真央との事に限れば、記憶が飛ぶ程に激しいセックスは決して珍しい事ではない。だから、今回も気怠い目覚めから、隣ですやすやと満足げに眠る真央の寝顔を見て『ああ、またやっちまったか』というなんとも習慣じみた感想で終わってしまった。
（……いや、ちょっと……違うな）
少なくとも、いつも通りではない。このぬくもりをまた腕のなかに取り戻したのだから――まるで、その存在を確認するように、月彦は愛娘の体を抱きしめる。
「ン……」
「悪い、真央……起こしたか」
すまない――謝りながらも、月彦はさらにぎゅうっ……と真央の体を抱きしめる。
「とうさま……」
寝ぼけ眼で呟いて、真央もまた月彦の背へと手を回してくる。そのまましばし、互いに無言のまま身を寄せ合う。
「……スゴかったね」
「……何がだ？」
「私……まだ少し頭がクラクラしてるよ。体もフワフワして、自分の体じゃないみたい」
「喉は痛くないのか？」
「……少し、痛いかも……」
あれだけサカリ声を上げ続ければ当然だ――と、月彦は苦笑する。
「父さま、見て……また日が暮れちゃうよ」
「……一体今日は何日だ」
窓の外を指し示す真央に促されて、月彦は枕元の時計の日付の部分を見る。どうやらほんの二十四時間ばかりの記憶喪失で済んだらしかった。
「………………。」
「………………。」
どちらともなく黙り込み、ただ時間ばかりが過ぎていく。完全に日が暮れ、部屋が闇に包まれて漸く、月彦は口を開いた。
「あの、な……真央……その、どうしても聞きたかったんだが」
「なぁに？ 父さま」
「その……白耀とは、本当にシてないのか？」
真央からの返事は、すぐには帰ってこなかった。代わりに真央は憂鬱そうな、如何にも口籠もっているというような表情を浮かべる。
「……ごめんね、父さま」
「まさかっ……真央」
「父さまと由梨ちゃんの事がショックで……ヤケになっちゃって……一回だけ……その、シちゃったの……」
「…………っ！」
こめかみを木槌で思い切り叩かれたような衝撃に、月彦の意識は一瞬ホワイトアウトした。
（……まさか、本当にヤッてたなんて……でも――）
真央を責める事は出来ない――その資格は俺には無いと、月彦は唇を噛みしめる。
「嘘……だよ、父さま」
「なぬ！？」
「兄さまとはシてないよ。……ごめんね、ちょっとだけ……父さまにも解って欲しかったの」
解って欲しかった、とは――言わずもがな、浮気をされる者の気持ちだろう。また、違う理由で月彦は唇を噛みしめた。
「真央……その、悪かったな……由梨ちゃんとの事……黙ってて」
悪いのは浮気そのものではなく、黙っていた事――そうとしか、月彦には言えなかった。
「真央が、怒るのも当然だと思う……だけど、俺……本当に由梨ちゃんの事が好きなんだ。だから――」
「うん、……もういいよ、父さま」
月彦の胸に顔を預けたまま、真央はどこか満足げに呟く。
「父さまが……由梨ちゃんとも仲良くしたいんなら……しても、いいよ。……だって」
ぎゅうっ、と。一際強く真央が抱きついてくる。
「父さまが浮気してるって解ってても、由梨ちゃんの事好きだって解ってても、私……父さまの事好きだもん……離れられないもん……」
「真央……」
「父さまが、由梨ちゃんとエッチするのは……すごく嫌だよ？ でも……父さまの側に居られなくなるのは……もっと嫌なの」
「……真央、それは違うぞ」
健気な事を言う愛娘の後ろ髪を撫でながら、月彦は苦渋めいた顔でそのことを指摘する。
「真央には権利がある。……俺に、由梨ちゃんと別れろって言う権利が。……だから、言ってもいいんだぞ」
「……いい。私、言わない」
何故だ――ついそう口にしてしまいそうになって、月彦は再び唇を噛んだ。
「本当にもう良いの。……由梨ちゃんの話は、もうしたくない」
「真央……」
真央の口ぶりから、本当に全てを納得済みで“もういい”と言っているのではないことはよく解った。
（……本当は、解ってるんだ）
今、真央がどんな言葉を望んでいるか。何と言ってやれば、真央の満面の笑みを取り戻す事が出来るか。
（でも……言えない……）
俺は由梨ちゃんとは別れる、真央を選ぶ――その言葉がどうしても喉から先へと出ないのだ。
（真央を連れ戻す事には成功した……けど……）
少なくとも、今更白耀の元へ戻るとは言わないだろう。だがしかし、これで全てが解決したとはとても思えなかった。
「……真央、一つ聞いてもいいか？」
こくりと、真央は頷く。
「由梨ちゃんの事、嫌いか？」
「……前は、好き……だったよ。でも……今は解らなくなっちゃった」
「……そうか」
月彦はもう何も聞かず、ただただ真央を抱きしめ続けた。
真央が家に帰ってきた――その話を電話越しに月彦にされた時、由梨子は反応に窮してしまった。喜べばいいのか、悲しめばいいのか、全く解らなかったからだ。
よかったですね、先輩――確か、そのような事を言ったような記憶はあるが、子細は思い出せなかった。何故なら、その後に続いた月彦の言葉に、頭の中が真っ白になってしまったからだ。
『ちょっと、大切な話をしたいんだけど……明日、時間とれないかな？』
困ったような声でそう言う月彦に対し、由梨子はいつも通りの調子で受け答えをし、時間を空ける旨を伝えた。
待ち合わせの場所と時間を教えられ、程なく電話は切られた。しかし、由梨子は受話器を置いたまま立ちつくし、いつまでもその場所から離れられなかった。
その日の夜は、殆ど一睡も出来なかった。大切な話とは一体何なのだろう、どれほど思案を巡らせても、最悪の答えしか見いだせなかった。
（そんな……嫌です、先輩……）
確かに、自分を捨てて真央を取ってくれと、月彦にそう言った。しかしそれは、決して本心などでは無かった。
本当は、自分を選んで欲しい。捨てないで欲しい――しかし、どうしてもそれを口に出すことが出来ず、それ故つい強がってしまっただけなのだ。
（嫌っ……嫌っ……そんな、先輩にまで…………）
霧亜に続いて、月彦まで自分を捨てるのか。由梨子の精神は半ば恐慌状態に陥り、その結果一睡も出来なかったのだ。
翌朝、鏡の前に立った女の顔は呆れるほどに酷かった。自分では気づかぬ間にすすり泣きでも漏らしてしまったのか、両目は赤く充血し、寝不足ははっきりと目の下のクマという形で現れていた。
由梨子はなんとか洗顔と目薬、化粧でそれらを誤魔化し、かなり早めに家を出た。そうしなければ、きっと……いつになく動きの遅い足のせいで遅刻をしてしまうであろうから。
（……いつかは、って……覚悟してた筈……）
真央に隠れて関係を続けていく以上、破綻が訪れるのは時間の問題だった。
（だから……仕方ない……）
そう、思っていた。元々、月彦と真央が付き合っていた所に、割り込んだのは自分の方だ。だから、当然譲るのも自分の方であるべきだ。それが理屈だと、由梨子は思う。
でも――。
（私じゃ……ダメなんですか、先輩……っ……）
それほどまでに、自分は真央に劣っているというのか。あんなに好きだと言ってくれたではないか。
（クリスマスだって……私と一緒に、過ごしたじゃないですか……）
もう、自分はただの“二番”ではない。十分一番になる資格はある――月彦に捨てられたくないという想いから、そんな図々しい事まで考えてしまう。
（ひょっとしたら……先輩……私を選んでくれたんじゃ……）
無論、そのことを全く考えないわけではなかった。しかし、やはりどうしてもその望みは薄いと感じてしまう。
（真央さんは……ただの、恋人じゃない……先輩の、子供……）
それは、先日月彦自身から暴露された事だ。しかし、未だに由梨子の中では半信半疑だった。
真央が普通ではないという事に関しては、十中八九間違いはない。あの夜に見た真央の姿は幻ではないし、触った尻尾の感触も本物だった。だから、真央はキツネ……妖狐だという月彦の言葉は、信じがたいがまだ解る。
しかし、親子というのはどうだろうか。外見で判断する限り、それはとても信じられなかった。だが月彦が言う様に真央がキツネ――妖狐という特別な種族なのであれば、そういった事もあるのかもしれない。
或いは、月彦が最後の最後、土壇場で真央を選ぶ理由として下手な嘘をついたのではないか――その可能性もありうると、由梨子は見ていた。
（だって……そうじゃないと、親子でエッチなんて……）
少なくとも、由梨子は父親とそういう関係になるという想像自体、したくもなかった。そして、それが一般的な感情ではないかとも思うのだ。
そうなれば、やはり月彦は嘘をついているという事になる。ならば何故、そんな嘘をついたのか――理由は、上記の通りだ。
思案を巡らせれば巡らせるほど、自分が捨てられるという結論にしかたどり着けない。そんな暗澹とした思いを引きずりながら、由梨子は待ち合わせの場所へと向かった。
先日月彦と話をした喫茶店――そこが月彦が選んだ、別れ話の場だった。待ち合わせ時間よりも十五分ほど早く到着したが、店の中を覗くと既に月彦が席に座っていて、由梨子も慌てて店内に入った。
「すみません、先輩。待ちました？」
「いや、ちょうど今来たところだよ。由梨ちゃん早かったね」
いえ、と微笑を浮かべながら、由梨子は真向かいの席へと座る。ただ、こうして同じ席についただけだというのに、今にも涙腺が崩壊してしまいそうだった。
（……前にも、先輩に別れ話されるって……思った事はあったけど……）
その時よりも恐いと感じてしまうのは、それだけ月彦の事を好きになったからなのだろうか。由梨子にはもう解らなかった。
「何か飲む？」
「いえ、私は……」
「じゃあ、ホットコーヒー二つ」
寡黙なマスターに向かって指を二つ立て、「手が冷えてるみたいだから」と、月彦は小声で呟いた。
「ぁ……これは……」
由梨子ははっと、テーブルの上に出していた手を引っ込めた。手が冷たかったわけではなく、ただ緊張のあまり手をすりあわせるような事をしてしまっただけだった。
（先輩のくれた手袋……本当に暖かいんですから）
当然、ここに来る時もつけてきた。だが、帰りも使うことが出来るかどうか、由梨子には解らない。
（だめ……何を言われても、絶対……先輩の前でだけは、泣いちゃだめ……）
それだけは守ろうと、由梨子は心に決めていた。捨てられて、未練がましく引き留めるような涙だけは流すまいと。泣くのは、部屋に戻ってから、誰にも聞かれない場所で思い切り泣けばいいのだ。
「えーと……多分、もう察しはついてると思うんだけど……大切な話っていうのは、真央の事なんだ」
「はい……それは、解ってました」
きゅっ、と。由梨子は手を握りしめる。
「真央が、帰ってきてくれたのは、電話で話したよね。……ただ、その後……少し話はしたんだけど……」
「……っ……」
“その瞬間”に備え、由梨子は目を瞑り、息を止めた。しかし、待てど暮らせど、覚悟している言葉は聞こえなかった。
「真央の奴……由梨ちゃんと浮気してもいい、って言うんだ」
「…………え？」
予想とはあまりに違った月彦の言葉に、由梨子はつい聞き返してしまった。
「俺も、ちょっと……いや、かなり意外だったんだ。真央の性格上、絶対許さないと思ったから」
「わ、私も……そう思いました」
事実、あんなに……刃物を振り回すほど激情していたではないか。それなのに何故――と、由梨子は思ってしまう。
「でも、そうは言っても……絶対、本音では嫌だと思うんだ。俺だって、真央が他の男と二股がけしてるなんて、考えるのも嫌だし、由梨ちゃんだって……」
「……………………はい、それは……私も、先輩と同じ……です」
消え入りそうな声になってしまったのは、やはり後から割り込んだという弱みがあるからだった。
「かといって、俺は真央か由梨ちゃんかなんて選べない。真央か由梨ちゃんの方から愛想をつかされてフラれる、っていうのなら仕方ないけど、少なくとも俺から振るのは……無理だ」
きゅんっ……と。微かに胸の奥が鳴るのを、由梨子は感じた。
（先輩……）
真央と同列に扱ってもらえているという事に、先ほどまでとは違う理由で涙が出そうになってしまう。暗澹としていた曇天から、一筋の光が差し込むように、心の中に晴れ間が広がっていくのを感じた。
「……だから、俺は考えたんだ。いや……正確には、前からずっと考えてた。でも、ずっと踏ん切りがつかなかった…………けど、決めた」
「何を……決めたんですか？」
「うん。その前に……由梨ちゃんに聞かなきゃいけない事があるんだ。……由梨ちゃんは今、真央の事は……どう思ってる？」
これもまた、答えに困る質問だった。
かつては――片思いの相手だった。月彦との関係が始まってからも、それは変わらなかった。しかし、いつしか――恋敵として見るようになってしまっていた。
「……真央さんの事は、好き……でした。今でも、好きかもしれません……でも、先輩を取られたくないっていう気持ちで……少し、複雑……です」
「そっか。じゃあ……一応、由梨ちゃんは真央の事は嫌いじゃないんだね？」
「……はい」
嫌いではないというより、嫌う資格がないというのが正しいと思ったが、由梨子は口には出さなかった。
「そうか……じゃあ後は、由梨ちゃんの同意さえとれれば……なんとかなりそうだな……」
「え……？ 私の同意……ですか？」
「勿論、嫌ならはっきり嫌って言ってくれて構わない。それならそれで、俺も腹をくくるからさ」
由梨ちゃんと話をしてくる――神妙な顔をして月彦が出ていくのを、真央は複雑な面持ちで見送った。
気にならない筈がなかった。一体どんな話をするのか。ひょっとしたら、ただ話をするだけではなく、そのままデートをするのではないか。そして、その先まで。
（大丈夫……父さまは、そんな事……しない……）
きっと、別れ話をしにいってくれたに違いない――真央はそう信じていた。由梨子との事を許すとは言ったが、それがどれほど心の痛みを伴う事か、月彦に解らない筈がない。ならば、あの優しくて、そして時々意地悪な父親がそんな事を続けるはずがないと思うのだ。
そう、幼くも狡賢いこの子狐は、そういった謙虚でいじらしい娘のフリをするほうが、なまじ「浮気をしないで」とせがむより効果的であることを本能的に悟っていたのだ。
（父さま……私が一番だよね？ だったら……）
だったら――真央がその先を考え倦ねていると、階下の方でドアが開く音がした。
「父さま……！」
家を出てから、一時間と経っていない。間違いなく由梨子とデートなどはしていない、という事は――真央は胸が躍って今すぐ父親に飛びつきたいのを堪えて、ベッドの隅に鎮座した。
そう、いかにも憂鬱というフリをするために。
「真央、今帰ったぞ」
「父さま、おかえり」
部屋の入り口に背を向けるようにして座っていた真央は、上半身だけを振り返るようにして事務的な笑顔を浮かべる。しかし、その笑みが刹那のうちに凍り付いた。
「えっ……」
これは一体、どういう事なのだろう。
「さっ、入って、由梨ちゃん」
「はい……あの、お邪魔……します……」
月彦の後ろに隠れるようにして立っていたのは、紛れもなく由梨子だった。月彦に促されるままに、そして真央とは目を合わせないようにして、部屋の中へと入ってくる。
ざわりと、全身の毛が逆立つのを、真央は感じた。
「嫌っ……」
一も二もなく、真央は吐き捨てていた。
「……どうして、由梨ちゃんが居るの？ 父さま、由梨ちゃんと大切な話をしてきたんじゃないの？」
それは別れ話に違いないと思いこんでいた真央には、今のこの状態がまったく理解できなかった。何故、父親はこんな――互いに天敵同士の魚を同じ水槽に入れるような真似をするのか。
「真央、俺は考えたんだ。そして、決めた…………多分これが、一番平和的で、誰もが納得する解決法だ」
「どういう事……？」
真央には、父親の言っていることが理解できなかった。訝しむように耳を伏せ、尻尾をざわざわさせて、じぃと月彦の顔を凝視する。
「俺は由梨ちゃんと浮気をして、そのことを真央に隠していた。そのせいで真央を辛い目に合わせたんだったら……俺だって同じ目に合うべきだ。そうだろ？」
つまり、と。月彦は由梨子の手を引くようにして、真央の側に座る。
「真央も由梨ちゃんと浮気すれば、問題解決だ」
「えっ……父さま……それって……」
真央には、父親の言葉が理解できなかった。
「そして、由梨ちゃんも真央と浮気する事になるから、俺は二重に苦しむ事になる。でもこれが、俺が受け入れなきゃいけない罰だ」
「嫌っ……そんなの、変だよ、父さま……どうして、そうなるの？」
ただ、由梨子と別れてくれれば良いだけなのに。その為に、健気で謙虚な娘のフリまでしたというのに。
「悪いが真央……これは多数決で決まった決定事項だ」
「多数決……？」
「……由梨ちゃんがもし嫌だって言ったら、俺も他の手を考えるつもりだった。……でも、反対はされなかった」
月彦が同意を求めるように由梨子に視線を送ると、こくりと、頷きが帰ってきた。
「真央さん……こんな形になってしまって、私も抵抗を感じないと言ったら……嘘になります」
でも……と、由梨子は躊躇いがちに言葉を続ける。
「尻の軽い女だって、思われるかもしれませんけど……私、先輩の事が好きになる前から、真央さんの事も好きだったんです。だから……」
「そん、な……由梨ちゃんまで……」
まるで邪教の勧誘でも受けているような得体の知れない恐怖を感じて、真央は竦み上がった。
「イヤッ、そんなの、絶対イヤ！ 父さま、お願い……考え直して！」
「真央、俺だって心苦しいんだ。解ってくれ」
むう、と沈痛めいた顔で月彦は勉強椅子の背もたれを逆にする形で腰掛けた。
「……由梨ちゃん、後は頼む」
「すみません、真央さん」
「えっ、きゃっ……！」
月彦の方に気を取られていた真央は、完全に隙だらけになっていた。容易く由梨子に押し倒され、組み敷かれる。
「やっ……やだっ、由梨ちゃん、何……するの、やめて……！」
「抵抗……してもいいですけど、多分無駄ですよ、真央さん」
抵抗しても無駄――まさに、その言葉の通りだった。真央が由梨子の下から逃れようと藻掻いても、逆に押しのけようとしても、由梨子の見事な腕裁き、体捌きで全てが空振りに終わってしまうのだ。
（い、イヤっ……こんなの、絶対、イヤぁっ！）
女同士で、しかも……父親の前でなんて。真央は半狂乱になって抵抗を続けるが。
「真央さん……」
すっ、と衣擦れの音を立てて由梨子が被さってくる。唇だけは奪われまいと、真央は思いきり顔を背けた。
しかし、由梨子の狙いは、唇ではなかった。
「そんなに嫌がらないでください。……じゃないと、霧亜先輩との事、先輩に言っちゃいますよ？」
月彦には絶対に聞こえない様、狐耳の内側だけにぼそりと囁かれた言葉に、真央ははっと由梨子に視線を戻した。
くすりと、由梨子が微笑む。
「やっぱり、先輩には内緒だったんですね」
「ち、違うの……あれは、姉さまが……無理矢理――」
つい、大声を出しかけるも、それは由梨子の手によって止められた。
「例え霧亜先輩に無理矢理されたにしても……それって立派な浮気じゃないですか？ 真央さんも、先輩の事責められませんよね」
「……っ……」
確かに、父親以外の相手に体を許したという意味では、そういう事になるのかもしれない。真央は反論できず、唇を噛むようにして由梨子から視線を逸らした。
「だったら、少しくらい……先輩の我が儘を聞いてあげてもいいんじゃないんですか？ それに……私、霧亜先輩には負けますけど、“女の子同士”だったらそれなりに経験豊富ですよ？」
それは、真央も感じていた事だった。ベッドの上での体捌き、相手を組み敷くような動き方は、とても初めてのものとは思えなかった。
「体の力を抜いて、私に任せてください。大丈夫……つまらない蟠りなんて、すぐに消してあげますから」
「ぇっ、ぁっ……ゆ、由梨ちゃん……ぁっ……！」
由梨子の言葉に、不覚にも一瞬ゾクリとしてしまい、身じろぎが遅れた。その隙に、ちゅっ……と頬に口づけをされ、そのままなし崩しに唇まで奪われてしまう。
「ンッ……！」
最初は、唇を固く閉じて抵抗をしようとした。しかし、すり……っとスカート越しに由梨子の太股で秘部を擦られ、咄嗟に唇を開いてしまった。
「ンぁっ……ぁっ、ぁっ……」
一度唇を開いてしまえば、後は由梨子の独壇場だった。頬を撫でる手がそのまま首の後ろ、後頭部まで這い、顎を突き出させるように力が込められ、真央は無意識のうちに由梨子の舌に応じるように自らも絡めていた。
（やっ……嘘っ……由梨ちゃん、キス……巧い……）
その舌使いは、霧亜のそれを彷彿とさせるものだった。月彦のように、嬲るようなキスではない。もっと上品で、しかし……とろけてしまうような、甘いキスだった。
（やっ、だめ……こんなの、絶対……イヤ、なのに……）
そう、月彦以外の人間とのキスなど、絶対に嫌な筈なのに。強引にキスを中断して、口を閉じることが、真央にはどうしてもできなかった。
「ン……真央さん……耳、触っても良いですか？」
「……っ……」
真央は躊躇いがちに、由梨子から視線を外しながらも、こくりと頷いた。同時に、さわっ……と、耳に由梨子の指が触れる。
「本当に……キツネの耳、なんですね……先輩から話を聞いても信じ切れませんでしたけど……」
「ゆ、由梨ちゃん……あのね、耳……弱いから……あんまり……ンッ……！」
「弱い……？」
言った側から、耳の内側に指を入れられ、柔らかい白い毛先を弄ばれる。
「ひぁっ……やっ……やめっ……」
ゾゾゾゾゾゾゾッ……！
寒気にも似たものが背筋を駆け上がり、反射的にぴんっ、ぴんと由梨子の指を打ち払うように耳が動く。
「……くす、真央さん……可愛いですよ」
「ぇっ、ぁっ……やっ、ぁあッ！！」
内耳の毛に息がかかるほど近くからぼそりと囁かれた瞬間、何をされるのか真央には解ってしまった。何故なら、月彦にも幾度となく同じ事をされて、声を上げさせられたからだ。
「ひゃぁっぁっっ……やめっ、ぁっ……ゆり、ちゃっ……そこ、舐めないでっぇ……」
懇願は、聞き入れられなかった。月彦のそれよりも小さな舌が内耳を這い、白い毛をちろちろと弄ぶように舐め上げてくる。
（い、やっ……だめっ、感じちゃ……だめっ……！）
月彦に同じ事をされて、感じて、イかされてしまうのはいい。しかし、違う相手からの愛撫によって快感を得てしまうことに、真央は耐え難い背徳を覚えてしまう。……そう、霧亜から悪戯めいた事をされたのを、未だに月彦に言えない様に。
「真央さんって……すっごく敏感なんですね。……初めからですか？ それとも……」
「ひぅっ……」
はむっ、はむと甘く唇だけで耳を噛まれ、真央は身を強張らせながら悲鳴を盛らす。
「先輩に開発されて、そうなっちゃったんですか？」
「し、知らない……そんなの……ぁぅッ……！」
また、しゅりっ……と、スカート越しに秘部を擦られる。どうやら、偶然ではなく、態とやられているらしかった。
「真央さん、正直に答えてください……先輩とは、どれくらいエッチしてるんですか？」
先ほどまでと変わらない、如何にも由梨子らしい、静かな物言いだった。ただ、僅かに息が乱れ、微かに悋気の響きが含まれたその言葉に、真央は答えを躊躇ってしまう。
「い、一週間に……二回、くらい……」
別に、嘘をつかねばならない理由などなかった。しかし、由梨子の雰囲気に押される形で、真央はつい嘘をついてしまった。
「……嘘、ですよね。真央さん？」
本当は毎日なんじゃないですか？――さわ、さわと部屋着のトレーナーの上から胸元を撫でながら、由梨子がそんな事を囁いてくる。
「ブラ……つけてませんよね。家ではいつもこうなんですか？」
「やっ……ゆり、ちゃ……やぁっ……」
トレーナー生地の上から、的確に先端の場所を探り当て、由梨子はそこばかりを刺激してくる。真央が堪りかねたように身じろぎしようとしても、やはり逃げることなど叶わない。
「これって、先輩を誘ってるんですよね？ 先輩が……巨乳好きだって知ってて、襲ってもらう為に……態とブラつけてないんじゃないんですか？」
「ち、違っ……違う……つけないほうが、楽……だから……」
真央はまた、嘘をついた。その気まずさから、由梨子の顔を見ることが出来ず、目を泳がせてしまう。
「やっ、ぁ……由梨ちゃん、おね、が……止めてっ……ぁっ……ぁっ、ンっ……」
するりと、トレーナーの下に由梨子の手が潜り込んでくる。ぐにっ……と粘土細工でも捏ねるように掴まれ、尖り始めた場所を指先でくりくりと弄られ、真央は危うく声を漏らしてしまいそうになる。
（やっ……だ、め……父さま、見ないで、ぇ……）
由梨子との事は、月彦が画策した事だ。しかしそれでも、月彦の前で、月彦以外の相手に喘がされているのを見られたくなくて、真央は羞恥のあまり顔を真っ赤に染めてしまう。
「……真央さん、本当にイヤなら、拒んでくれて良いんですよ？」
今更のように、由梨子がそんな事を言い、そしてまた耳を食み始める。真央はもう、声を押し殺すだけで精一杯だった。
（……っ……由梨ちゃんに、バレ、てる……私が、もう……拒めない、事……）
最初は、本当にイヤだった。なんとか組み敷かれまいと、本気で抵抗もした。しかし、今は――。
（父さま……ごめんなさい……でも、由梨ちゃん……本当に、巧いの……）
体の使い方、組み伏せ方も。キスも、指使いも。こうして耳を甘噛みされながら、乳房を弄ばれているだけで、真央は身動き一つ出来なくなってしまうのだ。
「……はぁ、はぁ……ンンンッ……！」
そして、キス。胸を揉まれながらのキスは、真央が最も好きな愛撫の一つだが、それも相手が月彦であればこそ。
しかし。
（ぁっ、ぁっ、ぁっ……あたま……シビれてきちゃう……！）
単純に、技量だけで判断するならば、由梨子のキスは月彦のそれよりも巧い、と感じた。勿論、キスの巧い下手が重要なのではない。重要なのは相手だ。
（ぁっ、ぁっ、ぁっ……！）
なのに、何故こうまで感じてしまうのだろう。キスをされながら、胸を弄られただけで、ゾクゾクするほどに感じて、体の力が抜けてしまうのだろう。
（とう、さまに……見られてる、から……？）
そうとしか、思えなかった。ただ、由梨子と漫然と肌を重ねただけでは、どう考えてもこうはならない。やはり、行為の中の何処かに月彦というファクターがあるから、感じてしまうのだ。
……そう思う事で、真央は己の中にわき上がる背徳感を納得させ、そして徐々に……由梨子からの愛撫の虜となっていく。
「くす……真央さん、恥ずかしがらないで……もっと声を出して下さい」
そしてとうとう、由梨子の手が真央のスカートの下へと伸びる。
「……先輩が、嫉妬しちゃうくらい、真央さんのいやらしい声、いっぱい聞かせてください」
「やっ、ゆり、ちゃ……ぁっ、ぁあッ！！」
下着の下をはい回る指に堪えきれず、まるで由梨子によって奏でられる楽器のように、真央は喘ぎ声を上げた。
最初は戸惑いがちに、しかしいつしか夢中になって睦み合っている後輩と娘を、月彦は複雑な面持ちで観察していた。
（……確かに、“これ”を計画したのは俺だが……）
果たしてこれで本当に良かったのだろうか――時間が経つにつれて、そんな気持ちが沸々と沸いてきたのだ。
なにやら小声でぼそぼそと囁きあいながら、上になったり下になったりをしている二人を見ると、ひどく仲間はずれにされたような気にすらなってくる。
（このまま由梨ちゃんと真央が仲良くなったら……ひょっとして捨てられるのは俺なんじゃないのか？）
父さま、ごめんなさい……でも、私……由梨ちゃんの方が良いの――目をうっとりと濡らしながら、由梨子と腕を組んでいる真央の姿を想像してしまって、咄嗟に月彦は首を振って妄想を打ち消した。
（……由梨ちゃんも、由梨ちゃんだよな…………）
喫茶店で話を持ちかけたときは、なんとも躊躇いがち……戸惑いを隠せないという様子だったというのに、いざ真央と同じベッドに上がればどうだ。まるで水を得た魚、嫌がる真央を容易く組み敷き、行為にもつれ込ませてしまった。
（……元々、レズだったって話は聞いてたけど…………）
嫌がる真央を巧みに組み伏せつつ、尚かつ自分は自由に動けるようなポジションの取り方の巧みさは、見ていて寒気がする程だった。まるで、蜘蛛が捕らえたチョウを補食しているかのようなその動きは、月彦としても見習わざるを得なかった。
「……由梨ちゃんって、なにげにＳだよな……」
一人で居る孤独に耐えかねて、月彦はついそんな事を呟いてしまう。見学者からの突然の声に、すっかりエロエロモードに入っていた二人の後輩はハッと顔を見合わせる。
「せ、先輩っ……急に変な事言わないで下さい！」
「いや……なんとなく……見ててそう思った。Ｍの真央とそんなに巧くかみ合うんだから、由梨ちゃんはＳに違いない」
「そ、そんな事……ないです、私は……普通、ですよね、真央さん？」
「ううん……普通じゃ、ないと思う……」
顔を赤らめながら、真央がぽつりと呟く。二人の属性の違いは、そのまま今の衣類にも当てはまった。殆ど着崩れず、部屋に訪れた時のままの由梨子に対して、真央は部屋着のトレーナーは脱がされ、下はスカートこそ履いているものの、下着は太股まで脱がされているという状態なのだ。即ち、どちらが多くアドバンテージを取り続けたのか、一目瞭然だった。
（まあ、確かにこれはこれで……金がとれるくらい、スゴい見せ物ではあるんだけど……）
さすがにこうまで二人きりの世界に入られると、月彦としてはやるせなかったりする。
「そうだ、由梨ちゃん、由梨ちゃん」
月彦は椅子ごとベッドに近寄ると、手招きして由梨子に耳を傾けさせ、ゴニョゴニョと耳打ちをする。
「えっ……そんな……」
「大丈夫、由梨ちゃんなら出来る」
一人、耳打ちの内容をしらない真央だけが、きょとんと目を丸くしている。その体を、由梨子がそっと抱き起こす。
「由梨ちゃん……？」
「あの、真央さん……先輩が、ですね」
ちらり、と月彦の方に視線を送りながら、由梨子は辿々しく“準備”を勧める。
「もっと良く見えるように、やって欲しい……そうです」
「よく見えるように……って……えっ、やっ……」
由梨子は真央の下着を完全に脱がせ、ベッドの縁に座らせる。そして、自分は真央の背後から羽交い締めに近いような体勢で、片腕を真央の脇と背中に通すようにしてその両手を完全に封じ込める。
「真央さん、足を開いてください」
「やっ……そんな事、したら……」
「開かないと、続きをしてあげませんよ？」
今、真央がどういう状態にあるのかを完全に見透かしたような言葉だった。
「……っ…………」
真央は渋々、足を開く。スカートさえなければ、月彦に対して丁度秘部を晒しているような体勢になる。
「先輩、これならどうですか？」
真央の背後から、頬をくっつけるようにして、さも忠実な従者が主の機嫌を伺うようなに由梨子が呟く。
「……ああ、悪くないな」
頷きながら、月彦は確信する。由梨子はやはり、Ｓだと。
（似合いすぎだよ、由梨ちゃん……）
自覚はきっと、無いのだろう。こういった役が、まさかここまでハマるとは思っていなかっただけに、ある意味では嬉しい誤算だった。
（俺の予想じゃ……最初に仕掛けるのは由梨ちゃんでも、途中からリードとるのは真央……だったんだが）
媚薬を過剰摂取した時ならばいざ知らず、平時において“犯されるエッチ”というパターンに慣れさせすぎたせいかもしれない。
「と、父さま……イヤっ……そんなに、見ないで……」
「何故だ、真央？ さっきまであんなにノリノリで由梨ちゃんとキスしてたじゃないか」
「の、ノリノリ、なんかじゃ――」
「由梨ちゃん、真央が早く続きをして欲しいってさ」
真央の言葉を遮るように、月彦は冷徹に言い放つ。くすっ……由梨子もまた、そんな冷たい笑みを浮かべて、空いている右手でむにっ、と真央の胸元をまさぐり始める。
「やっ……由梨ちゃっ……やめっ……ぁっ……」
「真央さんって、本当にエッチなんですね。先輩に見られて……乳首、さっきより堅くなってますよ？」
「違うな……エッチじゃなくて“淫乱”なんだ。そうだろ、真央」
「そうなんですか？」
「ひぁっ……ち、違うっ……違う、の……やぁっ、だめぇっ……そこ、摘まないでぇぇ……！」
答えを急かすように、由梨子にくり、くりと先端を摘まれ転がされて、真央は肩を弾ませながら、父親の言葉を否定する。
「違うもんか。なんなら……真央の耳にそっと囁いてやればはっきりするよ。……淫乱、って」
「……真央さん」
由梨子は妖しい笑みを浮かべ、真央の狐耳の中にそっと口を忍ばせるようにして、囁く。実際に囁かれた言葉は、小声すぎて月彦の耳には届かなかったが、ぶるりと真央が体を震わせるほどに、刺激的な単語なのは間違いが無いらしかった。
「先輩の言うとおりですね……真央さん、“淫乱”って言われるの、体が震えちゃうくらい、好きなんですか？」
「やっ、イヤぁっ……由梨ちゃん……お願い、そんな、酷いこと、言わないでぇ……」
「真央さんが本当にイヤなら、私だってそんな事言いません。……でも、真央さんの体……喜んでますよね？ 淫乱、って言われるの」
由梨子はぺろり、と真央の首筋を舐め、胸を触っていた手が、今度は腹をなで回す。その手つきがなんともいやらしく、艶めかしく……月彦は思わずごくりと生唾を飲んでしまった。
（由梨ちゃん……間違いなく、俺に“魅せる”為に……やってるな……）
真央に快感を与える事が目的ではない。艶めかしい手と指の動きで、見に徹している月彦をまるで挑発でもしているかのように、腹部を撫でていた手がスカートを乗り越え太股に。太股をなで回しながら、時折指先がスカートの下に潜り込む――とみせかけて、また腹部を通って胸を触ったりと。一つのショーのように動き回るのだ。
「真央さん」
そして、胸元で掌で乳首を転がすように愛撫した後、由梨子は唐突にくいと真央の顎を持ち上げ、自分の方へと向ける。
「キス……しましょうか」
「え……」
既に、由梨子の焦らすような愛撫に晒され続け、露骨に喘ぎすらしないものの、押し殺したような声を漏らし続けた真央は月彦の目から見ても、完全に出来上がってしまっていた。
とろんっ、と。まるで生まれて初めて酒を飲んで、前後不覚に陥っている幼子のような目をしている真央の唇を、由梨子は唐突に奪った。
「ンっ……んっ、んっ……ぁ……んっ……！」
どちらともなく、そんな艶めかしい声をもらしながら、二人の後輩は月彦の眼前でキスを続ける。由梨子の舌が、真央の舌が、互いを求め合うように絡み合うのを見て、月彦は不覚にも唇を噛みそうになってしまった。
（随分気持ちよさそうだな……真央？）
嫉妬にも似た感情を胸の中で燃やしながら、月彦は未だキスを続ける二人を凝視する。
（確かに、由梨ちゃんは滅茶苦茶キスが巧いからな……でも、そこまで夢中にならなくてもいいんじゃないか？）
全てをプロデュースしたのは己自身だということも忘れて、月彦は今すぐ二人を引っぺがしたい衝動に駆られる。程なく、由梨子の方がついと、銀色の糸を引くようにして、唇を離した。
「やっ……もっと――」
そこまで口にして、真央はハッと、月彦の方を見る。
「ち、違うの……父さま、今のは……」
「ほう……真央、由梨ちゃんのキスはそんなに“良い”のか？」
ビキビキと、青筋が浮かびそうになるのを堪えながら、月彦はにっこりと笑顔を浮かべる。
「真央さん、キス……もっとしたいんですか？」
「ま、待って……由梨ちゃん……やっ……ンぅ……！」
由梨子に顎を掴まれ、再び唇を奪われる。が、やはり――余程に抗いがたいのだろう。一度唇を重ねるや、真央はまるで哺乳瓶を咥えさせられた赤子の様に大人しくなってしまう。
そして、真央が動きを止めたと見るや、顎に添えられていた由梨子の手がつつつと。蛇のような動きで真央の胸元へと這い、やんわりと揉み始める。
「ンンンッ……ンッンぅぅ……んはっ、ぁ……」
「真央さんのおっぱい……スゴいですよね。……ひょっとして、学校で一番大きいんじゃないんですか？」
勿論、生徒の中では――という意味だろう。確かに、記憶を探っても、真央ほど目立つ巨乳を持っている女性徒の顔は浮かんで来なかった。
（……妙子が居りゃ、な……）
巨乳という意味では良い勝負だろうが、生憎と学校が違う。
「こんなに大きいのに……真央さん、感度も抜群ですよね。……それって、凄くズルいと思います」
いや、別にズルくはないだろう――月彦はついそんなツッコミをいれそうになってしまう。
「真央さん、顔をこっちに向けてください」
胸を鷲づかみにし、中指と薬指の間で器用に先端をコリコリしながら、由梨子がそんな言葉を囁く。先ほどまでは、無理矢理由梨子が顎を誘導し、自分の方を向かせていた。しかし、今度は――真央自ら顔を向け、そして、唇を重ねる。
「ンンッ……あむっ、ちゅっ……ンぅ……！」
真央の方から仕掛けた――というようにも見える、食らいつくようなキス。その合間にも、ぐにぐにと巨乳を揉まれ、真央は喉を震わせるようにして身じろぎをする。
（……初めて、見る……な……）
普段、真央とキスをし、同時に愛撫をしても、その時に真央の首から下がどうなっているのか――それを見ることは出来なかった。
しかし今は、キスをされながら胸を揉まれ、真央が焦れったそうに腰を回す様も。扇情的に蠢く腹部も、まるで下半身を差し出すように開く足も。その全てが晒されていた。
（……っ……ヤバい、な……）
段々、由梨子に任せていられなくなる自分を、月彦は感じ始めていた。今すぐ由梨子を押しのけ、真央を犯してやりたい――誰が本当の主人なのかを、骨身に染みさせてやりたかった。
（……我慢、だ……）
これは、自分が言い出して、やらせている事ではないか。それを自らぶちこわしにするような事出来ない――しかし。
（由梨ちゃんも……結構、ねちっこい攻め方するよな……）
それとも、これが“女の子同士”の普通なのだろうか。てっきり、６９になって互いに舐め合ったり、貝合わせをしたり、双頭バイブなどの器具を使って互いに激しく貪り合ったりといったものを想像していただけに、由梨子のこういった攻め方は些か予想外ではあった。
（それとも……俺が……口を挟まなきゃ、そうなってたのか？）
月彦には、判断がつかなかった。
次第に、胸を触っていた由梨子の手が徐々に南下し、スカートの下へと潜り込んでいく。
「んぷっ、んっ……んちゅっ、んんぅっ……ンぁっ……ぁふ……ぁっ、ぁっ……」
由梨子の指が、目的の場所へと到達したのだろう。真央が弾かれたように体を震わせ、キスを中断して声を上げる。
くすりと、由梨子は真央の頬を舐めるようにして、笑みを盛らす。
「先輩、そこからじゃ……スカートの下、見えませんよね？」
「……ああ、全く見えない」
「聞こえましたか？ 真央さん。……私の指、どうなってるか……先輩に説明してあげて下さい」
「いぇっ、ぁっ、や……そんなのっ……あっ、ぁぁぁああっ！」
びくっ、びくっ……！
真央が腰を撥ねさせるようにして首を振り、拒否の意を示す。
「それじゃあ、スカート脱がせちゃってもいいんですか？ 真央さんが“先輩以外の相手”にキスされて、体をさわられて、どれだけ興奮しちゃってるのか、全部バレちゃいますけど」
「うぅぅ……」
「ほら……真央さん？」
もぞりと、由梨子の腕がさらにスカートの下へと押し込まれる。
「ぁっ……っ……ゆ、由梨ちゃんの、指……今、私の……中、に……入って……ぁっ、ぁっ……！」
くい、くいと腰を前に押し出すように震わせて、真央はさらに声を荒げる。
「あっ、んっ……ゆ、……ゆっくり……出たり、入ったり、して……やっ……指、曲げないでぇっ……ぁああっ！！！」
「くす……胸も敏感でしたけど、“ココ”はもっと感じやすいんですね。……指、増やしますよ？」
「ぇ、やっ……ぁっ、も、もう、止めっ……ぁあっ！！！」
由梨子が、右手を蠢かせるたびに、真央は面白いように腰を震わせ、跳ねさせる。はあ、はあ……ぜえ、ぜえ……その恥知らずな巨乳を大げさに揺らしながら、時折ちらりと申しわけなさそうに月彦の方へと視線を走らせてくる。
（真央……そんなに、良いのか……）
由梨ちゃんの指が――ぎりっ、と背もたれが軋む程に強く、月彦は握りしめてしまう。
「っ……凄いですよ、こんなにヌルヌルになってるのに、指が動かせないくらいぎゅうっ、って締め付けてきて……先輩が、真央さんが一番って言う理由が、少し分かった気がします。……こうして……指で触ってるだけなのに……すっごくムラムラしてきちゃうんですから……」
指で触っているだけでムラムラする――由梨子のその言葉には、月彦も全く同意だった。そして、それは由梨子の本音でもあったのだろう。
「ンぁっ、ぁう……ぁぁっ、だ、めえっ……由梨、ちゃん……やぁぁっっ……そこ、ぁっ、ぁっぁぁぁぁぁッ！！！」
事実、徐々にではある、が由梨子の攻め方は攻撃的になりつつあった。月彦に“観せる”という動きから、明らかに真央をイカせるための動きにシフトチェンジしたらしかった。
「……真央さん、聞こえますか？ スカートの下から、凄い音してますよ？」
「やっ、い、言わないでぇっ……やぁぁぁっ……！」
ぴんっ、と真央は狐耳を伏せるようにして、由梨子の言葉から耳を背ける。
「真央さん、ひょっとしてイきそうなんですか？ 女の子同士なのに、最初はあんなにイヤだって抵抗してたのに……大好きな先輩の前なのに……イきそうなんですか？」
愉悦の笑みすら浮かべ、由梨子は容赦なく真央を責め立てる。いつも、自分の下で可愛らしく喘いでいる由梨子とのそのあまりのギャップに、月彦は寒気すら覚えてしまった。
（Ｓだ、誰がどう見ても、１００％ドＳだ）
最早、月彦という見学者が居る事など念頭に無いかのような容赦のない責めッぷりだった。この瞬間をビデオかなにかに収め、後で由梨子に見せてやれば顔を真っ赤にして失神してしまうのではないだろうか。
（でも、残念ながら俺はそんな機器は持ってない）
だから、あの礼儀正しく可愛らしい由梨子にもこんな一面があるのだと、月彦は己の脳裏にしっかり焼き付ける事にした。
「やぁっ、んぁっ、ぁう！ あんっ！ おね、がい……由梨、ちゃ……も、やめっ…………ぁぁぁぁッ！！！」
「イッてもいいんですよ、真央さん。……そしたら、止めてあげます」
ちゅぐりっ……ひどく粘度の高そうな音がスカートの下から聞こえて、真央が体を震わせながらサカリ声を上げる。しかし、長いこと愛娘の反応を見てきた月彦にはすぐに解った。
イッてはいない――と。
「やぁぁぁっ……も、無理……無理、なのぉ……」
目尻に涙を溜めながら、懇願するようにふるふると首を振る真央に対して、由梨子は理解できないとばかりに目を丸くする。
「……そんな……どうして……」
「…………ああ、それは……多分、こういう事じゃないかな」
出来ることなら、最後まで口を挟まず、二人のシたい様にさせてやろうと思っていた。しかしどうやら、そうもいかないらしかった。
「……俺が相手じゃないとイけない……そうだろ、真央？」
テクニシャンの親友に散々喘がされ、へとへとになっている真央は羞恥に頬を染めながら、しかし小さく頷いた。
「せ、先輩じゃないとダメ…………そんな……」
冗談を言われているとでも思ったのか、由梨子は困ったような笑みを浮かべる。
「本当、なの……私、父さまじゃないと……ダメなの……そういう風に、躾られちゃったの……」
「そんな……躾って……」
「……実際、真央はイかなかったろ？ まあ、あれだけ喘がされたら、イッたも同然だけど……」
「で、でも……先輩以外がダメだなんて……どうやったら、そんな……」
「時間はかかるけど、難しい事じゃないよ。……なんなら、由梨ちゃんもそういう風にしてあげようか？」
半信半疑――否、信じられないという顔をする由梨子に、月彦は冗談めかして言うが、
「い、いえ……私は、いい……です……今のままで……」
悲しいことに、必要以上に拒まれてしまった。
「まあ、でも……由梨ちゃんには良いもの見せてもらったよ。……もう少しで危うく、乱入しちまう所だった」
「ぁっ……いえ……私、ちょっと……調子にのっちゃってたかもしれません……その、女の子同士でって……すごく、久しぶり、でしたから……加減が、解らなくて……」
「うんうん……解ってるよ、由梨ちゃん」
そういった、いじらしい後輩というヴェールに隠された悪魔が、由梨子の中に棲んでいる事も。
「とりあえず、手……出して」
「はい……これで、いいですか？」
由梨子が差し出した左手に、月彦はぺちんと己の左手を軽く合わせる。
「さあ、バトンタッチだ。……真央、待たせたな」
「ぇ……と、父さま……まさか……」
「何が“まさか”なもんか。当然の流れだろ？」
月彦は苦笑しながら、いとも容易く真央をベッドへと押し倒してくる。――が、真央はいつになく抵抗をした。
（そんな、やだっ……）
“恥ずかしい所”を月彦に見られる事に関しては、ある程度耐性が無くはない。しかし、その逆は――真央には殆ど未経験だった。
「由梨ちゃん、そっちに回って、真央の両手押さえつけてくれる？」
「は、はい…………す、すみません、真央さん……」
すみません、と謝りつつも、由梨子は月彦に言われた通りに真央の両手をベッドに押さえつけた。
「やっ、ま、待って……父さま……由梨ちゃんの前でなんて……」
「三人一緒じゃないと、ただのいつも通りのエッチになっちまうだろ？ 俺は真央と由梨ちゃんの二人にも、仲良くなって欲しいんだ」
「で、でもっ……でもぉっ……やぁっ……由梨ちゃん、見ないでぇ……！」
真央はイヤイヤをするように首を振るが、そんな事で父親の鉄の意志は揺るがないらしかった。電光石火の動きですぱーんと衣類を脱ぎ捨てると、さも容易く真央の両足を押し広げ、体を入れてくる。
そのまま、由梨子の指によって散々ほぐされた場所に、肉の塊が押し当てられ、一気に――。
「アはァッ！ ぁあっ、ひぃぃっ……そんな……いき、なりぃ……はぁ、はぁ……」
「何言ってるんだ……“欲しくて堪らない”っていう顔してたのは真央だろ？」
ぐに、ぐにと抽送の度に揺れる巨乳を弄ぶように捏ねながら、月彦はいつも通りに腰を使ってくる。
「真央、今日は特別だ。好きなときに、好きなだけイッてもいいぞ」
「ンっ……ぁっ、やっ……ゆ、由梨ちゃんの前で、イったり、なんて……あんっ！ はぁはぁっ、父さま……お願い、許してぇぇ……」
真央は手の甲で口元を隠すようにしながら、チラチラと自分を見下ろす由梨子の方へと目をやる。一瞬目が合ってしまい、慌てて二人して視線を逸らした。
（やぁっ……由梨ちゃんに、見られてる……私が、父さまに挿れられて、感じてる、トコロ……）
かぁ……と、体が熱くなるのを感じた。それに比例するように、感度までが。
「ンゥ……んっ……んんっ……！！」
少しでも気を抜けば、たちまちサカリ声を上げて体を跳ねさせてしまいそうだった。
（だ、め……ガマン、しなきゃ……由梨ちゃんに、軽蔑、されちゃう……）
なんてはしたない女なのかと。学校ではあくまで普通の女の子として通してきただけに、乱れに乱れた自分の姿を見られたくない――そう、たとえ月彦の浮気相手だと解ってはいても、由梨子は数少ない貴重な友人の一人なのだ。
「……そういえば、真央は挿れられたままキスをされるのが好きだったな」
そして、必至に我慢をしている真央を嘲笑うかのように、不意に月彦がそんな言葉を呟く。
「……ぁ、あんっ！ やっ……父さま……そんなの、バラさないでぇ……ぁあッ……！」
「……そういうわけだから、由梨ちゃん……お願いしていいかな？」
「え……わ、私ですか！？」
寝耳に水、とばかりに、由梨子が素っ頓狂な声を上げる。
「勿論。由梨ちゃんだって、ただそうして手を押さえてるだけじゃ退屈だろ？」
「い、いえ……そんな……退屈だなんて……」
「……それに、真央は俺にキスされるより、由梨ちゃんのキスの方が好きみたいだからな」
「ち、違っ……父さま、それは――ンァあっ！！」
慌てて否定しようとする真央の言葉を遮るように、一際強く膣奥が小突かれる。真央が腰を浮かすようにして声を荒げ、まるでそれに触発されたかのように。
「真央、さん……」
「やっ、由梨ちゃん……やめっ……ンっ……」
由梨子が、唇を重ねてくる。月彦に挿れられたまま、由梨子にキスをされる――そんな、今までは絶対にあり得なかったシチュエーションに、真央はゾクリと快感に震えた。
「へぇぇ……由梨ちゃんにキスされてる時は、“こういう感じ”になるのか。これはこれで……」
「あぁぁあン！！」
真央の意志とは無関係に締まってしまう膣を、強引に押し広げるように何度も突かれ、たまらずキスを中断して声を荒げてしまう。が、当然そんな事くらいで月彦の動きは止まらない。
「ダメですよ、真央さん。ちゃんとキスさせて下さい」
「ンっ……ぁ……ぁふっ……はぁっ、はぁっ……や、ぁ……由梨ちゃん、キス巧いぃい……ぁああっ！ だめっ、だめっ……父さま、こんなの、一緒にされたら……頭の中メチャクチャになっちゃうぅ……ンむっ……んぅぅ……」
「そうか、そんなに“良い”のか、由梨ちゃんとのキスが。……俺より良いんだな？」
月彦は声に露骨に嫉妬を含ませて、真央の巨乳を捏ねまわしながら、乱暴に腰を使い始める。
「ンは……そ、そうじゃ、ないの……由梨ちゃんのは、巧くてぇ……父さま、のは……あぁっ、やっ……だめっ、だめっ……おっぱいだめぇえッ……イくっ……イッちゃう……由梨ちゃんの前、なのにぃ……！」
「良いんですよ、真央さんがイく所……見せて下さい。…………確か真央さん、耳も……弱かったですよね？」
「ぇっ……やだっ、由梨ちゃっ……やめっ……ひゃぁあっ、あっ！！ み、耳、だめぇええっ……！！」
「っ……おっ……絞めすぎ、だ……真央っ……」
絞めすぎ――そう言いながらも、月彦は真央の足の付け根を掴むと、強引に腰を突き出し、そして――。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、あァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ！！！！」
どぷんっ、どぷんっ、どぷっ……！
ぐぃぃっ……膣奥に押しつけられた先端から、途方もない量の白濁が溢れ、真央はブリッジをするよう腰を浮かせ、声を荒げた。
「っ……ま、お……！」
剛直は根本まで挿入され、先端を膣奥に押しつけた状態で足の付け根は固定され、真央が体を逃がすことも何も出来ぬようにしたまま、びゅくり、びゅくりと。
何度も、何度も特濃の牡液が打ち出され、膣奥を汚す。
「あぁぁぁぁぁ……！！ とう、さまの……熱いぃぃ…………ぁあぁッ！」
「まだだ、真央……まだ終わってないだろ？」
恒例の、アレだ。ぐりゅんっ、ぐりゅんと精液を擦りつけるように腰を動かすと、たちまち真央の体が痙攣でもするように跳ねた。
「あヒぃッ！ ひぁっ！ ぁあっ！！ やっ、とう、さまぁ……も、だめぇえっ……そんなに、濃い、の……やぁ……またっ、イくっ……イくっ……イくっ……イくぅう！！！」
「っ……いい、ぞ……真央、好きなだけ、イけ……」
ぐりゅんっ、ぐりゅんっ！
塗りつけるように月彦に動かれ、真央は立て続けに二度、三度とイかされ、軽く失神してしまった。
「あ、あの……先輩……良いんですか？」
だから、由梨子のそんな呟きも、どこか意識の外で聞こえた。
「良いって……何が？」
「だ、だって……先輩……スキン、つけてないですよね……それなのに……」
「ああ、大丈夫。ちゃんと事前に男用の避妊薬飲んでるから。……それに、真央はこう見えてまだ五才で生理はまだなんだ。だから、妊娠はしない」
「え……五さ……えっ……？」
「まぁまぁ、細かい事は気にしない気にしない」
月彦が微笑を浮かべながら腰を引き、ずんっ……と。
「……ほら、真央。何をヘバってるんだ？」
「ぇっ、やぁう！」
「まだまだ、こんなもんじゃ終わらない事くらい、真央が一番良く解ってるだろ？」
何より、真央も満足出来ないだろ？――言外にそう言い含めるようにして、月彦は真央の目を見る。
「そん、な……父さま、私は……もう……」
ちらり、と由梨子の方を見ながら、真央はいかにも“もう十分”というようなポーズをとる。
（ホントは……もっと、シたい……けど、でも……）
由梨子の前で、そんな“おねだり”などは出来なかった。
「……全く、しょうがないな」
だから。
「真央がそこまで猫をかぶるんなら……意地でも由梨ちゃんに“本当の姿”を見せてやりたくなってきたな」
「ぇ……と、父さま……？」
期待通りの父親の言葉に、ゾクリと、背筋が震えた。――ぐんっ、と。挿入されたままの剛直が、やる気に漲るように膨張する。
「……ああ、そうだ。体裁も何も気にならなくなるくらい、イかせてやる」
「やっ、やだ……父さま、やめ……っ……ぁっ、ぁっ、あっ、あぁぁぁっ！！！」
そして真央は、父親の言葉通り――親友の前で“全て”をさらけ出すのだった。
最初は、興味深く見守っていた。しかし次第に、恐怖にも近い感情が募り始めた。
「はぁ、はぁ……父さまぁ……あンっ……ぁあっ！ ぁぁああッ！！」
月彦の上に跨り、はしたなく腰をふっていた真央が仰け反るようにして声を荒げ、ぴくぴくと体を痙攣させる。尻尾の毛は逆立ち、真央の上体がくたぁ……と倒れ込むと同時に萎れるそれを、むんずと月彦の手がつかんだ。
「あひィッ……やっ、父さまぁ……」
「まだだ、真央……まだイき足りないだろ？」
月彦が促したのか、それとも真央が自分から動いたのか。繋がったままくるんと真央の体の向きが逆になる。そのまま、月彦が体を起こし――
「あぁっぁっ、ひぁっ……ぁあっ……父さま、父さまっぁ……ぁあっ……！」
後ろから被さるようにして突かれ、真央はベッドシーツを掻きむしるようにして声を荒げる。最早、第三者に対する体裁を繕う余裕など皆無なのか、快感漬けにされてすっかり濁ってしまっているその目には、由梨子の存在などまったく映っていないらしかった。
（……一体、いつまで――）
続ける気なのだろうかと。由梨子は半ば呆れながらも、しかしその目は狂ったように交尾を続ける二匹の獣に釘付けになっていた。
（真央さんとは、いつも“こう”なんですか？ 先輩……）
だとすれば、さぞ不自由な思いをした事だろう。何故なら、自分は今、眼前で抱かれている真央の半分ほども、月彦の相手をした事がないのだから。
「あぁぁァァァッ……ひぃっ……ひぃいっっ……やっ、も、らめぇっ……と、さまぁ……死んじゃうっ……壊れちゃうぅうッ！！」
ぐいぃぃぃ……！
ベッドシーツを握りしめたまま、引き寄せるように藻掻きながら、真央が悲痛な叫びを上げる。だが、真央のそんな声を聞いて尚、月彦は一切の動きを止める様子がない。
「あ、あの……先輩……真央さん、もう、本当に無理なんじゃ――」
「ァァああァッ！ ぁはぁぁあっ、あうっ……ンぁぁぁぁッ！！！」
見るに見かねて、由梨子が止めに入ろうとするも、真央のさらなる嬌声によって完全にかき消されてしまった。
「ふーっ……ふーっ……ふーっ……真央っ……！」
くたぁ……と力無く伏せる真央に被さったまま、月彦がぎゅうっ……とその体を抱きしめる。真央は意識があるのかないのか、シーツに涎の染みを作ったままぜえぜえと呼吸を整えるのみだ。
「……由梨ちゃん、何か言った？」
不意に月彦が体を起こし、そんな事を聞かれ、由梨子は弾かれたように身を震わせた。
「ぇ……ぁっ……そのっ……」
真央の叫びによって、完全にかき消された筈の自分の声が月彦にしっかり聞かれていた事に得体のしれない恐怖を感じながらも、由梨子は愛想笑いを浮かべる。
「ま、真央さん……もう本当に限界みたいでしたから……」
「あぁ……そうか。由梨ちゃんは知らないからね……真央の本当のスゴさを」
「……真央さんより……先輩の方が――」
と、口にしかけて、由梨子は慌てて次ぐんだ。今、下手な事を言うのは、後々命に関わりかねないような、そんな第六感を感じたからだ。
「……さてと、次は……由梨ちゃんの番かな」
そしてその予感は、月彦のそんな呟きと共に現実のものとなった。
「え……先輩……わ、私の番……って」
「随分待たせちゃったね。……でも、待たせた分の埋め合わせはちゃんとするから」
眩しいばかりの笑顔を浮かべて、月彦が手をさしのべてくる。
「い、イヤッ……や、やめて下さい！」
その手を、由梨子は反射的に振り払っていた。
「……由梨ちゃん？」
「ぇ……あ、いえ……ち、違うんです……せ、先輩……真央さんとあんなにシて……疲れてるんじゃないんですか？ だから、私はもう……今度で……」
「俺なら全然平気だけど？」
けろりとした顔で言われて、由梨子は慌てて別の“言い訳”を考えねばならなかった。
「で、でも……そんなっ……ひっ……！？」
ずるり、と。月彦とは逆の方向から、“何か”にしがみつかれて、由梨子は肝を冷やした。
「ま、真央……さん？」
今の今までぐったりと、気絶したように伏せていた真央がいつのまにかしがみついてきていた。真央は由梨子の腰の辺りに抱きつくようにしながら、スカート越しにくん……と鼻を鳴らす。
「由梨ちゃん……すごく、いやらしい臭いがする……」
「や、止めて下さい……真央さんっ……どうして――」
あんなにイかされて、完全に骨抜きにされた筈なのに。まるで亡者かなにかにしがみつかれているかのように、真央の両手をふりほどく事が出来なかった。
「……だから言ったろ？ 由梨ちゃんは真央のスゴさを知らないって」
くつくつと、月彦が笑う。てっきり、月彦の勝手な思いこみだとばかり思っていたが、どうやら本当らしかった。
（そん、な……あれだけ、イかされて……何回か失神までさせられてた、のに……）
まだ、これだけの力でしがみつくことが出来るというのが、由梨子には信じられなかった。
（……っ……ま、真央さんが……そんな、だから……）
月彦が、全ての女性がそうであると勘違いしてしまっているのではないか――そんな恨みがましい目で由梨子は真央を見下ろすが、当の真央は由梨子がそんな目をする理由が分からないとばかりに首を傾げた。
「ズルいよ、由梨ちゃん」
「ず、狡い……って……」
「私ばっかり、由梨ちゃんに恥ずかしい所いっぱい見られて……由梨ちゃんだけこのまま帰っちゃうなんて、絶対許さない」
「そん、な……真央さん、言ってる事が……」
最初と違う――その呟きは、声にはならなかった。由梨子の記憶が正しければ、三人での行為に一番反対していたのは真央だった筈だ。それなのに、今は――。
「そうだな……俺も、真央と同意見だ」
「ひっ……せ、先輩！？」
一体いつのまに背後に回られたのか、ぽむと両肩に手を置かれ、由梨子は心臓が止まりそうになった。
「第一、このまま由梨ちゃんだけ何もせず返すなんて、俺の気が済まない。今度の事で、由梨ちゃんにもいっぱい迷惑かけちまったから、お詫びがしたい」
「私も、由梨ちゃんの事叩いちゃったよね？ ごめんね、由梨ちゃん」
ごめんね、と言いながら真央はずるりと身を寄せてきて、さわさわと意味深に由梨子の体をなで始める。言外に“気持ちよくしてあげるから、許して”と言わんばかりの手つきだ。
「やっ……ちょ、ちょっと……真央さんっ……せ、先輩っ！ 離して下さい！」
いつの間にか、両腕がしっかりと月彦に拘束されてしまっていて、由梨子は慌てて声を荒げた。
（ダメッ……このままじゃ、二人がかりで…………）
月彦と、真央。この二人を同時に相手にしたら骨も残らない――それは漠然とした予感ではなく、様々な要因から簡単に予測できる“事実”だった。
「ま、待って……待って下さい！ せ、先輩……」
「うん？」
「わ、私も……真央さんみたいに……せ、先輩に……“普通”にシて欲しい、です……だから……」
逃がしてもらえないのなら、せめて月彦一人に絞って欲しいと。由梨子は別れ話を切り出された時すら使うまいと決めていた禁じ手――涙目で月彦に訴えかける。
（だって、そうじゃないと……）
十数時間後には、動かなくなった自分を挟むように月彦と真央が座り込んで二人して首を捻っている――そんな光景が現実のものになってしまうだろう。
「由梨ちゃんはこう言ってるけど……真央、どうする？」
「ダメ。私も、由梨ちゃんにシてあげたいの」
「……だ、そうだ。由梨ちゃん」
「そ、そんな……せ、先輩！ 真央さんを止めて下さい！ 先輩なら――！」
「無理だ。真央はああ見えて頑固な所があって、一度言い出したら絶対聞かないんだ」
むぅ……と、月彦が処置無しとばかりに沈痛な声を出す。もちろん、由梨子にはそれが月彦の本音ではない事くらい、百も承知だった。
（先輩が……一番、Ｓじゃないですか……）
由梨子はもう一度異論を唱えようかと迷ったが、結局口には出さなかった。言ったところで、通じるとは思えなかったからだ。
「っ……だ、ダメっ……真央さんっ、止めて下さい！」
しかし、心の中では諦めても、実際真央がスカートの下に頭を潜らせ始めると、抵抗をせずにはいられなかった。
何故なら。
「っっっ……やっ、真央、さん……止めて、下さい……」
「……由梨ちゃんの下着、凄く湿ってるよ？ 私と父さまがシてるの見て、興奮したの？」
すり、すりと鼻先を下着にすり当てられ、由梨子は顔から火が出そうだった。
「やめ、て……真央さん、ホントに止めて下さい……やぁっ……！」
出来る事なら、両手で真央の頭を押さえつけて、それ以上の侵入を拒みたかった。しかし、両手は月彦によって完全に封じられ、打つ手が無かった。
「……真央、そんなに由梨ちゃんの下着は濡れてるのか？」
「うん。さっきよりもっと濡れてきたみたい」
「っっ……」
由梨子は反射的に足を閉じるような動きをするが、間に真央の体が入っている為、大した妨害にはならなかった。
「そうか……だったら脱がしてあげないとな。こんな冬場に、濡れた下着なんて履いてたら風邪引くかもしれない」
「そうだね。由梨ちゃん……脱がせるからお尻あげて？」
「ま、真央さんまで……やだっ……イヤっ、止めて下さいっ！」
由梨子は必死になって抵抗をした。しかし、せいぜい足をばたつかせるだけのそれはやはり大した妨害にはならず、いともあっさりと真央に下着を脱がされてしまった。
「うわぁ、すごぉい……ほら、父さま見て？ お尻の方まで色が変わっちゃってるよ」
「っっっ……ま、真央さんっ……！」
脱がせた下着を指で広げるようにして差し出され、由梨子はもう瞼を開いていられなくなった。ただ、唇を噛むようにして、羞恥に堪え続ける。
「……なんだ、いつもより全然濡れてないな。……いつもはもっと、スカートからベッドにまでシミるくらいスゴいのに」
「っっっ……せ、先輩！ な、何言ってるんですか！」
目を閉じ唇を噤んでいた由梨子は慌てて月彦の言葉を否定した。
「そんな、いくらなんでも、そんなに濡らしたりしませんっ！」
「……カラオケボックスでシた時は、確かソファまで汚さなかったっけ？」
うっ、と由梨子が言葉に詰まっていると、もぞもぞと真央の手が太股を這い、スカートの中へと入ってきた。
「カラオケボックス……そんな所でもエッチしたの？」
羨望と嫉妬、その両方が交じった目で、ジトリと真央に睨まれる。
「あぁ、あの時はスゴかったな……確か、２回くらい時間延長したんだよな」
「そうなの？ そんなにいっぱいエッチしたの？」
さわ、さわと。太股を撫でる真央の手つきが活発になる。それが、何かの危険な前兆のように感じられて、由梨子は咄嗟に逃げるように体を引いた。
「先輩！ そんな、真央さんを煽るような事を言わないでください！」
「煽るも何も……本当の事じゃないか。あぁ、そう言えば……由梨ちゃんが初めて潮吹きしたのも、あの時だったっけ」
「せ、先輩っ！ もう止め――……ひっ……！」
上体を捻るようにして声を荒げていた由梨子は、その隙にスカートの中へと潜り込んできた異物にハッと視線を戻した。
「やっ……」
下着を剥がれ、剥き出しになっているその場所に、湿っぽい吐息がかかる。
「ぁぁぁぁ……ぁぁぁ…………ッ……！」
ぬろりっ。
ぬろっ、ぬろっ。
秘部を這う舌の感触に、由梨子は切ない声を漏らしてしまう。そう、男の舌ではない、女の子の舌の感触――懐かしさすら感じるそれに、体が必要以上に反応してしまうのだ。
「ま、真央……さん……ダメ、です……そんなっ……ぁっ、ぁっ…………」
ゾワゾワとわき上がってくる感触に、腰が勝手に動いてしまいそうになる。事実、もし真央と二人きりでの事であれば、それこそはしたなく声を荒げ、快感を貪っていたかもしれない。
しかし、背後で由梨子の両腕を掴んでいる月彦の存在が、そうさせてはくれなかった。
「んっ、ぁっ、ふっ……んんっ……！」
真央に奉仕され、乱れる様を見られている――その枷が、由梨子にはなんとも焦れったく思えた。
「はぁ……はぁっ……んっ……ぁっ……ぁぁぁぁっ……」
抵抗しなければ――そんな想いは、真央の舌によって舐め溶かされたように消え失せつつあった。両腕からも力が抜け、それを察したかのように月彦の拘束も解かれた。
「由梨ちゃん……」
優しい声と共に、抱きすくめられるようにして顎を掴まれ、振り向かされてのキス。
「ンぁ……んんっ、んんっ……！」
下半身を舌で愛でられながらキスをされるという、通常のエッチではありえない組み合わせに、思わず頭が痺れそうになってしまう。気がつけば、自ら積極的に舌をつきだし、月彦のそれに絡めていた。
「ン……ンふっ……せんぱっ……先輩っ……んんっ……！」
さわ、さわと服の上から胸元がまさぐられる。もどかしい――と、由梨子は感じた。早く脱がせて欲しい、直接触れて欲しい――そんな想いを目線に乗せて、月彦に訴えかけた。
くすりと、月彦は優しい笑みを浮かべて、そんな由梨子の意図をすぐに察した様だった。忽ち上着、下着は脱がされ、堅く尖った胸の先端までもが露わになる。
「ぁっ、ぁっ、ぁぁぁぁぁァァ……」
堅く尖った先端を指先で弄ぶように弄られ、吐息混じりに由梨子はそんな声を出してしまう。ぬろり、ぬろりと秘部を這う舌の感触と相まって、次第に背が反り始める。
「由梨ちゃん、凄く堅くなってるね」
「やっ……言わないで、下さい……ンッ……！」
囁かれ、そのまま耳を舐められて、由梨子は頬を種に染めた。もぞりと、スカートの中から真央が頭を出したのはその時だった。
「こっちも、すごく溢れてきてるよ。……由梨ちゃん、本当に濡れやすいんだね」
「ま、真央さんまで……んっ……！」
真央に押し倒されるような形でキスをされる。ずしりとした質量を胸元に感じて、由梨子はハッと目をやってしまった。
（真央さんの胸……こんなに……私の、完全に潰されちゃってる……）
スタイルに対するコンプレックスは、今に始まった事ではない。しかし、こうしてありありと“差”を見せつけられると、屈辱とも羨望ともつかない複雑な気分だった。
「は、ぁ……ンっ……ホントだ……由梨ちゃんの乳首……すっごく堅くなってる……んっ、……」
「だ、ダメ、です……真央さん、そんなっ……っ……」
すり、すりと乳房同士を擦り合わせるように真央が体を揺する。その都度、堅く尖った先端が真央の柔らかい乳房と擦れ、由梨子もまた甘い声を漏らした。
「ねぇ、由梨ちゃん……おっぱい吸ってもいい？」
熱に浮かされたような、真央の声。由梨子はただ、小さく頷いた。
「ンっ……」
堅く尖った先端を、ちぅ……と強く吸われる。それは、月彦がそうするような、愛撫の為のものではなかった。どちらかといえば、そう……まるで赤子が、母親の乳房に吸い付くそれのような――。
「ま、真央さんっ……そんなに、強く……ぁぁ……」
ちゅう、ちぅっ、ちぅぅ……。
かつて無いほどに強く吸われ、由梨子は真央の後ろ髪を掻くようにして声を漏らす。
「……真央、そんなに吸っても、何も出ないぞ？」
端で見ている月彦からも、そんな言葉が出る始末。ハッとしたように真央は一瞬顔を上げ、そして再び濡れた先端に唇をつけた時には――。
「ぁっ……ぅっ、ぁ、ぁ……」
その舌使いは赤子のそれではなくなっていた。ぬろり、ぬろりと舌で先端を押しつぶすような動き。むず痒いような、それでいて声を抑えがたい快楽に、由梨子は翻弄されつつあった。
「コリコリしてるよ、由梨ちゃん」
唾液に濡れた先端を指で弄りながら、真央は手つかずだったもう片方へと舌を這わせてくる。
「やっ……真央、さん……もうっ……」
ジュワァァ……！
下半身から熱いものがしとどに溢れ始めるのを感じて、由梨子は反射的に足を閉じようとした。しかし、真央の体が邪魔でそれも出来ない。
それどころか。
「由梨ちゃん……どうしたの？ またいっぱい溢れちゃったの？」
「っっ……だ、ダメっ……です、真央さんっ……ぁっ、やっ……！」
さわっ……と、真央の手がスカートの下へと入るのを感じて、由梨子は途端に湯気が出そうな程に赤面した。
「ぁぁぁ…………」
ぬちゅりと、溢れたものが真央の指に絡みつくのを感じて、顔の赤みはさらに増した。「……こらこら、真央。俺の出番を取る気か」
苦笑混じりの月彦の声に、由梨子ははたと月彦の存在を思い出した。そう、その存在を忘れる程に、真央の体に、言葉に魅了されていたのだ。
「それとも何か？ もしかして……さりげなく俺の出番を無くすつもりだったのか？」
えっ……と、真央が掠れたような声を漏らす。由梨子にはまだ、月彦が何を言っているのか解らなかった。
「そうやって、なし崩しに由梨ちゃんをイかせて、それで終わりにするつもりだったんじゃないのか？」
「そんな……父さま、どうして、私が……そんな事……」
真央は、あからさまに狼狽えるような声を出す。そう、狼狽えてはいるが、どこか芝居がかったような、そんな声を。
「違うのなら、今すぐ由梨ちゃんの上から退いて、ベッドから下りろ」
ぞくっ……！
そんな悪寒めいたものに、真央が体を震わせたのが、密着している由梨子には解った。
「どうした、真央。早くしろ」
「で、でも……」
「でもじゃない。俺の言うことが聞けないのか？」
少し、怒りを含めたような月彦の物言いに、真央はさらに身を震わせ、おずおずと由梨子の上から退き、ベッドからも下りる。
「それで良い。……さぁ、由梨ちゃん」
月彦に抱きかかえられるようにして、真央の側から引き離され、そのままなし崩しに押し倒される。――が、ベッドの外、膝立ちのまままるでおあずけを食らった犬のように未練がましく視線を送ってくる真央の方から、由梨子は目を離す事が出来なかった。
「と、父さま……本当に、由梨ちゃんと……するの？」
「順番的にも、次は由梨ちゃんだろ？」
「あ、あの……先輩……その、私は、別に……“今”じゃなくても……」
真央とは別の意味でおあずけを食らった形になる由梨子だが、真央から向けられる強烈な視線に堪えかね、ついそんな申し出をしてしまう。
「いいや、ダメだ。俺が今、由梨ちゃんとしたいから、ダメだ」
「そんな……先輩……ぁっ、だめ、です……ぁぁぁっ……！」
強引に押し倒され、先ほどまで散々真央に吸われ続けた場所をちぅっ……と吸われる。それだけで、由梨子はもう腰砕けになってしまい、抵抗の気力を殺がれてしまった。
「やぁっ……父さまっ……ダメっ……やめて！」
「真央、手を出すな。そこで見てるんだ」
まるで、支配者が奴隷かなにかに命じるような、冷酷な声だった。月彦のその一言で、真央は伸ばしかけた手を引っ込め、辛うじてベッドの縁に指をかける状態でうぅぅと犬のようなうなり声をあげる。
「せ、先輩……こんなの、真央さんが……可哀相、です……ンっ……」
「良いんだ。これも躾だ……真央にはあの“嫉妬癖”を少し直してもらわないといけないから」
ぼそぼそと、真央には聞こえぬ様、小声でのそんなやり取り。由梨子はもう、横目でも真央の方を見れなくなった。
「由梨ちゃんも、もう真央の事なんか気にしないで。いつもみたいに感じて、可愛い声で鳴いて欲しい」
「い、いつもみたいにって……そんなっ……ぁっ、ぁぁァ……」
堅く尖った先端を舌と指で転がされながら、さらに空いた手でスカートの下を愛でられる。しばし、割れ目をなぞるように上下していた指が、つぷりと由梨子の中へと入ってくる。
「ンッ……ぁ、ぁ、ァ……！」
挿入されたのは、中指だろうか。くちゅ、くちゅと優しくかき回すように動くその指をさらに奥へと導くように、由梨子は腰をくねらせる。物欲しげに、肉襞を指に絡ませながら。
しかし、それも長くは続かない。由梨子が求め出したのを察するなり、月彦は指をあっさりと指を引いてしまう。ぬとりと糸を引くようにして引き抜かれた指は、そのまましばらく割れ目をなぞった後、再び挿入され、ぐじゅ、ぐじゅと恥蜜をかき回すように動き出す。
「あっ、あッ、ァあッ！」
弾かれたように声が出て、由梨子は俄に背を反らせる――が、そこまでだった。またしてもついと指が引かれてしまう。
「い、や……です、先輩……そんな風に、されたら……私……」
「そんな風にされたら……何？」
囁かれ、頬にキスをされる。
「ほ……欲しく、なっちゃいます……」
羞恥に涙すら浮かべて、由梨子は呟いた。
「……うん、俺も……由梨ちゃんが欲しい。挿れたい」
だめ……と、視界の外で掠れた声が聞こえたが、由梨子にはもう、眼前の相手しか目に入らなかった。
「……生で良い？ 避妊薬はちゃんと飲んでるから」
由梨子は、静かに頷いた。出来ることなら、直接繋がりたいという想いは由梨子とて同じであるし、仮に何かの手違いが起きて避妊に失敗してしまったとしても、後悔はしないと心に決めた相手であればこそだ。
「じゃあ、挿れるよ」
「はい、来て……くださ――……ァァあッ！ あっ、ぁっ！！」
ぐいと、敏感な部位を無理矢理押し広げられる感覚。熱く、堅い塊が下腹の奥まで入ってくるのを感じて、由梨子は咄嗟にベッドに爪を立てた。
「ぁぁぁっ、せんっ、ぱっ……やっ……大きっ……ぁぁぁっ……！」
もう、慣れたと思った。しかし、下腹部を襲う圧迫感はいつになく――。
「……ふぅ、ふぅ……由梨ちゃんの、ナカ……キツい……キツくて……すげー良い…………」
「やっ、せんぱっ……待っ……ぁあァあッ！！」
強引に動かれて、由梨子は悲痛めいた声を漏らす。シーツを掻きむしるその手に、不意に何かが触れた。
「……っ、ま、真央……さっ……ぁあッ！」
一瞬、目が合ってしまい、由梨子は咄嗟に視線を逸らした。
（そう、だ……今は……真央さんに、見られてる……）
いつもとは違う――そのことを思い出して、由梨子は羞恥に顔を染める。月彦に貫かれ、喘ぐその一挙手一投足全てを、真央に見られているのだ。
「やっ、やぁっ……ひぅっ……ン！ ンッ……ぁあっあっ……ぁぁぁあっぁン……！」
至極、声を抑えてしまう。しかし、全てを抑えきれる筈もない。
「……由梨ちゃん、気持ちいいの？」
由梨子の手に己の手を重ねるようにして、真央が羨むように呟く。真央の方を極力見ぬ様、その存在を意識せぬ様心がけても、視界の外から聞こえる羨望の呟きと、荒々しい呼吸は否が応にも耳に届く。
（やだ……こんなの……恥ずかしい……っ……）
きっと、先ほどまでの真央もこのような気持ちだったのだろう。男に抱かれる様を、親友とはいえ第三者に見られる――その羞恥は、一朝一夕で慣れるものではない。
「由梨ちゃん、どうしたの？ いつもより大分控えめみたいだけど」
「っ……そ、それ、は……ひんっ……ぁぁぁっ、せん、ぱい……やっ……こんな、こんなの……恥ずかしい、です……ぁぁぁっ……」
「恥ずかしい――か。でも……」
月彦が被さってきて、ぺろり……と、堅くそそり立った先端を舐められる。途端、由梨子は腰を撥ねさせるようにして過敏に反応するも、辛うじて声だけは抑えた。
「……いつもより感度は良いみたいだね」
「そ、それは……ンぅぅっ……ぁぁあっ、あっ……だめっ、先輩っ……！」
片足を抱え上げられ、残った足を跨ぐようにして、よりいっそう深く剛直が挿入される。――自然と、真央と目が合う形になる。
「あハァァあッ！！！ やぁぁっ、だ、めっ……それ、だめっ、です……ぁぁぁァァ……！」
「こうされるの、好きだよね、由梨ちゃん」
反論など出来ない。しても無意味だった。最早、月彦にはありとあらゆる弱い場所がバレてしまっているのだから。
（だめっ……真央さんっ……見ないで、下さい……）
念じたところで無駄だった。はぁはぁと、荒々しく息を荒げる親友の視線を感じて、由梨子はまともに目をあけられなかった。
そう、見られているのだ。月彦と繋がっているその場所も、それによって喘がされている様も、全て。
「はぁっ、はぁっ……やっ、ぁ……せん、ぱっ……も、っ……わた、し……ぁぁっ、ぁっ……ンッ……ぁっ……」
剛直が膣奥を小突くたびに、頭の中に火花が散るような、そんな快感に晒されながら、由梨子は辛うじて訴える。その手が、ぎゅうううっ……と掴まれた。見るまでもない、手を掴んだのは真央だ。
「イきそうなの？ 由梨ちゃん……」
はぁ、はぁと荒い息を吐く真央の声は、由梨子同様に逼迫していた。まるで、手をそうして握る事で、快感を分かち合っているかのように。
「ま、真央っ……さんっ……ぁっ、ぁっ、ぁああっ……！！」
真央の方へと向きかけた意識を、強引に引き戻されるような、激しい抽送だった。その動きで、由梨子は悟った。
月彦にも、限界が近い事を。
「せんっ、ぱっ……ひぅっ、ぁっ、あんっ！ あっ、ぁっ、ぁっ……やっ……だ、だめっ……真央、さっ……見なっ……ぁっ、ぁっ、ぁぁぁっぁッ……〜〜〜〜〜〜〜ッ！！！！！！！！！」
到底己の力だけではあらがえない、怒濤のような快感の波に翻弄される由梨子に出来る事は、最後の瞬間、唇を噛むようにして声を押し殺す事だけだった。
「っ……由梨ちゃんッ……！」
「ひぁッ……やっ……出てっ……ああぁぁぁぁぁぁぁァァ…………」
どびゅるっ、びゅるっ、びゅっ……！
子宮が震える程の勢いで打ち出される牡液の奔流。熱く、濃いものが膣内を満たす――その感覚に、うっとりと。快感とは全く別の至福感に、由梨子は瞳を潤ませる。
（せん、ぱい……）
はぁ、はぁと胸を弾ませ、呼吸を整えながら、由梨子は目線だけで月彦にキスを求めた。その想いは当然の様に通じ、月彦は抱えていた片足を離し、由梨子に被さるとそのまま、優しいキスを交わした。
「……って」
ちゅく、ちゅくと優しく舌を絡め合う由梨子の耳に、酷く切羽詰まった声が聞こえた。
「代わって！ ねぇ、由梨ちゃん……代わってよぉ……」
ぎゅぅぅぅ……！――指を握り潰さんばかりに真央が手に力を込めてくる。しかし、由梨子は徹底して真央を無視した。今この時を――この至福の瞬間を譲るものか、譲ってたまるものかと、空いている手を月彦の背に回し、自ら積極的にキスをせがんだ。
「っっ……ねぇ、父さま……次は、私――」
「ダメだ」
由梨子相手では埒があかないとでも思ったのか、矛先を買えた真央に月彦は冷徹な声で言い放った。
「真央にはさっき散々シてやっただろ。だからダメだ、そこで見てろ……由梨ちゃんが中出しされて、何度も何度もイく所をな」
えっ、と。これには、由梨子が口を挟んだ。勿論、月彦から帰ってきたのは、満面の笑顔。
「大丈夫、俺は真央と由梨ちゃん、差別なんかしないから。きちんと真央と同じだけイかせてあげるよ」
「せ、先輩っ、待っ……真央さんと同じだけって……ンンンッ！？」
それは、私にとっては致死量です――という言葉は、キスによって塞がれた。
「はーっ……はーっ…………ンっ、ぁっ、ぁぁぁあっ、あっ！！！」
上体をぐったりと伏せ、呼吸を整えるのもつかの間、巨大な肉柱に背後から貫かれ、由梨子は絞り出すようにして声を荒げる。
「はひぃ……ひぃぃ……ひぁぁっ…………ンッ……ぁあっ、ぁっ、ぁあっ、ぁっ……」
背後から被さられ、抱きしめられる。小刻みに腰を使われ、幾度と無く膣内に出された牡液と、愛液とがちゅぐちゅぐと混ざり合う。
「ふーっ…ふぅぅ……由梨ちゃんのナカって……すっげぇキツくて、きゅっ、きゅうぅぅってメチャクチャ締まるから……これなら、何回でも出来るよ」
「ひっ……」
月彦が言っていることは、由梨子を怖がらせる為のただの冗談でもはったりでも何でもなく、紛れもない“事実”であるのだから堪らなかった。
「ね、ねぇ……父さま……」
ずっと月彦に“おすわり”を命じられたままの真央が、控えめに声を出す。
「まだ……由梨ちゃんとするの……？ もう、私と同じくらいシたでしょ？ だったら……」
ふぅ、ふぅと肩で息をしながら、もじもじと身をくねらせ、尻尾もフリフリ。思考力が九割方無くなってしまった由梨子にも、真央の欲求不満が限界に達しかけているのは解った。
「せ、んぱい……わ、私、も……次は、真央さんの番、だと……」
思います――掠れるように由梨子は絞り出した。辛うじて残されている体力では、喋る事すらも億劫だった。
（このままじゃ、本当に先輩に殺されちゃう……）
今まで、幾度と無く感じた事であるが、今回ばかりは本当に危険だと、由梨子は思っていた。
そう、今まではなんだかんだで由梨子が本当に無理だと解ると、月彦は引いてくれていたのだ。しかし、今日の月彦には、そういった気配が全く感じられない。その理由は、間違いなく真央にあると、由梨子はみていた。
（真央さんが、一緒だから……先輩、真央さんとするようなつもりで、私、とも……）
そして、それが由梨子のような“普通の女の子”には致死量に値するという事にどうやら本人は全く気がついていないらしい。仮に由梨子がもう無理だと訴えかけても、「またまた、そんなこと言って……本当はまだ出来るんだろ？」とばかりにさらなる攻めを受けるのは明らかだった。
だから、ここは是が非でも真央に譲りたかった。譲りたかったのに――。
「……いじらしいな、由梨ちゃんは」
「……え？」
「そういう謙虚な所を、真央は見習うべきだよな」
「いえ、あの……先輩？」
「そんないじらしい由梨ちゃんを……もっと感じさせたくなっちゃったよ」
被さっていた月彦の体が、不意に離れる。そして、剛直までもが、ゆっくりと引き抜かれた。
まさか――と、背筋を冷やした由梨子の予感は、的中した。
「せ、先輩っ！ い、イヤっ……それだけは止めて下さい！！」
最も懸念する場所へと、剛直が塗りつけられるのを感じて、由梨子は咄嗟に体を逃がそうとした。――が、当然のように腰を掴まれ、逃げる事など出来なかった。
「……由梨ちゃん？」
真央が訝しげな声を出すのも当然だった。それほどに、由梨子の狼狽え方は異様だった。
「なんだ、由梨ちゃん……まだまだ元気じゃないか。じゃあ……何も問題はないかな」
「お、大アリです！ 先輩、後生ですから……」
百歩譲って、“後ろ”でシたいと月彦が言うのならば、仕方がない。渋々ながらも、きっと自分は応じてしまうだろう――しかし、真央に見られている今だけは別だった。
（真央さんの前で、なんて……）
想像するだけで顔から火が出そうになってしまう。そのような暴挙、絶対に阻止しなければならない。
ならないのだが――。
「じゃあ、由梨ちゃん……真央に聞いてみようか」
「……真央、さんに……？」
月彦の言う所が解らず、由梨子は尋ね返す。
「ああ。真央がお尻で感じてイッちゃう由梨ちゃんを見たいっていうのなら、する。別に見たくないっていうのなら、しない。全ては真央の判断次第って事」
「か、感じたりしません！ 真央さんが誤解するような事言わないで下さい！」
由梨子はいつになく大声で否定した。それほどの大声が出せる程に余力がある筈は無いのだが、蝋燭の消える前のなんとやら。由梨子は全身全霊をもって否定した。
「まぁまぁ、そういうわけだから。…………どうする、真央？」
「ぇ……わ、私は……別に――」
そこまで言いかけて、びくりと真央が身を震わせた。そう、まるで召使いが王か何かにひと睨みされたかのような、そんな身震いを。由梨子はハッとして月彦の方へと視線を向けたが、「どうかした？」とばかりにニコニコと、いつもと変わらぬ笑顔がそこにあった。
「……やっぱり、ちょっと、見たい……かも……」
「ま、真央さん！」
由梨子が声を荒げると、真央はふいと視線を逸らした。そう、まるで何かしらの“不正”に関わってしまった、そんなばつの悪さを誤魔化すような、そんな仕草だった。
「由梨ちゃん、残念だけど……」
「ず、ズルいです！ 先輩っ、こんなのっ……、嫌っ、です……本当に、止めてくださ――」
「真央、由梨ちゃんの手を」
押さえろ、と月彦が言うよりも早く、真央は手を伸ばして由梨子の両手を押さえつけた。
「ごめんね、由梨ちゃん」
私、父さまには逆らえないの――とでも言いたげな真央の目。
「ひっ……い、嫌っ……」
完全に抵抗する術を失った由梨子の尻に、ぐいぐいと猛りきった剛直が押しつけられる。
「イヤッ……嫌ぁぁっ……せん、ぱっ……止めっ……ぁっ、ぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁァァ………………！！！」
ぐいぐいと、無理矢理に尻穴を広げられ、剛直を挿入される。しかもその様を真央に見られるという羞恥に堪えかね、由梨子はベッドに顔を伏せた。
（イヤッ、イヤッッ……先輩っ、酷いですっ……真央さんの前で……こんなっ……こんなっ……ぁっぁあッ……！！）
ぎゅぅぅぅぅッ……！
ベッドシーツを握り、歯を食いしばるようにして声を押し殺す。そんな由梨子の手首を、真央がぎゅっ……と握りしめてくる。
「由梨ちゃん、痛いの？」
「痛……くは……ぁあっ、ぁっ……っッッ！！！！」
喋ろうとした瞬間、月彦に不意に動かれて、由梨子は甘い声を漏らしてしまった口を慌てて閉じた。
「ンンンっ……ンンッ……ンンッ！！」
月彦に動かれるたびに、弾かれたように声が出てしまいそうになる。由梨子は唇を噛むようにして、それらの声を必死に押し殺す。
「由梨ちゃん、もっと力を抜いて……楽にして」
月彦が被さってきて、そんな事を囁きながら、ゆっくりと動く。それだけで、由梨子は歯の根が合わないほどに己の内側を突き上げてくる“何か”に声を上げてしまいそうになる。
「声も、我慢しないで」
「が、我慢っ……なんて……ッ……！！！ せ、せん、ぱい……お願い、ですから……もうっ……止めっ……ァあんっ！」
ハッと、顔を朱に染めながら由梨子は三度口を閉じた。しかし、手遅れだった。
「……由梨ちゃん、お尻……気持ちいいの？」
はぁ、ふぅと大げさに肩を揺らしながら、真央がさわさわと焦れったげに由梨子の腕を撫でてくる。
「ま、真央……さん……何、言って――」
「だって、由梨ちゃん……すっごくいやらしい顔になってるよ？ さっき、父さまに普通にされてた時よりも、ずっと……」
「っっっっ……！ そ、そんな事……ぁあっ、やっ……やめっ、先輩っ……動かなっ……っっ……！！」
被さるようにして密着され、耳をはむはむ、胸をもみゅもみゅされながら、剛直をぐりぐりと抉るように動かされ、由梨子は忽ち限界へと追いつめられる。
「由梨ちゃん、イきそうなの？」
「ち、違っ……やぁっ……違うんですっ……ぁぁっ、イヤッ……嫌っ……せんっ、ぱっ……止めっ……ぁぁぁぁぁっ、ぁっ、ぁあァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ！！！」
ゾクゾクゾクゥッ……！！！
背筋を駆け上ってきた、寒気にも似た快楽に、由梨子はたちまちぶるりと体を震わせ、容易くイかされてしまう。
口を閉じ、声を押し殺したのはせめてもの抵抗だったのだが、しかしそれも真央には通じなかった。
「ダメだよ、由梨ちゃん。それじゃあ、本当はお尻が気持ちいいって、父さまにもバレバレだよ？」
違う――と、言いたかった。しかし、声は出ず、辛うじて唇のみそう動かせただけだった。
「解るよ、由梨ちゃん。もの凄く恥ずかしいけど、でも……感じちゃうんだよね？」
違う――と、唇を動かそうとするよりも早く、真央にキスをされた。
「ンッ……んんぅぅ……んんっ」
「んくっ……んくっ……んっ……ふぅ……由梨ちゃん、凄く……キレイだよ。お尻に挿れられるの、ホントに気持ちいいんだね」
「……っ……」
最早、違うとは言えず、由梨子はただただ顔を赤くして真央から視線を逸らした。くつくつと、背後から忍び笑いが漏れた。
「由梨ちゃん、真央もああ言ってるけど、それでもまだ認めない？」
「やっ……先輩っ……そんな、事……答えられません……」
由梨子は耳まで赤くして、下を向いてしまう。そんな由梨子の顎に、そっと真央の手が触れ、さりげなく顔を上げさせられる。
「恥ずかしがってる由梨ちゃん……凄く可愛いよ」
「真央、さ――ンッ……」
そして、唇を奪われる。ちゅく、ちゅく、ちぅ……先ほど、二人でシた時とは違い、真央の方がアドバンテージをとるような、そんなキスだった。
れろれろれろ……たっぷりと互いの唾液の味を確かめあった後、糸を引くようにして、真央が唇を引く。
「……普通にされるよりお尻に挿れられたほうが気持ちいいなんて、由梨ちゃん……変態さんだね」
ぺろり、と唇を舐めるようにして舌をしまった真央が、なんとも妖しい笑みを浮かべる。過去に、何処かで見た笑み――そう、真央の母親のそれに、うり二つだった。
「っっっ……！ そんなっ……私は、そんなじゃ――」
「ねぇ、父さま」
由梨子の言葉を遮るようにして真央が言葉を被せ、なし崩し的にベッドに上がる。
「由梨ちゃんがもっと素直になれる様に、私も手伝っていい？」
「……あぁ、そうだな。真央もいい加減“おすわり”は飽きたろう、好きにして良いぞ」
しばし間が空いて、月彦からそんな“許可”が降りる。その“間”に月彦の頭の中でどんな演算が行われたのか、由梨子には勿論知る術はなかった。
「えっ、えっ……？ あの……一体――」
由梨子が事態の把握に戸惑っている間に、真央は由梨子の下に仰向けになる形でするりと潜り込んだ。そのままぎゅうっ、と真央に抱きしめられる。
「んふふっ……由梨ちゃん、これでもう……逃げられないね」
「ぇ……に、逃げるって……ンッ！」
それまで完全に止まっていた抽送が突然再開されて、由梨子は咄嗟に声を押し殺した。
「ダメだよ、由梨ちゃん」
「ひっ……ま、真央さんっ……何をっ……」
由梨子が唇を閉じるや否や、真央がさわさわとその手を動かし、由梨子の体を撫で始める。それは背中に始まり、柔らかい尻肉を経て、由梨子の“前”へと――。
「くすっ……由梨ちゃんのココ、勃起して堅くなっちゃってるよ？」
“ココ”という言葉をことさら強調して、真央はくりくりと指先で由梨子の最も敏感な場所を弄ってくる。
「ぁっ、ぁっ……真央、さっ……止めっ――」
「由梨ちゃん、次……口を閉じたり、声を押し殺したりしたら、思いきり抓っちゃうからね」
声、我慢しちゃダメだよ？――笑顔でそう言う真央に、ゾクリと、由梨子は背筋が震えた。
（真央……さん？）
冗談でもなんでもなく、本当にやるだろう。何故なら、笑顔でさらりと“恐いこと”を言うその仕草が、これでもかという程に月彦にそっくりなのだ。
「……真央、あとでご褒美だ」
ぼそりと、背後からそんな呟きが聞こえた刹那。申しわけ程度にしか動いていなかった剛直が、ゆっくりと本格的に抽送を始めた。
「やっ……せんぱっ……ンくッ――」
「由梨ちゃん」
由梨子が声を抑えようとした刹那、真央がついと淫核を摘む。威嚇行為としては、それだけで十分だった。
「やっ、やぁぁっ……ひぅっ……ぁあぅっ……ぁぁあんっ……んぅぅ……ぁあっ……あふっ、ぅぅ……」
腰のくびれを掴まれ、声を抑える事すら許されず、由梨子は下半身から突き上げてくる快楽のままに声を漏らす。
（だ、め……こんな、お尻で、感じる、なんて……）
最早、月彦にも真央にもバレてしまっているのだ。隠す必要など無く、また無意味。それでも、由梨子の中にある矜持が、今自分の体を襲っているものの虜になることを許さない。
「い、やぁっ……だ、めっ……こんなっ、の……はぁはぁっ……こ、え……出ちゃうっ…………嫌ぁぁっ……恥ず、かしい…………ぁあああんっ！」
ぐぐぐぐぐっ……！
一際深く、根本まで挿入され、由梨子は仰け反るようにして嬌声をあげた。びくっ、びくと震える体は真央にぎゅうと、爪を立てるように抱きしめられ、月彦の挿入から体を逃がすという自由すら、由梨子には奪われていた。
「……どうだ、真央。お尻でされてる時の由梨ちゃん……可愛いだろ？」
「うん……お尻に挿れられて、顔真っ赤にしながら喘いでる由梨ちゃん……嫉妬しちゃうくらい、キレイ……」
ちゅく、と真央に抱き込まれるようにして唇を奪われる。最早、由梨子には舌を満足に動かすゆとりすら無く、されるがままのキスだった。
「ンぁぁぁっ！ ひぃ、ひぃぃ……せんっ、ぱっ……そんな、まだっ……」
「まだもなにも、由梨ちゃん……俺はまだ一度もイッてないよ？」
真央とのキスも、抽送によって中断された。
「はぁっ、はぁっ……ひぃっ……ひぃ……ンッ……ぁっ……ま、真央、さんっ……そこ、はっ……！」
「大洪水だね、由梨ちゃん……もしかして、“後ろ”だけじゃ物足りないの？」
ちゅぷり――恥蜜をかき分けるようにして、真央の指が由梨子の膣内へと侵入してくる。
「やっ、やめっ……真央っ、さっ……そんなっ、やっ、やぁぁぁっ……！！」
「スゴい……父さまのが、ホントに入ってる……」
「ああ、俺にも解るぞ。真央の指が動いてるのが」
互いに、その存在を探りあうような動き。
「ひぁぁっぁぁあっ……ぁぁぁっ、ンぁああっ、だ、めっ……やぁっ、あーーーーーッ…………あーーーーーッ！！！！」
敏感な粘膜をこれでもかという程ににゅぐにゅぐと弄られ、忽ち絶頂間近まで追いつめられる。
「由梨ちゃん、そんなにぎゅうっ、ぎゅうって締め付けて……またイきそうなの？」
「やっ、ぁっ、真央っさっ……だめっ、やぁう！ そこっ、やっ……だめっ、だめっ、ぁあっぁっ、ひいぃッ！」
剛直と、指が互いに擦りつけ遭うように動き――
「ひぁっ、やっ、ぁっ、ぁっ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァッ！！」
ぎゅぎゅぎゅぎゅっ、ぎゅぎゅぅ！！
月彦と、真央に挟まれたまま、由梨子は掠れんばかりの声を上げ、盛大にイく。
「っ……由梨ちゃん……！」
どくりっ……と、熱いモノが注がれ、由梨子は身震いしながらそれを受け止めた。ぐったりと、完全に脱力した体が、ぎゅうと真央に抱きしめられる。
「由梨ちゃん……キレイ……もっと、由梨ちゃんが感じてる声、聞かせて？」
「ま、お……さん？」
未だ、萎え知らない剛直と、すっかり発情してしまっている親友に挟まれて、由梨子は少しだけ……月彦の提案に容易く乗ってしまった事を後悔したのだった。
“試み”は大凡大成功であったと言わざるを得なかった。
三人でとっぷりと日が暮れるまで親交を深め合った事で、真央と由梨子の間のしがらみもキレイサッパリと消え、これで今までのように父と娘、先輩と後輩、そして親友同士という元の鞘に収まったと、少なくとも月彦にはそう思えた。。
唯一の気がかりは、最初はノリノリだった由梨子が事の後ではまるで虐待を受けたネコのように怯えきってしまっていた事だが、これもきっとまだ慣れていないからなのだろう。
（……本音を言えば、まだまだ楽しみたかったんだけど）
さすがに由梨子を無断外泊させるわけにもいかず、家に帰して下さいと懇願する由梨子の様子があまりに真に迫っていて無視も出来なかったから、名残惜しみつつもシャワーを浴びて家まで送っていく事にした。
道中、何を話し掛けても由梨子は上の空で、まるで魂が半分ほど抜け落ちてしまった様だった。さすがに“三人で”というのは慣れない由梨子にはハードだったのかな、等と思いつつ月彦が帰宅すると、まるでタイミングを見計らったかのように玄関に母親の靴が増えていた。
「ただいま……母さん、帰ってるの？」
「あら、お帰りなさい月彦。こんな遅くに何処に行ってたのかしら」
葛葉はくすくすと微笑みながら、大量に買い込んできたらしいお土産を台所のテーブルの上に広げる。そんな母親の姿に、言いしれぬ違和感を覚えて、月彦ははてと首を傾げた。
（アレ……何か変……だぞ……？）
しかし、一体何が変だというのか。そこにいるのは紛れもない紺崎葛葉その人だ。キツネ耳が生えているわけでも、尻尾があるわけでもない。
では、何が変だというのか。
「あっ……」
と、月彦は気がついた。
（若返りが……治ってる……？）
成長期の真央や自分が数年若返った時のような劇的な変化ではなかったが為に、すぐには気が付けなかったが、確かにそこにいるのは“いつもの母親”だった。
（温泉……の効果……なのか？）
考えても見れば、真狐が差し入れた妖しげな材料を使った鍋によって起こされた現象なのだ。すぐに効果が無くなってしまった自分達とは違い、これまで効果が続いていた事自体、不思議と思わねばならないのかもしれない。
（いや、待てよ……）
そういえば、と月彦は思い出す。そもそも、自分と真央の“若返り”が何故すぐに解けてしまったのか。考えられる、その“解除条件”を。
逆を言えば、その条件を満たさなかったからこそ、葛葉の若返りは続いていたのではないか。だとすれば、今回の旅行は――。
「月彦ったら、どうしたの？……母さんの顔に何かついてる？」
「……母さん、もしかして――」
その先の言葉をごくりと飲み込み、「なんでもない」と言い残して月彦は二階へと上がった。
例えようのない、モヤモヤとしたものが胸の中で渦巻いていた。由梨子と真央の事が一段落して、ホッとなで下ろした胸の隙間にそれらは居座り、月彦は俄に唇を噛んだ。
（……母さんだって、“女”なんだよな……）
たまには子育てから解放されて、羽を伸ばしたいと思う事もあるだろう。それを止める権利など誰にもない――そんな事を考えながら、自室のドアノブを握り、はたと月彦は動きを止めた。
葛葉は、帰ってきた。真央と由梨子も仲直りをした。きっと明日から、いつも通りの日常が始まる事だろう。
しかし――月彦は、自室の隣のドアへと目をやった。真央の家出騒動ですっかり失念していたが、そもそもの予定ではとっくに帰宅している頃ではないのか。
（いや、でもまぁ……姉ちゃんって結構ふらりと出かけて、いつまでも戻らないって事もあるからな……）
今回もその“ふらり”だろう。深刻に考える事ではない――そう決めつけて、月彦は自室の中へと入った。
姉が重傷を負って入院しているという報せを月彦が受けたのは、年が明けてからの事だった。
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