉を震わせて身震いをする、発情した牡狐達の本能のままに陵辱され、濃厚な牡液の洗礼を全身に受ける自分を想像して。
 妖力と快楽が同時に得られる宴―――それこそ今、女が最も求めるものだ。
 女には目的がある。
 そのためには妖力の回復と増幅は必須条件だった。
 そして同時に、決して短くない牢屋生活での憂さを晴らすために、女は快楽をも求めた。
 それも並大抵のものでは満足できない、ひたすら牡達に犯され、輪姦され続ける、終わりの見えないような酒池肉林の宴だ。
 自分の魅力に発情し、鼻息荒く襲いかかってくる牡達。
 それらの荒々しい愛撫を一身に受け、欲望の塊のような汚液を体の奥底にぶちまけられた時の、天使の堕天にも似た快楽。
 むせ返るような牡の臭いと体液の味こそ、女にとってはこれ以上ない美酒だった。
「んふふっ…男、おとこ、オトコ……ふふふふふふっっっ」
 呟き、唇にあった指が喉を這い、胸元を下り、臍を通って花弁色のクレヴァスへと収まる。
「はぁぁっっ…もォ我慢できない……早くゥっ、早く犯しに来てェ…濃ぉい精液でドロドロに汚してェッ!」
 左手はたっぷりの乳房をこね回し、指先で、まだ暖かい精液ごと、女は体の火照りを慰める。 
 否、慰めても慰めきれないもどかしさが、さらに女の肉欲を猛らせ、焦燥させた。


 ―――女は異端の流れ妖狐、流浪の狐美姫。
 ―――名を真狐といった。


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